その翌日、私達はヴィヴィオに誘われるままに出かけたの。

「ノーヴェ、こんにちは。今日はお友達を紹介するね」
「ヴィヴィオ、こんちわ。あの二人が管理外世界から来たって子なのか？」
「あれっ？　ノーヴェ知ってるの？」
「なに、コロナから聞いただけさ」
「なんだ、そうだったんだ、じゃあ紹介するね。
　こっちが雲野霧子ちゃんで、こっちが柊泪ちゃんだよ」
「初めましてなの。ノーヴェさん」
「初めまして、ノーヴェさん」
「いや、ノーヴェさんって言われても気持ち悪いし、ノーヴェでいいよ」
「でも、年上の人なの」
「まあ、ちょっとは人生経験積んでるかな。けど、ヴィヴィオがノーヴェで通してるんだから
　そっちもノーヴェでいいって。ヴィヴィオの友達なんだろ」
「そうなの」
「なら、それでいいじゃないか。そういえばヴィヴィオ、リオとコロナはどうしたんだ？」
「二人ならもうすぐ来ると思うの」
「じゃ、ヴィヴィオは着替えてアップからな」
「了解〜」
「霧子と泪は暇じゃないか？　ただ見てるだけっていうんじゃ」
「暇とかじゃなくて、どこに出かけていいかも分からないから、ヴィヴィオに着いてきたの」
「お小遣いは新学期が始まるまでお預けだし」
「そっか、じゃ、学食とかどうしてるんだ？」
「それは管理局の人が手配してくれてるから大丈夫なの。お小遣いがないだけなの」
「まあ、この世界になれるまで、金銭感覚も分からないだろうからな」
「さすがに日本円とは違うみたいなの」
「日本円？」
「地球……こっちじゃ第97管理外世界って呼んでるみたいだけど、そこにある
　日本って国のお金なの」
「ああ、管理世界じゃ通貨、っていうかお金は共通だからな。
　しかし、一つの世界でお金が違うって、不便じゃないか？」
「あまり気にしたことないの。海外旅行もパパやママはしたことあるらしいけど
　私はないの」
「それでいきなり異世界か。大丈夫か？」
「学校で合宿とかはしてるから大丈夫。それに、時々は家にも帰れるし」
「そっか、納得してるんならいいんだけどな」
「ノーヴェ、着替えてきたよ。いつものメニューでいいんだよね」
「ああ、そうだな」
「こんにちは、ノーヴェ師匠」
「こんにちは、ノーヴェ先生」
「いや、リオ、コロナ、今さっきこの二人にノーヴェって呼んでくれって言ってるのに
　師匠とか先生とか言われたら困るんだけどな」
「でも、格闘の師範の資格があるんだから、師匠ですよ」
「私の先生だし」
「師匠や先生にくらべたら、さんづけぐらい問題ないと思うの」
「いや、師匠や先生なら、少し小馬鹿にした空気も漂うが、さんづけはなんかくる物があるんだよな」
「そういうものなの？」
「そういう物なんだ。まあ、呼ばれ慣れてもないせいもあるけどさ。
　それに、格闘の師範っていうか、DSAAのトレーナー資格だな」
「十分師範ですよ、ノーヴェ師匠」
「ノーヴェの呼び方はそれぐらいでいいでしょ。とりあえず、リオとコロナも着替えてきたら」
「うん、そうする、ヴィヴィオちゃん」
「そうだね、じゃ、行ってくる」
「公共の体育館で格闘なんてやっていいんですか？」
「まあ、ここはそういう場所だからな。
　周りも球技なんかより、格闘やってる奴が多いだろ」
「確かに、そうですね」
「あたしも、ヴィヴィオ達がもう少し成長したら、ちゃんとしたジムを持たなきゃならないとは思ってるんだけど
　まだ、ヴィヴィオ達はインターミッドにも出てない初心者みたいなものだからさ」
「インターミッドの話は聞きました。男女別とはいえ、10歳から19歳までっていうのって、ものすごく無茶な気がするんですけど」
「とはいえ、おととし14歳で優勝した奴もいるわけで、必ずしも無茶という訳じゃない」
「どんな化け物なの？」
「化け物っていうか、古代ベルカの使い手だな、ジークリンデ・エレミア、人呼んで不敗の女王」
「でも、ヴィヴィオ達は10歳だよ」
「まあな、けど、自分の実力を知るにはいい機会だ」
「ヴィヴィオ達はどのくらい強いんです？」
「んー、まあ、スパーリングを見てもらうのが早いか」
「スパーリングを見ても、相対評価は分からないと思うの」
「そうかもしれないな。けど、どの程度の動きができるかは分かるだろ」
「ノーヴェ、アップ終わったよ〜」
「よし、体が温まったら、とりあえずあたしとスパーやるか」
「うん、そうしよう」

そう言うと、ノーヴェはそのまま体育館の中に入って構えるの。

「ノーヴェさんはアップしなくていいんですか？」
「体はこっちに来たときに温めてある。そこらの準備は抜かりないさ。
　ていうか、さん付けはよしてくれよ」
「行くよ、ノーヴェ」

