１１月といえば、秋から冬へと季節が変わる頃。
そして、季節の変わり目に流行するものには、
ありがたくもないこんなものもあったりする。

 

「アイラちゃん、大丈夫？」
「鬼の霍乱とはこのことだな」
「ルシエル、言い過ぎですよ」
「 なあフラッシュ、おにのかくらん、って、どういう意味なんだ？」
「鬼のように強い人が病気にかかることを言うんですよ」
「なるほどのぉ。小娘は風邪をひかんと思うておったがの」
「あは、あたしも」
「あんたたち、一体あたしを何だと思ってるのよ」

 

そう、アイラも風邪を引いてしまったのだった。
季節の変わり目は気温の変化も激しく、
少し気を抜くとすぐに体調を崩してしまうのである。

 

「・・・ぅ…頭痛い」
「アイラさん、ゆっくり寝ててください。
　仕事ならぼくらが手分けしてやっておきますから」
「それが一番不安なのよね。
　とりあえず今日は冬に備えて薪を切り出して
　街に売りに行こうと思ってたんだけど」
「薪を切るぐらいなら簡単だぜ」
「ルシエル、あんた薪にする木がどんなのかしってる？」
「何でも適当に切っとけばいいんだろ」
「・・・薪に適した木と適してない木の見分けもつかないじゃ
　仕事にならないわよ」
「どれが適してるか教えてくれたらすぐ切りにいくぜ。
　な、フラッシュ」
「ええ、ですからご心配なく」
「切っていい木と悪い木の区別もあるのよ。それもわかる？」
「ま、なんとかなるって」
「・・・こりゃ寝てられないわ。・・・フェイ、そこに
　綿入れがあるから出してちょうだい。あたしも一緒に行く」
「小娘、無理をせぬほうがよいぞ」
「そーそー、風邪は万病の元ってね」
「フェイ、あんた風の精霊ならなんとかなんないの？」
「失礼ね！あたしはWIND担当！COLDならルシエルの方よ！」
「俺はＩＣＥだ」
「あらあらみなさん。風邪引きさんの回りで騒ぐ物ではありませんわ。
　アイラさん、身体が暖まるお茶を作りましたからよろしければどうぞ」
「ありがと、イルミー。
　これ飲んだら一仕事するわね」
「アイラさん、無理をしないでください。
　それよりお医者さんに行った方が・・・」
「そんなお金うちにはないわよ！」

「なあ、医者ってそんなにお金がかかるのか？」
「あたしらの一週間分の稼ぎを一回の往診で取るわよ」

 

説明が必要であろう。
この街には、保険制度、というものが全くない。
薬の代金も診察料も全部自分で払わなければならない。
おまけに医学があまり発達してないから、薬といっても
薬草が主体。取ってくるのに手間がかかる上に
そこから薬を調合するのにも手間がかかるからものすごい値段になる。
つまり、おいそれとはやっかいになれない相手なのだ。

 

「アイラさん、それは言い過ぎですよ。安くはなくてもそこまで要求しないです。
　それに、お金の心配でしたら・・」
「ストップ、カタン、それ以上は言わないでよね」
「あ、はい・・・」
「まあ、なんにせよ、ゆっくりと寝る事じゃな。
　疲れがたまっておったのじゃろう」
「誰のせいだと思ってるのよ」
「お主が無理しすぎなのじゃ」
「無理してでもすることしとかなきゃいけないでしょ」
「それで病気になっては意味がないの」
「・・・う・・・」
「アイラさん、お茶が冷めてしまいますわ」
「あ、イルミーの言うとおりね。
　・・・わかったわよ、あたしもゆっくり寝てる。
　でも、あんたたち、くれぐれもあたしの仕事はふやさないでよね」
「信用ないなあ」
「信用できることしてないでしょ」
「そういうフェイはどうなんだよ」
「あたしは少なくとも増やしてはないわよ」
「あーそうやってすぐいいこぶる」
「アッシュ、あんたねえ」
「・・・みんなが騒ぐと、アイラちゃんがゆっくり眠れないの」
「みなさん、ピア様のおっしゃるとおりです。
　いったん外に出ましょう」
「は〜い」

 

フラッシュの言葉で、精霊達はおとなしく部屋の外へ出て行った。
もっとも拡張したとはいえアイラの家である。
部屋の外だろうが中だろうが騒げばアイラの寝ているベッドまで響いてくる。

 

「ナレーションもいちいち突っかかるわね」

 

気にするな、それよりイルミナのお茶を飲んで寝た方がいいと思う。

 

