New War to END WARS
World in Flames
【第五章】
〜Ambush!〜
「私だ」
「おまえか、何か特殊な事でも起きたのか」
「起きた。例の研究所の襲撃を行った」
「彼女がいるかぎり、襲撃出来ないのではなかったのか？」
「彼女の不在を狙った」
「さすがだな。それで、首尾はどうだった」
「ほぼ予想通りだ。重要なものはすべて持ち去った後だな」
「それならば、襲撃する必要もなかったのではないか？」
「成果はあった。プルトニウムを１０ｋｇほど押収した」
「…すごいな」
「普通に計算して、原爆1発分にはなる。だが、あの弾頭に換算すれば
１０００発以上に相当する」
「威力の方も、たかだか校舎ひとつ破壊できない代物だな。
通常弾頭に毛が生えた程度だ」
「ＲＰＧで発射するために、あえて威力を殺してある弾頭だからだな。
私が入手したのは、完成品の方だ。
どの弾頭も、すべて、普通の核爆弾として起爆する」
「確かめたのか？」
「一発だけ、特別に某国の長官に頼んでな」
「…威力は？」
「全部同時に起爆したとして、普通の原爆と同じ威力だ」
「………それほどの破壊力を放棄して、去ったというのか」
「そうだ。だから、報告した」
「行き先はわかるか？」
「いや、まったく」
「そうか…」
「…奴の居所はわかるか？」
「それならわかる。彼女たちと一緒だ」
「場所は？」
「某国の方が把握している。…イラクだな」
「またやっかいな所へ逃げ込んだな」
「逃げ込んだか、もしくは、仕上げのつもりなのか」
「どういう意味だ」
「私にもわからん。あなたなら、あるいは、把握できるかもしれない」
「私は神様ではない」
「世界から戦争をなくすのだろう。いずれは、手をつけなければならない場所だ」
「ああ、そうだな」
「それに、瞬間転移出来る同士なら、距離には何の意味もない」
「私にはあてはまらないことだ」
「それは、その通りだ。それで、最終兵器は、いつ起動できる？」
「全く不明だ」
「時間を待つしか出来ないのか」
「そのようだな」
「いつ戻る？」
「先生やカスミと話をしてからだ。せめて、いつまで待てばいいのかを知りたい」
「わかった」
園宗寺は、本部にいるＰ−８から掛かってきた電話を切った。
彼〜サンクト・ペテルブルクの神童〜が研究所を引き払ってから
状況は間違いなく、ペースアップ している。
成田の空港に降り立ったとたんにこの電話だ。
たった、２，３日の間に、状況は大きく変わっているのだ。
これが何を意味するのだろう？
「園宗寺さん。どうかしましたか？」
「いや、なんでもない。忍、お台場大学の仮校舎へに向かう。
レンタカーを確保してくれ」
「よう園宗寺さん。ここでお別れなのか？」
「…たぶん、私たちと一緒になるとおもうの」
「そうそう。仮校舎に行くんだったら、私たちも送ってよ」
「…家に帰らなくていいのか？」
「じょぶじょぶ。連絡入れておけば問題ないって」
「…忍、マイクロバスを借りてくれ」
「わかりました」
さて、話は全く関係ないところへ変わる。
十夜達がロシア旅行をやっている最中のことだ。
「おっはよー、立香」
「おはようございます先輩」
「立香おねえちゃん。おはようございます」
「おはよう由佳里ちゃん」
「……おはよう…ございます…」
「おはようございます、マナさん」
「あー、私を最後にするなー」
「あ、すいませんシルフィさん、おはようございます」
「おはようみんな。…って、ここで合流したのは、立香となんだけどね」
「説明的な台詞ありがとシルフィ」
「マナさんとシルフィさんは、先輩の家から通うことになったんですよね」
「うん。そうだよ。立香も説明的台詞の引き出しありがとね」
「先輩、いちいちつっこまなくてもいいと思いますよ」
「だって、他に話すことなんてないんだもん」
「じゃあさあ、何か占ってもらったら？ほらマナ姉ぇ。誰のリクエストでも受けてあげてよ」
「うーん。じゃあ、いつ私が先輩に追いつけるか占ってください」
