召喚少女別伝
【序章】
親の形見？携帯電話で落第回避！
はぁはぁはぁ・・・・な、なんでこんな事に…
キャタピラーは襲いかかってくるわ、モスはせめてくるわ。
い、一応攻撃魔法で撃退してるけど、こんな数じゃ…え？
うわ、回り込まれてる。…突破口…っていっても
僕は広域破壊魔法なんて覚えてないや、一匹ずつつぶしてたんじゃ
間に合わないよ…どうしよう…って、悩んでても仕方ないよな。
ぴきーっ！
「来たな！これでも喰らえっ！」
キャタピラーを、僕の使える最大魔法で潰す。
だけど、これはカウンター待ちでためてたからこそ使えた魔法だ。
また詠唱してためておかないといけない…わ、背後に…なんだ？リザードだってっ！
くそ、氷結呪文…じゅ、十分には効いてない…だれか、誰か助けてっ！
『助けて、欲しいの？』
少し、時間をさかのぼらせて説明しよう。
この物語は、城塞都市ホートウィッシュにある、マグストラタム学園の
ビルギエッタ研究室から始まる。
「ああ、バカ弟子かい」
「師匠、何か用事？」
「うん、用事」
「こんどはなに？」
「おまえ、落第だって」
「へー、落第なんだ。で、誰が」
「おまえだよバカ弟子」
「えーなんでだよっ！ちゃんと成績は平均以上あるはずなのに」
「バカ弟子、おまえが専攻しているのは一体なんなんだ？」
「召喚術だよ」
「おまえが召喚に成功したのは何回？」
「…0回」
「話が終わってるだろ。ったく、前代未聞だよ特待生が落第だなんて。
ああそうそう、落第したら奨学金も打ち切りだからね」
「えー。奨学金を打ち切られたらもう学園に通えないじゃないか。師匠〜なんとかならない？」
「そうだねぇ。今すぐ召喚を成功させろ。そしたらなんとかしてやるよ」
「そんな無理を言わないでってば」
「あのな。すでに2年待ってるんだよ。あと何年待てばいいんだい？」
「うーんと…来年ぐらい」
「それじゃ卒業試験だろ。いいから、今すぐ、ここで召喚して見せろ」
「う、うん…わかったよ。ええと…」
「ほら、まず呪文の詠唱から」
「呪文の詠唱…………」
「ほう。さすがに呪文は間違ってはないね」
「…いでよ！炎の精霊」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
「あれ？」
「失敗だね」
「おかしいなあ、ちゃんと講義通りにやってるのに」
「講義通りにやったら失敗するかっ！まじめにやるきあんのかおまえは！」
「ま、まじめにやってるから召喚に一回も成功してないのに平均点以上あるんだよ」
「だから、召喚できなきゃ召喚術師じゃないだろ」
「で、でも、進級試験はまだもう少し先なんだから」
「だめだ。学園長が首を縦に振らないよ」
「なんで？」
「元々、おまえを特待生で入れるってのに無理してるからな」
「それは知ってるよ。師匠が講師になるのが条件だったんでしょ」
「わかってるならなんとかしろ。今すぐ！」
「せ、せめてヒントぐらい…」
「…そうだねぇ…ま、一年だけ猶予を与えられないこともないかもね」
「ほんと！」
「ああ、ギルドで高難度のクエストをこなせば、ボーナスが加わるかもしれないな」
「本当！じゃ、すぐにやるよ師匠」
「ああ、がんばんな。だけど、高難度のクエストは命がけだよ。わかってるのかい？」
「落第回避のためならなんでもするよ。それで、師匠」
「まだあるのかい？」
「ギルドのクエストって、何？」
「ああ、ギルドのクエストっていうのは・・・・・ちょっとまてっ！」
「師匠、どうしたの？」
「おまえ、いまさらっとひどいこと言わなかったか？」
「ひどい事って？」
「ギルドのクエストが何か知らないのかい」
「うん。学園の研修とは別なんだよね」
「はぁ…なんでこれで平均点あるのかね…。
いいかい。うちの学園が何のためにあるかは知ってるね？バカ弟子、答えてみな」
