満員電車の中で、ＭＰ３プレイヤーを聞く一人の人物がいた

　別に珍しくもないが、その人物が聞いている内容は、珍しいといえるだろう

　その人物が聞いていたのは、こんな指令だったのだから

 

　『Ｐ−８、新しい仕事ができた

　　最近の貸金業の状況はよく把握しているものと思う

　　直ちにDICE系の業者の調査に当たり、DICE本体へ影響が発生する前に

　　必要な処置を講じて欲しい

　　なお、このメモリは自動的に消去される』

 

　pi…pi…Pi

 

　小さな電子音が、そのデータが消去されたことを告げると

　ＭＰ３プレイヤーは再び軽音楽を流し始めた

 

　−−−−−○−−−−−−−−−−−−−−−−−−−○−−−−−−

 

　「こらぁ、期日はとうに過ぎてるんやど、

　　いったい何時まで待たせるつもりじゃ」

　「・・はぁ・・・なにぶん、主人が戻らないことには

　　なんとも・・・」

　「主人が主人が言うて、もう夜逃げでもしたんじゃないか

　　ええか、わしら世界中に情報網もってるんやで

　　たとえ地の果てまで追っかけてでも必ず取り立ててやるけんのぉ」

 

　ここは、とある町のとある町工場

　一応事務室らしき場所にいるのは、

　見るからにちんぴら風の取り立て屋が二人

　応対しているのは、すでに老年に入った奥さん一人

　それにしてもこの事務室、見るからになんにもない

　だいたいが応接間が存在しないと言うだけでどういう工場か

　よくわかろうというものだ

　部屋の中にあるのは、座布団のない椅子にがたつくテーブル

　金目の物と言えば、スチール製の書類棚一つといった有様

 

　「で、何時返すんじゃ、え？

　　借りた物は返すのが常識じゃろうが」

　「は、はぁ・・・・いま、主人が金策に回ってると思うんですけど・・・」

　「思うじゃなかろうが、思うじゃ

　　わしらぁ別に保証人からもろうてもええんやど、ああ？わかってるか？

　　良心的なもんやろが、え？わざわざ期日を３日もまってやってるんぞ

　　よその取り立てやったら、とうの昔に保証人責めてるところじゃ

　　テレビ見てみい、テレビを、あ？

　　今日という今日はきっちりかえさないけんじゃろうが？

　　無担保融資ちゅうんは、信用で貸してるんじゃ、ああ、わかってるか？」

 

　まあ、確かに借りた物は返すのが世の中の決まり事ではある

　もっとも、むちゃくちゃな融資額を押しつけて

　断るならびた一文貸せないといって脅したこととか

　途中黙って融資限度額を引き上げたことなどは彼らの頭の中からは

　すぱっと抜け落ちているらしい

　彼らは回収担当者で、貸す方はまた別の担当者がやっているのだから

　知らないのが道理といえば道理である

 

　いわゆる、巨大組織における責任主体の分散というやつだ

　おかげで、個々の構成員は自らの良心をさほど痛めずにすむ

 

　なにはともあれ、無担保融資ぐらい恐ろしい物はないということの証左ではある

 

　「まあええわ、金ないんじゃったら、体で払え体で

　　世の中には生命保険っちゅう便利なもんがあるじゃろが、ああ？

　　うちの客は律儀やから、みんなそうやって返してるんやぞ？

　　わかってるか？」

　「は・・はぁ・・・・」

 

　（ばしゃーん）

 

　突然、バケツをひっくり返す音が事務所の中に響いた

 

　「・・・・・・・すまない、いま掃除する」

 

　どうやら、この人物がバケツをひっくり返した当人らしい

　だが、どうやら３人とも初めてみる人物であるようだ

　ともかく、この人物見るからに怪しい

　オレンジ色の髪に耳には四角いインカム状の物体を付けている

　着ている服はメイド服、履いているのは素足でサンダル

　なぜかモップを逆さに持っている

 

　なにより異様なのは、へっぴり腰にモップを構えているにもかかわらず

　彼女からは妙な威圧感が放たれているということだろう

 