「………占い以前の……問題です……」
「あれ？やっぱり」
「占いって、未来に不安がある人が頼るのかな？やっぱり」
「未来って、誰でも不安になりませんか？」
「考えたって仕方ないことは、考えたって仕方ないよ（あは）」
「さすが先輩です。悟ってますね」
「ただの脳天気でしょ」
「そういうシルフィはどうなのかな」
「そりゃ、明日は明日の風が吹く！」
「それじゃ先輩と同じです」
「あはは、そうかも」
「…ところで、お姉ちゃん達、由佳里とずっと一緒に暮らすの？」
「……必要な期間は……」
「うーん。それも楽しいかな。由佳里ちゃんは、シルフィと一緒にいていい？」
「うん、いいよ」
「わー。ほんと由佳里ちゃんってかわいい」
「えへへ…」
「もちろん、彼氏とかいるでしょ」
「えー、まだいないよ」
「うそー。由佳里ちゃんぐらいかわいくって素直で成績がよくって
運動神経抜群だったら、誰もほっとかないんじゃない？」
「霰おねえちゃんの方が、運動神経抜群で成績がよくてかわいいよ」
「それは…やっぱり、女の子って、ちょっとは弱いところがあった方がいいかな」
「そういうものなのかな？よくわかんない」
「私もよくわかんない。マナが相談に乗るときには、時々そういう話をしてるけどね」
「そうなんだ」
「そーなんです」
「遭難しちゃだめだよ☆巡航巡航」
「ナンパしたら、遭難しますね、先輩」
「そうだね」
「あ、そだ、マナ、由佳里ちゃんのこと占ってみてよ」
「…では…一枚引いてください…」
「ねえ、マナおねえちゃん？」
「……なんでしょう……」
「これ、どのマークのを引いたらいいの？」
「どれでも気に入ったものを引いてください…」
「やっぱり、恋占いだったら、恋人を引いたらいいの？」
「………！」
「どうしたのマナ」
「カード当てぐらいだったら、私でも出来ますよ。何もそんなに驚かなくても」
「………でしたら………立香さん……一枚……引いて……みて……ください………」
「ええ、いいですよ。…んーと、恋人…恋人……あれ？全然わからないですね。
おかしいなあ。普通のカードだったら、10枚中9枚は感じられるのに」
「……吊された人の正位置ですね……」
「あらら、失敗」
「………何を求めてるのですか……」
「何って？」
「…吊された者……それは……知恵、あるいは、真理を求めることの象徴………」
「さすが占い師。すごいわ。…一体どうして見えなかったの？」
「シールドを掛けましたから……」
「シールドって？」
「立香。完成されたディゾナントの能力だよ。
能力者の完成されたディゾナントは、逆位相の存在波を発生させることで
存在を遮蔽することが出来るんだよ」
「それで、タロットカードのイデア情報は読み取れても、内容までは見えなかったんですね」
「そういうこと。マナって、遮蔽術なら私より上だよ」
「もちろん。私には通用しないけど」
「さすが先輩です。…って、そういうことなら、由佳里ちゃんって…能力者？」
「うん…霰おねえちゃんにもそういわれたよ。悪の秘密結社が
能力者を狙って手当たり次第に襲ってるから、霰おねえちゃんが
毎日いっしょにいてくれるの」
「先輩と一緒なら、世界で一番安全ですね」
「うん」
普通の登校風景である。とりあえず、学校まではＰ−７が送り迎え。
普段は、校内はＰ−３が対応することになっているが、しばらく
Ｐ−３がロシアに出かけているので、その分の仕事も…
「立香、じゃあ、あとお願い」
「はい、先輩、お任せください」
「私たちだって忘れないでね」
「シルフィやマナが、一番危ないんだよ☆」
「あ、そうだったかも」
「危機感、なんですね」
「立香だって狙われてたことがあるんでしょ」
「そのときには、先輩がついていてくれましたから」
「なら、私たちだって大丈夫だよ。きっと」
「そうだといいですね」
「ねえ、マナおねえちゃん。占いでわからないの？」
「……自分のことは……占えないんです……」