「うん。王国軍で働く剣士や魔導師や召喚術師を育成するためだよね」
「そうだ。で、王国軍ってのは、戦争以外にも仕事があるのも知ってるよな」
「もちろん！盗賊を捕まえたり、捜し物をしたりするのも王国軍の仕事だよね」
「そういうこと。で、その仕事をするのは、王国軍の兵士以外の人の場合もあるって
いうことも、知ってるよな」
「うん。王国軍の依頼を受けた人が仕事を請け負うんだよね」
「その、王国軍の依頼を受けるために登録する先が、ギルドだよ。
ギルドのメンバーになれば、ギルドのクエストを受けられるんだ」
「へー。そうなんだ。で、ギルドのメンバーにはどうやったらなれるの？」
「…ったく、おまえちゃんと講義を聴いてるのかい？
いいかい。うちの学園は、一兵卒を育ててる兵舎じゃないんだよ。
卒業したら即戦力として第一線で活躍したり、部下を戦わせたりする
将校を育ててるんだ。それはわかってるね」
「うん。…僕は、軍に入らずに研究の方を志望してるんだけど…」
「それはおまえの都合。とにかく、そういう理由で、学園の生徒は
ギルドに所属して、王国軍の仕事を請け負うことが出来るのさ。
って、そういうことは入学時のオリエンテーションで聞かなかったかい？」
「うーん…だから、僕は研究職志望だったから、よく聞いてなかった」
「研究職志望がこの成績でどうするんだい！
バカ弟子、おまえ、学園の成績だけじゃ、落第どころか放校もありうる成績だよ」
「うぅ…平均以上あるから安心してたよ」
「召喚に成功してないのに安心するな！はぁ…あたしからギルドに連絡を入れて
落第回避できそうな点数稼げるクエストを回してもらっておくよ。
…ちょっと待ってな。今紹介状を書くからね」
「うん。その紹介状をギルドに持って行って、クエストを引き受けて
クエストをクリアすれば、落第回避できるんだよね」
「いや、たぶん無理だね」
「えー、落第回避出来るっていったじゃないか」
「今日落第せずに済むってだけの話だよ。今月中に一回は召喚に成功しなけりゃ
やっぱり落第だな」
「…うぅ…ねえ、師匠？」
「なんだ」
「ぱぱっと召喚出来るようになる方法って、ない？」
「そんなもんがあったらとっくに教えてる」
「あはは・・・やっぱ、そうだよね」
「そういうこと。どんな下級精霊でもいいから、自力で呼び出す工夫しな。
…と、書けたよ。これ持ってギルドに行ってくるんだね」
「ありがとう師匠」
「ったく、仕方ないやつだね」
「それでさ、師匠」
「こんどはなんだ？」
「ギルドって、どこにあるの？」
「…………」
「どうしたの師匠」
「くぉのぶぁかでしがぁ！」
「ひえええええ」
「ギルドは王国軍の窓口だろ！北門のそばの王国軍駐屯地がギルドなんだよ。
あそこにホートウィッシュの人が依頼を持ち込むんだ。って、これは
講義を聞いてるとか以前の問題だよ。一体どんな生活してんだい」
「どんなって…学園と家を往復して、あとは生活必需品を適当に買ってるだけ…」
「はぁ…もういい、わかった。とにかくギルドに行ってきな。
精霊召喚については、また何か考えてやるよ」
「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
「ああ、気をつけな」
僕の名前は、コオル・リアロ、14歳。マグストラタム学園の2年生だ。
僕を怒ってたのが、ビルギエッタ師匠。僕がちっちゃいころから
父さんの助手として活躍してて、父さんがいなくなってからは
社会的な意味で僕の面倒を見てくれてる。
マグストラタム学園っていうのは、説明的な台詞が並んでたから
特に説明の必要はないかもしれないよね。
僕にとっては魔法を学ぶための学校だよ。
なんて言ってるうちに、もうギルドの前に来たよ。
よく見たら看板が出てるじゃないか。学園の研修で
北門はよく利用してるんだけど、あまり注意して見たことなかったな。
