はじめに：
このお話は、少なくとも一度は少女義経伝をクリアしたことがあることを前提として、
ネタバレを全く気にすることなく書いてあります。
ご了承ください。

 

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妖魔の島。神機の妖力で生み出されたこの世ならぬ島。
清盛が倒されたことで島を支える妖力が失われた結果、
神機もろとも妖魔の島は海底へと沈んでいった。

 

俺たちは、命からがらその島から逃げ出すことが出来た。
これで、やっとすべてが終わったんだな。

 

「・・・こんどこそ、全部終わったんでしょうか」
「終わったみたいだね。ほら、天の扉が開いてる」
「では〜これで〜弁慶さんともお別れですね〜」
「・・・・みんな、最後に一つだけ言っておかないといけないことがあるんだ。
　本当は俺は武蔵坊弁慶じゃない。本当の俺は・・・」
「未来から来たただの高校生だったんだろ」
「玲奈。なんで知ってるんだよ」
「ふっ。おまえが未来に送り返されたときにみんなで遺品を整理したのでな。
　『せいとてちょう』 を解読すれば大体の事はわかった」
「そういえば〜たびのしおりなんていうのもありましたね〜」
「ええと・・・ってことは、知っててずっと黙っていたのはみんなの方だったのか？」
「そういうことではないと思います。
　私たちが知っている弁慶様は、あなたですから」
「ま、そういうこと」
「…本当の武蔵坊弁慶がわざわざ選んだんだよ。
　それだけの働きはしたんじゃない？」
「・・・ありがとう、九羅香。…
　多分、九羅香にはこれからもっと大変なことがたくさん起きると思う」
「うん、それはわかってる。勝手に源氏の陣を抜け出したことを
　景時殿が黙ってるとは思えないし、兄上も抜け駆けをほっておくとは思わない。
　だけど…後悔はしてないよ」
「ああ、そうだな、九羅香ならきっと自力でなんとか出来るよ」
「弁慶様も、帰られてからの方が大変かもしれませんよ」
「紅葉の言うとおりかもな。でも…紅葉はもっと大変な気がする」
「そうかもしれません。京に残してきた子供達の事を考えると、
　今から目が回りそうです」
「いや、そういうことじゃなくて、その・・・」
「弁慶様。一病息災ということもあります。…
　弁慶様が教えてくださった言葉ですよ」
「そんな事いったっけ？…よく覚えてない」
「弁慶らしいな。人助けをしておいて自分ではすっかり忘れている」
「与一、俺は誰も助けてないよ。…多分、ただそこにいただけだとおもう」
「だれかがそばにいるだけでも〜人は強くなれるんですよ〜」
「静さん・・・・・そういうものなのかなあ？」
「はい、そういうものなんです〜」
「・・・・」

 

べちっ！

 

「こら弁慶！ぼんやりするな。
　天の扉を見てみろ、段々消えかけてるじゃないか。
　いくんならさっさと行け！」
「行くんならって・・・」
「ん？・・・挨拶なんかいいからとっとと行け！
　あたしは・・・みんなみたいに器用じゃない！」

 

玲奈は、それだけ言うと俺に背中を向けた。
表情は見えないが、俺に向けている背中が、
それだけで言葉を尽くしたのと同じぐらい
玲奈の心の中を示していた。

 

・・・もし、できるなら・・・いや、
俺は俺の時代を生きなきゃいけないんだよな・・・

 

『・・・のか？』
「え？」
『それで、よいのか？』
「いいのかって…いいも悪いもないだろ」
『おまえの時代とは、なんだ？』
「俺の時代・・・って、そりゃ俺の生まれた時代・・・じゃないかな」
『おまえにとって、おまえの時代とは、おまえがいるべき時代ではないのか』
「そりゃそうに決まってるよ」
『おまえのいるべき時代とは、おまえといるべき人と同じ時代ではないのか』
「・・・・・・・・・あんた、誰だ？」
『私か？私の名前を聞くのか？忘れてしまったのか？私はおまえなのだぞ』
「あんたが、俺・・・・！、あんた、まさか・・・」
『さあ、選ぶのだ。おまえが共に生きるべき仲間を、おまえが共に生きたいと思う人を』
「・・・・・・・わかった。あんたの言うとおりだ」

 

・・・
「玲奈」
「なんだよ」
「お願いだからこっち向いてよ」
「・・・・・いいよ。あたしは湿っぽいの大嫌いなんだ。
　それに、笑って送ってやれるほど器用じゃない」
「笑って送ってくれなくてもいい。
　俺は、帰らない…いや、違うよ。
　俺は、俺のいるべき所にずっといる」

 

くるっ！

 

