めりかるうぃっしゅ
〜それは不思議な車なの〜
私の名前は、高町ヴィヴィオ。小学校三年生。
私のおうちは、翠屋っていう喫茶店なの。
今日は学校がお休みなので、朝はお店のお手伝いをしています。
「ヴィヴィオ、このお皿をなのはの所まで運んでね」
「はーい、桃子おばあちゃん」
桃子おばあちゃんは、なのはママのママなんだよ。
このお店のマスターの奥さんで…って、最初に翠屋の説明しなきゃかな。
「ヴィヴィオ、早くなのはの所に持って行ってあげてね」
「はーい」
怒られちゃった。
いそいでいそいでこけないように慎重に…。
「ママー、お皿持ってきたよー」
「ありがとうヴィヴィオ、そこに置いておいて」
「はーい」
うー。ヴィヴィオはまだ子供で背が届かないよぉ。
もうちょっとでなのはママの横に置けるのにぃ。
「ヴィヴィオ、浮いてる浮いてる」
「え？ママ、浮いてるって」
「足下見て」
「足下…あっ」
ほんとだ、両足とも地面についてない。
人に見られる前に急いで降りなきゃ。
「あー」
「あぶないヴィヴィオっ！」
なのはママは、ヴィヴィオがこけそうになったのを見て
急いでお皿を全部受け止めてくれました。
ヴィヴィオは平気だよ。ころんでも痛くない。
「ヴィヴィオ。転んだりしてない？大丈夫？」
「うん、大丈夫。なのはママがお皿を受けてくれたから
ちゃんと着地できたよ」
「そう、良かった…ちゃんと、あそこのテーブルの上って言えばよかったね、ごめんね」
「ううん、ヴィヴィオが背伸びしたのが悪かった」
「…うん、じゃあ、こんどはこれを、桃子ママに持って行ってあげてね」
「はーい」
喫茶翠屋、もうすぐ開店。
開店になったらなのはママは看板娘に早変わりです。
「ヴィヴィオ、遊びに行くのは宿題が終わってからだよ」
「えー、明日やるからいいよ」
「今日出来ることは、今日やるの。
何でも後回しにしてるようだと、立派なパティシエにはなれないんだよ」
「…はーい。おとなしく宿題してきまーす」
…つまんない〜つまんないつまんないつまんなーい。
ヴィヴィオはちょっと反抗期です。
小学校低学年のころみたいに、素直になのはママの言うことが聞けません。
だけど、なのはママの言いつけを聞かないと、桃子おばあちゃんがお菓子作りを
教えてくれません。
桃子おばあちゃんがお菓子作りを教えてくれないと、ヴィヴィオは立派な
パティシエさんにはなれないんです。
ヴィヴィオは、なのはママがなれなかった、立派なパティシエさんになって
お菓子を食べる人みんなに、幸せを分けてあげられるようになる夢があるんだ。
そのためには、つまんない宿題だって、やらないといけないんだよ。
………出来ちゃった。
こんな宿題なら脊髄でも出来ちゃうんだよ。
だけど計算ドリルとか本当にめんどくさーい。
コンピュータがあるんだから、コンピュータにやってもらえばいいのに。
『何もかもコンピュータに頼ると、コンピュータが狂ったとき、間違いがわかりません。
それに、入力の間違いだって、気付かなくなりますよ』
今しゃべったのは、私の専用デバイスライチェントゥークス。
本当はベルカ語を使うんだけど、筆者がベルカ語を話せないって理由で
日本語訳を乗せてるんだよ。
「うん。じゃあ、見参してよライチェントゥークス」
『わかりました我が主』…『間違いがあった番号に印を入れましたので、もう一回やってください』
「う゛ー。正答率8割ちょっとなの？間違ってない？」
『3回検算したから間違ってません』
「なのはママだったらこんなの１００％正解なのにー。仕方ないからもう一回やろっと」
基礎をやるのはつまんなくって、結果も全然目に見えないから、意味ないように見えても
実戦をやってみて、基礎をやってて良かったって思うときがくるんだよって
ティアナおばちゃんも言ってたし、ヴィヴィオもがんばろっと。
「ライチェントゥークス。今度こそ合ってるよね」
『合ってますよ我が主』
「遊びに行っていいかな」
『それは、なのはさんに聞いて見てください』
「うん。そうだね」
出来たからすぐになのはママのところへご報告〜。