　「なんじゃおまえ、人のズボンに水かけといて、挨拶はそれだけか」

　「すまなかった、いま拭こう」

 

　そういうと、彼女はモップでズボンをこする

　言うまでもなく、床を掃除したモップでこすれば、汚れるに決まっている

 

　「こんなぁ、人なめとんじゃなかろうな」

　「ほかにどういう風にとれる？」

 

　会話の最中も、モップでズボンをこするのをやめているわけではない

 

　「われ、ええ加減にせんと・・・」

　「・・・ええ加減にせんと、どうなるというのだ？」

 

　これで、取り立て屋はものもいえないぐらいに怒ったらしい

　いきなり椅子から飛び上がると、妙な侵入者の胸ぐらをつかもうとする

　・・・・・つかもうと、したのだ、掴めたわけではない

　彼女は、一歩下がりながら素早くモップを立てて彼の突進を迎え撃ったからだ

 

　ものの見事に、喉元へモップが突き刺さる

　次の瞬間、彼はもう一人の取り立て屋の方へ叩きつけられた

 

　「掃除のじゃまはしないでいただきたい」

　「なにが掃除じゃ、おい、こいつはなにもんだ？」

　「・・・・・・・・・・」

 

　そんなこと、おかみさんに聞いてもわかるわけがない

　一連の成り行きで一番驚いている人物なのだ

　だいたいが従業員は全員解雇せざるを得ない状況にまで

　追い込まれているこの工場で、どうして掃除人がいるのか？

　その時点でおかみさんの理解を超えている

 

　「まあええわ、そっちがその気ならこっちにも考えがあるんじゃ

　　暴力でわしら追い出す気なら、ケーサツ呼ぶぞこら

　　法律っちゅうんはわしらの味方じゃ、わかってるんか？え？

　　わしらにはええ弁護士ついてるんぞ

　　おまえらに弁護士雇えるんか？雇う金あったらとっとと借金かえさんかい」

　「・・・・ひどい誤解をしているようだな」

　「ああ？」

　「私は単なる試作機８号、いまは試験運転の最中だ」

　「こんなぁおちょくるのもたいがいにせえよ」

　「・・・・・・所詮は下っ端か」

 

　どこのコスプレが理解できる相手の方がよほど特殊であろう

　ただ、相手の力量を見抜く力がないから下っ端なのだとはいえる

 

　「われええかげんに・・・」

　「おまえ達にはプラナリアほどの学習能力もないのか？」

 

　そういわれても致し方あるまい

　またモップでのどを突かれたあげく叩き返されているのだ

　ここで大人しく引き下がるようなら多少は見所もあろうというものだ

　ただ、彼らはここまでのやりとりで完全に頭に血が上っていて

　冷静に考える余力をなくしてしまっていた

 

　一人目が殴ろう身構える

　だが、彼女は悠長に待つほどお人好しではない

　身構え終わったときには、モップで足をすくわれていた

　バランスをちょっと崩す

　その、ちょっとのうちに間合いを詰められて、そのまま落とされる

　人間そんなに簡単に気を失うものではない

　彼女が急所を心得ていればこその早業だ

 

　「今日は日が悪いようだな」

　「・・・・・・覚えとれよ」

　「やっぱり下っ端か」

 

　二人目はさすがに多少は年長者であった

　いったん引くのが得策と心得たらしい

 

　「またくるけんのぉ、そんときには金用意しとけ！」

 

　気を失った相棒を担いで、それでも捨てぜりふだけは忘れずに

　乗り付けてきた車へと退却する

　エンジンが掛かり、車が出ていく

 

　「？？？」

　おかみさんが気がつくと、謎の掃除人も姿を消していた

　だが、夢でも幻でもなかった証拠に

　モップとバケツ、そして床にこぼれた水はそのままだ

 

　「・・・やっぱり、私が掃除することになるのかねぇ」

 

　−−−−−○−−−−−−−−−−−−−−−−−−−○−−−−−

 

　ここは、先ほどの取り立て屋が勤める金融会社の支店

　先ほどの二人が支店長からさんざん油を絞られている最中だ

 

