はじめに：
このお話は、少なくとも一度は少女義経伝をクリアしたことがあることを前提として、
ネタバレを全く気にすることなく書いてあります。
ご了承ください。

 

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壇ノ浦の戦い。俺たちはただ神機を封印するために平氏の旗艦、
いや、知盛の本陣を目指したが、そこにはすでに神機はなかった。
あまつさえ、何度死んだかわからない敦盛に知盛を殺されてしまった。

 

それを待っていたかのように現れた妖魔の島。
俺たちはそこで気絶していた廉也、そして、
何を考えているのか未だによくわからない巴御前を仲間にくわえて
観月ちゃんのいるこの島の最深部を目指した。

途中、押し寄せる妖魔の大軍を食い止めるのを与一達に任せて〜
与一達なら妖魔ごときに遅れをとる心配はない〜俺たち、
つまり、俺と九羅香と紅葉と廉也の４人は、島の最深部、
いや、この島の心臓部である祭壇にたどり着いた。

 

そこにいるのは観月ちゃん一人だけ。

 

「弁慶さん。油断しないでください。今の観月様は・・・」
「廉也、そう身構えるなって」
「良く来たな未来人」
「俺は未来人って名前じゃないだろ」
「・・・よくよくとぼけた奴よの。
　こんな奴がここまでたどり着くとはおもわなかったわ」
「清盛殿、いい加減にしなさい。・・・一体なんのためにこんなまねを」
「ふん・・・いい機会だから教えてやろう。
　すべてわしの予定通り事が進んだのだ」
「平氏が滅ぶのが予定通りか、清盛殿」
「その通り。源氏に殺された平家の怨念がわしに力を与えてくれる。
　この怨念と、神機の力で妖魔を支配し、妖魔の国を作るのじゃ」
「・・・観月ちゃん。もういいだろ。もう戦は終わったんだ。帰ろうよ」
「弁慶！なにを寝ぼけた事を・・・」
「俺は寝ぼけてないぜ 。あそこにいるのは観月ちゃんだろ」
「弁慶さん、観月さまはすでに清盛公に魂を乗っ取られているんです。
　あの邪気を感じないんですか？」
「邪気？ああ、それは感じる」
「でしたら・・・」
「それでも、あそこにいるのは観月ちゃんだって、俺を信じろ」
「馬鹿者めが、この場でくたばるがよいわ」
「観月ちゃん・・・もう止めるんだ。
　清盛殿も、知盛殿も、みんな、もう彼岸に行ったんだ。
　もう、これ以上逃げるものじゃない」
「弁慶さま、それは一体どういうことなんです？」
「簡単な事なんだよ。・・・本当にあそこにいるのが清盛殿なら、
　俺たちはとっくに死んでるってこと」
「今から殺す事も出来るのだぞ。未来人」
「今までも、これからも、観月ちゃんは誰も殺せないよ」
「ふざけた事を！」

 

観月ちゃんの手の中にある球・・・多分、あれが封印を解かれた神機だろう・・・が
まがまがしい光を放つと、俺たちは何か衝撃波のようなもので吹き飛ばされた。

 

「どうだ未来人。これでもまだ戯れ言を言うか」
「そんなのが神機の力の訳がない。本気を出せば俺たちは骨も残らずに消し飛んでたはずだ。
　観月ちゃん、・・・意地を張るのはやめるんだ」
「わしは観月ではない、わしは・・ぐっ・・・」
「？観月さま・・一体・・・」
「今がチャンス・・」
「よせ、廉也」
「なぜ止めるんです。あの機会に・・・」
「あの機会に何をするつもりだった。観月ちゃんを殺せとでもいうのか？」
「弁慶さん、でもそうしなければ・・・」
「おのれ・・・観月め・・・このわしを・・・」
「・・・廉也、これを預かっていてくれないか？」
「おい、これはおまえのなぎなただろう。武器を捨てて何をするつもりだ」
「もう俺には武器なんて要らない」
「・・馬鹿者が！わしを甘く見るな」
「弁慶！妖魔が！」
「九羅香、紅葉、妖魔の相手を頼む」
「弁慶はどうするつもり」
「俺は観月ちゃんのそばにいるよ」
「弁慶さま！死ぬおつもりですか！」

 

俺はもう紅葉の言葉を聞いていなかった。
観月ちゃんがおびえないように、ゆっくりと俺は観月ちゃんの方へ歩いていく。
え？妖魔？数が少ない。あの数なら九羅香と紅葉の２人に任せておいていい。