『主、飛んではいけないと何度言われたら理解するのですか。
私が魔力を押さえるのにも限度があることを理解してください』
「ごめんねライチェントゥークス」
階段を魔法で飛んで下りそうになったから、ゆっくり手すりをつかんで
歩いて降りるよ。最近、魔力が上がっちゃったのかな。
ミッドチルダにいたころは、普通の魔力値しか持ってない普通の女の子だったのに。
なのはママやフェイトママは、クロノおじちゃんの言う、バカ魔力の持ち主で
ヴィヴィオぐらいの年で、ロストロギアと戦ってたんだって。
ヴィヴィオは、そんなすっごい魔法少女なんかじゃないんだよ。
ヴィヴィオは、ちょっと普通じゃない生まれ方をしてて、遺伝子上の
おかあさんもちょっと普通じゃないけど、ヴィヴィオは普通なんだよ。
普通が一番だって、なのはママが言ってた。
だけど、何もかもが普通だったら、それが普通じゃないって
クロノおじちゃんは言ってたかな。
なのはママは、翠屋の看板娘なので、営業時間中はウェイトレスさんをしてるんだよ。
翠屋は、可愛いウェイトレスさんや腕の良いマスターやすっごいパティシエさんがいるから
毎日大繁盛です。
ウェイトレスさんのなのはママも、なかなかヴィヴィオの方を見てくれません。
ヴィヴィオは、お仕事のじゃまをしないように、 カウンターのそばに行って
なのはママがちょっと手すきになるのを待ってます。
「ごめんね、ヴィヴィオ。宿題終わったの？」
「うん、終わったよなのはママ。遊びに行っていい？」
「うん、行っていいよ。だけど、十分気をつけなきゃだめだよ」
「わかってるよ。変な人からお菓子をもらったり、知らない人について行っちゃだめなんだよね」
「はい、よくわかってるね。えらいえらい」
「えへへ…」
「ライチェントゥークス、ヴィヴィオのこと、よろしくね」
『心得ております』
『my master,7番テーブルにお客さんが』
「ありがとレイジングハート。じゃ、気をつけていってきてね」
「いってきまーす」
レイジングハートは、みんな知ってるよね。なのはママのデバイスだよ。
だけど、そんなのいいや。まずは電話っと
とぅるるるるるるるるるるる…
「もしもし、アカリちゃん？私だよ、ヴィヴィオだよ、宿題終わった？」
『あヴィヴィオ、もう宿題終わったんだ。私はまだ』
「じゃ、遊びにいっちゃだめかな？」
『んーと、いいよ来ても。ていうか来て宿題教えて〜』
「うん、いいよ、早く終わらせてすぐに遊びに行こうよ」
『大賛成〜じゃ、早く来てね』
「うん、じゃあすぐに行くね☆」
鞄の中には、なのはママが繕ってくれたうさぎささんのお人形。
携帯電話は、内ポケットの中に仕舞います、ライチェントゥークスも仲良く一緒。
翠屋の前で背伸びを一回。さあ、普通に走って行っちゃおう！
「第５のコース、高町ヴィヴィオ、ゼッケン６６０、ｌいっきまーす！」
テレビで見た１００ｍ走の格好をまねてスタート。
全力疾走で、途中にいる人を左右にかわしながら突き進む。
「コース障害一旦停止っ！」
赤信号になったから一旦停止。
足踏みしながら信号が変わるのを待たなきゃ。
青は進め、黄色はで進め、赤は注意して進め、なんてしてちゃ
命がいくつあっても足りないよね。
「あっ、危ないっ！」
「え？」
『主、2時の方向、暴走車』
「えーっと…」
「逃げろばかっ！」
急に近づいてきた誰かに突き飛ばされるように押し倒される。
何？何が起きたの？
「このぼけ野郎！もうちょっとで車に轢かれるとこだったぞ。ぼんやりすんじゃねぇ！」
「ぼんやりって…」
「おまえの頭にはぬかみそがつまってんのか？ああ？
ぼーっと横断歩道のはしっこに立ってるんじゃねえよ。
…あー心臓に悪かった。」
「…もしかして、冬美ちゃんが、助けてくれたの」
「なんかバカっぽい奴がいるって思ったら、たまたまヴィヴィオだったんだよ」
「ありがと…冬美ちゃん」
「お礼なんていいよ。お礼言わずに済むようにしてくれ」
「…うん、ごめんね」
「あやまってもいらねえ」
「えっと、冬美ちゃん、宿題終わった？」
「終わってるわけないだろ。ヴィヴィオとちがって
あたしは優等生じゃないからな」
「えー、ヴィヴィオは普通だよ。あ、そうだ
まだ終わってないなら、今からアカリちゃんところ行こうよ」
「月光んとこか」
「ゲッコウじゃなくて、アカリちゃんだよ」
「まったく、珍妙な名前つけてくれるぜ、月光と書いてアカリなんて
どんな漫画読んだら、そんな発想がでてくんだか」
「アカリちゃんが自分でつけた訳じゃないよ」
「わかってるって。…ま、することもないし、ヴィヴィオにつきあってやってもいいかな」
「わーい。だったら一緒に行こうよ」
「手をつなぐな暑苦しい。幼稚園児かおまえは」
「幼稚園児じゃないもん。小学3年生だもん」
「だったら手なんかつながずに歩けよ。それとも、手つながないとはぐれるのか？」
「うーんと…自信ない」
「…しかたないな、んじゃどこでも捕まってろ」
「ありがと冬美ちゃん」
「お礼はいってんだろ」
お友達の冬美ちゃんが、暴走自動車から助けてくれたみたいです。
だけど、ヴィヴィオとライチェントゥークスの名誉のために言っておくと
車に気付かなかったんじゃなくて、魔法を使わずに緊急回避するのに
どうすればいいか、全然思いつかなかったから、よけられなかったんだよ。
自動車がぶつかってくるぐらいなら、聖王の鎧でなんとかなるから
命は大丈夫だけど、聖王の鎧なんて使っちゃったら、ミッドチルダに
強制的に送り返されるかも。
やっぱり、冬美ちゃんが助けてくれたんだよね。
「…それにしても、おかしいな…」
「え？何が？」
「いや、気のせいだろ、気のせい」
「あー、ヴィヴィオにもおしえてよー」
「おまえみたいなとろいやつには、教えても無駄だから教えない」
「ずるーい、冬美ちゃんのけちーっ。だったらヴィヴィオも宿題教えない」
「子供かおまえは」
「だってヴィヴィオまだ9歳」
「あーわかったわかった」
「冬美ちゃんだって9歳だよ」
「わかってるっての。しつこいんだよヴィヴィオは」
「……」
「すぐ涙目になるなって。ったく…ところでヴィヴィオ
おまえ、あの車、変だと思わなかったか？」
「車を見てないからよくわからない」
「そっか。じゃ、ヴィヴィオに言ってもわからないか。
運転席に誰も乗ってないような気がしたんだが、たぶん気のせいだな」
「無人自動車なの。すごい、それならヴィヴィオも見れば良かった」
「あるわけないだろ、そんな車」
「ないのか、残念」
「おまえ、もうちょっとでその車に轢かれるとこだったんだぞ。
すこしは緊張感をもてよ」
「うん、冬美ちゃん。わかってるよ」
「わかってんのか？ほんとうに」
「たぶん」
「たぶん？」
「まちょと覚悟は」
「おまえいくつだよ…」
『主、念話を傍受しました、今から再生します』
（…再生も念話でしてね。冬美ちゃんに聞かれると困るから）
（心得ました…短いですが、後でレイジング・ハートに転送します）
（……………間違いないな）
（…間違いないですね。情報は正確でした）
（聖王の器がこんなところにあるとはな）
（…ゆりかごと一緒に失われたと言われてましたが）
（管理局が自らの不祥事を進んで公表するからおかしいとは思っていた）
（………それで、これからの予定は）
（…まずは、この世界の詳しい調査だ）
（………この通信は、傍受されてます）
（…傍受？そんなことが…）
（通信を切ります）
（・・・・・・以上です、主）
（うん、ありがとライチェントゥークス。すぐにレイジングハートに送ってあげてね）
（かしこまりました、主）
一体、今の会話って、なんなんだろう。
聖王の器を探してるみたいだけど、器は
ゆりかごとレリックが無ければ、全く意味ないはずって
ユーノパパが言ってたんだよ。何がしたいのかなあ。
「ほらヴィヴィオ、ぼーっとするなっていってんだろ」
「ごめん冬美ちゃん。だから手をつないでるんだよ」
「みたいだな。…っと、さあ、月光の家についたぜ」
「うん、じゃ、ヴィヴィオが呼び鈴ならすー。こんにちはー」
なんだか、物騒な話が出てるけど、ヴィヴィオは、今日も元気です。