「ごめんください」
「いらっしゃい、クエストの依頼かい？」
「ううん。師匠からギルドに入ってクエストを受けてくるように言われたんだ」
「ギルドに入りたい？…確かに、学園の制服を着てるみたいだけど
学生証はあるんだろうね？」
「ええ、それなら持ってます。あと、これは師匠からの紹介状です」
「そうか。…紹介状は君が加入申請書を書いている時間で読ませてもらうよ。
まずは、この書類に住所と名前を書いて、注意事項をよく読んでね」
「わかりました…」
「…ふむふむ…へえ、あのビルギエッタさんの…なになに………うーむ…」
「終わりました。それで、どうしたんですか？」
「い、いやなんでもないよ。
そういえば君、成績表を見せてもらったけど、召喚が出来ない召喚術師なんだって？」
「え、ええ…今のところは」
「弱ったなぁ…ギルドでは、その人の実力に応じたクエストを紹介することにしてるんだ。
学園の生徒だったら、学園の成績と担任の評価を見てクエストを決めるんだけど
これはちょっとどんなクエストを回していいのか…
なるほど、君は召喚術師志望なんだね。攻撃魔法は基礎程度だけど
支援魔法や回復魔法はそれなりに習得してるんだ。
だけど、理論分野ばっかり高得点で実践面は平均以下が並ぶねえ…」
「…それはわかってますけど…」
「それで、ギルドのシステムについては、説明をちゃんと読んだよね」
「はい。学園生がクエストをこなすと、こなしたクエストだけ成績がプラスされるんですよね」
「そうだよ。だけど、君の場合、学園からどうしてもこなすべきクエストの指定が行われることがあるみたいだね」
「えっと、どういうことなんですか？」
「ああ、時々君みたいな子はいるんだよ。落第ぎりぎりでクエスト点がないと進級が無理って生徒が」
「そうなんですか…僕だけじゃないんだ」
「こらこら、そこで安心してもらっちゃ困るよ。
落第ぎりぎりって生徒には、学園側から、必須クエストが指定されるんだから」
「どういうことなんです？」
「簡単に言うと、必修の課題として出されるクエストだね。
こなせなかったら即落第になるんだ」
「えー！そんなの聞いてないよ…とほほ…大丈夫なのかな？」
「うーん。正直、大丈夫じゃないかもしれないね。
パーティ組む相手がいれば、なんとかなるかもしれないけど、誰か心当たりいるの？」
「クリスやレッジは手伝ってくれそうにないし、卒業したら研究職になるつもりだったから
攻撃魔法とか全然覚えてないし、そもそも召喚獣さえ召喚出来ればたとえ
実戦に出ることになっても、支援や回復の魔法さえ使えればなんとかなるしで
ほとんど準備してない…」
「そうなんだ。…うーん。とりあえず、進級した後やってもらうクエストについては
学園の方にも相談してあげるよ。ギルドとしても、回したクエストが原因で
なくなられでもしたら、大変だからね」
「ええと…死ぬこともあるんですか？」
「もちろん。モンスターや盗賊の退治なんていうクエストもあるからね」
「うわぁ…大丈夫かな」
「君の実力に応じたクエストを紹介するようにするから、それは大丈夫だよ」
「うん。じゃあ、お願いします」
「そうだね…じゃあ、また明日来てくれないかな。それまでには何かクエストを
探しておいてあげるよ」
「ありがとうおじさん」
「…この格好をしてるから、年齢とかわからないのも仕方ないけど
まだおじさんって言われるほどの年じゃないんだよ」
「あ、すいませんお兄さん…」
「そんな恐縮しなくてもいいよ。じゃあ、また明日ね」
「はい」
はー、つかれた…ギルドでクエストかぁ…大丈夫かな。
あのお兄さんはいい人みたいだし、クエストをこなせば進級させてくれるらしいけど
師匠からは今月中になんとか召喚を成功させろっていうし…どうすればいいんだよ…
「どうしたの」
「あ、ルテジア、来てたんだ」
「来てたんだ。じゃないでしょ。あんた、落第するんだって？」
「え？なんでルテジアが知ってるんだよ」
「あのね。落第予定者は学園の掲示板に張り出されるの、あんた知らないの？」
「掲示板なんて気にとめてもなかったよ」
「まったく、びっくりしたわよ。学園に薬草の納入にいったら、落第予定者の一覧に
あんたの名前が載ってるじゃない。またずっと遊びほうけてたつけが回ったんでしょ」
「そんなことないよ！成績はちゃんと平均以上はあるんだから！」
「平均以上あったら落第なんてするわけないじゃない」
「…召喚が一回も成功してないんだよ…」
「つまり、必須科目を落として落第ってわけだ」
「うん…なんとか、ギルドでクエストを受ければ今月落第確定は回避してくれるそうだけど
進級するつもりなら、今月中には召喚を成功させろって」
「召喚って、何を召喚してもいいんでしょ？なんとかならないの？」
「なんとかっていわれても、どんな下級精霊も呼べたことがないから…」
「はぁ…こりゃ、普通に退学したほうがましかもね。それか、召喚学科を止めるか」
「やだよそんなの。僕は絶対に召喚術師になって、父さんの研究成果の解析をするんだ」
「あんたの父さんも、召喚術師だったわよね」
「うん…5年前に家を出たきり行方不明だけど…」
「気持ちはわかるけど、才能がないならあきらめるしかないんじゃない？」
「また人ごとだと思って…そういえば、ルテジア、父さんが何か残してない？
ちょちょっと簡単に召喚が成功するような秘訣とか、秘宝とか」
「あるかそんなもの！地道な努力以外ないわよ！」
「そっか、…やっぱり？」
「そう、やっぱり……あれ？ちょっとまちなさい」
「どうしたのルテジア？」
「あんた、本当に、召喚術師になりたいの？」
「本当だよ。当たり前じゃないか」
「召喚術師になるためになら、なんでもやる？」
「やるよ、なんでも！」
「じゃ、まず、アタシのことはルテジアお姉さまって呼びなさい」
「え、ど、どうして？」
「じゃ、話はここでおしまいね」
「あー、まってルテジアお姉さま〜なんでもしますから〜」
「よしよし。じゃあ、ちょっと倉庫に行きましょうか」
「倉庫に？倉庫になにがあるの？」
「思い出したのよ。あんたの父さんから、アタシに託されたものがあったのを」
「託されたものって？」
「それは倉庫に行ってから」
ルテジアについても、説明はいいかな。血はつながってないけど
父さんがいたころは、僕の家で暮らしてた、いってみればお姉ちゃんみたいな人なんだ。
魔族と人間のハーフで、見た目と違って僕の倍以上の…
「痛い…」
「あんたね。こんど年の話をしたら、承知しないからね」
「うう…心で思うのもダメ？」
「ダメ」
「はうはうはう…と、倉庫についたけど、どうしたの？」
「そこに、鍵の掛かった戸棚があるでしょ」
「うん」
「その戸棚をこの鍵で開けなさい」
「あ、ルテジアが鍵を持ってたんだ。なんでこの戸棚が開かないのか
ずっと疑問だったんだ」
「あんたの父親が、あんたが、一生に一度の、大事なお願いをすることがあったら
この戸棚の中にある箱を開けなさいって、言い残してたのを思い出したのよね。
あんた、落第したら学園を退学になって、もう召喚術師への夢は断たれるんでしょ。
だったら、お姉さん、今がそのときじゃないかって思うのよ」
「そういうことがあったんだ。…と、この箱かな」
箱っていっても、そんなに大きくない。
ほこりが入らないよう油紙で覆ってある、文庫入れぐらいの大きさの木箱だ。
油紙を開けて、中を見る…
「何か書いてある紙と…あと、これは、なんだろう？」
箱の中にあったものは、ウィンチみたいに、ハンドルと紐がついているなにか。
その紐の先には、下半分にいろんなボタンがついていて、上半分には
やわらかそうな、黒い鏡みたいな部分がついている。
一体これが何の役に立つんだろう？
