召喚少女別伝
【第一章】
灼熱の補講。万難を排して進級せよ！
「ねえ、卯月、まだ見つからない？」
「うっさい。騒ぐ男は嫌われるよ」
「ご、ごめん…」
「すぐ謝る男も同じ」
「じゃどうすればいいんだよ」
「黙ってみてる」
僕は黙って肩をすくめる。
今は卯月だけが頼りだ。
この課題をクリア出来なければ、僕の留年はやっぱり確定してしまう。
そして、この課題をクリアするためには、どうしても卯月の助けが必要なんだから。
「…よし、見つけたよ！」
今回のお話は、やっぱりビルギエッタ師匠の研究室から始まる。
「バカ弟子、おまえ一体何考えてるんだい？」
「何って…ちゃんと自力で召喚したじゃないか」
「あんなもの自力っていうわけないだろ。自力っていうのは
自分で召喚して、自分で契約を結ぶところまでやって初めて自力っていうんだよ。
おまえがやったのは、他人が契約した召喚獣をの使役。
アタシが召喚した精霊をおまえに使わせたって、おまえが召喚術師になれた
ことにはならないだろ。すこしは考えな」
「えー、だって、どんな下級精霊でもいいから召喚しろっていったの、師匠じゃないか」
「こんなのを召喚というかっ！」
「うー・・・」
「でもまあ、努力は認めてやるよ。
他の先生の評価も見た上で、総合的に判断してやる」
「総合的に？」
「そう、総合的に」
説明が必要だと思う。
僕は、まどか達から、卒業サポートを受ける契約を結んだ。
必要な費用は、セールスマンに一括払い。もちろん、召喚獣への魔力供給は
召喚主である僕持ちなのは間違いない。
それで、師匠に、召喚獣が呼べるようになったと報告したら
さっきのような会話になったんだ。
確かに、師匠の言うのにも一理ある。召喚術師というのは
自力で召喚して、自力で契約して、自力で使役して一人前。
召喚中を人に探してもらって、契約もセールスマン任せで
自分は呼び出して使うだけ、なんていう召喚術師なんていない。
でも、これが僕の限界なんだからしかたないじゃないか。
とまあ、こんなやりとりの後、理論を問われる筆記試験の
期末試験も終わり、僕たち学園の二年生は、終業式を迎えた。
期末試験は、それなりに自信があるんだ。理論ならアスレイにだってひけをとらないからね。
「理論だけ立派でも全く役に立ちませんわ」
「あれ、アスレイ、なんで心に思ったことがわかったの？もしかして、魔法を使った？」
「そんなことしませんわ。あなたが声に出していただけですわ」
「え？そう、気付かなかったよ」
「まったく、ぶつぶつと独り言をいうなんて、ぼんやりしすぎではありませんの」
「ぼんやりしてるつもりはないんだけどなあ」
「居眠りはしてるみたいですわね。毎日一回は講義中に居眠りしないでは気が済まないのですか？」
「そ、そんなことはないはずだけど…」
「一つの講義に一回は居眠りしてると言いたいのですか」
「い、いやそういう意味じゃなくて…あ、ほら、師匠が入ってきたよ」
「そうみたいですわね…全員起立！礼！着席！」
「みんな揃ってるね。さて、お楽しみの通知表だよ。
１人ずつ名前を呼ぶから取りにきな、まずはクリス、おまえからだ」
「Oh!No！これは何かのまちがいじゃないのかい！」
「いーや、間違いじゃないねクリス。おまえは赤点だよ」
「It's unbelievable！信じられないよ。クエスト点はMax に達してるじゃないか」
「他が全然ダメじゃ意味ないだろ。筆記試験なんて、採点する方がつかれるむごたらしさじゃないか。
大体おまえのクエストのやり方が間違ってるんだよ。
どこの世界に剣士より先に刀を抜いてつっこんでいく召喚術師がいるんだい。
まともに召喚出来ないんじゃ、赤点以外つけようがないね」
「クリス君、すこしは筆記の勉強もした方がいいんじゃない？」
「バカ弟子、おまえは人のこと言えないだろ。ていうか
おまえははじめから追試確定だよ。ほら、名前呼ぶのも面倒だからさっさと取りにきな」
「えー、筆記試験だってまじめにやって全部合格点とってるのになんで追試確定なんだよぉ」
