Highway to the danger zone
【Check point A】
〜それは、一枚の新聞から始まった〜
「恵くん、ニュースよニュース、大ニュース」
「はいはい、それで、今度はどこの犬が行方不明になったんですか？」
「恵くん……わたしたちは、売れない探偵事務所じゃないのよ」
「出来れば、売れない探偵事務所みたいな、ちっちゃな事件を扱ってる方が良いよ」
「なにいってるのよ。巨大なスクープを見つけてこそ、新聞部の出番じゃないの」
「新聞部の出番より、身の安全ですよぉ。一体何回死にかけたことか」
僕の名前は、桃井 恵。元女子校の此花学園に転入した２年生だ。
ここ最近、一年の内に４回も殺人事件に巻き込まれたけど、普通の高校生のはずだ。
で、僕に話しかけているのが、橘さん。橘美亜子。同じ２年生で
此花学園の女子寮で暮らしている。ちなみに、ここは僕の部屋のはずなんだけど……
「なにぶつぶつ言ってるのよ」
「いや、ちょっと独り言」
「独り言なんて言ってないで、あんたも新聞部の部員なんだから
スクープの匂いを感じたら、居ても立ってもいられない位でなきゃだめじゃない」
「スクープっていっても、持ってるのは一般の新聞じゃないですか。
本職の新聞記者がニュースにしてることをいまさら取り上げたって仕方ないですよ」
「んー、それもそうか」
「そうそう、それより独自のスクープを探しに行きましょう」
「そうね、……って、ちがーう」
「何が違うんです、橘さん」
「これはちょっとした事件ってレベルじゃないのよ」
「何が？ ちょっとした事件ってレベルじゃないなら、警察がとっくに動いてるんじゃないですか？」
「うん、普通ならね」
「普通なら？」
「そう、普通なら、１１人が失踪したら、大事件としてニュースになるんじゃない？」
「まあ、そうでしょうね。けど、そんな大規模な失踪事件なんて、僕はしらないですよ」
「わたしも知らなかったわよ。けど、ここを見て」
「なになに……藍仙高校で集団失踪事件？……って、これ、○スポじゃないですか。
なんで橘さんがそんなもの持ってるんです」
「ちょっと街を歩いてたら、落ちてたのよね」
「落ちてた物を拾ったんですか。なんでまたそんなもの拾う気になったんです？」
「んー、なんとなく、特ダネのにおいがしたのよ」
橘さんは、事件をかぎつけたり、招き寄せたりすることの関しては
天才的な才能を持っている。この新聞も、きっと、橘さんのそんな
才能によって見つけ出されたんだろう。
「とにかく、１１人失踪なんて事件が、なんで○スポでしか報道されてないのか。
これは背後に巨大な謎が控えてるとしか思えないわ」
「正直、本職の新聞記者も手を出さない巨大な謎なら、一介の高校生が
首をつっこまないほうがいいんじゃないかと思う」
「めーぐーるーくーん」
「はい？」
やばい、橘さんの目は本気だ。
「おびえてるの？」
「おびえるっていうか……触らぬ神にたたりなし、っていうじゃないですか。
これがもし事件だとしたら、１１人失踪させて、しかも事件をもみ消せるぐらいの
強大な力を持ってる相手なんですよ。関わらない方が絶対いいですってば」
「恵くんは考えすぎだってば。もし、本当にこれが事件だったとしたら、生徒達は
どうやってごまかしてるの？ 失踪した生徒達の家族は？ 第一、何の目的で
失踪させたりしたの？」
「それは……調べてみないとわからないですよ。けど……」
「危ないかどうかも、調べてみなければわからないってことでしょ」
「それはそうですけど……なにも危ないところに首をつっこまなくてもいいじゃないですか」
「スクープはいつでも危険と隣り合わせよ。それに、何も戦場に行く訳じゃないんだから
その点は安心していいんじゃない？ ほら、今までだってなんとかなってきたんだから」
「今までが幸運だったんですよ。三度目の正直っていう言葉もあるじゃないですか」
「あーもう、恵くんってば。そんなにこの事件を調べるのがいやなの？」
僕がとめても、橘さんはこの事件……いや、まだ事件だと決まったわけですらないけど……に
首をつっこむだろう。そしたら、橘さんにも危険が及ぶかもしれない。
これは、覚悟を決めた方がいいかな。
「とりあえず、藍仙高校で取材して、悪いことはないですよね」
「そうこなくっちゃ。じゃあ、早速突撃……」
「勝手にほかの高校に行くわけにもいかないでしょ。ちゃんとアポをとって行かないと」
「んー、手当たり次第に取材すればいいかな、って思ったんだけど、だめかな？」
「だめだと思いますよ。何か口実を設けて、それの取材ってことで許可を得てから
向こうに行かないと、ただの不審者だと思われてしまいますって」
「そっか、……けど、向こうで取材すべきことって何かあるのかしらねぇ？」
「こういうときこそ、検索を使ってみたらどうです？
最近の高校だから、誰かがホームページとか作ってるかもしれないですし
それでニュースらしきものを見つけることが出来るかもしれないですよ」
「そうね。じゃ、恵くんお願い」
「なんで僕が……」
「私は頭脳労働担当だから」
「はい、わかりました」
携帯で藍仙高校について検索してみる。
品川にあるごく普通の高校みたいだ。
失踪事件について何か書いてないかと思ったけど、何も書いてない。
んーと、ああ、新聞部がHPを開いてる。パソコンできっちり調べてみようかな。
「どう？ 恵くん」
「どうやら、藍仙高校にも新聞部があるみたいです。
そこに連絡を取ってみれば、何かわかるかも……」
「うん、じゃあ連絡を取るのは私にまかせといて。
日程決めて、すぐに藍仙高校に行くわよ」
「了解、橘さん」
それが、僕らと、藍仙高校との関わりの始まりだった。
そして、僕はまだ、僕が想像するより〜いや、想像出来るより〜
もっと強大な何かと関わることになるとは、予想だにしていなかった。