俺の行く手を遮るように妖魔が立ちふさがる。
俺は妖魔に向かって平静を装って近づいていく。
怖くないかって？怖いよ、むちゃくちゃ怖い。
でも・・・これは、俺にしか出来ない事なんだ。
恐怖と緊張でもう何も聞こえないし、感じる事も出来ない。

恐怖に負けないために、意識の全部を観月ちゃんに集中する。
ぐわっ！

 

「弁慶！」

 

妖魔の攻撃をまともに受けたようだ。
痛みのおかげで我に返る。
追い打ちを掛けようとする妖魔の攻撃は廉也がふせいでくれた。

 

「弁慶さん、無茶しすぎです！」
「悪い。恩に着るよ」
「弁慶さん、これを・・・」
「だめだ！・・・廉也、それは今日からおまえが持つべき物だ！」
「弁慶！それは・・・」
「何を言っている未来人。おまえはそんなに死にたいのか」
「観月ちゃんは人殺しなんてしないよ」
「わしは観月ではない！わしは平清盛、あの世から妖魔の王としてよみがえった・・」
「違う！観月ちゃんは観月ちゃんだ。清盛殿なんてはじめから幻想だったんだ」
「弁慶？」
「どういう意味なんです？」
「本当に清盛殿だとすると、やってる事に合理性がないんだ。
　こんな目立つ島を出すより先に、鎌倉に行って神機の力を使って源氏を滅ぼして、
　それからおもむろに妖魔の島を生み出した方が絶対に有利だ。
　神機の事を知っているのは法皇と俺たちだけ、そして、
　俺たちだけじゃ観月ちゃん一人を日本のどこかで見つけ出すのは不可能と言っていい。
　下手をするとこっちが源氏に追われる立場になりかねないんだからなおさらだ。
　こんな目立つ島の、それもこんなわかりやすい場所で待ってるなんて、
　これじゃまるで俺たちを呼び寄せたとしか思えないんだ」
「なるほど、馬鹿ではないな、未来人。いかにもわしはおまえ達をおびきよせたのだ。
　おまえ達、・・・わしに仕えぬか？わしになら神機の力を・・・」
「観月ちゃん・・・ごめん。俺も全然観月ちゃんの事わかってなかったよ・・・」
「どういうことなんです？」
「廉也・・・おまえ、ずっと観月ちゃんのそばにいてわからなかったか？」
「何がです？」
「平氏にとって、観月ちゃんって、なんだ？」
「なんだって・・・」
「生まれてすぐ術を施された、ってことは、
　ようするに生まれてからすぐ清盛殿の身代わりって事だろ」
「・・・・・」
「誰が観月ちゃんを必要としてた？必要だったのは清盛殿で、
　観月ちゃんなんて、清盛殿がいれば必要なかったんだ」
「弁慶さま・・・」
「・・・観月ちゃん。もう清盛殿は要らないんだ。
　今必要なのは・・・今、俺に必要なのは観月ちゃんなんだ・・・
　お願いだから帰ってきてよ・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・弁慶・・・さま・・」
「観月ちゃん？」
「弁慶、油断をするな、目が・・」
「清盛殿なんだろ九羅香。・・・当然だよ。
　ずっと清盛殿を演じてきたんだ。急に癖は抜けない」
「・・・・演じてた？演じられてた？このわしが・・・ぐ・・・
　観月・・・私は・・・わたくしは・・・」
「観月ちゃんは観月ちゃんだよ・・・神機も、平家も、妖魔も関係ない。
　清盛殿の孫娘で、俺の一番・・いや、俺にとって何よりも必要な存在なんだ」
「・・・私は・・・」
「観月・・さま・・・」
「・・・観月ちゃん。もう帰ろうよ。
　知盛殿もそのために観月ちゃんをあの場から逃げるように言ったんだ。
　観月ちゃん・・・みんな・・・いや、少なくとも俺は観月ちゃんを待ってる」
「・・・・・・」
「観月さま・・」
「・・・私は・・・・私は・・・・」
「何があろうと俺は観月ちゃんのそばにいるよ。
　何もかも観月ちゃんの責任じゃない。・・・観月ちゃんは、
　ただ、みんなの期待に応えようとしただけなんだ・・
　たとええんま様が非難しても、俺は観月ちゃんのために弁護する」
「・・・弁慶さま・・・」
「おい、一体なにをやってるんだ？」
「あ、与一。妖魔は？」

「ん？妖魔ならすべて退治した。・・・もう残ってないだろ」
「・・・・・・なあ、地震じゃないか？揺れている感じがするぜ」
「あら〜私には〜島が沈んでるような気がします〜」
「気がしますって・・・ああん、こんな美人が海に沈んじゃうなんて
　日本の損失よ〜っ」
「冗談言ってる場合じゃない！みんな、島から逃げるよ」
「おう！」