「どこの世界に召喚できない召喚術師がいるんだい！
追試で進級させてやるだけお情けなんだよ」
「まったく、二人とも情けない限りですわね」
「そういうアスレイはどうなんだよ？」
「バカ弟子、そりゃ愚問だろ。ご指名だからついでだ、アスレイ、取りにきな。
今回もほとんど満点だよ。文句なしの主席だな」
「当然の結果ですわ」
「さて、次に行くよ…」
やっぱりアスレイは主席か。毎年落第回避に懸命な僕とはえらい違いだな。
でも、やっぱり、アスレイはすごいよ。
単なる主席なら各学年かならず１人はいるんだけど、アスレイは特別で
過去１０年のうちで最高成績のスーパーエリートと言われている。
クエスト点なしなのは、今までの僕と同じだけど、僕の方はクエスト点なしじゃ
落第確定で、クエスト点を足してやっと進級できるかどうかって所なのに
アスレイはクエスト点なしで、クエスト点込みの他の生徒を押さえてトップなんだ。
スーパーエリート扱いなのは、何も大魔法使い一族の一員だから、っていうだけじゃない。
「…さて、全員通知表は受け取ったね。赤点の奴は、特に名前も呼ばないが
全員補講と追試だ。バカ弟子やクリス以外にも何人かいるだろ。
補講を受けなければ落第だからね。忘れずに補講を受けにきな。
ああ、言い忘れたが、補講の場所はここじゃない。修練所だからね。
集合時間と集合場所は書いてあるだろ。時間通りに集合するように。
遅れても待ってはやらないよ。
他の奴は、ご苦労さん。しばらく羽をのばしな。
三年になったら、遊んでる暇なんてなくなるんだから、今の内に
遊べるだけあそんでおいたほうがいい。
ああ、あと、アスレイ、すまないがおまえは私の助手として補講を手伝ってくれ。
ま、こんなところかな。では解散！」
そして、終業式の後、僕ら、学園の赤点組は、教員達の引率で
学園所有の修練場へと旅だった。
途中、モンスターには一切出会わなかったけど、その後の師匠の説明で
僕らはとんでもない所へ連れてこられたことに気がついた。
「全員揃ってるね。落伍者がいなくてなによりだよ。
さて、今から補講の注意事項を言うから、しっかり聞いてるんだよ。
特にバカ弟子。おまえはどうも人の言うことを憶えてないみたいだから
ちゃんとメモでも書いて忘れないようにしな。一回しか言わないからね。
まず、ここのルールは自給自足、自分のことは自分たちでやる、だ。
掃除、洗濯、料理にいたるまで、各自割り当てられた当番に従うこと。
次に、この修練場だが、見ての通り、人気のない僻地にある。
ホートウィッシュに帰りたければ、当番をこなすかぎり、自由に帰ってもいいが
モンスターに襲われても、自己責任で切り抜けるんだね。
普通の学園の生徒だったら、楽に切り抜けられる程度のモンスターしかいないはずだからね。
そこまで、講師も責任は持たないよ。
次に、修練場の中だが、地上部分は寝泊まり出来るよう整備してあるが
地下部分は、あえて古代の状態を出来る限り保存してある。
で、ある事情によって、適度な強さのモンスターが住み着いているから
おまえ達の腕試しにも最適。さらに、学園の研究資料なんかも各種補完してあるから
理論についての自習も、雑事に追われずにできる、まさに理想の研修所だね。
さて、質問はあるかい？・・・と、なんだバカ弟子」
「あのさ、師匠。僕、携帯電話がないと召喚が出来ないんだけど…」
「はあ？おまえ一体あたしの話をちゃんと聞いてたのかい？
言ったはずだよ、当番をこなす限り、自由に帰ってもいいってね。
携帯電話の充電がしたけりゃ、勝手に帰りな。だけど、道中モンスターに
襲われても、あたしはしらないからね。自分でなんとかしな」
「……うう…行き帰りには必ずまどか達の誰かにいてもらうようにしよう…」
「その方がいいね。ああ、言い忘れていた。
最近、モンスターが各地で凶暴化しているって報告があるんだ。
そればかりじゃなくて、モンスターの能力自体も上がってる。
学園の生徒なら手こずらない程度のモンスターしかいないこのあたりでも