「そうなんだ」
「じゃ、またねみんな」
「はい、また帰りに遇いましょう先輩」
こうして、みんなそれぞれの教室へと移動する。
ここから始まるのは、いつもの日常だ。
十夜先生や、霞先生がお休みになっていることだけが、いつもと違うところ。
平穏にホームルームが始まり、1時間めの授業が始まり、そして二時間目の授業が…
「…お約束だな」
保健室で、何かを予測していたかのように、佐伯先生がつぶやく。
ずっと昔起きたことと全く同じ。ただひとつ違うのは、前回標的だったのは
カスミだが、今回はマナとシルフィだということだ。
だが、対応策の方は、あのときより進化している。
携帯電話のボタンを押せば、マナ達全員に警報が流れる。
あとは、事前の打ち合わせ通りに合流していけばいい。
「…頼むぞ」
佐伯先生は、胸ポケットから愛用のリボルバーを取り出す。
片手には、ラ・ピュセル。旧式のオーギュメントとはいえ、出力だけは
最新型にも負けないようにチューンナップしてある。
量産型オーギュメントと違い、自動危険回避機能はついていないが
その分は、佐伯自身の戦闘能力でカバーだ。
「な！」
だが、保健室を出たとたん、当初のもくろみが完全に外れたことを思い知った。
「オーギュメントを起動、ＳＣ空間を展開します」
佐伯先生の側が、オーギュメントを起動する。
そう、今回の襲撃を仕掛けた側もまた、以前の失敗の教訓を学んでいた。
今度は、足止めに、簡易ディゾナントをぶつけてきたのだ。
「人質をとって攻撃か。すこしは考えたな」
佐伯先生1人に、次々と襲いかかる生徒達…つまり、簡易ディゾナント。
だが、簡易ディゾナントの性能は、8年前の性能と同等に過ぎない。
とどのつまり、一撃で何体もが吹き飛ばされていくのだ。
だが数が全然違う。一度のカレイドフェノムで３〜５体消し飛ばしても
その間に10体、20体とふくれあがってくる。
敵の攻撃は、佐伯にまったく打撃を与えられないが
それでも片付けていかないわけにはいかない。
「完全な人海戦術か…あいつらは、無事か」
「いやっほーーー！」
「……シルフィ……うれしそうね……」
「だってだってだって、やっと誰にも気兼ねなく暴れられるんだもん。
いっちゃえいっちゃえやっちゃえやっちゃえ」
「…調子に乗りすぎです……」
「そんなこと言わずに、マナ姉ぇは背中をお願いね」
「……そうね……あなたのじゃまはしないわ……」
「ありがとマナ姉ぇ。さあ、いっくぞー！」
心配して損をした。簡易ディゾナントごとき、シルフィの敵ではないのだ。
「違うってばナレーター。攻めてきてるのは、簡易ディゾナントじゃないよ。
普通のディゾナント。間違えないで」
「……どういうことでしょう……」
「私に聞かれてもわからないよ。解説、説明しなさい」
そういう場合でもない。なぜなら、この襲撃はすべて、本命の攻撃のための
足止めに過ぎないからだ。
「本命？本命って、誰のこと？
これって、ガイアが私たちを連れ戻すためにやってることじゃないの？」
「………返事はないようですね…………」
「由佳里ちゃんは、私が必ず守ります！」
「…立香おねえちゃん…」
「大丈夫よ由佳里ちゃん。…すぐに、かならず、先輩が来てくれるから」
「うん…でも、気をつけて」
「行きます！」
ブルー・リボンを、昔なじみのチェーンに変形させて戦っているのは、桂立香だ。
立香達に襲いかかってきているのも、簡易ディゾナントではない、普通のディゾナントだ。
数は少ない、5体だけだ。
だが、戦闘能力の方は、逆に極めて高い。
シルフィが一山いくらで消し飛ばしているディゾナントなどとは全く違う。
「立香おねえちゃん」
「まだまだ全然平気」
「でも…」
「大丈夫だって由佳里ちゃん。…私は、絶対に、負けないから！…
…先輩直伝！プロミネンス・フレイム！」
一体のディゾナントが、強烈なカレイドフェノムで焼き払われた。
だが、残り4体が放つカレイドフェノムは、まともに食らってしまう。
