War to END WARS
【第七章】
〜For Whom The Bell Tolls〜
？あれ・・・・なんかあったのかな？
急に体に力が入らなくなっちゃった ・・・・
それに、目もかすむし・・・・・・・
確か、鉄砲を撃つような音がして、それから急に力が抜けたような
・・・もしかして、あたし、撃たれたのかな？
？？？誰か何か言ってるような気がするけど、なにを言ってるんだろう？？？
・・・・・あれ？意識まで遠くなってきちゃった・・・・・・・・
・・・・もしかして、あたし、ここで、死ぬのかな・・・・・・
オーギュメント使いが相手でなければ、SSになにができるのか、
その答えがそこにあった
２０ｍ離れた相手の急所めがけて拳銃を続けざまに３発発射、
うち２発が敵に当たっていたのだから大したものである
同時に佐伯の腕も証明された
３発撃ち返して１発は確実に相手の顔面をとらえていたのだから・・・
つまり、スコアは１対１だ
それと同時に、ＳＣ空間が展開される
展開したのはＰ−３、これ以上通常空間で戦うのは得策ではない
通常空間では戦闘訓練を積んだSSに対して勝ち目はない
だが、ＳＣ空間では優劣が逆転する
そう、SSが受けた戦闘訓練もＳＣ空間では全く役に立たないのだ
ＳＣ空間の中で、例によって簡易ディゾナントと化して襲いかかるSS達
ＳＣ空間でオーギュメント使いに対抗する唯一の手段ではある
だが、彼らがオーギュメント使いに対抗できる訳はなかった
ＳＣ空間での戦いとなれば、十夜達の方が遥かに経験を積んでいる
一方的な戦いで簡易ディゾナント達は狩りたてられていった
「どうやら、これで終わったみたい・・・」
Ｐ−３は気抜けしたように告げた
いや、本当に気抜けしていたのだろう
ＳＣ空間での戦いで、彼女は本来の実力をまるで発揮していなかった
「佐伯さん、名城は？」
十夜が問いかける
佐伯は、ＳＣ空間での戦いが終わるとすぐに名城の手当にかかっていた
だが、すぐにポケットからハンカチを取り出す
静かに横たえられた名城の顔に、佐伯の白いハンカチが広げられる
「おいおい、悪い冗談だぜ」
確かに、誠志郎ならこの手のたちの悪い冗談でもやりかねない
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
Ｐ−３は無言だった
ＳＣ空間を展開したその瞬間から、結末はわかっていた
ただ、わかっていることと、それが現実になることとは別のことである
「・・・・・佐伯さん？」
「嘘だろ？」
空木と十夜、二人の反応はごく自然なものだったろう
信じられない現実に対しては、まず事実の方を疑ってみるものだ
「一発は心臓を貫いている
間違いなく、即死だな」
佐伯はあくまで冷静だ
こんな光景ならいくらでも見てきた
あの日以来、友を失うのは当たり前のことになっていた
そう、戦場では当たり前のことだ
苦しまずに死ねるなら、まだましなのだ
遺体が回収できるだけ幸運な部類なのだ
だが、現代の日本では、まだましでもなければ
当たり前のことであるわけではない
最初に行動を起こしたのは、誠志郎だった
「・・・おい名城、冗談やっていいときと悪いときがあるぜ」
誠志郎が名城を抱え上げる
「こら、名城、返事しろよ、おい」
誠志郎が名城を揺する
死後硬直はまだ始まっていないようだ
揺すられるままに、
糸の切れた操り人形を揺すったときのように、
名城の体が揺れる
「・・・・・・・・・冗談が過ぎるぞ・・・こら、起きろ！」
だんだん誠志郎の揺すり方が荒っぽくなる
「よせ！柊！・・・・・静かに眠らせてやれ」
佐伯が誠志郎の肩に手を乗せる
「・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな・・なんで・・」
