ある夢の中の風景（アッシュ編）

初夢、それはお正月に見る夢。
それは正夢になるとも言われる縁起物。
ここ、アイラの家に住み込んでいる精霊達も、眠りもするし、夢も見る。

その本当の初夢はともかく、どんな初夢を見たかったろうか。
そういうことであれば少しばかりのぞいてみても、怒られることはないと思う。
誰しも夢は持っているものなのだから・・・・

「ったく、なんであんたが風邪なんか引くのよ」
「仕方ないだろ。引くときには引くんだよ」
「馬鹿とお子様は風邪引かないんじゃなかったの」
「ひっで～。どっちも俺には当てはまらないじゃないか」
「両方とも当てはまってるわよ」
「そんなこと・・・」
「はいはい、とにかく風邪引いてるんでしょ？
　ほら、ここバナナがあるからたべときなさい。
　おかゆはいま作ったげるからおとなしく寝る」
「・・・・う～」
「つべこべ言わない、風邪引く方が悪い！」

精霊王の人間界来訪も終わって接待役もお役ご免。
それでフラッシュ達は精霊界に帰っていったのだが
アッシュだけは何となく人間界に残っている。
なんで残っているのか、アッシュにもよくわからない。
ただ、精霊界は、帰る場所ではないという気がする。
アッシュにとって、帰るという言葉は、アイラの家に使う言葉に感じられるのだ。

気がつくと、枕元にパンをミルクで溶かしたおかゆがおいてあった。
冷めてないところを見ると、置いてからそれほど時間は経ってないらしい。

「アッシュ、やっと起きたの？」
「やっとって、そんなに寝てないぜ」
「２時間ゆっくり寝てたわよ」
「２時間？そんなことない・・・」
「時計みてみたら？」
「時計？」

なるほど、アイラが言うとおり、２時間ぐらいは寝ていたろう。
はて、そうするとあのやけどしそうに熱いおかゆはどういう事なのだろうか。
そういえば、アイラは手にお盆を持っている。
お盆に載っているのはおかゆのようだ。

「…アイラ、もしかして、冷めるたびにとりかえてくれてたのか？」
「様子を見に来たときに取り替えただけよ。冷めたもの食べちゃ身体が冷えるでしょ。
　食べ終わったら着替えた方がいいわよ。汗かいたでしょ」
「ん。まあ、いいよ」
「だだこねるな。ずっと風邪引いたままじゃあたしが迷惑なのよ」
「う～っ。風邪が治ったら覚えてろよ」
「はいはい、風邪が治ったらね。今はあたしの言うとおりにする」
「・・・・」

アッシュはアイラにそういわれておかゆを食べることに専念した。
あれもこれもみなアイラにしてもらっている状態では分が悪い。

言った自分が気持ち悪いぐらいに素直にうなずいた。
アイラが空のお皿を持って出るとアッシュはすぐに着替えにかかる。
アイラの言うとおり、寝間着は汗でべたべたになっている。
起きあがるとあたまがやっぱりぼんやりする。
それでも、アイラが帰ってくる前に着替え終わるために精一杯急いだ。

急いだ甲斐あって、アイラがミカンとお茶を持ってきたときには
アッシュはなんとか布団の中に潜り込めていた。

アイラは濡らしたタオルをアッシュの額に当てる。
固く絞ったタオルがひんやりとして気持ちいい。
しかし、いい加減寝ているのにも退屈してくるのである。

「なあ、アイラ」
「なに？」
「退屈だからどっか行っていい？」
「いいわけないでしょ。病人はおとなしく寝てなさい」
「だって退屈なんだよ」
「理由になってない。目をつむって風邪が治ったら何するか考えてなさい。
　そうすれば、おとなしく風邪を治す気になるでしょ」
「もうあらかた治った」
「あらかた治ったは治りきってないっていうの。
　風邪はぶり返しが怖いのよ」
「そういってすぐ子供扱いする」
「風邪が治らないうちに出歩きたがる大人がどこにいるのよ。
　ほら、しゃべってないで目を閉じなさい」
「やだよ」
「なんで」
「退屈だから」

「じゃ、絵本でも読んであげるわよ。何がいい？」
「なんでそうなるんだよ」
「退屈なんでしょ」
「退屈だけど、絵本はいい」
「ったく、わがままなんだから。
　まあいいわ。あたしはここで繕い物してるから、
　せめて布団の中にいてちょうだい。
　・・・あたしのじゃましないようにしてね」
「・・・うん」

ある夢の中の風景（アッシュ編）

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