「まずは、紙を読んでみるべきじゃない？」
「うん、そうだね」
ええと、何々…
愛する息子よ
この文を読んでいるということは、おまえは
今一生を左右する悩みを抱えていて、どうしても手助けが必要な
状況にあるのだと思う。
残念なことに、私が直接おまえを助けてやる訳にはいかないが、この携帯電話は
必ずおまえの助けになるだろう。
以下に、おまえが今からするべき事を書いておくから、その通りにしなさい。
おまえが、希望を捨てず、努力をあきらめないなら、かならず道は開ける。
おまえの父 アデルバート
「父さん…」
「ほら、感傷に浸ってる暇があったら、書いてある通りにしなさい」
「うん…ええと、まず、このウィンチみたいなもののハンドルを3分間思い切り回せ。
ただし、力を入れすぎて、携帯電話…ああ、この下についているボタンがいろいろ
くっついているものだね…これを動かさないように気をつけなさい、か」
「よし、少年、がんばれ」
「うん」
3分後
「はー、つかれた…腕がしびれるよ…」
「ほら、次があるんでしょ。何が書いてあるの？」
「ええとね…ああ、簡単だよ。まずこのボタンを押し続けて…」
ぴぽっ！
「あれ？音がしたぞ…あ、何か黒い鏡みたいだったところに明かりがともった。
ええとなになに…明かりがともれば電源が入ったという証拠だ。
そうしたら、まず携帯電話を紐からとりはずし…ああ、取り外し方も書いてある
ここを押さえて引っ張ればいいのか。それから、書いてある通りの順番に
ボタンを押しなさい、…Callingの表示が出たら、携帯電話をこの
図のように構える…うん。上の部分にある小さな穴を耳に当てて
もう一方の下の穴が口のそばにくるようにすればいいんだね…」
『お待たせいたしました、どういったご用件でしょう』
「…このような声が聞こえたなら”すいません、契約の再開をお願いしたいので
セールスマンさんに、こちらまで出向いてもらえませんでしょうか”と声に出す」
『はい、かしこまりました。恐れ入りますが、お客様の、暗証番号をお願いします。』
「暗証番号を聞かれるので、以下の数字を口に出して伝える」
『はい、ご本人様の確認がとれました、直ちにセールスマンを向かわせますので、しばらくお待ちgください』
「ええと…」
『ぷつっ…つー・つー・つー・つー・・・・』
「セールスマンを向かわせる、という返事が返ってきたら、このボタンを押して電源を切る。
後はセールスマンが来るから、その人と話をして契約しなさい」
「…それだけ？」
「うん。それだけ。…セールスマンって、一体どういう人なのかな？」
「人間とも限らないわよ」
「もしかして、悪魔の召喚とか、そんなことなんじゃ…」
「あんたね。自分の父親がそんなに信用できないわけ」
「そ、そうじゃないけど…」
「まあ、とりあえず、居間にでも戻ってたら？いつまでも倉庫にいたって仕方ないでしょ」
「うん、そうだねルテジア」
なんだかよくわからない。
だけど、触媒で契約といえば、天使か悪魔か精霊か、はたまた召喚獣かの
どれかには違いないだろう。
もしかしたら、携帯電話って、精霊と契約する秘密のアイテムなんだろうか？
だったらいいな。そうすれば、師匠との約束も果たせるし、卒業も出来る。
「ごめんください」
「わっ！」
「あんた、だれ？」
「あ、お初にお目に掛かります。私、携帯電話のセールスマンでございますよ」
「ケータイデンワのセールスマン？」
「ハイです。このたびは、契約再開のご依頼誠にありがとうございますデスよ☆」
「契約再開？」
「ハイです！」
「ええと…僕、そんなこと頼んでないんだけど」
「いやだなあお客さんとぼけちゃって〜ちゃんとそこの携帯電話で
契約再開の依頼をインフォメーションセンターに送られたじゃありませんか〜」
「…あ、そうか。契約再開って、そういう意味だったんだ。
で、契約再開ってどういう意味？」
「簡単に申しますと、携帯電話の利用契約です」
「携帯電話の利用契約？ええと、素朴な疑問なんだけど、携帯電話って、何？」
「ハイ！待ってました。携帯電話というものなですね…」
30分後。
「…と、こういった機能を持つものなのでございますデスよ。
一家に一台、いや、1人に1台携帯電話。これ常識です☆」
「父さん…こんなの今の僕には全然役に立たないですけど…」
「それで、どういったご契約プランにいたしましょう。
携帯電話の利用目的に応じた最適なプランを検討させていただきますデスよ」
「聞いてないし…」
「ま、あんたが呼んだんだし、最後まで責任を持ってやったら？」
「とほほ…まあ、ダメもとで相談してみるか…
あの、僕は召喚術師になりたいんだけど…」
「召喚術師になるプランでございますか…さすがにそれは
お客様ご自身で努力していただくよりほかありませんけれど…」
「はは、やっぱりそうだよね」
「ですけど！我が社には通信教育も取り扱ってるデスよ。
召喚術師になるための通信講座もばっちり」
「いや、召喚術師になるための勉強ならもう十分やってるんだ」
「あれ？でしたら、一体どのような理由でご契約の再開を？」
「だから、勉強はしてるんだけど、全然召喚が出来ないんだよ…」
「つまり、召喚術師になるための勉強はされてますが、実践が
全く出来ない、と。そういうことでございますね？」
「うん、そうなんだよ。今月中に召喚を成功させないと
退学になって召喚術師になれなくなっちゃうんだ」
「退学になりましたら我が社の通信講座をどうぞ」
「そうなる前になんとかしてよ！」
「…そうでございますね…ふむ、……ところで、お客様。
失礼ですけど、召喚の基礎については、ご存じですよね」
「それは学園で勉強してるからね。召喚っていうのは、異世界にいる
精霊や召喚獣の存在を感知して、転送魔法陣を使って呼び出し
契約して使役させることでしょ」
「その通りデス☆ですけど、召喚される側の精霊や召喚獣が
何のためにこちらの世界に呼び出されて、わざわざ召喚師の言うことを
聞くのか、考えたことはありますか？」
「………全然考えた事もなかった。
師匠からは、召喚師が供給する魔力を求めてるって聞いたけど…」
「必ずしも間違いとは言えませんけど、それだけではないデスからね。
精霊や召喚獣にも心というものがあるんですから、心を通わせなければ
契約するなんて無理ですよ」
「うん…そうかも…」
「こら、あんた。そこであきらめたら試合終了よ。
あんたの父さんがなんて書いてか忘れたの？
希望を捨てず、努力をあきらめるなって書いてあったでしょ」
「希望を捨てず、努力をあきらめず、か…
ねえ、なんとかならない？精霊と心を通わせる練習が出来る方法とかないの？」
「…そうですね。そういうことでしたら、なんとか、なるかもしれないデス」
「ほんと？！」
「ですけど、これは私がすることとは違うですからね。
とりあえず、試用期間ということでご契約をお願いするデスよ」
「試用期間って？」
「じゃーん！ジュウデンキー！」
「これは？」
「ええと、コンセントはこの家にございませんかね…と、ありましたよ。
ぽちっとな」
「へえ、これコンセントっていうものだったんだ」
「ちゃんと電気は来てますね…では、まずは携帯電話の使い方について
説明書にそってご説明申し上げますです…」
さらに30分後。
「へえ、携帯電話ってそういう使い方もあるんだ。
電話を掛けるだけじゃないんだね」
「ハイ。では、ご契約いただけますか？」
「だめだよ。僕が召喚術師になるのに役立たたなかったら契約しても意味ないじゃないか」
「ですから、試用期間ですヨン。とりあえず携帯電話だけのご契約をいただいて
それから、ご卒業に向けての支援についてはまた改めてご契約いただくということで」
「うん、そういうことなら・・・でも、試用契約だよ」
「もちろんデス☆ではこちらにサインを…こちらのお姉さんもご一緒に契約書のご確認を…
では、ご契約ありがとうございます☆充電完了後、一ヶ月はご自由にお使いいただけますヨン。
では…」
そういうと、セールスマン、と名乗った人物は、消滅した。
一体なんだったんだろうこれは…。
「考える暇があったら、とりあえず充電したら？」
「うん、そうだね、充電して、出かけるときには常に持ち歩くこと、か。
卒業に向けての支援について、連絡をするのも、携帯電話を使うって話だったよね」
「そうみたいね。じゃ、アタシはもう帰るわ」
「うん、気をつけてねルテジア」
「あんたこそね」
とまあ、これが、昨日の話だ。
その後、ギルドのお兄さんに、簡単なクエストを紹介してもらった。
トビー爺さんの鉱山から鉱石を採集するっていうクエストだ。
あの鉱山は、モンスターの心配は必要ないけど、鉱石採集だから
鉱石の鑑定眼は必要だ。戦闘は苦手でも、触媒の鑑定なら
師匠の手伝いでさんざんやらされる僕にはうってつけのクエストだと言っていい。
僕は、このクエストを回してくれたギルドのお兄さんに心で感謝しつつ
鉱石を入手、鞄に詰め込んで鉱山から街へ帰ってた。
そこまでは、順調だったんだ。
ところが、モンスターが出ないはずの森に、とつぜん
芋虫の化け物キャタピラーや、その成虫モスが現れて襲いかかってきた。
僕の使える初歩的な攻撃魔法でモンスターを叩きながら逃げ回っていたけど
なぜか、やたらにモンスターが現れて僕に襲いかかる。
まるで、僕を目の敵にしてるみたいだ。一体どうして？僕が何をしたっていうんだ？
いや、それ以前に、なんでこの森にモンスターがいるんだ？
ここは、モンスターや魔物どころか、肉食獣さえ滅多に見かけないぐらい安全な森だったのに。
『助けが、欲しいの』
「助けて、誰でもいいからとにかく」
『わかったわ、みんな、行くわよ。
ねえ、キミ、私たちを召喚してくれる？』
「召喚してくれるって、どうやって？」
『え？セールスマンから聞いてないの？
だったら、今から言う番号に電話を掛けて、今すぐ！』
「わ、わかったよ…ええと999#1414213でいい？」
…now calling…
ふと、頭の中にマジックイメージが浮かぶ。
召喚獣召喚魔法陣のイメージだ。
そうか、これでゲートが接続されたんだな！
よし、今なら出来そうな気がするぞ！
「我が呼びかけに答え、我が開く扉を超え我が元に至れ！」
♪つ・ば・さ・ひろげよう〜♪〜
携帯電話から天空に光の矢が突き抜けると、空中に転送魔法陣が生まれた。
その魔法陣の中から、一匹の召喚獣が…って、あれ？
「キミ、大丈夫？」
「え、ええと…君は一体…」
「話は後、私が化け物を防いでるから、キミはすぐ
他の仲間を呼んで」
「他の仲間をって？」
「ああもう、次の番号を言うからそこに掛けなさい。
やりかたは、わかるでしょ」
「う、うん…」
中略。
「いっきなりピンチだね」
「あはは〜初体験がこんな状況じゃないほうがよかったかな〜」
「話をする暇があったら戦う」
「…あ、あの…これから…どうすれば…」
「キミ、キミが私達のご主人様、ってことになるんでしょう。
それだったら、私たちに指示を出して」
「う、うん…」
何がどうなったのかよくわからない。
わかるのは、獣耳のコスプレで武装した、5人の女の子が
現れた、ってことだけだ。
だけど…僕だってマグストラタム学園の生徒だ。
モンスターとの戦いも、理論だけならちゃんとわかっている。
「だれか全体攻撃魔法使える人はいない？」
「…あ、あの…私なら…」
「全体攻撃魔法をあそこのキャタピラーの集まってるところに打ち込んで」
「は、はい…わかりました」
「ボクはなにをすればいいの？」
「ちょっと待ってて…ええと、君…」