油断していると、万が一があるからね。ホートウィッシュへの行き帰りは
出来るだけパーティを組んだ方がいい。少なくとも、ペアは作っておきな」
「Really？それは大変だ。ぼくはbaby達を守らなきゃいけないね」
「おまえはBabyより、自分の進級の心配をしな」
「クリス君、今から帰る心配をしなくても、さっと補習を終わらせてさっと休みに入ればいいじゃない」
「バカ弟子、おまえが言えた立場かい？」
「はうはうはう…しょ、召喚さえ成功させればいいんでしょ。召喚さえ」
「そうだな。まあ、安心しな。しばらくしたら、すごい場所に案内してやるよ」
「ほんと！師匠」
「ああ、本当だ。だけど、その前にここの当番はちゃんとこなすんだよ」
「うん！」
師匠とは長いつきあいだから、しばらく、とか、当番をこなしたら、というのが
どういう意味なのか、僕はちゃんと理解していた。
つまり、師匠がしばらくここに逗留するための雑用を全部こなしたら、という意味なんだ。
いままでなら、僕１人でやらなければならなかった雑用だけど、今回は
料理には晶や結、掃除や洗濯にはまどかや卯月、師匠の資料整理には晶やマキに手伝ってもらった。
資料室や調理場、いやそれどころか、離れに移動するにもわざわざ地下の通路を通って
移動しなければならない構造になっているから、どうしても、モンスターに遭遇してしまう。
そのモンスターと戦うために、僕はしょっちゅう５人を呼び出さなければならなかったんだ。
「キミ、そんな恐縮しなくていいわよ」
「そうそう。はじめから、そういう契約なんだから」
「お姉さん、こっちの世界に来るのは、嫌いじゃないから〜」
「でも、無駄な召喚はお断り。何事も効率的にやる」
「あ、あの…おねえちゃん……は、はじめから…効率よくやることは……わからない…でしょう……から……」
「だけど、本当にいいの？召喚といっても、ほんと雑用ばっかりだよ」
「気にしない気にしない。ていうかさ、戦闘やるより、こういう雑用の方が気が楽だし」
「そうね。いくら化け物でも、殺しちゃうと、後味わるいから…」
「うーん。モンスターって、倒さないと、こっちが倒されちゃうからね…」
「ゴキブリと同じ。害があるから戦う、それだけのこと」
「まるで〜ほいほいさんですね〜」
「あ、あの・・それ・・・なんですか？・・・」
「わかる人だけわかればいいネタ。結は気にしない」
「だけど、今回は違うんでしょ？」
「そうだよまどか。ここで、今から追試をやるんだって」
「はーい、全員揃ってるね」
「Yes!Yes!Yes!この試験に合格したら、街に帰れるんだね」
「ああ、そうだよ。合格したらな」
「それで師匠。なんでわざわざこんな所で試験するの？」
「バカ弟子、おまえこの雰囲気がわからないのかい？
いや、普通に質問しよう。クリス、おまえ、ここの雰囲気を見て何か感じないかい？」
「Oh.No〜とっても殺風景でみすぼらしい場所だよ。なんだかいるだけで気が滅入ってしまう」
「はぁ…よくこれで召喚学科を目指す気になったよ、…さて、誰でもいい
誰かここの特別な雰囲気についてわかるやつはいないかい？……わかったら手をあげな」
僕は、召喚学科専攻で追試になったメンバーを見回す。
誰も手を挙げない。よかった、わからないのは僕だけじゃないんだ。
「バカ弟子！てかおまえたち全員！そこで安心するんじゃないよ！
ああもう、面倒だ。アスレイ、正解を教えてやんな」
「はい。まずこの場所ですが、古代遺跡の通路が描く魔法陣の中枢に位置しております。
そして、通路が描く魔法陣ですが、この遺跡の本来の目的、つまり
精霊力を特定の場所に集約する目的をもって作られております。
その、精霊力が集約される場所が、つまり、この大広間ですわ。
召喚術師のはしくれなら誰でもわかるとおり、ここは特に精霊力に強く満たされていて
精霊が自然召喚されてもおかしくないほどの密度にたっしておりますわね」
「そういうことだよ。息苦しくなるぐらいまで精霊力に満たされた環境にいて
よくもまあ…まあいい、順番が逆だね。いいかい、ここの空気をしっかり感じ取りな。
この雰囲気が、精霊力に満たされた状態って奴だよ。
意識を集中し、呪文で魔法陣を描いて、その魔法陣の中に、こういう雰囲気を
作り出すのが、召喚の第一歩だ。わかったね」
「はい、先生」
「返事だけは一人前だね。
よし、じゃあ、この雰囲気で呼べる精霊はなんだとおもう？
バカ弟子、答えてみろ」
「それならわかるよ師匠。火の精霊でしょ」
「よし、正解。なんでわかった？」
「えと…なんとなく」
「嘘付け。ボクが教えてあげたんでしょ」
「あ、あは、まあそうなんだけど…」
「…関心したあたしが馬鹿だったよ。でもまあ、召喚獣に教わったのならそれもありか。
今のバカ弟子の答えは聞いたね？ここは、すでに精霊召喚が可能なレベルまで
精霊力が高められてる、特殊な空間なんだ。
だから、おまえ達でも、正しい呪文を唱えれば、召喚だけは成功するはずだよ。
後は、呼び出した精霊と契約すれば、それで召喚は完了だ。
下級精霊なら、契約も簡単なものだね。古の盟約があるから、講義で教えた通りの
呪文を唱えればそれで契約完了。契約が完了したらあたしを呼びな。
あたしが召喚を確認したら、精霊を解放して元の世界に戻すんだ。
そこまで成功したら、合格だ。帰って残り少ない休みを楽しむんだね」
「よーし、じゃあ、がんばるぞーっ！」
「キミ、そんな気負ったらかえって失敗するわよ」
「あら〜初体験は緊張しちゃうものよ〜」
「それより、ちゃんと呪文を覚えてるか？もう一度確認する」
「・え、えと・・・こ、これで終わりですか…がんばってくださいね……」
「終わりじゃなくて、これからが本番。むしろ終わったら大変」
「卯月、脅さないでよ」
「脅されたくなければ、ちゃんとやる」
「う、うん…」
さすがに、補講が始まってからも毎日唱え続けてきた呪文だ。
基本は炎の攻撃魔法と一緒だし、間違えようがない。
…お、おお、出来た、魔法陣が空中に浮かんでる。
「バカ弟子！そこで気を抜くな、意識を魔法陣に集中して詠唱を続けろ」
「う、うん。…」
よし、魔法陣の中に炎が生まれたぞ。いよいよ仕上げ、盟約の呪文を唱えて……
「うわぁ！」
「ひえー、なんだこりゃぁ！」
「助けて〜」
「…こりゃちょっとまずいね。アスレイ！暴走してる精霊の炎を消してやんな」
「わかりましたわ…我が…」
「うわあああああ・・・」
「ちょ、ちょっとこれ、本気でやばくない？」
「な、なによこれ…」
「他の人の精霊とも違う。おまえ、一体なにを呼び出した？」
「……あ、あの……見てください。精霊達が一カ所に集まっていきます」
「やばいねこれは…みんな、下がってな」
師匠が回りを制して、水の攻撃魔法を唱える。
一撃で炎の精霊の大半が消え去り、一部の精霊は逃げ出した。
「やったあ！」
「予定通り、半分ちょっとやっつけたね」
「え？予定通りって？」
「…精霊ってやつはね。暴走させても、召喚した奴が責任をもって
元の世界に還すものなんだよ。
試験内容変更だ。各人、自分の逃がした精霊を責任もって退治しな。
それを進級試験の内容にするよ。
とはいっても、どれが自分の逃がした精霊か、この状況じゃわからないだろうから
なんでもいいから炎の精霊を退治してきな。それが出来た者から合格認定してやる。
…あと、バカ弟子！おまえ一体なんてことをしでかしたんだい！」
「な、なんてって…ちゃんと言われたとおりに…」
「おまえ、呪文の活用を間違えてるよ。呼びかけの呪文が複数形になってたね。
それでおまえだけ複数の精霊がいっぺんにあらわれたってわけだ」
「え？複数の精霊？僕が見たのは巨大な一つの精霊だけだよ」
「精霊ってのはね、複数の精霊が融合することで、高次の存在に変異するのさ。
ていうか、これは講義でやっただろ？」
「そういえば、下級精霊を重畳させることで中位精霊に変化させるっていう
魔法については習った気がする」
「はあ…試験で答えられても、実践で使えなきゃ意味ないだろ。
一歩間違えれば大精霊にまで進化する所だったよ。おまえ、無茶苦茶するね」
「で、でも…おかしいなあ。普段は下級精霊単体だって呼び出せたことないのに」
「それだけここで修練したってことだよ。
だけど、これで、バカ弟子、おまえだけちょっと難易度の高い課題になったね」
「ちょっとだけ難易度の高い課題って？」
「おまえは、あの中位精霊を退治してくるんだ」
「え、ええー！中位精霊をだって、そんな無茶な…」
「無茶じゃないだろ。自分で召喚した精霊は自分で退治する。
それが召喚術の基本だって今教えたばっかりじゃないか」
「はうはうはう…そ、そうだけど…いきなり中位精霊なんて無理だよ…」
「…まあ、普通にやっちゃ無理だろうね。だから、あたしも手助けはしてやったよ」
「手助けって？」
「この部屋から追い出しただろ？この部屋は、炎の精霊力に満たされているから
炎の精霊相手に戦うとなると、おまえの実力じゃ中位精霊を倒せるとは限らないからね。
だけど、ここから追い出してしまえば、中位精霊も普通の力しか出せない。
それなら、バカ弟子、今のおまえでも、十分倒せるはずさ」
「ありがとう師匠。ところで、逃げた中位精霊って、どこにいるの？」
「それは自分で探しな。それも試験のうちだよ」
「えー、そんなあ」
「ぼやく暇があったら探すんだね」
「どうやって探せばいいんだろう…」
「それを調べるのも試験のうち」
「とほほ・・・じゃあ、そこから調査してみようか」
「あ、あの…」
「へへへー、こういう時こそボクの出番！」
「え？なに卯月」
「あのさ、さっきから、ボクらで話をしていたんだけど」
「うん、なんだか、こっちの世界だと、自分のつかえる力を強化してくれる
風がながれてくる方向が感じ取れるみたいなの」
「それで、さっきの精霊が現れたとき、ボクにははっきりわかったんだ。
精霊力があの精霊に向かって流れ込んでいくのを」
「おねえさんは〜わからなかったけど〜」
「私も感じなかった」
「あ、あの…ですから…精霊力には…種類があるのでは…ないかと…」
「良くできた召喚獣達だね。バカ弟子、おまえにはもったいないよ。
ま、それが正解の一つだね。探したい精霊と同じ力を持った精霊、あるいは
召喚獣を使役して、精霊力の流れをつかむのさ」
「そうなんだ。じゃあ、頼むよ卯月」
「まっかせて」
「…それで、アスレイ、さっき何か言いかけたみたいだけど、一体なんだったの？」
「な、なんでもありませんわ。まったく、あなたのミスのせいで、私が
街に帰るのが遅れてしまいましたわ。さ、さっさと中位精霊を退治してくださいね」
「ああ、アスレイ、そのことだが、あたしは、他の追試の奴らの面倒をみてやらないと
いけなくてな。バカ弟子の合格認定はおまえに任せるよ」
「わかりました」
「え。アスレイが試験官なの？」
「何か問題でも？」
「い、いやべつに…」
ここで、やっと冒頭のシーンに戻る。
例によって師匠の雑用をこなしつつ、僕たちは卯月の助けを借りて
すこしずつ、炎の中位精霊の場所を特定していった。
すこしずつ、になるのも仕方がない。
精霊力がまっすぐ炎の中位精霊を向いているとは限らないんだ。
僕たちは、遮る様々な要因の影響を実地に体験して、精霊力について
体で覚えながら、この迷宮の形を把握し、モンスターを排除し、あるいは
モンスターに出会わないよう事前に回避しつつ、徐々に
炎の中位精霊の場所を特定し、逃げ道がないように包囲の輪をせばめていった。
「よし、見えるぞ…これを退治すれば、進級だ」
「それで、どうするの？普通に正面から戦って、勝ち目ある？」
「中位精霊の精霊力については、師匠から資料を借りて調べてあるんだ。
正面から戦えば十分勝てるよ。だけど…ちょっと問題があるんだ」
「ちょっと問題って？」
「逃げられたらどうしようってこと。不利になればまた逃げるだろうし
逃げてる最中に精霊力をまた吸収されたらやっかいだよ。
特に、最初に召喚した場所に逃げ込まれたら、また精霊力が回復してしまうだろうからね」
「それって、逃げるとしたら、そっちに近づくように逃げるってことにならないかな？」
「どうなのかな、ねえ、晶、どう思う？」
「私に聞かれても困る」
「え、ええと…あの……その……」
「精霊については〜やはり〜専門の人が詳しいですよね〜」
「………ええと、マキ、このあたりの地図は出来てる？」
「もちろんよ〜」
「……ええと…精霊力の流れからして…うん、ああ、そうか、そういうことなんだ。
よし、これで仕留められるはずだよ。…卯月、ちょっと頼んでいい？」
「なに？」
「結と二人で、ここへ移動してよ。炎の精霊はかならずこの通路を通って
こっちに逃げるはずだからね。逃げ出したら、結は全力で精霊を攻撃して逃がさないで」
「O.K.任せて」
「は、はい…がんばります」
「あとの３人は、僕と一緒にこっちから攻撃開始。
僕たちの攻撃で仕留めることが出来れば問題なし。
仕留めきれずに逃げ出したら、結と僕たちとで挟み撃ちだ。
これでいいかな？みんな」
「うん、いいわよ」
「いいも悪いもないじゃない。やるしかないね」
「そうね〜やるしか、ないわね」
「いちいち聞かなくてもいい。…ベストは、尽くす」
「…え、ええ……お任せ…ください……」
「よし、じゃあ、行くぞ！」
炎の中位精霊が現れた。
いや、僕たちが炎の中位精霊に向かって突撃を仕掛けてるんだけど。
「晶、まずは全体の温度を下げて」
「心得た」
炎の精霊と戦う時には、まずその高温をなんとかしなければならない。
不用意に近づくと、近づいたことで、やけどしてしまう。
炎の精霊と戦うときには、できるだけ離れて水の系統の魔法を使うべきだと
講義では習っているけど、今、水の召喚獣が１人しかいないし、当の
水の召喚獣を、待ち伏せに使っている以上、ここは水の力抜きで戦う必要がある。
そこで、応用として、晶に冷やしてもらいつつ、まどかの接近戦で打撃を与えることにする。
マキさんも離れた場所から攻撃できる取り柄を活かして遠距離攻撃だ。
召喚獣の攻撃は、純粋な物理的打撃ではなく、魔法力が加わっているから
精霊相手でも十分な打撃力になる。回復しようと暴れても無駄だよ。氷の精霊力は
水の精霊力と風の精霊力の重ね合わせだからね。火の精霊力で氷の精霊力を
消去すれば残るのは風…つまり、まどかの攻撃力を強化する方向に働くってわけ。
ほら、最初の勢いはどこへやら、下級精霊と見分けつかないほどの精霊力まで
力を失った中位精霊は、精霊力を補給するために急いで精霊力の集まっている場所〜
つまり、最初に召喚の行われた場所へと逃げ出していく。
「今だ結！全力攻撃！」
「は、はい…わかりました！」
水の攻撃魔法が逃げ出した中位精霊に襲いかかる。
ただでさえ弱っている中位精霊は、結の攻撃で完全に消滅した。
「…卯月、完全にやってる？」
「うん、ばっちりOK！これでミッション・コンプリートかな？」
「みんな、お疲れ様」
「ありがとう、みんな」
「終わってみれば〜簡単でしたね〜」
「ミスのフォローはつかれる。次からはもっと建設的な仕事を頼む」
「はうはう…いいわけできないのがつらい…」
「あ、あの……その……失敗は……成功の……母ですから……」
「どうやら、中位精霊を倒したみたいですわね」
「うん、みんなのおかげでね。アスレイ、これで合格だよね」
「ええ、そうですわね。ビルギエッタ先生がこれで合格だとおっしゃいましたから。
ですけれど、まともな召喚が出来なかった事にかわりありませんわ。
進級しても、せいぜい修練を怠らないことですわね」
「う、うん…」
「では、私はこれで」
それだけ言うと、アスレイはさっさと上に上がっていった。
そうだ、僕たちもこんなところで悠長にはしていられない
いつまたモンスターが現れるかもしれないんだから。
でも、一応は、召喚獣を使って、クエストらしいクエストを成功させたって
ことになるのかな？よーし、進級したら、もっともっとみんなと一緒に
クエストを成功させまくるぞー。
「バカ弟子、おまえ、クエスト点をいくらかせいでも、まともに召喚できなきゃ卒業できないからな」
はい、その通りじゃあるんですけどね…