「だからとっとと帰れ！さあ帰れ！今帰れ！帰ってしまえ！」
「…俺の帰るべき場所はここだよ。天の扉の向こうじゃない」
「・・・弁慶、頭大丈夫か？」
「・・・・なんて言ったらいいかな。
　前に一度未来に強制送還されたことがあったろ」
「ああ、そうだったな」
「…あのときの未来じゃ、源平合戦で源氏が負けてた。
　だけど、８００年も経ったら源平合戦の勝敗なんて
　歴史の試験の問題でどっちが勝ったでしょう、って以外
　全然俺にとって関係のない話だったんだ。
　それでも、俺はこの時代に帰ってくることを選んだ。
　だから…俺が帰るべき場所はここなんだ。…天の扉の向こうじゃない」

 

…なあ、これでいいんだろ？俺を、いや、俺たちを
ずっと見守ってくれていた、本物の、武蔵坊弁慶さん…
『忘れるな、私はおまえだ。おまえこそ本物の武蔵坊弁慶なのだ』
…ああ、そうだったな…

「・・・それで、弁慶はこれからどうするの？」
「 さあ？…俺に聞かれてもよくわからないよ。
　で、玲奈はこれからどうするんだ」
「どうするんだって・・・なんであたしに振るんだよ」
「なんでって・・・俺、器用じゃないから答えられないし〜」
「べ、弁慶、この卑怯者！」
「卑怯でいいよ、玲奈のそばにいられれば」
「な、な、な・・・」
「あはは、玲奈、… それで、弁慶をどうするの？」
「どうするって、どうするって・・・・
　いまさらどうしようもないだろ。天の扉とじちゃったんだから」
「本当に〜玲奈さんは〜不器用なんですね〜」
「そうだな。…顔に全部出ている」
「な、なんだよみんなして」
「ねこだって一度餌をやったら最後まで飼わないとだめだってこと」
「ねこといっしょかよ・・・」
「ねこのほうがましだ。少なくともこんなにでかくない」
「それで、まだ答えを聞いてないけど」
「答えって・・・・わ〜かった！弁慶、くたばるまでずっとそばにいろ！」
「ああ、くたばるまでな・・・って、俺が先かよ」
「年の順番だっ！」
「はいはい」
「まったく、玲奈は器用でもなければ素直でもないな」
「ま〜そこらがかわいいんだし〜」
「たしかに〜もう全部顔にでてますね〜」
「あの、・・・そろそろ、戻りましょう。…日が落ちてきましたよ」
「うん。そうだね。みんな、一旦戻ろうか」
「賛成〜っ」

 

こうして、俺は平安の世に残ることになった。
実は平成の世に全く未練がないっていうわけでもない。
だけど…

 

「そこだっ」
「残念でした〜弁慶、おまえ鈍いぞ」
「くそ〜っ。こんどこそ捕まえてやる！」

 

え？今なにやってるんだって？
今俺は玲奈と山ごもりして忍術の修行をやってる最中。
玲奈の移し身の術を見破って捕まえる練習をやってるんだ。
神経を研ぎ澄まして動きを見破れっていうんだけど、
さすがに本職の忍者の動きを見破るのは難しい・・・。

 

「・・・ほらほら弁慶、どうした、動きが止まってるぞ・・」
「・・・そこだ！見切った」
「ざんねんでした〜あたしはこっち・・わっ！」

どさっ。

「捕まえたっ！」
「な、なんでわかったんだよ」
「え？ちょっとした水平思考。…移し身の術は気配のあるところにいないって事だから
　異様に気配を感じない場所へ飛び込んだんだよ」
「くっ・・・そんなやり方があるなんて気づかなかった」
「だてに年は拾ってないってこと」
「え、ええと・・・べ、弁慶」
「何？・・・」
「・・・いつまで捕まえてるんだよ」
「あ、悪い。・・・でも、とりあえず一回出来たんだから修行も一休みしようよ」
「そうじゃなくて！いつまで捕まえてんだよ」
「いつまでって・・・休み終わるまで」
「だ〜っ！」
「っていうか、・・・今は俺が玲奈に捕まってるんだけど」
「・・・・わっ！い、いつはなしたんだよ」
「え？・・・玲奈が俺を捕まえてるのに気づいたとき」
「！〜！〜！〜！」
「もしかして、わざと捕まったのか？」
「んなわけないだろ！」
「おい、熱あるのか？顔が妙に赤いぞ」
「熱なんかない！」
「おかしいな。熱がなくて冷たくなってたら・・・」
「やかましい！」

 

そう、彼女と一緒にいる事に比べたら比較にならない。
これが、俺の選んだ道なんだ。

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい