New War to END WARS
World in Flames
【終章】
〜Legend Begins〜
『バグダッドより中継です。
本日、イラク西部で発生した巨大爆発の破壊力は推定６０〜７０メガトン。
各国政府は某国が大気中核実験を実施したとして某国を非難しております。
一方の某国はテロリストの秘密基地が存在していた証拠があるとして
現地に調査団を派遣し…』
ここは、DICEの総帥、Old Eagleの邸宅である。
P-8と、真端さん、そして、館の主、Old Eagleの３人が
日当たりの良い書斎で善後策を協議していた。
「…オリジナルから連絡があった。
すべて、終わったようだ」
「無事に帰ってくるのかね」
「少なくとも、オリジナルは無事だ。
DICEのSSを直ちに現地に向かわせた。
明日には日本に帰還するだろう」
「６５メガトンの核爆発で決着をつけるとは
また大胆なことをしたものですね」
「オリジナルも、あきれていた」
「いかなDICEといえども、今回ばかりはなかったことにするわけにいかんな。
ただでさえ死者が多すぎる。一個師団が壊滅してしまったな」
「放置していたという意味では、我々はみな同罪だ」
「P-8くん。だが、君が行っても、仕方がなかったのだろう」
「その通りだ。必要な犠牲ではあった」
「必要な犠牲、か。必要な犠牲という言葉で、一体いくらの人を殺してきたろうね」
「あなたらしくもない」
「…年をとったのかもしれないな」
「まだ老け込むには早いでしょう」
「善後策については、オリジナルに決断してもらうほかあるまい」
「私では、力不足かね」
「そういう意味でもないが、そろそろ、オリジナルも、自分の仕事に戻ってもらわねばな」
「ごまかしきれるような破壊でもないな」
「正直は最善の計略という」
「どういうことかね？」
「あの程度の爆発だけなら、私にも出来る。
ひとつ、実演して見せようと思った」
「それに意味があるのかね？」
「…もはや、イデア理論研究はDICEの独占物ではない。
カスミがいて、立香がいて、カナがいて、由佳里が現れた。
探せばさらに多くの能力者が見つかるだろう。
能力者、完成されたディゾナント、第三世代オーギュメント…
もはや、イデア理論による兵器は、核兵器以上に危険だ。
この管理は、DICEだけで出来るようなものでは、ない」
「君でも無理かね」
「無理だ。…私でも、地球上をくまなく調査するというわけにはいかない」
「…それで、どうするつりかね」
「Ideas for peace」
「？」
「万人のためのイデア理論の成果を見せる他あるまい」
「それで、公開実験か。だが、君を量産するわけにもいかないのだろう」
「ひとつ、先生が余業で研究していたことがある。
その技術だけでも、世界を変えるには十分だ」
「そんなすごい技術があるのかね？」
「技術的にはたいしたことではない。
ただ、十分な出力を得る方法が見あたらなかっただけだ」
「それも技術の内ですよ」
「先生の考えは、また別だったようだ」
「ふむ。…ひとまず、園宗寺くんが連絡可能な場所に戻ってくるまで待つとするか」
書斎の電話のベルが鳴る。
「私だ。…わかった、すこし待ってもらいなさい」
「大統領か」
「そうだが…要件はわかっているね」
「とりあえず、DICEでも状況を確認中、と答えるしかあるまい」
「…それで、納得するだろうか」
「納得するかどうかは問題ではない。我々が、嘘をついたかどうかが、問題だ」
「嘘ではないな。何が起きたのか、我々も把握はしていない」
「その通りだ」
「…そう答えるとしよう。P-8、君が電話に出たまえ」
「なぜだ？」
「…今この瞬間から、君が、総帥だ」
翌日。
十夜達は、日本の土を踏んだ。
すぐに、園宗寺邸へ全員が集合する。