「なあ、頼むから返事してくれよ・・・おい・・・」
誠志郎は、物言わぬ名城を抱きしめて泣いていた
誠志郎は、ただ、ひたすら、泣き続けた
「・・・・・・・・・・・・・・」
十夜は、ただ、呆然としていた
あまりに非現実的な出来事だった
いや、現実だと受け入れることが出来ずにいた
自分では戦いを重ねてきていたつもりだった
実際、ＳＣ空間での戦いは数多く重ねていた
だが、ＳＣ空間での戦いと、現実の戦いとの違いを知っていたわけではない
現実の戦いでは、人が死ぬのだ
そんな単純な事実、その単純な事実に十夜は今まで気づいていなかった
十夜は、ただ現実の重みに打ち倒されていた
「・・・・・・・・・・・・・・」
空木もまた呆然としていた
もっとも空木は十夜と違って、人の死を知らないわけではない
「・・・・この子達を巻き込んじゃいけなかったのね」
人は皆、自分だけは大丈夫だと、そう信じるものなのだろう
危険が付き物なのは知っているはずだった
アインハルト事件・・・・・その結果命を落とした研究者は少なくない
アインハルト博士の死をきっかけに、自分が中心になって計画した作戦だった
死んでしまった同僚の家族が真相を知ったなら、
自分が人殺しとして非難されるかもしれない
いや、現実に非難されたこともある
友人が死ぬところも、目の前で見ている
だから、自分は冷静であることができると、そう、思っていた
それでも、彼女は呆然としていた、人があれほどあっけなく死んでしまうものだと、
人間がそこまではかない存在だったのだと、そう、思い知らされたから
『ごめんなさい、私が悪かったの、私が悪かったの、私が悪かったの、私が……』
Ｐ−３の思考は、一点に固着していた
自分が先頭を歩くべきだったのだ
自分が警戒していなければならなかったのだ
自分がねらわれるべきだったのだ
第一、存在波を認識してＳＣ空間を展開しさえすれば
それで何の危険もないはずだった
そのためにみんなと合流したはずだった
もう少し、いや、普段通りに警戒していれば、
そう、自分が無用な思いに捕らわれなければ、
こんなことにはなっていないはずだった
人間は死ねばそれっきり、でも、自分は、
ディゾナントの自分には代わりはいくらでもいる
だから、自分が犠牲になるべきだったのだ
そのために、自分はここにいるはずだった
それなのに、自分はまだ存在していて、そして、代わりに瞳さんが・・・・
『ごめんなさい、私が悪かったの、私が悪かったの、私が悪かったの、私が……』
「・・・そろそろいいだろう、行くぞ」
「佐伯さん！？」
「ここは戦場だ、まだ戦いは終わった訳じゃない」
「・・・・・・このまま、名城を一人にしておくのか？」
「もう一緒にいる必要はない」
「あんた・・」
佐伯は誠志郎に皆までいわせなかった
佐伯が拳で誠志郎を殴りつける
「甘えるな！・・・・・戦うっていうのは、こういう意味なんだ
分かるな？」
「・・・・・・・・・・・」
誠志郎は、黙って、バルバロスを持つ
決して佐伯に同意したわけではない
ただ反論できなかっただけである
目の前で大事な人を奪われること、それがどういうことなのか、彼女は知っている
「名城・・・・敵はとってやるからな」
誠志郎は何を吹っ切ろうとしていた
「そうね、Ｊ．Ｂを倒さない限り、終わらないわね」
空木にとって、これは自分の始めた戦争も同然だった
御子柴に協力しないと決めたのは、自分なのだ
そこからすべては始まったのだ
「・・・・・覚悟はできたか、みんな」
佐伯に迷いはなかった、戦場で無用の考えにとらわれる必要はない
為すべき仕事があり、戦うべき敵がいるだけだ
「、、あ、ああ・・・」
十夜は、自分の言葉が、虚ろに響くのを感じた
全く、こんな事が現実に起こるとは信じられない…
