クリスマス。それは一年のうちでもっとも大切なお祭りである。
そう、なんと言ってもクリスマスには…

 

「ほら、フラッシュ。手を休ませずにちゃんと泡立てる」
「は、はい・・・」
「アイラ。いい加減疲れたぜ。そろそろ一休み・・」
「だめよルシエル。クリスマスは一年で一番の稼ぎ時なんだから。
　ほらカタン。不器用なのは知ってるけど、粉ふるいぐらい出来るでしょ」
「え、ええ・・・ちゃんとやってます」
「アッシュ。火加減ちゃんと見てる？」
「ああ、ちゃんと見てるぜ。言われたとおりの温度でむら無く」
「こらルシエル。生クリームのホイップをさぼらない」
「ちょっと腕が痛くなってね」
「卵白泡立ててるフラッシュの方がよほど疲れてるのよ。
　ほら、あと一個分終わったら休憩にするから、それまでがんばる」
「はいはい」
「返事は一度でいいの」
「わかったよ」

 

そう、クリスマスといえばクリスマスケーキ。
自分の家でケーキを焼く人ばかりではなく、
店で出来合のケーキを買ってお祝いをする人も決して少なくない。

 

それで、アイラはケーキを焼く仕事を請け負ったのである。
毎年ケーキを焼く仕事は請け負っているが、いつもはせいぜい３つか４つ。
ところが今年は精霊達やカタンがいるから町中のケーキを一手に焼き上げる勢いなのである。

 

「小娘。そんなに欲張る必要も無かったと思うがの」
「クリスマスが終わったらもうお金儲けの機会なんてないわよ。
　お正月にはみんな休んでお金なんて使わないわ」
「・・・初詣があるの」
「あ、ピアの所じゃそういう習慣もあるのね。
　うちの方じゃお正月って・・」
「お年玉くれるんだろ」
「そんなものあるわけ無いわよ！
　サンタさんのプレゼントでおしまい！」
「ちぇ〜っ」
「両方もらおうって言う了見が甘いのよ。アッシュ」
「でもアイラさん、両方もらえる地方もあるみたいですよ」
「うちは貧乏だから片一方しかないの」
「自分で言う必要もないとおもうがの」
「うるさ〜い、メリルもちゃんと働きなさいよ」
「ちゃんと飾り付けをしとるわ。それよりお主はなにをやっておるのじゃ？」
「あたしはちゃんとケーキを切ってクリームとシロップ漬けのフルーツを挟んでるでしょ。
　デコレーションの土台はあたしが作ってるのを見てないの」
「あらあらアイラさん。喧嘩する物ではありませんわ」
「イルミーはいつでも落ち着いているわね」
「あわてると失敗しますよ」
「・・・ま、失敗したらもったいないわ。イルミーの言う通りね。
　でも、頼まれた数だけは今日中にちゃんと作り上げるわよ」
「たっだいまっ」
「お帰りフェイ。早速だけど次の配達たのむわね」
「えっ？さっき行ってきたばかりなのに」
「３人で作業してるから飾り付けも早いのよ」
「ずっる〜い、なんであたしだけ肉体労働なのよ」
「仕方ないでしょ。ピアやイルミーやメリルに配達なんて出来ないでしょ。
　男性陣は力仕事でどうしてもいるから、フェイだけが頼りなのよ」
「あは、そう頼られちゃ仕方ないか。じゃ、いってきま〜す」
「・・・・単純じゃな。本当は寒いからみんな外に出たがらんのじゃろ」
「アッシュとルシエルは別みたいだけど」
「まだ氷も張ってないじゃないか。こんなの寒さのうちには入らないぜ」
「この程度ならちょっと身体を動かせば暖まるだろ」
「ほらね」
「だからアイラ、ちょっと俺が配達にいってもいいだろ」
「だめ、あんた出て行ったら絶対に帰ってこないでしょ」
「そんなことは・・・」
「ルシエルさんは帰ろうと思っても、途中で出会った女の人が
　返してくれませんから」
「そうそう、ちゃんと帰ろうとは思うんだぜ」
「お主が自分から声を掛けたりせねば、
　そもそも引き留められることもなかろうがの」
「女性を見て声を掛けないなんて失礼なことが出来るか」
「人間界じゃそういう常識はないわよ」
「ほれ、小娘、これで終いじゃ」
「終い？あれ？もう全部終わったの？」
「ええ、注文分のケーキの材料は作り終わりました」
「本当に？ええと・・・ひいふうみぃ・・・」

 

アイラは紙に書いてある予約リストとフェイに持たせたケーキとを
対照させる。

 

「・・・フラッシュの言う通りね。今日の仕事はここまで」
「やったあ！」
「アッシュ。仕事が終わったのはフラッシュとカタンだけよ。
　まだこれを焼いて飾り付けするまでは仕事のうちだからね」
「なんであの二人だけ先に終わるんだよ」
「今まで力のいる仕事をしてたんだから当然でしょ。
　ほら、つべこべ言わずに最後の仕上げにかかる」
「へい、合点承知」
「行くぞ八」
「へい親分」
「・・・アイラちゃん、息が合ってるの」
「・・・・・・・・・・・・」
「あ〜なんでそこで落ち込むんだよ！」
「アッシュ、お主、もう少し自覚が合った方がよいぞ」
「なんだよ自覚って」
「わからなければしかたがないの」