　「君たちは子供の使いかね

　　どうして警察を呼ばなかった

　　ちゃんと、取り立てのマニュアルを熟読したまえ」

　「はい・・・申し訳ありません」

　「君たち、分かっているんだろうね？

　　我が支店の営業成績は見ての通りだ」

 

　そういうと、支店長は壁に貼ってある営業成績一覧を指す

　ここ最近営業成績は伸び悩み、ノルマ達成は困難なことが見て取れる

 

　「いいかね、君たちの成績が悪いと、君たちも私も・・・わかってるね？

　　毎月人事異動の回覧はちゃんと回しているだろう？

　　ああいう負け犬になりたくなければ、根性据えてやりたまえ」

 

　ここ最近、毎月解雇を告げる人事異動の回覧が回っていた

　リストラ全盛のご時世、ここを首になったとして、次の仕事の当てなどない

　やるか、やられるか、自分か、客か・・・・どちらかが泣かねばならないのだ

　そして、皆、自分が泣くのはいやなのである

 

　「まあいい、明日は私が直接行くことにしよう

　　君たちも私のやり方を参考にして精進したまえ」

　「はい」

 

　まあ、この支店長も部下思いの良心的な上司の範疇に入るのだろう

　今日日は部下を怒鳴り回すだけで手前はごますりと讒言にいそしむ手合いも

　少なくないのだから・・・・・

 

　（どんがらがっしゃ〜ん）

 

　「・・・すまない、今掃除する」

　「なんだね君は？」

　「き、貴様いったいどこからわいて出た！」

　「知り合いかね？」

　「こ、こいつが先ほどお話ししたやつですよ、支店長」

　「すぐに警察を呼び給え」

　「はい！」

 

　すばやく部下が非常ベルを押す

　直ちに警報が支店内に鳴り響く・・・・はずだった

 

　・・・・１分以上経っても、なにも起きない

 

　「無駄だ・・・・それに、本当に警察に来て欲しいのか？」

　「どういう意味かね？」

　「パスワードはランダム・ナンバーを基準にしたようだな

　　セキュリティへの意識はなかなか立派だ」

　「どういう意味だ？」

　「ID Number：７５０１５８

　　password ：+7Y5BOD9&7XX」

 

　彼女がそう口にすると、支店長の机の上のコンピュータのディスプレイ上に

　この支店の裏帳簿と秘密の顧客データが流れ出す

 

　「！い、いったいなにをした？」

　「説明する義務はない」

 

　彼女は呆気にとられる一同を無視してコンピュータを操作すると

　全く別のネットワークへ接続する

 

　「馬鹿な、どうして・・・セキュリティは・・・FireWallは・・・」

　「ネットワークに繋がっているなら、どこへでも繋がる

　　流出されたくないデータはＨＤＤに置かないことだ」

 

　彼女が流れるようにキーボードを操作すると、あっという間に

　この支店の最重要機密データはどこへともなく流出していったのだった

 

　「協力に感謝する」

　「・・・・・君、君が行ったことは犯罪なのだよ？

　　黙って帰すと思っているのかね？」

　「二つとも間違っている

　　私が行ったことは犯罪ではない

　　そして、あなたは私を黙って帰すに決まっている」

　「私を甘く見ないでもらいたいね」

 

　彼女は、カード〜身分証明書らしいが〜を突きつける

 

　「このカードの内容を誰かに告げたなら、即座にあなたは『処分』される」

　「！・・・ま、まさか・・・」

　「今起きたことはすべて忘れろ、いいな」

　「は、はい・・・分かりました」

　「それでいい」

　「なんじゃテメエ、偉そうな口叩きやがって！」

　「よせ！このお方に逆らってはならん！これは私の命令だ！！！」

 

　もう支店長は顔面蒼白だ

　ここで、誰かが不用意な行動をとれば、

　この支店の関係者は皆『処分』されてしまうだろう

　彼女の言う『処分』を食らうぐらいなら、まだ解雇された方がましだ

 

　だが、３人が振り返ったとき、すでに彼女の姿はなかった

　彼女は次の行動へと移っていたのである

 

　−−−−−○−−−−−−−−−−−−−−−−−−○−−−−−

 