ノーヴェは、赤毛の短髪、年の頃は18歳から20歳ぐらいに見えるの。
背丈は、その年齢の女性としては普通ぐらいなの。

ノーヴェはまずヴィヴィオの攻撃を受け止めてるの。
ヴィヴィオはなかなかきれいには打たせてもらえないの。
それで、ヴィヴィオは一旦間合いを開けるの。

息を整えようとしたヴィヴィオに、こんどはノーヴェが殴りかかるの。
ヴィヴィオはそれをギリギリまで引きつけてかわすの。
ノーヴェの連打をできるだけ省エネで最低限の動きをしてかわしていくヴィヴィオなの。

「よし、いいぞ、無駄な動きをしなければ、むしろ打ってる相手の方が疲れる」
「うん、それはノーヴェが教えてくれたことだよね」

ギリギリでかわしたヴィヴィオが逆にノーヴェに飛び込んでいくの。
それをノーヴェはガードするの。
ガードを強引に打つことはせず再びヴィヴィオは間合いを開くの。

「よし、アップとしてはこれぐらいでいいだろう」
「え、もう終わり？」
「こんどはコロナやリオの相手をしてやらないとな。
　そうだ、霧子、泪、退屈じゃなかったか。
　それと、ヴィヴィオの実力は大まかにはつかめただろ」
「退屈はしてないの。なかなか迫力あるスパーリングだったの」
「ヴィヴィオって、無駄な動きをせずにギリギリでかわしてたけど、それってすごくないですか」
「ヴィヴィオは目がいいし、度胸もある。だから、省エネでかわして、カウンターを狙うことができる。
　天性のカウンターヒッターだ。だから、それに磨きを掛けて、インターミッドに備えてるんだ」
「インターミッドって、殴り合いの試合なの？」
「いや、１対１って条件で魔法も打撃もなんでもありだ。
　それじゃさすがに危ないから、防護用のデバイスは必須だけどな」
「なんていうか、むちゃくちゃですね」
「そうむちゃくちゃっていうわけでもないよ。実際に見れば分かるとおもうけど。
　それに、二人だって去年すごいことをしたって聞いてるぜ」
「すごいことっていっても、管理局のお手伝いをしただけなの」
「半分以上デバイスの性能のおかげだし」
「それでも、プレシア事件の解決に力を貸したんだろ。
　あの事件についてはあたしも報道でしか知らないけど、異世界の子供の手助けがあって
　それがなければ解決できなかったろうっていう話は聞いてる」
「話に尾ひれがついてると思うの」
「霧子、泪、せっかくだから体を動かそうよ」
「動かそうよっていっても、格闘はやったことないの」
「格闘はなくても、戦闘はやったことあるんでしょ」
「デバイス頼みだよ」
「それでも、どれくらい強いか見てみたいな。ね、ノーヴェ、いいでしょ？」
「いいでしょって、二人の持ってるデバイスがどんなのかわからなければなんとも言えないな」
「どんなのって、普通のオーギュメントなの」
「詳しくはアインハルト先生に聞いてもらえばいいんだけど、ここにはいないよね」
「ま、防具をつけときゃ怪我はしないだろ」
「防具？」
「デバイスの一種さ、痛みは普通に通るが、怪我はしない。
　そりゃ絶対怪我しないって訳じゃないが、スパーリング程度で怪我をすることは絶対にない」
「じゃ、せっかくだからやってみるの」
「じゃんけんしようか、霧子」
「どっちが先にやるの」
「もちろん勝った方」
「最初はグー」
「じゃんけんぽん」
「負けたの」
「よし、じゃあ私からだね、ヴィヴィオ、お手柔らかに」
「お手柔らかにって言われても困るけど……どのくらい強いのか分からないし」
「ケンカじゃ男の子相手にも無双出来る程度かな」
「ケンカするの？」
「時と場合に寄りけりだよ。ま、始めようか」
「うん」

泪はボクシングスタイルで構えるの。
誠志郎おじさんもパパも、高校生時代はケンカ無双だったし
ケンカのやりかたは直伝なの。

「先手必勝！」

いきなり泪は体当たりを仕掛けるの。
だけど、ヴィヴィオは素早くそれをかわすの。

「想定通りっ！」

かわされること前提だから泪の踏み込みは甘いの。
体当たりとみたヴィヴィオは右にかわすの。
左肩が前に出てるからなの。

それを想定してた泪は右足で蹴りをヴィヴィオに加えようとするの。
左足を軸足にしての回し蹴りなの。
でも、ヴィヴィオはそれもスウェイでかわすの。

「え？」

回し蹴りだから、かわされると一瞬背中を向けることになるの。
泪は素早く体勢を整えようとするけど、ヴィヴィオの掌底が泪の背中に入るの。

どたん。

「いたー、ヴィヴィオってすごく強くない？」
「動きが見えるの？」
「体当たりだとおもったけど、回し蹴りが狙いだったんだね。
　ちょっとびっくり」
「びっくりって、あれだけの間に判断してかわしたの？」
「見えたから」
「ケンカならあれで勝てるんだけどなあ」
「あはは、ケンカ流じゃさすがに５年毎日のように練習してるヴィヴィオにはかなわないだろ」
「そんなに練習してるんだ、ヴィヴィオ」
「んー、まあ、好きだからかな」
「どうする、霧子、やってみるか？」
「せっかくだからやってみるの」