 

そんなこんなで仕事は終わり。
予め用意しておいたクリスマスツリーを引っ張り出し、
余ったケーキの包装紙をテーブルクロス代わりに広げると
この日のために特別にふんぱつして用意したさいころステーキと、
１つだけ特別に大きいクリスマスケーキ・・・そう、
最後に焼き上げたクリスマスケーキをその上に載せる。

 

「あ〜まったく、今年も最後までナレーションが突っかかってくるわね」
「アイラさん、でも特別に豪勢な食事ですよ。
　一体どうやって工面したんです？」
「今まで仕事で失敗するたびにつけとくっていっていたでしょ」
「ああ、俺ずいぶんたくさん取られた気がするぜ」
「アッシュは猪突猛進だからな」
「ルシエルだってたくさん払ったじゃないか、遅刻のせいで」
「はいはい、喧嘩しないの。
　とにかく、そのお金を使ったのよ。
　はい、これも買ってきたのよ」

 

と、アイラが取り出したのはシャンパンもどき。
もちろん、未成年のアイラ達が本物のシャンパンを飲むわけにはいかないのである。

 

「俺は飲んでもいいんだろ？」
「ルシエル、お主も未成年じゃろが。
　この中で年齢に達しておるのはフラッシュだけじゃ」
「・・・めーちゃんはフラッシュちゃんより年上なの」
「そういえばそうでしたね」
「つまり、あっさりサバ読んだわけね」
「いいではないか。心は永遠の１７歳じゃ。のう小僧」
「え、ええ・・・まあ」
「でも、カタンもお酒飲んじゃだめよ」
「・・・あ、はい・・・飲みませんから」
「じゃ、ま、そろそろ始めようぜ」
「そうね。イルミーみんなについで上げて」
「はい、アイラさん」
「ピア、ろうそく立ててくれる」
「・・・うん・・」
「フラッシュ、ピアがろうそく立て終わったら火をつけてね」
「なあ、せっかくだからさっさと食事にしようぜ」
「アッシュ、こういう事はきちんと形を作る物なの！」
「小娘にもそういうこだわりはあるんじゃな」
「どういう意味よ」
「言葉通りの意味じゃ。気にするな、誉めておるのじゃ」
「あ、そ。まあいいわ。フラッシュ。全部に火をつけ終わったわね。
　じゃ、みんな手を前に組んで」
「え〜そんなことまでするのかよ」
「クリスマスって、そういう日なのよ」
「そうだったのか？俺はまたてっきり恋人達が二人きりで過ごす・・・」
「残念だったわねルシエル。本来のクリスマスはそういうものじゃないのよ」
「そうなのか？カタン」
「ええ、そうですね。本来はナザレのイエスの誕生を祝う日なんです」
「誕生を祝う日って、誕生日じゃないの？」
「正確な誕生日はわからないんです。 それで、今日を祝う日に決めてあるんですよ」
「ふ〜ん、ま、なんにせよお祭りは歓迎！」
「フェイらしいわね。・・・
　はい、おしゃべりはここまで。
　今年あったいろんな事で、感謝したいことを思い浮かべて一分間黙祷。」

 

そういうお祭りでも無いような気がするが、
アイラがそういうのだから、そういう事にしておくのである。

 

「はい、じゃケーキを切りましょ」
「私が切りますわ」
「あ、俺一番大きいの」
「はいはい」

 

そんなこんなでパーティはお開き。
パーティが終わればクリスマスで一番の楽しみ。
そう、サンタクロースを迎えるためにベッドに靴下をつるしておくのである。
もちろん、プレゼントを待つためには眠ってなければならない。
アイラは一同にさっさと寝るように申し渡してしまう。

 

「アイラさんは眠らないんですか？」
「カタン、これ一体誰が片づけると思ってるのよ」
「あの、僕も手伝います」
「いいわよ、指怪我されても迷惑だから」
「あら、アイラさん、何も一人でなされなくても結構ですわ」
「・・・ピアも手伝う」
「・・・ありがと、でも、今日は一人でやらせて」
「・・・ああ、アイラがそういうなら任せようぜ、みんな」
「どうしたルシエル。お主フェミニストではなかったのか？」
「ん？俺は常に女性の気持ちを大切にする主義だからな」
「ルシエル？なにか隠しているでしょう？」
「おまえ達の察しが悪すぎるんだよ。皆までいったらアイラの気持ちが台無しになっちまう。
　ほら、サンタクロースを迎えるためには準備がいるんだよ。
　俺たちが起きてるとじゃまになるんだから早く寝てしまおうぜ」
「・・・ええ、そうですね。
　では、アイラさん、お休みなさい」
「お休み。みんな」

 