「私は、君じゃなくて、まどかって名前があるから」
「じゃあまどか。まどかはあのリザードをお願い」
「うん、わかった」
「それから…」
「ボクは卯月だよ」
「卯月はまどかと一緒にリザードを攻撃して」
「OK!まかせて」
「私は何をすればいい」
「ええと…」
「晶だ」
「晶は…」
「そっちの頼りなさげなのが結」
「結には全体攻撃魔法を連続で使ってもらうから、晶は結の護衛を」
「心得た」
「はーい、マキさんは何をしましょうか〜」
「回りを見張っててよ。僕は、みんなが怪我をしたらすぐ回復魔法を掛ける」
「はい〜では〜お願いしますね〜」
これで、いいかな？…ていうか、みんな強い…あっという間に
あれだけの化け物を退治していくよ。…あ、卯月が怪我したみたいだ
すぐに回復魔法を掛けなきゃ…と、こんどはまどかか。
あのリザード、普通じゃなく強いぞ。…通常打撃が効かないのか。
「卯月！気功を使うんだ。そうすればやっつけられる！」
「気功？…あ、わかった、こうするんだね。いやぁーっ！」
よし、打撃が抜けるようになったぞ。
「…あ、あの…」
「こいつは手強い。魔法を使っても避ける」
「え？そうなんだ…ええと…こういうときには、確か講義であったぞ…
…そうだ、誰か相手を打ち上げる技を持ってないかな？」
「私が持ってるわ」
「よし、じゃ、まどか、あいつにライズシュート。で、
浮いたところをマキと晶と結で一斉攻撃を加えて！」
「うん、わかった」
「お姉さんに、おまかせあれ〜」
「心得た」
「は、はい…」
ライズシュートで打ち上げて、マキさんの鞭で弱点をさらけだしたら
弱点に向けて晶の一撃を加え、とどめに結の全体魔法で複数ポイント総攻撃！
やった、倒した、…どうやら、モンスターを壊滅させたぞ。
す、すごい…なんてすごいんだ。
「ありがとうみんな、おかげで助かったよ」
「お礼ならいいわ。…ううん、今から、私たちが、キミを手伝うんだから」
「てかまどか、こいつがボクらの召喚主になるわけ？」
「うふふ〜お姉さんは〜歓迎しちゃうわよ〜」
「ここで話すのは無駄、まずは帰る」
「え、あの…お姉ちゃん…この人…状況が飲み込めて…ないような…」
「ハイハイ、皆さん、お疲れ様でした〜」
「わ、出たー」
「なんですか、人を化け物みたいに」
「セールスマンさん…だったよね」
「ハイです。なんとか、間に合ったようで何よりです」
「間に合ったようでって？」
「場所が場所ですから、簡単にご説明申し上げますと
当社の方で召喚獣の斡旋をさせていただきました」
「召喚獣の斡旋って？」
「ですから、お客様の方で直接召喚獣とのご契約が難しいようでしたので〜
当社と契約している召喚獣を、お客様のサポートに派遣する、ということに
したんデス☆いやー、集めるのに苦労しましたデスよ」
「…ええと、よくわからない」
「詳しくは、契約書の方をお読みいただければOKですよん」
「ええと…つまり、携帯電話で連絡を取って、この5人の誰かを
サポートに召喚するってこと」
「ハイです。まずは、ここから召喚獣と心を通わすことについて
練習なされるとよろしいかと」
「卒業までだけど、よろしくね」
「なんか頼りないけど、ま、しゃーないか」
「動物も〜慣れると可愛いですよ〜」
「難しく考えるな。まともな召喚が出来るようになるまでの練習」
「あ、あの…これから…よろしく…」
「…で、契約目的が、卒業までの各種サポートで、契約期間が卒業まで、と。
で、契約料が…って、こんなにするのーっ」
「１年分一括払い、携帯電話の使用料込みですから」
「とほほ…こんな大金持ってないよ」
「嘘おっしゃい。この依頼の契約料とぴったりでしょ？」
「ううう…そんなことまで調べてるのね」
こうして、僕と、５人の召喚少女との、一年間が始まった。
僕の一生を変えたかもしれない、一年が。