準々決勝が終わった翌日、私達はやっぱりノーヴェのジムにいたの。

「よし、全員そろったな」
「はい」
「リオ、霧子、泪は残念だったな。
　けど、まだ終わりじゃないぞ。
　U-15の大会は秋から始まる。それに向けて、アインハルトやミウラと調整だ」
「はい」
「けど、さ。今週はそうもいかない」
「何かあるんですか」
「ヴィヴィオとコロナのために練習スケジュールを組むことにする。
　準決勝じゃ同門対決はないから、是非とも二人にはそれぞれ勝って世界に行ってほしい」
「ヴィヴィオがフォビアさんと、コロナがエレミアさんとでしたよね」
「そうだな泪。どちらも強敵だ。無敗の女王は伊達じゃないし、正統派魔女もやっかいな相手だ。
　が、正統派魔女相手の特訓のために、特別な講師を招いた」
「誰なんです」
「はーい、呼ばれなくてもこっちから押しかけるつもりだったけどね。
　本当は私があの子とやりたかったんだけど、結果がこれじゃ仕方ないか」
「ルーテシアさんなの？」
「ああ、ルーテシアお嬢だ。魔法戦のエキスパートに間違いはない。
　相手の魔法対策を伝授するにはうってつけの講師だな」
「よろしくお願いします……って、他人行儀に言わない方が良かった？」
「ヴィヴィオはね」
「ルーテシアさんと、ヴィヴィオって、知り合いなんですか？」
「まあ、昔いろいろと合ったよね、ルーテシアちゃん」
「ま、色々あったわね、ヴィヴィオ。けど、今はそれより目の前の試合。
　さっそく特訓に入るわよ」
「うん、よろしくお願いします」

そういうと、ルーテシアさんはヴィヴィオを連れて、ビデオルームへ向かったの。

「特訓しないの？」
「頭の特訓からだよ、霧子」
「そうなの」
「そういうこと」

そう言うと、ルーテシアさんとヴィヴィオは、ビデオルームへ消えたの」

「よし、次はコロナの特訓だ。
　これは一筋縄じゃ行かない。なにしろ相手は無敗の女王で、不得手な戦いのない相手だ。
　それで、いろんな相手と当たってもらうことにする」
「はい、よろしくお願いします」
「エレミアの戦いの基本は、あくまで格闘戦だ。
　だから、アインハルト、おまえがメインの練習相手になってくれ」
「分かりました」
「が、中距離、遠距離の魔法戦もある。
　その魔法戦の練習相手はリオ、頼む」
「分かりました」
「私達の仕事は何なの？」
「それは、ヴィヴィオがビデオルームから戻ったら説明する。
　ミウラ、霧子、泪はまず基礎練習をやっててくれ。
　あたしはコロナとアインハルトのスパーリングについてる」
「はい」

そういうわけで、私達は体作りの基礎練習に入るの。
体作りは、ミウラさんに一日の長があるの。
小さい頃から家の手伝いで力仕事をしてて、力はあるっていってたの。
だけど、格闘向きの体を作るのと、家の手伝いはまた別だと思うの。

「霧子さんも泪さんも異世界の人なんですよね」
「地球から来たの」
「その、地球っていう世界は、みなさん霧子さんや泪さんみたいに、考えが読めたりするんですか？」
「そんなことないよ。私達は、能力者っていう、特殊な能力を持ってるだけ」
「能力者、ですか」
「そうなの。存在波を道具なしに認識する能力を持ってる人、それが能力者なの」
「存在波って……魔力とはまた別なんですか」
「魔力波動とは同じものだってクロノさんは言ってたよね」
「そうなの」
「魔力波動を感知する……そういう能力なんですね」
「そうだよ。この世界の魔法使いはデバイスの助けを借りれば誰でもできるって聞いたけどね」
「まあ、確かに、魔力波動なら認識できます。でも、考えとかは読めないですよ」
「魔力波動は、第2世代オーギュメントの出力なみの強力な存在波なの。
　私達が感知してるのは、それよりはるかに微弱な存在波なの」
「そうなんですか」
「そろそろノーヴェが来るかも。口も動かしていいけど、体も動かさないと」
「お二人とも息が切れなくなりましたね」
「練習の成果なの」
「よーし、おまえら、ビデオルームに来い。
　ヴィヴィオとお嬢がビデオルームから出てきたから、特別な映像を
　コロナ達と一緒に見てくれ」
「分かりました」

そういうわけで、私達はノーヴェに連れられて、ビデオルームに入るの。

「これは、前々回のインターミッドでの、ジークリンデ・エレミアvsミカヤ・シュペルの試合だ」
「すごい、ミカヤさん無敗の女王相手に一歩もひけを取ってない」
「ああ、ミカヤの実力は折り紙付きだからな。
　……と、見てほしいのはここからだ」
「エレミアさんの服装が若干かわった？」
「目の色も変わったの、雰囲気も違うの、殺気を感じるの」
「ああ、そうだ、ここからがエレミアの本番だ」
「なに、あれ、一瞬で集束魔法を放った？」
「ミカヤさんがよけるので精一杯になってる。
　あの威力で連射できるなんて……」
「あれがエレミアの神髄だ」
「一撃でミカヤさんが刀ごと吹き飛ばされて動けなくなった……」
「なんて威力なの。これに比べれば、私のゴッドスレイヤーなんて豆鉄砲なの」
「ボクだってあんな威力の抜剣なんてできないですよ」
「これが、試合でエレミアの神髄が使われた唯一の事例だ。
　この試合以降も、エレミアが苦戦したことはあるんだが、使わずに切り抜けてきてる。
　エレミア本人も、使いたくないんだろうな」
「どういうことなんですか」
「この一撃で、ミカヤは深手を負った」
「安全のためのデバイスはあるんですよね、それで深手を？」
「ああ、デバイスの防御性能や、リングにある安全システムを突き破って、大けがをさせたんだ。
　しばらくは面会謝絶だったぐらいの重傷だったよ」
「……」
「殺し合いならともかく、スポーツでは使うものじゃない危険な技、それがエレミアの神髄だ。
　コロナとの戦いでも、使わないとは思うんだが、思うだけじゃダメで、対策はしておかないとな」
「どうやって対策するんですあんなもの……」
「……それで、ミウラと霧子と泪に手伝って欲しい。
　コロナに、神髄に対応する特訓をしてもらうために」
「どんな特訓をするんです」
「一撃必殺の飛び道具なら、霧子と泪もチャージすればできる。
　だから、2連撃までなら、霧子と泪で対応できるはずだ。
　飛び込みでの必殺技、抜剣を計算に入れれば、三連撃までなら練習できる」
「それを全部かわすんですか」
「買わすだけじゃダメだ、三連撃の最中に攻撃できないと」
「ものすごく難しいと思うの」
「だが、できなければ、コロナが大けがをするかもしれない。
　それも、命に関わるかもしれない大けがだ」
「……」
「分かりました」
「コロナちゃん、大丈夫なの？」
「大丈夫大丈夫じゃない、やる」
「いい返事だ、じゃあ、練習に入るぞ」

こうして、私達は一週間コロナ相手にチャージ攻撃を連続で加える特訓を重ねることになったの。
一週間で成果が上がらなければ、もしかしたら、コロナが人事不省の重傷を負うかもしれないの。
すべては、エレミアさんの出方しだいだけど。

 

---