「わかってるわよ、しつこく言わなくても」

 

アイラは、あれだけの時間が経ってもまだ十分に熱いお茶を
両手で抱えると、さましながらゆっくりと飲む。
イルミーの言うとおり、飲むとすこし身体が暖まった気がする。
同時にすこし眠たくなってきた。

 

「味の方は最悪だったけど。
　お茶じゃなくて、薬草を煎じてたんだわ」

 

何にせよ、イルミーの心遣いには違いない。

 

「いつ薬草を採ってきたのかしらね。
　・・・いいや、寝よ」

 

薄い布団を３枚掛けて何とか眠ろうとする。

夏のうちは涼しくて良かったすきま風も、
冬が近づくと寒いばかりだ。

 

「いちいちうるさーい」

 

ごめん、静かにしてるからお休み。

 

・・・・ぁ・・かあさんも、こんな気持ちだったのかな・・・

 

するべき仕事があって、無理をすれば身体が動かない事もないのに、
それでもおとなしく眠ってなければならない。
気は急くけれど、今は寝るのが一番大切な仕事。

 

アイラは目を閉じて思い出を１つずつめくりながら、
いつか本当に眠っていた。

 

ん・・あ、本当に寝てたんだ。
あ、汗かいちゃった、着替えなきゃ・・・。

「なんじゃ小娘、起きたのかの」
「メリル、起きちゃ悪いみたいじゃない」
「ごめんごめん、アイラ、騒がしかった？」
「騒がしかったって、なにやってるのよ」
「・・あのね、すきま風が入らないように、
　隙間に詰め物をしてるの・・・」
「ま、そういうこと、隙間を見つけたら、
　わらを詰めてその上から粘土でふたをしてるのよ」
「隙間って、わかっててやってるの？」
「あたしは風の精霊なの！」
「・・フェイちゃんは風の通り道がわかるの」
「そういう事じゃな」
「他の連中は？」
「フラッシュ達なら外壁の補修じゃ。
　わしらは中の方をやっておるのじゃ」
「アイラの部屋を最初にやっちゃおうと思ってたのよ。
　今大体終わったところ」
「あ、そ。ありがと・・・・。
　そうだ、着替えるから悪いけど出てもらえる」
「べつにわしらに気兼ねはいらんぞ」
「・・・ま、そだけど、他の人が入ってこないように見ててよね」
「気にするほどの事でもないと思うがの」
「そういってカタンかフラッシュが入ってきたらどうするのよ」
「じゃ、あたしが扉おさえとくから、ぱっと着替えちゃって」
「ありがと、フェイ」

 

アイラは衣装入れから予備の寝間着を取り出して着替える。
寝間着はあれでも二着持っているが、こちらの方も汗でべたべたになれば
もう着る服がない。

 

「やかましい！」

「あれ、あかないぜ」
「アッシュ、今アイラが着替えてるからちょっと待って」
「なんだ、だったら鍵かけとけばいいのに」
「・・・アッシュちゃん、扉を開ける前にノックするの・・」
「なんか、ピアが一番人間界の事をよく知ってるのかもしれないわ」
「・・・」

 

ピアは、アイラに誉められてちょっと照れる。

 

「もういいわよ」
「アイラ、イルミーがおかゆ作ったから持ってきたぜ」
「ありがと、アッシュ」
「食べ終わったらおいとけって。
　イルミーが後で取りに来るから」
「・・・ん、そうしとく」
「アイラ、元気ないぜ、病気なのか？」
「だから風邪引いてるのよ」
「あ、そっか。じゃ、またな」
「これは今のうちに洗ってほしとくわ。
　アッシュにあとで乾かさせとく」
「ん、ありがと・・・・」
「小娘、えらく殊勝な言い方じゃな」
「うっさいわね。人がありがとっていってるんだから、いいじゃない」
「悪いとはいうておらぬわ。・・・・のぉ。アイラ」
「なによ」
「・・・困ったときに手のひら返すものばかりではないじゃろ」
「・・・・・・」

 

精霊達は出て行った。
表ではフラッシュ達の声がする。
はしごかけて、隙間を１つずつふさぐ作業をしてることが
声からもよくわかる。

 

アイラは、黙ってミルクでパンを似たミルク粥を食べた。
その間、アイラは、何も言わず、何もしてないけど、

精霊達もカタンもみんなすることをやっていた。

 

「・・・」

 

アイラは、お皿をテーブルの上に返すと、
布団をかぶって寝た。

 

森の中での出会いからの、思い出を１つずつめくりながら。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

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