　ここは、都内のとある料亭

　DICE系金融機関のトップ連が酒を酌み交わして

　意志の疎通を図る場だ

　普段ならこの場は和やかな雰囲気の中で、誰かの破滅が確定する

　いわゆる宮廷的な密謀の場である

 

　だが、今はそこまで悠長なことが言っておれる状況にはない

　マスコミの攻勢は今のところ他社へ向かっているものの

　何時、なんとき、こちらへ向けられるか分かったものではないのだ

 

　「・・・・・それにしても、困ったことになりましたなぁ」

　「まったくだ、マスコミの連中もよほどネタに困っているのかねぇ

　　大体があんな天文学的低金利で中小企業へ貸し出せるわけないだろう

　　BIS規制もやかましくなってくるし、それこそ、あなたの所みたいな

　　健全なノンバンクにでもお貸ししませんとな」

　「そうでしょうとも、うちも法律に則って貸し出しているのに

　　・・・まったく、本当は月に４０％もらいたいぐらいですわ

　　年利４０％ならもうただみたいなものですよ」

　「まあ、預金は年利０．４％もないがね

　　それでもうちは確実に払い戻すからな」

　「うちがきちんと運用しているからだと言うことをお忘れなく」

　「分かっているとも」

　「それにしても、マスコミ対策はどうにかならないのですか？先生」

　「そうだな・・・マスコミは新しいニュースがあればそちらに向くだろう

　　一つ、事件でも起きてくれないかねぇ」

　「ミサイルでも降ってくるとか、ですかな？」

　「ははは、それはいい、国民の意識も高まって一石二鳥だ」

　「それにしても・・・なんですかな、あの園宗寺とか言う人物は」

　「まったく、若いエリートはアカデミックでいきませんなぁ」

　「まったくだ、しかし・・・手は打ってあるのだろう？」

　「もちろんですよ先生、今に女性問題で捕まえて見せます

　　なに、男ならそういう問題の一つや二つ、あるものですよ」

　「ははっ、英雄色を好む、かね」

 

　（がらっ）

 

　「新しいお酒をお持ちしました」

　「？なんだね君は」

 

　例によって現れたのは、オレンジの髪をして、モップを持ったメイドさんである

 

　「もう変装は必要なかったな」

 

　彼女の姿が一瞬光に包まれると、次の瞬間、いつものＰ−８がそこへ現れた

 

　「どうやら、君たちに任せていては手遅れになるようだ」

　「・・・・・だれかね？彼は？」

　「DICEの園宗寺支部長です、先生は初めてでしょうか？」

　「今はDICEの特別監査だ

　　さて、・・・君の会社の内容は先ほど調査させてもらった」

　「な、なにか不都合でも？」

　「いや、一般的な調査だが・・・・なにかねこれは？」

 

　そういうと、Ｐ−８は彼らに一枚のプリントを突きつける

　そのプリントには、彼らの裏帳簿がしっかりと載っている

 

　「あ、あの・・・・」

　「DICE本部の監査に虚偽報告か、度胸はほめてやる

　　だが、おまえ達の裏帳簿はすべて把握した

　　いずれ本部より適切な処分がなされるだろう

　　覚悟をしておくことだな

　　私を追い落とすために裏工作もやっていたようだが

　　それは不問にしておいてやろう」

　「・・・・・ふふふ・・・・もはやこれまで、か」

 

　さすがに、頭取ともなればDICE幹部の一員である

　彼もまたSSの護衛を受けることができる身分だ

 

　「夕！」

　「はいっ！」

 

　天井の羽目板が、わずかに動いたと思うと、園宗寺の頭上から

　忍者装束の男が刀を構えたまま振ってくる

 

　「・・・・・さすがに特別監査、荒事もこなす、か」

　「無意味な争いはさけろ」

　「断る！・・・・あの地獄から救い出してくれた人は・・・裏切れん」

　「夕！こいつは特別監査を騙る偽物だ！処分しろ！」

　「かしこまりました」

　「よせ、勝負は見えている！」

　「ほざくな！」

 

　だが、夕はいたずらに仕掛けるつもりはない

　直感が教えるのだ、まともにぶつかって勝てる相手ではないと

 