 

そう、観月ちゃんが元に戻って、妖気を失ったために、
この妖魔の島〜妖力で生み出された妖魔の島〜は
再び海底に向かって沈み始めていた。
俺は観月ちゃんを抱えると必死になって走った。
急げ、急げ！浜辺の船に乗って島の沈没に巻き込まれる事のない
安全な場所まで！

 

俺たちは命からがら船にたどり着くと、
近くの浜辺まで必死で漕いだ。

 

幸いにして、俺たちは、島が沈む事で生まれた渦に巻き込まれる事もなく、
安全な浜辺で島が完全に没する姿を眺める事が出来た。
助かった・・・・。
今になって、急に膝が震えてくる。

 

「どうした弁慶？」
「え、あ・・その・・・うん、武者震いだ」
「おいおい、戦はもう全部終わっただろ。何を今更」
「いや、その・・・」
「弁慶さま。そういえば、神機は封印しましたよね」
「神機？そういえばあれは島に置き去りにしただろ。
　今観月ちゃんもってないみたいだし、封印出来たんじゃないかな？」
「その割には、天の扉が開かないな。一体何が起きたんだ」
「それは・・天の扉をすぐ閉じたからです」
「観月ちゃん、気がついた？」
「はい・・・弁慶さま。・・その・・・」
「どうしたの？」
「ありがとうございました。私は・・・その・・・
　私は・・・ごめんなさい。私・・私は弁慶さまを元の世界に返さないために
　勝手に天の扉を封じて・・・」
「いいよ。・・・元から帰るつもり無かったよ。
　俺の、あのときの言葉に嘘はないよ。・・・俺はずっと観月ちゃんのそばにいる。
　俺は・・・俺には、観月ちゃんが必要なんだ」
「弁慶さま・・・私も、・・・弁慶さまが・・・」
「どうしたの？」
「あら〜観月ちゃん廉也くんの事気にしてるんだ〜」
「静さま、そんなからかい方するものではないです」
「で、何で紅葉が廉也の事かばうんだよ」
「え、それはその・・・」
「観月さま。僕は・・・弁慶さんのように観月さまを信じる事が出来ませんでした。
　本当に観月さまと共にいるべきなのは、弁慶さんなんです。・・・お幸せに」
「なんにせよ、これで一件落着だな」

 

そう、これで、一件は落着した。
九羅香は京に寄ることなく奥州へと帰った。
源義経は壇ノ浦で討ち死に、という事にしてくれと頼朝殿に手紙を出したらしい。

静は世界を見て回るために貿易船に乗って出かけた。
が、なぜか乗ったのは鎌倉行きの船で頼朝に呼び出しを受けたらしい。
どことなく静さんらしいな、と思う。

玲奈は伊勢に向かった。俺が話した忍者についての話に妙に感心して、
新しい忍術の流派を開くんだって張り切ってたな。

与一は屋島の功績を認められて那須家の所領を加増されたと聞いた。
もっとも、ふがいない兄の面倒を見るのは平家と戦うよりよほど疲れるのではないだろうか。

紅葉と廉也は京に帰って、戦争孤児の面倒を見ている。
なんで２人が一緒に暮らしてるのか、詳しいいきさつは俺にはわからない。
ともかく、２人が幸せならそれでいいのだけど。

 

そして、俺と観月ちゃんとは・・・・。

 

「あの、・・・弁慶さま？」
「なに？観月ちゃん」
「これ・・・神機なんです」
「え？神機は封印したんじゃ・・・」
「ずっと抱えてたんです。・・・封印したなら、弁慶さまが
　手の届かない所に行ってしまいそうで・・・」
「・・・俺はどこにも行かないよ。やっぱり、これは封印しよう」
「はい・・・そうですね・・・未来に帰ったら、海に捨てましょう」
「え？」
「神機の力を使えば、時間移動も出来るんです。
　それん、・・・最初に弁慶さまを召還したのは、私の力だったでしょう」
「そういえば・・・うん、そうだったね。でも・・・」
「弁慶さまのいるところが、私のいる時代です。
　私を・・・初めて・・必要としてくれたのは・・・弁慶さまなんですから」
「うん・・俺もそう言われたのは観月ちゃんが初めてだよ」
「弁慶さま・・・わがままを言わせてください」
「わがままって？」
「その・・それは・・・最初で最後でいてくれませんか？」

 

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい