「お父さん、大丈夫かな」

「由佳里。大丈夫、これは訓練だ、落ちついていれば問題無い」

「そうそう、相手はたかが４．５世代の戦闘機２４機。

　能力者２人に歴戦の傭兵が加わるんだから、さくっとやっちゃおう。

　ほら、ニュータイプ相手ならリックドム１５機…」

「シルフィおねえちゃん、相手は２４機」

「だが、戦いは数じゃない、臆するな」

「うん…けど、今回はこのレーザーライフルでだけ攻撃が許されるんだよね」

「そうだな。ついでに、飛行ユニットのステルス機能は停止、逆に

　レーダーにはしっかりうつるように設定を切り替えてある」

「うん、ディゾナント相手だったら、ステルス機能なんて全くいみがないよね」

『こちら管制、インディ、クラウン、シルフィ、準備はいいか？』

「こちらインディだ。準備は出来ている」

「こちらクラウン、準備はOKだよ」

「こちらシルフィ、準備は万全、どっからでも掛かってきて」

『了解した、こちらの航空隊はすでに配置についている。

　では、訓練を開始する』

「らじゃ」

 

ここは、英国中部にある、航空隊の訓練空域である。

ヨーロッパを飲み込んだSC空間から現れるディゾナントとの戦い。

その戦いに参加できるのは、SC空間戦の能力と、飛行能力とを

兼ね備えた、デバイスレイン達のみ。

だが、参加できる、と、勝利できる、とはイコールではない。

戦いに参加し、勝利するためには、地道な訓練が欠かせない。

その訓練の一つとして、壬生パパに由佳里ちゃん、そしてシルフィの３人は

イギリス空軍のタイフーン２４機相手に、３人で戦おうとしていた。

デバイスレイン達が手に持っているのは、訓練用のレーザーガン。

弾丸の代わりにレーザーを発射して、当たったかどうかを判定するものだ。

 

「だけど、相手は実弾を使ってくるんだったよね」

「まあな、遠距離ミサイルもありだ」

「うわ、いけすかない。上下左右前後の６方向から４機ずつきたよ」

「ねえ、お父さん。もう始まってるんでしょ」

「ああ、その通りだが…」

「なら、この距離からまず下から来る４機を仕留める。

　Fire fire fire。次、Fire fire fire。次、Fire fire fire。よし、これで最後Fire fire fire」

『こちら管制、レーザーガンがコクピットを直撃したことを確認。

　F小隊は全機撃墜された、離脱しろ』

『こ、この距離でコクピットを正確に狙って射撃が命中？それも全機。

　管制、何かの間違いじゃないんですか？』

『ヘルメットを見てみろ、レーザーでマーキングされた後があるはずだ。

　ともかく、ここは管制に従え、直ちに帰還しろ』

『了解、F小隊、直ちに帰還します』

 

存在波で結びあわされた者同士であれば、距離は全く関係がない。

知られている限り最強の能力者壬生由佳里にとって、自分の存在を

認識した〜イデア理論によれば、それは同時に自分が相手を認識したということ〜

パイロットに対して、ピンポイントでの射撃を加えることは、なんでもないことなのだ。

 

「相手が分散しているうちに各個撃破する。まずは

　太陽方向から急降下してくる敵機だ」

「了解、残り１６機は壬生親子にまかせるよ」

「シルフィおねえちゃん、一人で大丈夫？」

「由佳里ちゃんばかりに、いいところをとられたりしませんって」

 

シルフィを先頭に、太陽に向かって３人は突進していく。

その速度、マッハ２．５。降下してくるタイフーンも、一撃離脱を

決めるつもりで降下してきているのだから、相対速度はマッハ４を超える。

 

「これが勝利のバレルロール！」

 

シルフィは、十分に接近してから廻りつつレーザーガンを撃ちまくる。

 

『A小隊、聞こえるか。全機撃墜判定がでた、直ちに帰投せよ』

『相対速度マッハ４越えで一機とすれ違っただけで全機撃破ですか？』

『そうだ、有効な射程で４機とも射撃が命中している』

『本部のコンピュータは壊れてないですかね』

『着陸してみればわかる。とにかく、帰投しろ』

『管制へ、了解』

 

太陽方向への急速上昇で、こんどは、壬生親子の方が、太陽方向からの

攻撃という有利な位置を占めることが出来た。

 

「これも訓練だ、ドッグファイトを挑んでみるか?」

「まだ相手の数が多いよ、一人４機で」

「そうだな。…一番接近してきてる相手に全力射撃を加えるか」

 

３人のデバイスレインが、アフターバーナーをふかしてまっすぐ

迫ってくるD小隊にめがけて、レーザーガンを連射する。

歴戦の傭兵に、能力者に、完成されたディゾナントの射撃だ。

戦闘機など射的場の的に過ぎない。

 