　「後は、任せたぞ」

 

　お偉いさんは夕を楯にして逃げ出しにかかる

 

　そしてまた、夕にチャンスがあるとすれば、それしかない

　お偉いさんを止めるために、奴が動いた瞬間、その瞬間なら隙ができるやも・・・

 

　Ｐ−８は動いた、彼らを逃がすつもりはない

　ここで外に出られれば、すべては水泡に帰す

　表沙汰にならないように彼らを黙らせるのが、Ｐ−８の第一任務だ

 

　夕も素人ではない、意識が彼らに向いた瞬間、捨て身で突きにかかる

　体ごと捨て身で飛びかかる相手を・・・刀を構えて飛びかかる相手を

　止めることができるものなどざらにいるものではない

 

　夕は確かに手応えを感じた

　まっすぐ、刀はＰ−８を貫いた

 

　「・・・・許せ」

 

　Ｐ−８の裏拳が夕を吹き飛ばした

　夕は壁に叩きつけられると、そのまま動かなくなる

　Ｐ−８は自らを貫いた刀を表情一つ変えずに引き抜くと、正眼に構えた

 

　「もはや、これ以上不問に付す訳にも行かなくなったな・・・・」

 

　Ｐ−８の目は、怒りというよりも、冷酷と言うよりも

　哀れみをたたえていた

　哀れみをたたえたまま、それでも、Ｐ−８は自分の仕事に忠実だった

 

　結局、Ｐ−８は一人で部屋を出、そして、ほかの誰一人、

　その部屋を出るものはなかった

　生きているものも、死んでいるものも、そう、誰一人・・・・

 

　−−−−−−○−−−−−−−−−−−−−−−−−○−−−−−−

 

　ここは、DICE日本支部の支部長室

　ひとまず日本支部の監査に当たっている園宗寺へＰ−８が

　報告している最中だ

 

　「・・・・そういうわけで、彼らの背任は明らかだな」

　「そうか、ご苦労」

　「ひとまずあそこはつぶしてしまうべきだ

　　経済的利益よりもむしろ社会的非難を浴びる損失の方が大きい」

　「債権はどう処分する？」

　「そのための公的資金だ」

　「・・・確かにな、うちの銀行も一つつぶすことにして

　　そこへ集中させればとれるものはとれるか」

 

　要するに、債権を全部公的資金で買い取らせようと言うわけだ

　どのみち取り立て不能の債権なのだから不良債権に決まっている

　回収に恐喝まがいの手段を使うぐらいなら、回収不能として

　処理してしまった方がよほど話が早い

　大体がローン会社の一つや二つ破綻したところでDICEは微動だにしない

　ローン会社からあげることのできる利益はとうの昔に回収済みである

　とどのつまり、高々一会社の社長と、DICEを統括するものとの立場の違いであった

　そして、それが理解できるかどうかが、彼らと、園宗寺の明暗を分けたともいえる

　艦隊司令は、一隻おとりにして勝利を掴むことのできる冷徹な思考が求められるのだ

 

　「ところで・・・SSの夕は・・・」

　「やはり、気になるのだな」

　「・・・・・当然だ、おまえにも分かってもらえると思っていたが」

　「分かっている」

 

　そういうと、Ｐ−８は、鞄の中から、一つのケースを取り出す

 

　「・・・・ここに・・・・」

　「？どういうことだ」

　「ＳＣ空間を使って、一時的に大きさを縮小したのだ

　　今は人形と同じ状態にある

　　彼に間違った情報を与えて固定したのだ

　　望むならいつでも元に戻せるが・・・・」

　「・・・・いや、今は眠らせてやってくれ

　　ほとぼりが冷めるまではな」

　「・・・そうだな・・・」

 

　そして、指令は、部下には温情を持たねばならない

　彼らの献身だけが自らの財産なのだから・・・・

 

 

　こうして、Ｐ−８の仕事は一つ終わった

　だが、DICEが再び統一体となるまで、彼らの仕事は終わらない

　特別監査Ｐ−８の仕事は、まだ始まったばかりなのだ

 

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おしまい

 

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