十夜、カスミ、霰、由佳里、洋平ぱぱ、名城、誠志郎
本来の持ち主である園宗寺に忍の遠征組と
先生、P-4,P-6に理子ちゃんと立香の居残り組。
第三世代オーギュメントの一部にされていた
完成されたディゾナント、マナとシルフィ。
そして、…無言の帰還、Holy Grailとなった、P−３が。
「…申し訳ない。P-3の事については、お詫びのしようがない」
「園宗寺さんの…責任ではありません。
私が、…私に、すべての責任があるはずです。
カスミ…結局、カスミが全部正しかったのだな…」
「ううん、お父さん。P-3は、私をかばったの。
私が…私のことを誰よりわかってたから…」
「カスミ…」
「…不自然な破壊ですね…」
「P-4?どうしたの」
「P-6…あなたになら、わかるはずです…」
「うん…うん。…わかるわ。意図的に過負荷を発生させたとしか思えない
イデア情報の欠損がおきてる。
オリジナルがイデア情報の欠損を埋め合わせてくれれば
修復できるかもしれないですね」
「うん。そういうことならかまわない。…きっと、十夜くんにとっても
それが一番いいことだから…」
「それは違うよ、カスミ」
「瞳さん？」
「…あの…さ。今の私って、P-5と、オリジナルの名城の融合体でしょ。
融合体になって、始めて、わかったんだけど、融合体って
名城でもなければ、P-5でもない。まったく新しい何かなんだよ。
イデア情報の欠落を補ってP-3を修復したって、それはもう
P-3じゃない。P-3の姿をした、別の誰かを作るだけ。
そんなこと、P-3は望んでないよ」
「俺は、カスミに賛成するぜ。
どんなになろうと、どんな存在だろうと、俺にとって名城は名城だ」
「柊ぃ。柊って、私の体だけが目当てだったのね」
「妙ないいかたするなよ…」
「…カナ…」
「マナ。もう一体何回目だよ。
カナの残存するイデア情報は、全部、マナが引き継いだでしょう。
今は、マナが…マナの中に、カナ＝ゴールドスミスが、生きてるんだよ。
何回も言わせないでよ。…マナが生きることが、カナが生き続けるってことだよ。
…カナの分も、幸せにならなきゃ、ね」
「…シルフィ…それは、ごまかしです…」
「今度のことで、死んでしまったのは、カナだけじゃないよ。
不条理な死でさえ、みんな平等に降りかかったんだよ」
「先輩、先輩は、大丈夫でした？」
「うん。私は大丈夫。だけどごめんね立香。立香のオーギュメントは壊しちゃった」
「ううん。それはいいんです。私のオーギュメントが先輩のために役だったなら…
…私は、それだけで」
「ありがと立香。またもっとすごいオーギュメントつくってプレゼントするね」
「はい。楽しみにしてます」
「由佳里。おまえには、P-3を戻すことは、出来ないのか？」
「………カスミおねえちゃんは、由佳里を助けてくれたから…
カスミおねえちゃんが力になってくれたみたいに、私も、カスミおねえちゃんの
カスミおねえちゃんの力になってあげたい。
だけど………だけど………私はまだ子供だからわからないけど
カスミおねえちゃんも、P-3おねえちゃんも、正しいような気がするよ。
だけど、カスミおねえちゃんの言うことと、P-3おねえちゃんの願いとは
全然重なり合わないの。…お父さん。私は、どうしたらいいのかわからないよ」
「どんな姿をしていても、か。
忍、おまえはどう思う」
「俺にとっても、園宗寺さんは、どんなになっても、園宗寺さんです」
「P-8も、おまえにとって、私か？」
「いえ、それは違いますけど…」
「…カスミ、P-3が俺に言った言葉は、聞いてたか？」
「ううん、十夜くん。それ、どういうこと？」
「…P-3は、俺に、『カスミは大切な友達か？』って聞いた」
「うん」
「俺が『大切な友達だ』って答えたら、P-3は『どんなことでも力になってあげて』て…」