『D小隊、全機墜落判定』

『はいはい…って、なんでこっちの有効射程に入る前に

　相手はばかすか撃ってきて、しかもこっちは被撃墜なんです？』

『大きさが全然違う』

『…人間大の物に当てなきゃならないってことですね、了解』

 

D小隊もまた、撃墜認定をされて帰投していく。

これで残りは１２機。

 

「じゃあ、あとはブレークしてドッグファイトで」

「そうだな」

「O.K.誰が最初に片付けるか競争だよ」

「落とされない事の方が、落とすことより大事だ」

「壬生おじちゃんは、乗りが悪いなぁ」

 

そういいつつ、シルフィは大回りしながら降下していく。

 

「シルフィお姉ちゃんも考えてるんだね。

　私もドッグファイトなら相手の後ろに回り込まないと」

「由佳里、気をつけるんだよ」

「お父さんもね」

「ああ、俺も気をつける」

 

壬生親子もブレイクして、それぞれ大回りで降下を開始する。

そして、ブレイクしたのを確認したタイフーン部隊もまた

４機で一人を片付けるべく、編隊を組み直す。

お互い、考える事は同じようだ。

 

「ここで、一人に集中して、２機ずつで牽制してくるかと思ったんだけど

　残念。…ドッグファイトなら、後ろから撃たなきゃ…って

　ミサイル！ずるーい」

「シルフィお姉ちゃん、大丈夫?」

「じょぶじょぶ。けど、由佳里ちゃんは？」

「こっちは…とりあえずコクピットを背後からスナイプ！」

「これは出遅れたかなぁ？まずは急降下でミサイルを引きつけてから…

　ぐるっとループ」

『こちら管制、シルフィ、ミサイルをタイフーンにぶつけるな』

「え、それはなし？ずるーい、必殺技として考えたのに」

『ミサイルをこっちに誘導するつもりだった？』

「それぐらい常識…と、後ろに付いたよ」

『ダブルサンドイッチだ、これで照準…』

「こっちは揺れ動きながらでも一点を射撃し続けられるっ」

『こちら管制、今ので撃墜認定だ、帰投しろ』

「そして、こっちは前しか撃てないわけじゃない！」

 

そういうと、シルフィはレーザーガンを逆に構えて

サンドイッチではさんできた相手の正面を撃つ。

続いて、まったく同じパターンでもう２機を撃墜。

 

「よし、終わった、一番のり…」

「シルフィお姉ちゃん、手こずっちゃったね」

「ミサイルを大きく回避してた分、時間が掛かったようだな」

「えー、私が最後〜。みんな、ちゃんと後ろから撃った？」

「大きく相手がブレイクして、１対１のドッグファイトに

　持ち込もうとしたから、まとまってる内に次々撃ったんだよ」

「かわすのに大きく動く必要はない。近接信管が動作しない

　程度の距離で動いて、落ちついて射撃すれば済むことだ」

「あ−、普通の飛行機みたいに機動した分遅れちゃったんだ、残念」

「シルフィおねえちゃん、だけど、訓練としてはお姉ちゃんが正しかったかも」

「ありがと由佳里ちゃん、慰めてくれて」

「慰めてるわけじゃないさ」

『こちら管制、ご苦労さま。とりあえず基地に帰投してくれ』

「了解した」

「了解だよ」

「りょーかーい」

 

３人のデバイスレインは、イギリス南部へと移動していく。

 

『…２４機のタイフーンが、本当に１０分持ちませんでしたね』

『まったくだ。…しかも、これは相手がステルスモードを使ってない』

『ステルスモードって…レーダーにうつらないこともできるんですか？』

『俺の聞いている説明では、そうなっている』

『……彼らは、空戦の素人なんですよね』

『そうだな。傭兵としては歴戦の勇士も入っていると言うが、空戦は

　ずぶの素人のはずだ』

『そんな連中でも、あっさりと最新鋭戦闘機を撃破出来る…』

『…こんなものが量産された日には、世界の軍事バランスは一変しますね』

『一変する…いや、すでに一変してしまっている。

　あのヨーロッパを飲み込んだディゾナントに対抗出来るのは

　彼ら、デバイスレイン達だけだ』

『けど、あのディゾナント達を、DICEの連中は、作ることが、出来るんですよね』

『似たようなものはな』

『…K-unitに無茶な改造を加えようとした気持ちが、わかりますよ』

『そうか』

 

戦闘機乗りといえば、パイロットの中のパイロットの集まりである。

その彼らが操る最新鋭戦闘機ですら、デバイスレイン達にとっては

制限を加えねば、訓練にもならず撃破される対象でしかない。

 

その、彼らが全力を必要とする相手、それが、SC空間の中から

現れる、ディゾナント達である。

世界は、デバイスレインの戦いぶりに掛かっているのだ。

 

頭ではわかっていても、心では納得できないパイロット達であった。

 

 

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