「さて、勇気の洞窟に入るの」
「気をつけてね、霧子、泪、リオ」
「気をつけるべきなのはみんななの。簡単すぎたら修練にならないと思うの」
「わかってます。では、行ってきます」

アインハルトさんとミウラさんが最初に知恵の洞窟へ入っていくの。

「じゃ、行ってくるね☆」
「行ってきます」

続いて、ヴィヴィオとコロナが力の洞窟へ。

「じゃ、行きますか」
「そうするの。ところで、リオは勇気の洞窟は行ったことあるの？」
「一応あるよ。けど、洞窟は入るたびに変化するらしくって、今回どんなことになってるかわからないかな」
「それなら、出たとこ勝負なの」
「ま、心配しても仕方ないよ、行こう」
「そうするの」

私達は勇気の洞窟へと入っていくの。

「……本当に明かりがあるの」
「修練用に明かりをつけてるみたいだね。整備された洞窟なんだ」
「中級者レベルに命がけの修練ってわけにもいかないんだと思う」
「リオも色々……？」

いきなり断崖にぶちあたったの。
向こう側にも道は通じてるようだから、何らかの手段で渡ることは出来ると思うの。
だけど、どんな手段が使えるかはわからないの。

「……リオ、こういう仕掛けあった？」

とりあえず泪はリオに聞いてみるの。

「いや、ボクも初めて見るんだけど」
「そっか、じゃあ、ここはなんとかクリアしないとね」

泪は前向きに考えるの。

「何かロープみたいなものはないの？」
「途中にはなかったですね」
「ツタとかなにかあればいいんだけど……」
「明かりって、どこからエネルギーを得てるのかな？」
「壁に埋め込まれてるから、取るのは無理ですよ」
「さすがにこの距離じゃ跳ぶのは無理なの」
「空飛んで行けばいいんじゃない？　オーギュメント使えば飛べるよ」
「それは思ったの、だけど、感じない？」
「あーそっか、AMF」
「そうなの」

どうやら、この断崖と断崖の間には、強力なAMFが存在するみたいなの。
AMFのおかげで、AMF以外の存在波を感じるのも難しいの。

「飛ぶなってことか。でも、超えられない試練をいきなり入れたりはしないだろうから、何かあるんじゃないかな」
「壁にスイッチがあるとか、そういうの？」
「まあ、ゲームなら定番だよね」

私達は、近くの壁を調べて、色が違ってるとかそういうのがないか見てみるの。
だけど、全然そんなのはないの。

「壁じゃないか……」
「……でも、そういうのを探すのって、むしろ知恵の問題だと思うの」
「勇気の洞窟ね。勇気を出せってことか」
「そうなの」
「だけど落ちたら大事には違いないよ」
「そうなの。だから悩んでるの」
「……あ、そか、存在波を隠してるんだとしたら……」
「どうしたの？　泪」
「ちょっと思いついたことがあるから……」

そう言うと泪は断崖をそっと手で探ってみるの。

「うん、やっぱり、あったよ、手がかり」
「どうしたの？」
「存在波を感じさせない理由が分かった。見えない道があるんだ」
「見えない道……あ、そういうことなの」
「なるほど、勇気をもって踏み出せるかどうかを見てるんだ」
「そういうこと」

泪は胸を張るの。確かに、胸を張るだけの発見をしてると思うの。

「じゃ、ゆっくり慎重に歩いて行こう」
「そうだね」
「そうするの」

先頭を泪が、真ん中をリオが、私がしんがりで進んで行くの。

「一筋縄じゃ行かないね、所々段差がある、気をつけて」
「うん」

泪は手探りで見えない道を探りながら進むの。
リオと私は立って歩くの。理由は……

「聞こえる？」
「聞こえたの」

そう、見えない足場の上で、何も起きないってことはないと思ってたの。
断崖の間は、横向きの巨大な洞窟なの。その洞窟をコウモリのお化けみたいなのが飛んでくるの。

「どんなコウモリなの？」
「わかんない、だけど……」

存在波が読めないから、どんなコウモリかはわからないの。
だけど、あれだけ大きければ、人を襲うこともできると思うの。

「足場が狭いよ、気をつけて」
「うん、動かずにやるの」

私はそっとオーギュメントを構えるの。
リオもそっちを……。

「リオは反対側を注意して欲しいの」
「わかった」

リオの顔も真剣なの。私は迫り来るコウモリに備えるの。リオは逆側を警戒するの。
泪はいつでも立ち上がれるように中腰で足場にいるの。
AMFで多分飛び道具〜ゴッド・スレイヤー〜は使えないの。
でも、ロンギヌス・スピアには別の使い方があるの。

コウモリが接近してくるの。
私は、ロンギヌススピアを文字通りの槍のように構えるの。
コウモリが近づいてくるの。

「……私の勘が正しいことを祈るの」

そう、つぶやくの。
リオは反対側を向いてるの。だから守らないと行けないの。泪は中腰でちょっと不安定なの。
だけど、私はコウモリがしっかりと見えてるの。

コウモリははっきり私の方をめがけて突っ込んでくるの。

「やっぱりそうなの」

私の勘は正しいことを確信したの。
だから、私はロンギヌス・スピアをそっと下げるの。

「霧子？」

泪はまだ気づいてないみたいなの。だけど、ここは勇気の洞窟なの。
勇気を試される洞窟だとしたら、多分……

「泪、手は出さないで欲しいの。このコウモリ、突っ込んでは来るけど、襲っては来ないの」
「なんでわかる訳？」

そういう間に、コウモリは私にぶつかる寸前で、向きを変えるの。

「やっぱり。このコウモリ、人間を襲うタイプじゃないの。泪、慎重に進めば向こうに行けるはずなの」
「わかった、なるほどね……」

泪にも飲み込めたようなの。多分、このコウモリを殺したりしたら、コウモリとかの大群に襲われてたと思うの。
それが私の勘なの。ここまではその勘は当たってたみたいなの。

「気をつけて、道を慎重にしらべながら行くからね」
「うん、気をつけるよ」
「そうするの」

コウモリはその後も時々現れたけど、決して私達に危害は加えてこなかったの。
そして、断崖を超えて、私達はやっと安定した道へとたどり着いたの。

「ふー、寿命が縮んだ気がする」
「私もなの、だけど、これで終わりなら……」
「終わりだったら、話が早くていいよね」
「そう思うの」

そう思うの。でも、やっぱり落ちは待ってたの。

「やっぱ、格闘の修練だから、こうなりますか」
「なるみたいだね」
「そうなの」

そこには、ゴーレムが丁寧に3体待ち構えていたの。
その向こうには、出口。つまり、このゴーレムをなんとかしないと洞窟の外には出られないの。

「……これも、手出ししなけりゃ襲ってこないとかそういうことは……」

ゴーレムは敵意剥き出しで襲いかかってくるの。

「そんなことないか。じゃ、全力で行くよ」
「うん、泪は左側を、私が真ん中、リオは右側を」
「了解」

ゴーレムは3体ともストーンゴーレム。大きさは2ｍぐらい。
私達よりははっきり大きいの。
そして、そんなのが3体も横に並んでるから、隙間をすり抜けて外を目指すことは出来ないの。

「AMFがないなら全力でやるよ」
「ボクも」
「チャージタイムを稼ぐことは出来そうにないの」

そう、何分も掛けて戦ってたら、ゴーレムにまた断崖まで押し出されそうなの。
だから、私達は、速戦即決で行くことにするの。

「剄を使って、岩に打は多分通用しないから」
「了解」
「わかったの」

剄、打撃じゃなくてエネルギーの総体で相手を打ち抜く技法なの。
それを使って、私達はゴーレムを打つんじゃなくて……

ゴーレムはそのまま体当たりしてくるの。

「はいっ！」

前のめりに来るゴーレムの重心と思われる位置へ、掌底を打ち込むの。
そして、全身の力を使ってゴーレムを押し上げるの。
突っ込んでくるゴーレムの運動エネルギーと、私の掌底の力とがぶつかり合うの。
単純にストーンゴーレムを殴ったら痛いだけなの。
だけど、私達はストーンゴーレムを打ち抜いたの。その結果、ゴーレムの前進する力が
そのままストーンゴーレム内部を破壊する力へと変わったの。

「いたたたた……」
「あは、想定以上、ストーンゴーレムが砕けたね」
「そうみたいなの」

ストーンゴーレムは砕け散ったの。
あとは出口へ一直線。

「突破〜」
「一応確認するけど、本当に出口なの？」
「出口よ。お疲れ様」

そこには、リンデ師範が待ってたの。

「あなたたちが最後ね」
「最後になったの。ちょっと残念なの」
「あなたたちは飛べるから、それ向けに洞窟を調整してたからね。
　手間が掛かるのは仕方ないわ」

始めから、私達をここへ呼ぶつもりで準備してたみたいなの。

「じゃ、そろそろ帰りましょう。帰るまでが冒険ですよ」
「はい」

私達は、洞窟で何があったか語り合いながら道場へと帰っていくの。
知恵の洞窟や力の洞窟も、いろんな事があったみたいなの。

今日一日だけで濃い修練。明日は何があるの？

 

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