「Ｐ−３、カスミはどこにいるかわかるか？」
佐伯がＰ−３に問いかける
この言葉で、Ｐ−３は固着した考えから解き放たれた
だが、その次に起こることを、誰が予測しただろうか
「・・・・・・・みんな、みんな消えちゃえ！！！！！！！！」
「「「「Ｐ−３？！」」」」
Ｐ−３はＳＣ空間を展開すると、SS達・・・すでに全員気絶しているのだが・・・
彼らを、一人残らず、消去した
ＳＣ空間の中では、普通の人間は単なる情報の固まりとなってＳＣ空間を漂う
単なる情報を消し去るのにカレイドフェノムを発動する必要もない
ただ、デリートするだけだ
「オリジナルは、たぶんこの一つ下の階にいると思うの
あいつらほっとくとなに始めるかわからないから消去したよ
それに、危険だから、ここからはずっとＳＣ空間を展開したまま移動するね」
もう迷わない、これ以上、だれも犠牲にしない
みんなを・・・・十夜くんを守るためなら、私は、悪魔にでもなる
それに、それだけが、私のできる、瞳さんへの、たった一つの償いだから
Ｂ６フロア、このビルの真の最深部
ここは１フロアが１つの部屋になっていた
階段のそばに扉が１つあるだけ、その扉を開けると、
その向こうに、Ｊ．Ｂが待っていた
・・・・・もちろん、彼の新しい『おもちゃ』と共に
「やあ、みんな遅かったじゃないか、 いつまで待たせるつもりだったんだい？」
「Ｊ．Ｂ・・・今度こそ、決着をつけてやる」
「まあまあ、そう急ぐこともないだろ
せっかく感動の再会を果たしたというのに
・・・ん？一人足りないな、名城はどうした？」
「名城は、殺された」
「・・・・・そりゃどうもついてなかったねぇ
まあおまえらにとってはよかったじゃないか」
「・・・どういう意味だ？」
「よかったじゃないか、死んだのが自分じゃなくてな」
「！貴様…」
「名城が死んだから、おまえらが生き残れた、違うのか？」
「・・・・・・・」
確かに、その通りだろう
あのとき、自分たちもまた油断していた、だから、名城ではなく自分が階段に
向かって歩いていたかもしれない
そうすれば、死んでいるのは、名城ではなく、自分の方だ
「それはちがうよ」
「おや、Ｐ−３じゃないか、久しぶりだねぇ」
「できれば、会いたくなかったんだけどね」
「ほう、そりゃまた挨拶だねぇ・・で、先生は元気かい？」
「うん、もうすぐあなたより元気になると思うの」
「そりゃまたどうしてだ？」
「だって、あなたはここで消えるんだもの」
「やれやれご挨拶だねぇ、まあ、前会ったときからそうだったけどさ」
「そういうことだ、Ｊ．Ｂ、覚悟してもらおうか」
「まったく、少しはゆとりってものを持ったらどうだい？エンジェル・アイ」
「その名で私を呼ぶな！」
「別にどうだっていいだろ
それにしても学習するってことのない人たちだねぇ
今度もまた俺の希望通りに行動してくれたってのに」
「希望通りだと」
「・・・・・・・しかたないねぇ、せっかくだから説明させてもらおうか
俺がこのまやかしだらけの世界を破壊するつもりなのは知っているな」
「ああ、それは聞いたよ」
「十夜、そうなのか？」
「ああ・・・・」
「そうか、誠志郎はその場にいなかったな
まあ、俺はまやかしだらけのこの世界を破壊したい、そういうわけだ
俺はあれから考えたよ、なんでE.N.Dがおまえらに破れたのかってな
その結論は一つだった」
「どういうことだ？」
「ディゾナントは結局出来損ないだってことさ
作るなら、ディゾナントじゃなくて、オーギュメントを作らなきゃならなかった
それに気づいた俺は、今度はイデア研究の情報を
DICE本部に売り込んでやることにした
DICEってやつの内実なら御子柴をみてればよくわかるからねぇ
どこにでも欲深いやつはいるものさ
SSの幹部をたぶらかしてやれば、すぐに研究所を提供してくれたよ
