ある夢の中の風景（カタン編）

初夢、それはお正月に見る夢。
それは正夢になるとも言われる縁起物。
ここ、アイラの家に住み込んでいる精霊達も、眠りもするし、夢も見る。

その本当の初夢はともかく、どんな初夢を見たかったろうか。
そういうことであれば少しばかりのぞいてみても、怒られることはないと思う。
誰しも夢は持っているものなのだから・・・・

「カタン、強度計算はこれでいいの？」
「はい、アイラさん」
「数字は合ってる見たいだけど、小数点打ち間違えてるわよ。
　この厚みじゃ曲がっちゃうわ」
「あ、えと・・・そうですね。なおしておきます」
「ちゃんとやってよね」
「は、はい・・」

ここは、カタンの家。
精霊王の人間界来訪の後、精霊達は精霊界に帰り
アイラはカタンの家に引っ越してきた。
もっとも、精霊達は帰ったとはいえ、時々は遊びに来ている。
何十年にもわたって、訪れる人が誰もない生活を過ごしてきたカタンにとって、
年に２，３度訪れる人がいると言うだけで十分にぎやかになったように感じられる。

「えと、ここの組み立てが終わったから次は動力部ね。
　カタン、図面出来てる？」
「はい、それは描けてます」
「うん、じゃ、組み立てにとりかかりましょ。部品あったかしら」

カタンの家、いや、厳密にはカタンの所有物とは言い難いが、
この家にある蔵書たるや大変な量である。
そして、質の方はそれ以上に大変なもので、５０年以上前に書かれた物ばかりなのに、
現在でも十分通用する技術が、いや、現在でも知られていない技術が無数に眠っているのだ。
今、アイラとカタンがやっている仕事は、それを製品にして世の中に売り出すこと。
天才的発明家メイズ氏が門外不出にしていた発明品はたいしたものである。
そして、それにカタンの創意工夫とアイラの制作力と商売上手が組み合わされば向かうところ敵なし。
そう、二人は今やメルデルビアでも有数の資産家、いや、
この近隣地域では一番のお金持ちになっているのである。

「忙しさは昔よりひどくなってるわよ」
「あの、アイラさん、なんでしたらもう働かなくても・・。
　お金はもうたくさんありますよ」
「だめっ、いつまでもあると思うな親と金っていうでしょ」

ふと、アイラと目線があったとたんにアイラがあわてたように話し出す。
カタンもまたあわてて部品を持ってくる。
何にあわてたのか、お互いそこまではわからない。

「アイラさん、今日はこれくらいにしましょう」
「今日はって、もうこんな時間。・・・カタンにやらせるわけに行かないし、
　ご飯つくんないといけないわね。・・後かたづけぐらいは出来るでしょ」
「あ、はい・・・」

そう、頭脳労働はカタンが担当、肉体労働はアイラが担当。
ところが本当の頭脳労働をしてるのはメイズさん、カタンは書き直しているだけで、
実際の作業をやっているのはアイラさん・・・。

ぼんやりしていたことに気づく。
あわてて後かたづけに取りかかる。
アイラは例によって手際よく料理を作ってるだろうから急がないと間に合わない。

「カタン、どしたの？なにか顔についてる？」
「い、いえ、べつに何も・・・」
「あ、そ。また何か顔に散ってるのかと思ったわ」
「そういう事じゃないですよ」
「それならいいわ。カタンも早く食べてね、後で洗うのはあたしなんだから」
「あ、はい」

急いで食べろと言われても、カタンにはカタンのペースがある。
アイラは動く割には食が細いので食べ終わるのはカタンの方が遅い。
アイラがいらいらして待っているのはわかっているが、つい一言言いたくなる。

「アイラさん、アイラさんはもう少し食べた方がいいと思いますよ」
「食べたくないから食べてないの。ちゃんと栄養のバランスは考えてるから心配ないわよ」
「そうですか？でも、僕よりずっと働いてるのに食べる量が少ないみたいですから・・」
「ちゃんとバランスは考えて食べてるわよ。３時のおやつも食べてるから大丈夫」
「それならいいんですけど・・」
「はいはい、食べ終わったみたいね。じゃ、後かたづけするから」

カタンはメイズ氏の蔵書の目録を手元のノートに書き始めた。
どんな本があるかはおおむね頭には入っているが、これを目録に整理しておけば
いちいち何がどこにあるか探さなくても済むようになる。

ある夢の中の風景（カタン編）

前へ ホームへ 次へ

前へ　ホームへ　次へ　