「…おい十夜。葬式みたいな顔をするなよ。
もし、おまえが望むんだったら、みんなP-3を元にもどすために力になってくれるぜ」
「……俺は…」
「十夜くん？」
「俺は、どうしていいのかわからない。
俺は…俺のためにP-3を苦しめたくはないんだ」
「？」
「…俺は、昔、P-3に言われて…カスミとP-3と、どっちを選ぶか聞かれて…
はっきり、P-3を選んだんだ。
俺は、それが間違ってたとは、思ってない」
「なら、答えははっきりとしてるじゃないか」
「最後まで聞けよ誠志郎。
俺は…それで、はっきり答えは出てるとおもってた。
P-3が、この…Holy Grailに変わり果てたときには
なんとか、元に戻す方法はないかって、それだけ考えてた」
「………」
「…だけど…ずっと、ずっと俺の心の中で、P-3の言葉が響いてる。
『オリジナルはもう苦しまなくていいんだよ』って言葉が消えないんだ」
「…十夜くん。私のことだったら、気にしなくていいから
十夜くんのいいように、してあげて。
P-3だって、十夜くんの負担になるようなことは、したくないって思ってるよ。
だから、十夜くんは、自分の思い通りにすれば、いいよ」
「………なあ、カスミ。
いままで、カスミは、ずっと、苦しんでたのか？
いや、あのとき…由佳里ちゃんと一緒にやろうって言ったあのとき
カスミは、本当に、死ぬつもりだったのか？」
「！…ううん、そんなこと……ないよ」
「カスミおねえちゃん。嘘ついちゃ、だめだよ」
「由佳里ちゃん」
「カスミは嘘がつけないからね」
「オリジナル…私は全然信じてなかったけど、今の顔を見たら、いやでも信じるしか、ないよ」
「…つり下げられた男の逆位置…偽りを求めようとしているのかしら？カスミさん…」
「……だけど、だからって、P-3を、私が犠牲にしていいことには、ならない…」
「…カスミ…一番にあやまらなければならないのは、私なのだろうな…」
「それを言い出したら、先生のオリジナル、アインハルト博士がいなければいい、ってことになりますよ。
先生、過去にしがみつくのは、未来を切り開く力がないからだっておっしゃっていたのは
先生ご自身ではないですか」
「…空木くん。だからといって、私には、もう、何を言っていいのかわからない」
「言うべき事がなければ、黙っていればいい」
「忍？」
「俺は、ずっと、ただ園宗寺さんのそばにいた。
そして、園宗寺さんが求める限り、おれはずっとそこにいる。
俺にはそれで十分だ。俺には何も言うべき事はない。だから
何も言わずに、そこにいる」
「…忍。言いたいことがあれば、言っていい」
「園宗寺さん…今は、十夜の話を、しませんか」
「…ああ、それが、忍の言いたいことなのだな」
「……俺がP-3を選んだときには、俺が手をさしのべなければ
P-3が消え去りそうな気がした。
カスミ、今のカスミの姿は、あのときのP-3に重なる」
「………あの、さ、オリジナル」
「P-7」
「泣いていいよ」
「え？」
「泣いていいよ。無理して笑顔なんて、作らなくて、いいよ。
無理に感情なんて押し殺さなくていいよ。
ずっと、ずっと、ずーっと、オリジナルは、泣かないで来たんだから。
ずっと、ずっと、ずーっと、オリジナルは、P-3とトーヤくんの
幸せを見続けてきたんだから。
今でも、トーヤくんは、P-3のものなんだから…
トーヤくんの瞳に映ってるのは、オリジナルを見ていても
やっぱりP-3なんだから…泣いて、いいよ。
自分の感情に、素直になって、いいんだよ…」
「P-7おねえちゃん。カスミおねえちゃん、こんなみんなのいる所じゃ
泣いたりできないと思う」
「あは、そうかもね。ごめん、気が利かなかった」
「…十夜くん。悲観的な物の言い方をしてしまったが