あとはカスミを奪って新しいオーギュメントを
作成すればそれで終わりってわけさ」
「俺達の出番がないぜ」
「おやおや・・・先生は絶対にカスミを守ることは知っていたからねぇ
DICEにさらわれたとなれば、先生はDICEの方を攻撃するだろうよ
当然、おまえらもDICEと戦ってくれるって訳だ
逆にDICEは俺を守るために動いてくれる
そうすれば、俺は自由に行動できる、・・・誰も俺を監視する奴なんかいない
そういうわけさ、違うかい？」
「・・・・そんなことのために、名城を殺したのか」
「十夜、教えてやったろう、すべてはまやかしなんだ
他人を傷つけたなどと思い悩むな、しょせんは他人事なんだよ」
他人事？確かに自分は生きている
名城は死んでしまった
だが、本当に他人事なのか？じゃあ、俺のこの空虚な気持ちは何だ？
これもただの幻想だというのか？
「Ｊ．Ｂ、名城を返せ！」
「おいおい誠志郎、俺がさらったのはカスミなんだぜ、
どうして死んだ名城を返せるんだい？」
確かにその通りだ、名城は決して帰ってこない
なにがあろうと帰ってくるはずがない
・・・・・悲しいけど、夢なんかじゃないんだ
「おい十夜、なにぼんやりしてるんだ、カスミを取り戻すんだろ、おい！」
カスミを取り戻す・・・カスミだって、他人には違いない
それを取り戻す？どうして？仲間だから・・・仲間って、なんだ？
「Ｊ．Ｂ、あなた、どうしてこの世界を壊そうとするわけ？
なんの理由があって・・・」
「これは変な質問だねぇ、俺はこの世界を壊したいから壊す、
それで十分じゃないか？
俺はまやかしってやつが嫌いなんだよ
嫌いなものは壊してしまうのが一番じゃないか？」
壊したいから、壊す？？？
俺達の街を、俺達の仲間を、それだけの理由で奪おうっていうのか？
「Ｊ．Ｂ、あなたにだって、大切なものはあるんじゃないの？
それを奪われる痛みが、どうしてわからないの？」
「Ｐ−３、大切なものなんてなにもないんだよ
すべてはおまえと一緒、ただのまやかし、なんにもないのさ・・・・・・
俺はなにもないものをなにもない状態に戻す、ただそれだけなんだ」
Ｐ−３・・・確かに、彼女はディゾナントだ
ディゾナントには違いないけど・・・でも・・・
！…やっとわかった、そうだ、こんな単純なことだったんだ
「Ｊ．Ｂ・・・・・名城を返せ」
「おいおい、名城は死んだんだろ？十夜までどうかしたのか？」
「カスミを返せ！名城を返せ！佐伯さんの恋人を返せ！空木さんの・・」
「おいおい十夜、おまえ正気なのか？」
正気かって？もちろん正気だ、今までの中で、一番正気だとも
今までの俺がどうかしていたんだ
こんな事に気づかなかった俺の方が
「Ｊ．Ｂ、おまえは間違っている」
「間違っている？なにが間違ってるっていいたいんだ？十夜」
「仲間をなくすって言うのは、自分をなくすことなんだ、Ｊ．Ｂ」
「十夜、教えてやったろう？友情も、恋愛も、金も、権力も
みんな虚ろなんだ、まやかしなんだ、十夜・・・そんなものに惑わされるな」
「Ｊ．Ｂ…みんなまやかしなら、
そのまやかしに掛かっている俺は、一体、なんなんだ？
俺自身ってのは、おまえの言うまやかしより立派な存在なのか？
やっと分かったんだよ、おまえがなにを間違えてるかが…
仲間って言うのは、みんな、俺の一部なんだ・・いやそうじゃない
仲間が俺自身なんだよ・・・やっと分かったんだ」
「・・・やれやれ、おまえが形而上学者だとはおもわなかったねぇ
どうやらおまえ達は救いがないみたいだな」
「救いがないのはおまえの方だ、Ｊ．Ｂ」
Ｊ．Ｂは、もう答えなかった
答える替わりに、傍らに用意した巨大なオーギュメントを起動する
コアブレインには、カスミ・アインハルトのオリジナル
決戦の時である
つづく