パパに教えられたとおりに構えるの。
泪は奇襲を仕掛けて失敗したから、私は正攻法でいくの。

「攻めてこないのかな」
「さすがに構えに隙はないと思うの」

隙がなければ誘うか、積極的に行って隙を作るかの二択なの。
泪は積極的に行って失敗したから、私は誘うことにするの。

「ガードが上がりすぎだよ」

ヴィヴィオは接近してボディを打ちにくるの。
それを感じた私はまったく同じようにボディを狙うの。

「結構力もあるみたいなの。今のは効いたの」
「最初からクロスカウンター狙いだったんだ」

いいのが入った自信はあるけど、私の方もいいのを受けたの。
同じ戦法を使って行ってたら、多分私が負けるの。

ケンカの極意は心が折れないこと、そして、どんなときも頭を下げないこと。
感情は臍下丹田にためて力にかえ、、頭はあくまで冷たく。

相手は省エネで動きを見きってかわせるの。
泪の動きを見切るほどの目をもってるの。
だったら……

しばらく、距離をとっての殴り合いと見せるの。
ヴィヴィオも距離をとっての殴り合いは望むところみたいなの。

「ヴィヴィオはちゃんとかわしてるのに、霧子はちょっとずつ食らってるみたい。
　霧子、大丈夫？」

泪が心配するの。
だけど、まだ倒れるほどじゃない。
ガードが上がったように見せかけてボディを開けるの。

殴り合いに疲れたと思ったのか、ヴィヴィオが間合いを詰めてボディを狙うの。
それが私の予定通り。
かわさず耐えてヴィヴィオの首根っこを捕まえるの。
そして、そこから抱きついて足をかけるの。

「わっ」
「立ち技は得意みたいだけど、寝技はどうか分からないの」

スリーパーホールドを掛けようとするけど、力が入らないの。

「さすがに殴られすぎだ、霧子。考えは良かったけど、いいのが入っただろ」
「ノーヴェの言う通りなの。作戦ははまったけど、私の体が持たなかったの」
「作戦にはまるようじゃまだまだだよぉ」
「そうだな、もっと体力のある相手だったらヴィヴィオが負けてた」
「ていうか、インターミッドって寝技ありなんですか？」
「基本的にはなんでもありの格闘技だからあるといえばある。
　ただ、相手の方が完全なダウンと見なされれば寝技を掛ける前にコーナに戻らなきゃいけないから
　あんまり寝技はつかえないな」
「そうなんですね」
「まあ、怪我はしてないから、少し休めば体力も戻る。
　しかし、二人とも割と無茶するな」
「ケンカ流なの」
「ケンカ無双じゃ格闘技には対抗できないね」
「まあ、ケンカ無双に負けるようじゃ、格闘技の意味もないからさ。
　しかし、素質は二人ともあるみたいだし、本格的にやってみないか」
「うん、それいいよ絶対。みんなで一緒にインターミッドに出ようよ」
「出ようよって、出るのはいいけどなんかすぐ負けそうな気がするの」
「それは今からの鍛え方しだいだな。けど、素質はあるからノーヴィスでなら
　そこそこ勝てると思う」
「やっぱりそこそこなの？」
「インターミッドは完全トーナメントだからな。参加者の半分は予選の最初で消える」
「過酷な大会なんですね」
「まあ、参加者も多いから、そうとでもしなきゃ、とても開催しきれないさ。
　６月に開始して、半年がかりで管理世界のトップを決める。
　第９７管理外世界での格闘技がどういう扱いかは知らないけれど
　少なくとも、ミッドチルダじゃ格闘技が一番の人気スポーツだよ」
「私達の世界だと格闘技より球技の方が人気あると思うの」
「まじめにやると怪我するもんね」
「まあ、そういう違いもあるんだろうな。
　それで、どうする？　インターミッドに出てみるか？」
「出てみるかどうかはともかく、今日は一緒に練習するの」
「そうだね。ただ見てるだけじゃつまらないし」
「よし、じゃあ今日は５人で始めるか」

インターミッドに出るかどうかはともかく、格闘の練習をヴィヴィオ達と一緒に毎日することになったのは
これがきっかけだったの。
デバイスを使った戦いもありだから、私達の持ってるオーギュメントが使っていいかどうかは
ノーヴェが大会運営に問い合わせてくれることになったの。
だけど、それ以前に、ヴィヴィオに勝てるようになりたいって思うの。
あんなに完璧に負けたのは、生まれて初めてなの。

 

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