Highway to the danger zone
【Check point B】
〜藍仙高校新聞部〜
「はい、恵くん、準備は出来てる？」
「準備は出来てるって橘さん、一体何の準備なんですか」
「取材よ取材。藍仙高校に取材に行くのよ」
「いきなり失踪事件について聞くつもりじゃないでしょうね」
「そのつもりだけど、何かまずい？」
「まずいなんてものじゃないですよ。部外者がいきなり聞き込みしたって
誰も何も話してくれるはずないじゃないですか」
「そっかな、じゃ、ワトソンくん、どういう調査をするべきだと思うかね」
「それは・・・ほら、向こうにも新聞部ぐらいあるでしょうから、交流しようとか……」
「それもなんか唐突な感じよね。何かむこうに交流するような話題あるの。
それこそ、失踪事件ぐらいしかないんじゃない？」
「そうでもないですよ、ほら」
「ん？ ホームページ？ 一体どこの？」
「ほら、藍仙高校の新聞部は自前のホームページを作ってるんですよ」
「ほんとだ、壁新聞なだけで、メールアドレスも電話番号も載ってないけど
確かにホームページを作ってる。えと、なになに、藍仙高校野球部一回戦突破おめでとう？
だめだめ、こんなんじゃ交流を呼びかけるにはよわすぎるわ……えと、犬を飼ってくれる人探してます
……どこも同じような悩みを抱えてるのね。まあ、それはいいとして……
……ん？ なに、この第二科学部って」
「第二科学部？ ああ、科学部とは別に新しい科学部が出来るみたいですね、顧問の先生が
DICEの研究員だったヘルマン・アインハルト先生だって書いてありますよ。けど
何をする部活なんだろう。そこは書いてないですね」
「……恵くん」
「はい？」
「これよ。謎の部活第二科学部。これの取材なら怪しまれずに済むわ。すぐに藍仙高校に
いけるように連絡をとって」
「すぐにって……これ、メールアドレスすら載ってないですけど」
「藍仙高校って、全寮制の学校じゃなかったわよね」
「ええ、確か品川にある普通科の高校のはずですけど……」
「なら、学校の総務を通して新聞部に連絡を取るのよ。早く」
「僕がやるんですか？」
「私は、取材の準備で忙しいの」
「はいはい、わかりました。連絡を取ればいいんですね」
橘さんにはかなわない。一度こうと決めたらてこでも動かないんだから。
仕方ない、此花高校の新聞部からってことで、向こうの新聞部とはなせるようにがんばってみよう。
僕は、藍仙高校に電話するために、用務員室へ向かった。
「よかったね恵くん、すぐに連絡が取れて」
「ええ、橘さんが真由美先生を通して向こうに連絡を入れてくれたおかげで
話が早く進みました」
「恵くんも、肝心なところで抜けてるんだから。
あたしは、学校の総務を通してって言ったでしょ」
「藍仙高校の総務だと思ったんですよ」
「こっちの総務も通さないとだめじゃない。まあ、ヘルマン・アインハルト先生について
真由美先生に取材するついでに連絡についても頼んでおいたんだけど」
「それで、ヘルマン・アインハルト先生って……」
「それは、会って話をすればわかるわよ。まずは新聞部に行かないと。
藍仙高校はここでよかったわよね」
「ええ、……まずは、事務室に行って面会の……」
「恵くん、なにやってるの、おいていくわよ」
「あ、待ってください橘さん……」
僕たちは、学校の事務室に行って名乗ってから、新聞部の部室の場所を教わった。
えと、新聞部はこっちでよかったかな……。
こんこん。
「すいません、こちら、此花学園の新聞部の部長、橘美亜子です。
藍仙高校の新聞部はこちらでよかったでしょうか」
「はい、開いてますよ。どうぞお入りください」
「では失礼します」
新聞部の部室は、普通にロッカーとテーブルのある、よくある部室だった。
けっして押し入れの中がポテチでいっぱいだったり、そもそも誰か寮生が
使っている部屋を兼用にしてる、ってわけではなさそうだった。
テーブルの上にはノートパソコンが一台、これでホームページを更新してるんだな、きっと。
そして、そこには部員……といっていいのだろうか、一人の女の子がいた。
「初めまして、橘さんに桃井さん、私が新聞部のただ一人の部員、如月青葉です。
手伝いは時々ほかの人にも頼むんですけど、基本は一人ですね。
で、今日はどういったご用件ですか」
「初めまして、如月さん」
「青葉って呼んでください。みんなそう呼びますから」
「じゃ、青葉さん。初めまして」
「あ、席どうぞ」
「ありがとうございます」
「新聞部の仕事は、一人でやってるんですか」
「ええ、情報集めなんかは、霰とか弥生とかにも頼むことがありますけど、紙面作りと
HPの更新は一人ですね。
HPを見て、こちらに来られたんですよね」
「ええ、ヘルマン・アインハルト先生が作られたっていう、第二科学部の記事をみて
この高校に興味を持ったんです」
「第二科学部ですか。あれは不思議な部活ですね」
「一体なにをする部なんですか」
「今のところ、わからないです。前は空木先生が担当されてたんですけど
空木先生がDICEの研究所の方にうつることになって、かわりにDICEの研究員だった
アインハルト先生がこっちに来られることになったんです。
そうだ、霰って、アインハルト先生の娘なんですよ」
「そうなんですか。……霰さんなら、第二科学部のことについて何かしってないでしょうか」
「それは私よりは詳しいと思いますよ。今のところ、第二科学部の唯一の部員ですから」
「えと、この学校って、唯一の部員っていうのが多いんですか？」
「えと、べつにそういうことはないです。ただ第二科学部も新聞部も、マイナーな部活ってだけですから」
「マイナーね。うちも恵くんが来るまでは一人で大変だったのよね」
「そういえば、橘さんの前にも、新聞部ってあったんですよね」
「あったわよ」
「先輩達はどうなったんですか？」
「あったけど、あたしが入る前に部員不足で解散になってたのよ。
あたしはジャーナリスト志望だから、どうしても新聞部活動がやりたくて
再建したってわけ」
「そうなんですか」
「私の場合は、たんに先輩がやめちゃったら部員が一人になっちゃったってぱたーんですけどね。
新聞部って、どうしても活動が地味になっちゃいますから」
「そこはスクープを見つけ出してなんとかするのよ。これからも一緒にがんばりましょう。
ジャーナリストの星目指して」
「そうですね、橘さんと話してると、なんだか元気が出てきます」
「ありがとう。よくそういわれるのよ。……それで、第二科学部の取材だけど、今からでも大丈夫かな」
「アインハルト先生の都合はわからないですけど、霰なら下校してなければつかまるとおもいます」
そういうと、如月さんは、携帯電話を取り出した。
「うん、私、いまどこ？ ゲームセンター？ どう調子よく勝ってる？
まだやる台を決めてないんだ。 じゃあさ、第二科学部の取材をしたいっていう人が来てるんだけど
つきあってくれない。え、いや、そんなんじゃないって、此花学園の新聞部の人が
うちのホームページを見て、第二科学部に興味を持ったんだって。
うん、うん、……面白いかどうかはわかんないよ。けど、助けると思って、お願い。
……うん、わかった、じゃあね」
「……だめだったんですか？」
「いえ、桃井さん、すぐにこっちに来てくれるそうです」
「そうなんだ、よかった」
その、霰という人物が、また橘さんみたいな台風娘だったりするんだけど、それはまた次のお話で。