イデア情報の欠落を補うというのは、義手や義足をつくるようなものだ。
自分の体のように動かないかもしれないが、それでも、自分が自分でなくなる、ということではない。
P-5と名城さんのような場合とは、違う」
「…カスミ…俺は、今、カスミの力には、なれないのか？
いまここに、こんなそばにいて、俺は、カスミの力には、なれないか？」
「…ごめん、十夜くん。１人にしてくれないかな。
ちょっと、自分の部屋に行ってくる」
「オリジナル、自殺は不許可だよ」
「うん…あのね、それと」
「なに？」
「１人じゃなくて、P-3と、二人きりになりたいから…」
「わかった、P-3と二人きりで、話をしてくるといいよ」
「ありがとう…十夜くん」
十夜は、ずっと握りしめていたオーギュメント…Holy Grailを、カスミに手渡した。
カスミは、黙って自分の部屋へと消えた。
「念のために、私がオリジナルの様子を探ってみてるね」
「P-7、頼む」
「ふふ、先生も、カスミさんのことが気に掛かるんですね」
「当然だとも。カスミも、私の娘だ。たとえオリジナルの娘だとしても
やっぱり、私の娘なんだよ」
「あらあら、最初会ったときには、オリジナルの娘であって私の娘ではない
なんておっしゃってましたのに」
「…それが私の過ちだったんだよ」
ここは、園宗寺邸の一室、カスミの部屋だ。
カスミは、カーテンを閉め切り、電気もつけない部屋の中で
テーブルの上に飾ったHoly Grail、P-3と向き合っている。
「P-3…私があなたと最初に出会ったのは、渋谷でふと見かけたときだったよね」
「…」
「二度目に出会ったのは、もう、お父さんと一緒にだったかな。
あれからずっと、二人一緒に過ごしてきたよね。
高校も一緒、大学も一緒、住む家も一緒。
本当の双子みたいに、ずっと過ごしてきた…。
お父さんが死んで、世界中を旅しているおばさんの家に引き取られたとき
私はひとりぼっちだったのに、P-3が私にお父さんやP-4、P-6,P-7、P-8を巡り合わせてくれた。
十夜くんや誠志郎くんや名城さんみたいな、友達はいたけど、だけど…
家族をくれたのは、P-3だった。
もしかしたら、P-3は、私がP-3を助けたって思ってるかもしれないけど
それ以上に、P-3は、私を助けてくれたんだよ」
「……」
「だから、P-3には、幸せになって欲しかった。
十夜くんがP-3を選んだときには、自分でも信じられないぐらい、うれしかった。
P-3…あなたが楽しいとき、私も楽しかったし、あなたが悲しいとき、私も悲しかった。
それなのに…P-3,何か答えてよ。ねえ、笑ってよ。もし、私が大切だっていうんなら。
ねえ…」
…私も、カスミ＝アインハルトだから…
？
…だから、カスミが幸せなとき、私も幸せなんだよ…
？…
「P-3！生きてるんでしょ。本当は、元に戻れるんでしょ？
ねえ、だったら、元に戻ってよ。これからも一緒にいようよ。ねえ、P-3ってば」
…いままでも…いまでも…これからも…ずっと…一緒…
「P-3?どういうこと？答えて、P-3」
……………………
それから数日後。
園宗寺さんは、霧生をつれてアメリカに帰った。
直後の発表は世界中を仰天させた。
俺たちにとっては、もう当たり前の存在になっていた
完成されたディゾナント、P-8が、破壊力のデモンストレーションをやってみせたんだ。
某国の核実験場のど真ん中で、２０メガトンの破壊力を発揮してみせた。
イラクでの核爆発も、P-8の実験だと言うためだ。
おかげで、一応俺たちは、免責ってことになったようだ。
P-8でも、先生にとっての、最終兵器だったのだから間違いではない。
マナとシルフィ、そして由佳里ちゃんに立香は、いつも通り藍仙高校に通っている。
