「やっぱり地方任務はいいね、ミッドチルダみたいな都会じゃ息が詰まっちゃう」

「そうか？　俺はミッドみたいな先進地域の方が性にあってるぜ」

「それは弁慶が第９７管理外世界出身だからだ。こういう、次元通信も通じないような

　辺境地のほうが、私の故郷には近い」

「そりゃ、九羅香はな」

 

見渡す限りの草原、その向こうに見える森林。舗装なんてされてない、荷車一台通れれば

いい方という程度の道路。これでも、ここは第２６管理世界と呼ばれている。

最先進地域、ミッドチルダの首都クラナガンと見間違うばかりの第９７管理外世界が

やっぱり管理外世界なのとは対照的だ。

 

「けど、第９７管理外世界にだって、こういうところはあるんじゃない？」

「そりゃ、携帯電話も入らないところの方が多いのは事実だよ。

　どこもかしこも、東京みたいじゃないね。

　だけど、ルヴェラは文化保護地区だよ。発展してないって見るのは間違ってない？」

「そうだね。だけど、車まで取り上げられてるのはきついなぁ」

「どうした弁慶、年か？」

「まだ四捨五入して３０、九羅香と同い年だろ、ばてるには早いってば」

「あはは、怒る元気があれば大丈夫、夜までには、目的地に着くよ。

　……それと、あくまで、私たちの立場は、文化保護地区にきた観光客ってこと、忘れないでね」

「ああ、ことを荒立てないってことだろ、わかってる。

　文化保護地区に車で乗り付けるのは、事が終わった後でいい」

「そうだ。管理世界には、十分な自治権がある。管理局の介入はあくまで

　ロストロギア、あるいは、広域次元犯罪の可能性がある場合に限られる」

「目立たないようにってことで、俺と九羅香の二人だけできてるんだよな」

「いいじゃない、たまには新婚旅行みたいなこともしようよ」

「新婚旅行？　それならとっくにやっただろ、ルーテシアんとこ」

「あれは別」

「任務忘れるなよ九羅香……」

「……あはは、普通の観光客らしく、だよ、弁慶」

「そうだな。普通の観光客らしく、だ。じゃあ、まずは写真を撮るか」

「そうだね、きれいにとってね」

「わかってるよ、はい、バター」

「弁慶、それ１０００年前のギャグだよ」

「そうか？　せいぜい３０年ぐらい前だと思うんだけどなあ」

 

俺たちは、こんな調子で、目的地の遺跡を目指していた。

同じように遺跡を目指す少年と出会うことなど、まだ、俺たちは気づいていなかった。

ましてや、その出会いが、あんな大事件を引き起こすなんてことは。

 

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