「なんの、回復」
「…おねえちゃん…完全には回復しきってない…」
「…行動を加速する必要があるということですね」
ディゾナントは、一度のフェノムで壊滅させられないよう、散開する。
散開しながら守りを固めるべく補助フェノムを発生させる。
戦闘プログラムも、かなり高度なものが搭載されているようだ。
「関係ありません。…赤の力、見せてあげます！」
立香の速さが3倍になった。
これも、イデア理論の実証のひとつである。
「…次は、私の力を見せてあげますよ…喰らえ、チェーン乱れ撃ち！」
一撃で仕留められる相手は、なぶり者にするつもりでない限り
必ず一撃で仕留める。
霰が立香に教えたことのひとつである。
3倍の速さを持つ立香の攻撃には、さすがに強力なディゾナントといえども耐えきれない。
一撃で葬り去られた。
「どんなもんです」
「おねえちゃん。危ない！」
「きゃーっ！」
残り3体のディゾナントのフェノムが、立香を直撃する。
「うそっ！シールドがほとんど残ってない。回復・・・」
「おねーちゃーん！」
フェノムが再び立香を直撃する。
立香のオーギュメント…ブルー・リボンが、立香の接続を遮断する。
能力者立香は、ＳＣ空間を漂う不確定な波へと変化した。
たぶん、それでいいのだろう。ＳＣ空間で実体を保っていれば
さらなるフェノムによって、完全に消滅させられていたはずだ。
だが、危機にあるのは、由佳里ちゃんである。
Ｐ−７がいれば、この程度のディゾナント、一撃で3体とも撃破できるだろう。
だが、Ｐ−７は、まだここには現れていないのだ。
絶体絶命。
「…ごめん、霰おねえちゃん…」
ディゾナントが攻撃態勢に入る。
いくら能力者とはいえ、オーギュメントもない生身では
霰の手ほどきを受けた最強のオーギュメント使い、立香を
撃破するほどのディゾナントのフェノムに耐えられるとは思えない。
「…消えなさい。３人とも、消えてなくなりなさい」
由佳里ちゃんが、左手を振る。
何かを払いのけるかのように。
ＳＣ空間が解除された。
「…あ、ええと…一体…私…確か…」
「立香おねえちゃん。もう大丈夫だよ」
「あ、先輩が来てくれたんですね。よかった…」
「………」
立香の言うことも、あながち嘘とも言えなかった。
何か人影を感じる。
「ごめん、遅くなっちゃった。…あ、立香がもうやっつけちゃったんだね」
「先輩、助けてくださってありがとうございました。
すいません。ディゾナントなんかにやられてしまって…」
「え？私、今来たんだよ」
「え？でも、確かに、私はやられたはずなんですが…」
「…Ｐ−７おねえちゃん。一体、何があったの？」
「ごめん由佳里ちゃん☆普通のディゾナントに襲いかかられてたんだよ。
んーと、普通のっていうか、ものすごく強いディゾナントかな。
簡単にやっつけられるって思ってたら、結構手こずっちゃった。
そんなのが１００体もくるんだもん。やってられないよね☆」
「１００体…」
「おねえちゃん、これ…」
「…オーパス？……これ…完成されたディゾナントが作れるぐらいの出力があったんじゃない？
急いで先生に知らせなきゃ」
「あの、先輩」
「…なに？立香」
「それで、結局、私と由佳里ちゃんを助けてくださったのは、先輩なんですよね」
「・・・・・・もういいか。
完全に、敵にばれちゃったみたいだから、もう、秘密にしたって仕方ないよね。
立香を助けたのは、由佳里ちゃんだよ」
「え？でも、先輩…由佳里ちゃんは、オーギュメント使いじゃないはず…ですよね」
「うん。そうだよ。オーギュメントはまだ持ってない。…持たせてないよ」
「それなのに、由佳里ちゃんの力で？」
「私だってオーギュメントを持ってなくても、立香をＫＯした
ディゾナントを１００体撃破したよ」
「ええ、ですけど、先輩は、特別です」
「由佳里ちゃんも、特別なんだよ」
「カスミ先輩みたいに特別なんですか？」
「……ううん……由佳里ちゃんが、たったひとつの、希望なんだよ」