いや、藍仙高校がなくなったわけじゃないんだから、当然だけど。
お台場大学は、復旧工事がまだ終わらない。
あんな大事件があった後じゃ無理はない。
誠志郎と名城の奴も、別段変わったようには見えない。
誠志郎の奴も就職したし、そろそろ俺も結婚のご祝儀の貯金でも
始めなければ行けないのかな、と思ったりする。
P-7達も、あいかわらずだ。あんな事件があったからといって
何かが変わるわけではない。
たったひとつ、P-3の不在をのぞけば、だけど。
そのことについては、みんな、何かを隠してるような気もする。
そしてある日、俺は、カスミに呼ばれて、渋谷の喫茶店に行った。
「十夜くん、待った？」
「いや、俺も今来たところだけど、どうしたんだ？」
「…十夜くんが、P-3に出会ったのは、ここだったよね」
「ああ、そうだけど、それが？」
「…あのね。お父さんは、私がずっと持ってるようにって言ったんだけど
やっぱり、これは、十夜くんが持つべきものだと思うから、十夜くん、ずっと持っていて」
そういって、カスミが差し出したのは、なんとなくハンドヘルドコンピュータにも見える代物だ。
「これは？」
「…基本的には、携帯型情報端末。
見た目ほど重くないよ。大体、機械式の腕時計ぐらい。
十夜くんなら、長袖の下に入れることも、出来るんじゃないかな。
携帯電話としての機能もあるよ」
「…どうして、こんなものを？」
「…これが、P-3だよ。…もうすぐ、お父さんが、DICEの研究成果として
発表する予定の、K-unitの、オリジナルモデルに相当するもの」
「…P-3がK-unit?どういう意味なんだ、カスミ」
「………お父さんが余業で研究していた、新しいエネルギー発生装置、それがK-unit。
オーギュメントや、ディゾナントが、イデアからエネルギーを取り出すシステムを応用して
物質の質量を任意のエネルギーに転換できるようにした、夢の動力源」
「…そんなすごい物が、余業で開発されてたのか…」
「余業でするしか、なかったって。エネルギーを取り出すだけなら簡単でも
オーギュメントやディゾナントとして機能させるようなたぐいのエネルギーにしかならなくて
任意のエネルギー源にはならなかったから。
それを、きちんと制御してエネルギーとして取り出すには
…第三世代オーギュメントのように、カレイドフェノムを実空間で
発生させる事が出来るような、高度なコアブレインが必要だから…」
「…つまり、その…K-unitの原型になったのが、P-3ってことなのか？」
「うん。…先生の夢、イデア理論の平和利用…。
その最初の、間違いない成果が、こんな形で、現実になって…。
…いまから、P-３の子供達、孫達、曾孫達、玄孫たち…が
世界中を覆うようになるよ。
その、K-unitの、オリジナル。最初の最初のモデル…
…それが、これ、P-3」
「やっぱり、P-3なんだ」
「うん。P-3は、P-3だもの…」
「…結局、P-3は、元には、戻せなかったのか」
「……十夜くん。私が、こんなこと言っていいかどうかはわからない。
だから、答えは、十夜くん自身に出して欲しい。
そのために、私は、十夜くんがP-3と最初に出会った場所に来たの。
十夜くんには、正直に、答えないといけないとおもうから。
…イラクに行くとき、死ぬつもりだったっていうのは、本当のこと。
第三世代オーギュメントを使うことに、ずっと反対し続けたのも、そう。
由佳里ちゃんの力を私が受け止めたら、受けきれずに命をおとすだろうな、って
いうことは、空木効果の事をしってから、ずっとわかってた。
同じ能力者同士でも、私の方にずっと力が流れ込んできて
私が由佳里ちゃんの共鳴体になることは、知ってたよ。
…他の誰にも、それはわからないって思ってたけど、…P-3にだけは、隠せなかった。
