平行世界。パラレルワールド。それは同じようでいて何かが違う世界。
メルデルビアにもそんな世界がある。
ここは、そんな平行世界の１つ、いわば鏡の中のメルデルビア。
ちょうど、エバグリ世界のメルデルビアとは、存在する人の男女が入れ替わっている世界。
その世界では一体どんな風景が見られるのだろうか。

 

（作者注：普段とちがい、この世界では言い回しでは誰が誰だか区別がつきません。
　そこでト書き方式で書いていきます。ご了承ください）

 

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ここは、メルデルビア郊外にある廃屋と見間違うばかりの家。
そんな家でもなぜか人は住んでいる。

アイラ「やかましい！廃屋寸前で悪かったな。どうせうちは貧乏だよ」

 

つっこみを入れているのがこの家の主、アイラ。
生まれてまもなく父を亡くし、ついこの前には母もなくした少年である。
彼はその後なんとかぎりぎりの生活を続けていたが、
ある日人間界来訪を宣言した精霊王のための露払いとしてやってきた
精霊達と出会い、人間界のことを教えるという仕事を引き受けたのだ。

そして、その使命は途中でうやむやになってしまい。
精霊達もまたなし崩し的にアイラの家に住んでいるのである。

 

アイラ「っと、ナレーションと漫才やってる場合じゃない。
　　　　みんなを起こしてめしにしないとな。
　　　　ったく、なんで俺が朝飯の支度までせにゃならんのだ。
　　　　任せりゃいいって言われてもあれじゃとても任せられん。
　　　　他の連中と来たら不器用でなければ経済観念が欠けてると来る」

 

アイラはここで大きく息を吸い込む。

 

アイラ「おっきろ〜。朝だぞ〜。朝飯出来てるぞ〜。おっきろ〜」

 

がんがんがん。鍋をすりこぎで叩きながら精霊達を起こす。
これが毎日の日課なのだからアイラの苦労推して知るべしである。

 

フラッシュ「おはようございます。アイラさん」
アイラ「おはよ、フラッシュ。時に女の子達はみんな起きてる？」
フラッシュ「起きてることは起きてます。ただ私以外は寝間着を着替えている最中です」
アイラ「あ、そ。早く着替えないと冷めるぞ」
フラッシュ「私もそう言ってるんですけど」

 

最初に部屋から出てきたのがフラッシュ。精霊達一同の引率責任者だ。
一人だけ２０を超えているお姉さんなのだが、精霊達は少しもフラッシュの言うことなど聞かない。
苦労はつきないのである。

 

イルミナ「おはようございます。アイラさん。何か手伝うことは残ってますか？」
アイラ「べつになにも残ってない。もう盛りつけなんかも全部終わってる」
イルミナ「そうですか。今フェイさんがピアさんの着替えを手伝ってるところです。
　　　　　すぐに来ると思います」
アイラ「その着替えを手伝うってのがすでに過保護だろ。
　　　　いくら精霊界の王子様だからって少しは自分で出来ないとまずいんじゃないか」

フラッシュ「しかたないです。ピア様は生まれてこの方自分で服に袖を通したこともありません」
アイラ「なんじゃそりゃ？」
イルミナ「すべて女中がしてました。ピア様はただ立っているだけで着替えが終わったのです」
アイラ「・・・・それで、今でもフェイが着せてるのか？」
フラッシュ「ピア様も今は自分で袖を通しておられます。ただ着方がわからないことだけ教えてるはずです」
アイラ「ま、そうかもな。あのフェイに限って手伝うはずがないか」
イルミナ「はい。私が見ていると思わず手を出してしまいますから、先にこちらへ来ております」

 

そういって話をしているうちに、女の子の部屋から一人が飛び出してくる。

 

アッシュ「おっはよ〜。ご飯まだ？」
アイラ「まだ？じゃないだろ。一体何ぼやぼやしてたんだ」
アッシュ「あ〜っ。女の子はおしゃれに時間かかるんだよっ」
ルシエル「嘘つき、寝間着脱いで上着着ただけじゃない」