今日だけはルシエルに感謝したいアイラであった。
そう、後かたづけといっても、さいころステーキもケーキも
大皿に載っていたのだからそれほど食器の数は増えてないのである。
テーブルクロスも包装紙を使ったからたたんで捨ててしまえばおしまい。

 

本当にアイラがするべき仕事といえば、
ステーキの買い出しの時にケーキ屋のおじさんに頼んで借りてきた
サンタクロースの衣装を着て、みんなが寝静まったときに
用意しておいたプレゼント〜本当は罰金貯金箱に貯めておいたお金は
このプレゼントのために使ったのだが〜をみんなの枕元へおいておくこと。

 

「ま、これぐらいは仕方ないわよね。ずいぶんと働かせたんだし」

 

みんなが寝静まるまでまだ時間がありそうであった。
アイラは時計を見ながら、そのときを待っていた・・・。

 

翌朝。

 

「あ〜っ！なんでもう翌朝になってるのよ！」

 

なぜといわれても仕方ない。
アイラが時間を待っているうちに眠り込んでしまったのだから。

 

「もう、これじゃみんながっかりしちゃうわよ。
　せっかく買ってきたプレゼントも無駄に・・・あれ？」

 

ん？どうした？

 

「せっかく買ってきたプレゼントが無くなってる。どうして？」

 

どうしてと言われても、べつに誰も盗んではない。

 

「おっはよ、アイラ」
「おはようアッシュ。もう起きたの」
「もうって、アイラの方が早起きじゃないか」
「うん、まあね・・・ところでアッシュ」
「え？」
「ええと・・ ・残念だったわね」
「え、何が？」
「サンタさん、来なかったでしょ」
「そんなこと無いぜ。ほら、ちゃんと俺の靴下の中にプレゼントが入ってた」
「入ってた？」
「あ〜アイラ、俺のこと悪い子だと思ってただろ」
「そういうんじゃないわよ。でも本当に入ってたの？」
「ああ、ちゃんと入ってたぜ。ほら、ほしかった運動靴」
「運動靴？」

 

アイラは驚いた、アイラはそんな物買った覚えはない。
アイラが買ってきたのは、全員分＝一応アイラ自身のもある＝チョコレートだけだったから。

 

「あ、あと、チョコレートもついてた」
「あとって・・・」
「おっはよ〜」
「おはよう、フェイ。フェイの所にはサンタクロースが来た？」
「もちろんよ。ほら、新しい服をもらっちゃった」
「新しい服って・・・あんまり代わり映えしてないぜ」
「アッシュ、どこに目をつけてるのよ」
「顔」
「はいはい、べたなぼけありがと」
「あの、みなさんおはようございます」
「おはようカタン。・・・・カタンはプレゼントがあったの？」
「あ、はい。ちゃんとありました」
「なんじゃ騒々しいのぉ」
「メリルおはよ。ピアはまだ寝てるの？」
「・・・ピアも起きてるの」
「おはようございます、みなさん」
「おはよ。ん〜アイラ、さわやかな朝だぜ。
　こういう日には二人で・・・」
「みなさま、おはようございます。
　アイラさん。男の方は存じませんけれど、
　こちらの方はみなさんサンタクロースのプレゼントをいただいたようですわ。
　アイラさんの枕元にもおいてありましたわよ」

「こちらにも全員分ありましたよ。イルミナ」
「・・・なんで？」
「そりゃ、みんないい子にしてたからだろ」
「ま、そうかもしれないわ。
　・・・・ま、いっか、とにかく、今日一日はお休みだから遊んできていいわよ」
「やったあ！」
「いいんですか、アイラさん」
「いいわよいいわよ。昨日あれだけ働いて疲れたでしょ。
　今日ぐらい休んでも罰はあたらないわ」

 

そうは言いながらも、不思議な話に違いないのである。
アイラはとりあえず自分の所に来たというプレゼントを確認してみた。
なるほど、確かにプレゼントはある・・・クリスマスカードが一枚に、
自分が買ってきたチョコレートの詰め合わせが１つ。

 

「ちぇっ、なんであたしはクリスマスカードだけなのよ・・・どれどれ？」

 

そうは言っても、一応確認はしてみる。
もしかしたら、この謎を解く鍵があるかもしれない。

 

『Merry Christmas』

 

書かれていたメッセージはこれだけだった。
いは、下に一行書いてある。

 

『長寿と繁栄を。・・・感謝を込めて祈ります』

 

「感謝を込めてって・・・あたし、サンタクロースに知り合いはないけど」

「・・・アイラちゃん。この手紙を書いたのはたぶん・・・」
「たぶん？」
「・・・ううん、ピアの思い違い・・・」
「あ、そ。まあいいわ。ピアはプレゼント何もらったの」
「・・・あのね」

 

そういうと、ピアはそっとアイラに耳打ちする

 

「・・・・良かったわね」
「うん・・・」

 

それで、アイラにも、誰がプレゼントを贈ったのか、わかったらしい。
でも、それが誰なのか。それはたぶん大切なことではないのだ。
プレゼントに何をもらったのかと言うことと同じぐらいに。

 

今日は、クリスマス。少しだけ、みんなに優しくなれる日。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい。

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