だから、P-3は、こんな形で、答えを、出したんだね」
「…カスミ、それと、P-3が、…K-unitのオリジナルになることと、どういう関係があるんだ？」
「十夜くん。P-3も、私も、カスミ＝アインハルトなの。
カスミ＝アインハルトだから、だから…私も、十夜くんに
本当は同じ事を聞きたかった。
『P-3の代わりに、私を選んでくれる？』って。
だけど、そんなこと、あんな時には、言えなかった。
私がそんなわがままを言っちゃったら、それで全部が吹き飛んでしまう気がしたから。
私が、私が自分の気持ちを半分だけ、飲み込んで、十夜くんがP-3を選んでくれたら
十夜くんの代わりに、お父さん達…私の家族で私が満足したなら
それで、みんなが、幸せになれるって思ったから。
だから、私は、……ごめんなさい。
私が犠牲になれば、って思ってたことが、最後になって、P-3を追い詰めたの。
本当は、自分が選んだことなんだから、全部、前向きに考えなければ、いけなかったの。
…私の話は、これで全部。
あとは…十夜くんが、自分で考えて、自分で、決めて欲しいの」
「…カスミ。俺は、カスミの友達だ。どんなことがあろうと、何が起きようと
カスミが必要なときには、いつでも、どんなときでも、俺はカスミのそばにいるよ。
たぶん、今が、そのときじゃないかな…。
もし、カスミが１人で何かを背負うつもりなら、そんなことはしなくていい。
俺がかならず、一緒にいるから」
「…十夜くん…」
「カスミ、…ごめん、愛してる、なんて言えない。
だけど、…なんていっていいのかさえわからない」
「十夜くん……それで、十分。私には、それだけで十分だから…」
この日を境に、世界は変わった。
核融合すらしのぐ夢のエネルギー発生装置、K-unitの登場は
世界地図を完全に変えてしまった。
P-8という、圧倒的な武力と、K-unitという、無限のエネルギー源を支配する、世界企業DICEは
事実上、世界を征服してしまった。
ネコの額ほどの土地を殺し合いで争うより、K-unitの供給を受ける方が
より利益になるのだから、無理に殺し合いをすることもない。
無駄に殺し合いでも始めよう物なら、P-8どころかP-7が遊びに来るだろう。
…Ideas for Peace。原子力に出来なかったことを、K-unitがやってのけたってわけだ。
言うまでもないぐらいに残念なことだが、世界から戦争がなくなったわけではない。
しかし、少なくとも、昨日よりは、貧しい人が減り、今日よりは、明日の方が
よりよくなるだろうと、大抵の人が思えるような時代はそこまできた。
「…P-3。起動、ニュースチェックを」
「うん。トーヤくん」
鞄の中のP-3が〜携帯情報端末P-3が〜俺のために、ネット検索して
俺に必要な情報を集めてくれる。
「十夜くん、待った？」
「いや、カスミ、今来たばっかりだよ」
「十夜くん。P-3は？」
「…今ニュースチェック中だよ」
「…一緒にいこうか、P-3」
「うん、カスミさん。…トーヤくん。ニュースチェック、終了。
必要な情報を読み上げます」
「ありがとう、P-3」
ふと、回りを見回す。
今はまだ、P-3のような、高機能のK-unitを持ってる人はまずいない。
でも、すぐに、こういう光景が普通のものになるだろう。
世界中のあちこちで、新しいインテリジェントデバイス
P-3をオリジナルとする、K-unit達が
同じように情報を集めたり、自動車にエネルギーを供給したり、あるいは
飛行機を飛ばし、船を動かし、何かを作り出したり、するようになるだろう。
P-3の物語は、これで終わりではない。
たぶん、それは新しい伝説の始まり。
きっと、プロメテウスのように、人類に新しい火をもたらした
１人の…普通の人間から始まる、伝説の。