その後から出てきてつっこみを入れてきたのがルシエル。
アッシュとルシエル、性格が対照的な二人はいつでもそりが合わない。

アッシュ「嘘じゃないもん。ルシエルこそ適当に服着てたじゃない」
ルシエル「あたしの場合はちゃんと寝る前に朝起きたときのための準備をしてあるの。
　　　　　がさつなあんたと一緒にしないでよね」
アッシュ「誰ががさつだって」
ルシエル「自覚がないのが最低よね」
アッシュ「なによ尻軽」
ルシエル「尻軽ってなによ」
アッシュ「足軽の下よ」

 

真顔でアッシュが答える。
さすがのルシエルもこれには毒気を抜かれてしまったらしい。

 

メリル「おぬしら朝っぱらから喧嘩せねば目が覚めぬのか」
アイラ「メリルの方が後から起きてきてその台詞もないだろ」
メリル「わしはおぬしより先に起きておった。朝の散歩から今かえってきたのじゃ」
アイラ「あ、そ。じゃなんで俺の部屋から出てきたんだ」
メリル「まどがあいておったからじゃ」
アイラ「窓？俺はあけてないぞ」
メリル「フェイがあけておったわ。・・・そろそろ二人とも来るぞ」

 

メリルの言葉通り、フェイとピアが起き出してきた。
どうやら着替えも終わったらしい。

 

フェイ「おっはよ。ん〜いい天気だな。お、おいしそ・・・」
アイラ「フェイ、つまみ食いするな」
フェイ「ちょっとぐらいいだろ。けちけちするなよ男のくせに」
アイラ「一口を笑う者は一口になく。大体が行儀が悪い。腹が減ってもひもじゅうない」
フェイ「腹が減ったらひもじいんじゃないのか」
アイラ「それが心意気っていうもの」
ピア「あ、あの・・・」

 

フラッシュが何か言おうとするのをアイラが手でとどめる。

 

フラッシュ「あの、アイラさん・・」
アイラ「いいから」
ピア「・・あの、・・・」

 

ここで、ピアは一度深呼吸

 

ピア「おはようございます。みなさん」
アイラ「おはよ、ピア。 もっと早く起きてくれば緊張して挨拶せずにすんだよな」
ピア「あ、はい」
アイラ「さてと、じゃ全員そろったところで・・・」
メリル「一人欠けておるぞ」
アイラ「一人？だれか欠けてるか？」
メリル「さっき散歩にでておったときにな」
アイラ「もったいぶらずにさっさと教えろ」
メリル「かたんに会ったぞ」
アイラ「そか、カタンも朝の散歩か？」
メリル「なんぞバスケットを抱えてこっちにきておったわ。
　　　　そろそろつくんじゃないか」
アイラ「・・・・カタンも朝喰ってからくりゃいいのに」
ピア「そういう言い方もないでしょう。アイラさん」
アイラ「ピア、誰に言ってるんだ？」
ピア「・・・え、で、でも、・・・そういう言い方は無いんじゃ・・」
アイラ「 そ、そういう言い方はないよなピア」

 

そういうとアイラはピアの肩を抱く。

 

アイラ「俺が悪かったんだよ。ま、おまえも王子様なんだからもっと自分に自信を持て」
ピア「あ、はい・・」

 

とんとん。

 

フェイ「だれか来たよ」
アイラ「おおかたカタンだろ。お〜い。カタンなら勝手に入れ、鍵かかってないから」
カタン「はい、おはようございます・・」

 

なるほど、確かにカタンだった。メリルが言ったとおりバスケットを抱えている。

 

カタン「あの、私がつくった・・・」
アイラ「能書きはいいからさっさと座れ。そのバスケットの大きさから見てサンドイッチだろうけど、
　　　　おれんちに来るだけなら手ぶらでいいから」
カタン「え、でも・・」
アイラ「喰った分は、働いて返してもらうから気にしなくていいって。
　　　　もう今日の分の仕事は請け負ってるし、カタンも員数に入ってる。
　　　　働いてもらうつもりなんだから遠慮するなって」
カタン「うん・・」
アイラ「よし、これで本当に全員そろったな。じゃとっとと座って・・・。
　　　　と、今日のお祈り当番だれだっけ？」
フラッシュ「今日はアッシュさんですね」
アイラ「じゃ、アッシュ、手短に頼むわ」
アッシュ「いいよ。じゃ・・・おいしい料理に感謝します。」
全員「いただきます」

 

こうして食事が始まる。
それは新しい一日の始まり。そしていつものような一日の。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

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