はじめに：
このお話は、少女義経伝・弐の与一エンドＢを一度は見たことがあることを前提に
ネタバレを全く気にすることなく書いてあります。
ご了承ください。

 

---

 

九羅香達は日本で平和に暮らせる時代がやってきた。
与一も一時は俺と一緒に那須家の領地を預かって
弓を鍬に持ち替え開墾をやっていた。…一年やそこらは。

 

でも、与一には農業が向かなかったみたいだ。
もっと与一に向かなかったのは兄弟との領地争い。
ああいえばこういう言葉の揚げ足取りみたいな
ちまちました争いは与一の性格に全く合わなかった。
矢のように、武人らしく、まっすぐ一本気。これが与一だ。

 

そういうわけで、与一は領地もなにもかも捨てて大陸に渡った。
言うまでもなく俺も与一について大陸に渡った。
大陸…といっても、平和と官僚主義と娯楽に満たされた
宋や金には目もくれず俺たちが目指したのはモンゴル。

 

地平線の彼方まで広がる大平原は俺たちの目に新鮮にうつった。
そして、そこには、源平合戦さえお遊びに見えるような
血で血を洗う戦いが待ち受けていた。

 

「弁慶、こんな時、九羅香殿ならどうしたろうな？」
「そうだな。…九羅香は、困ってる奴は誰彼なしに助けてしまう。
　こういうときだって、やっぱり、自分の事なんて考えずに助けちゃうんじゃないか」
「ふむ。弁慶もそう思うか。私もだ」
「それで、なんでそんなこと聞いたの？」
「私も、ちょっと、九羅香殿のまねごとがしたくなった」

 

こうして、俺たちは、モンゴルの中でも弱小な一部族のために
助っ人として戦いに参加することになった。
与一は…ああ、もちろん日本語なんて出来るわけないから
みんなあだ名で呼ばれるようになった。
与一はそのまっすぐな性格と弓の名人だってこととで
「矢」というあだ名で呼ばれるようになった。
あだ名がつくことで、ちょっと仲間になれたような、そんな気がする。

 

が、それからの快進撃は俺たちですら驚くほどだった。
私利を追わず戦利品を公正に〜平均してって意味じゃないよ〜分配する
与一の所には、次々と優秀な戦士が集まってきたんだ。
戦のやり方を九羅香や静さんに鍛えられてる俺たちに
自分の足のように馬を使えるモンゴルの戦士は天下無敵。

 

こうして、俺たちは、ついに今日。
モンゴル民族の覇権を賭けた最終決戦に勝利。
ついに、モンゴルは統一の日を迎えたんだ。

 

「・・・・やっと、ここまで来たな」
「ああ・・・本当に、ここまでいろんな事があったな」
「ふっ。弁慶、後ろを振り返るようになったのか？」
「与一はそういうことを考えないの？」
「モンゴルを統一してもまだ先は長い。
　戦のない世の中が来たわけではないぞ」
「そりゃ仕方ないよ。世界は広いんだから」
「そうだ。世界は広い…では、この世界全部から戦を無くしてみようではないか」
「どうやって？」
「使者を送って話しをしてみればよい。
　互いに相争えば我が騎馬軍団が攻め寄せてくると分かれば
　内訌など起こす余裕もあるまい。
　そして、我々が求めるのは自由な大地だけなのだから」
「・・・それで戦が無くなるといいな」
「日本では、無くなったぞ」
「ああ、・・・日本ではな」
「どうした、浮かない顔をしているな」
「いや、俺の知っている歴史だと・・・」
「おまえの知っている歴史は九羅香殿や私が男であるような歴史ではないか。
　歴史とはあるものではない。血と汗で切り開く物だ」
「・・・・与一は、強いな」
「強くはない」
「え？」
「弁慶。おまえがいるから強くなれるのだ」
「俺は与一のためにここにいる。そういってくれるとうれしいよ。
　で、一つ聞いていいか？」
「なんだ？」
「どうして、戦勝祝いに白旗を９本立てたんだ？」
「白旗は源氏の象徴。それが９本」
「…ああ、九羅香のためか」
「そうだ。九羅香殿を忘れないためにな。
　私はこの草原の長となった。
　それでも、私は九羅香殿と共に戦った仲間のことは決して忘れないぞ」
「俺も…忘れたことはないよ。静さんとは、いつか出会う事があるかもしれないな」
「そうだな・・・」
「どうした弁慶」
「いや、ふと思ったんだけど、せっかくモンゴルに平和が来たんだからさ。
　いろんな所を旅してまわろうよ。…俺たちの部族みんなで」
「いい考えだな。だが、どんな旅をするつもりだ」
「いろんな所の果物を差がしていこうよ。メロンとか、ザクロとか、ナツメヤシとか」
「ああ、それもいいな。
　だがそろそろ戻ろう。…今の、我々の仲間が、待っている」
「ああ、そろそろ帰ろうか、与一」

 

俺たちは〜与一と俺とは、全軍を見渡せる丘の上から、勝利に沸き立つ
俺たちの仲間達、つまり、与一の軍団の所へと馬を走らせた。
これから俺たちの先に何があるのかは分からない。
俺の知ってる歴史だと、使者が殺されたり追い返されたりするたびに
使者の仇討ちに出かけていって、最後には世界帝国を作ることになる。
だけど…本当にそうなるかどうか、正直俺には分からない。
はっきり言えば、本当の歴史なんてどうでもよくなった。

 

俺にとっては、俺が生きている今だけが現実なのだし
俺にとって一番大切ものは…俺とくつわを並べて走っている
与一と共に生きる時間そのものなのだから。

 

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい