あるピクニックの風景
♪おか〜をこ〜え〜ゆこ〜ぉよ〜♪
五月の風が気持ちよいある晴れた日。
こんな日は家の中でじっとしていると
何か損をした気分になる。
アイラ達も例外ではなく、丘の上までピクニックに出かけることにしたのである。
「なあ、あとどれだけ歩いたら目的地なんだ？」
「この調子ならあと一時間でつくわよ。
ちょうどお昼どきになるわ」
「・・あと一時間ですか」
「なによフラッシュ、そのたいぎそうな言い方は」
「・・・フラちゃんみんなの荷物を持ってるから・・」
「みんなのじゃないわよ、 フラッシュが持ってるのはお弁当だけ」
「でも、みんなのお弁当ですよ。フラッシュさん少し持ちましょうか？」
「 カタンさん、大丈夫ですよ」
「そうそう、お茶の道具はイルミーが持ってるし、各自で使う物は
ちゃんと各自分担してるんだから。
それよりカタン。なんであんたそんな大荷物持ってきてるのよ」
「あ、これは図鑑なんです。せっかく外に出たんですから」
「せっかく外に出たんだから、むしろ本なんて置いてくる方がよかったと思うぜ」
「そうそう、本の中の絵なんて見てないで、実物見なきゃ」
「ええ、まあ・・・そうですけど。
珍しい薬草なんかもあったらいいなあ・・って」
「案外実利主義なのね」
「 い、いえそういうわけでは・・・」
「ああっ、アッシュ、そんなに先に行ったら危ないですよ！」
「へ〜きへ〜き」
「アッシュ、このあたり毒蛇もでるわよ」
「んなわきゃないって」
「マムシはいてもおかしくないですね」
「げっ」
アッシュはあわてて一同の元へ帰ってくる。
「なによその態度の差は。
あたしが言ったときには信用しなかったくせに」
「 まあまあ、細かいことは気にしない。
それよりこの風、気持ちいいじゃない」
「ほんと、いい風ね」
「・・うん、うん、よ〜しもっと景気よくいこっ！」
「ちょ、ちょっとフェイ、まってくださ…」
びゅぉー
「 きゃ〜っ」
「フェイ、こりゃ五月の風じゃなくて台風だろ」
「台風じゃなくて春の嵐よ」
「こういうときに火がでたら山が丸ごと燃えるんだよな」
「アッシュ、だからって火をつけるなよ」
「・・・お花さんかわいそうなの」
「 ピア様のお言葉通りですよ、フェイ」
「は〜ぁい」
ぴたっ
「はあ・・・」
こんな調子で山道を登っていくと、やがて一同は見晴らしのよい高台にでる。
「さあ、ついたわよ」
「おお、やっとついたか」
「メリル、あんた今までどこにいたのよ」
「そのかごの中じゃ」
「あたしのあんたも自力で歩きなさいよね」
「歩いたらとてもではないがついていけぬわ。
飛んで行くなら話は別じゃがの」
「じゃ、飛んでけばいいでしょ」
「飛んでいっとったら、フェイの起こした風で
吹き飛ばされておるわ」
「メリル、それじゃまるでアタシが風を起こすことを知ってたみたいじゃない」
「そのくらい見当はつくわ」
「そうそう、だてに長生きしてないもんな」
「ルシエル、お主もう少しは年長者を敬う気持ちがあってもよいぞ」
「俺は若者専門なんでね。
というわけでアイラ・・」
「若者専門ならピアの相手をしてたら？」
「俺はロリじゃないからな。
俺としては・・・あれあれ、アイラは？」
「小娘ならもうピアのところへ行ったぞ。
ルシエル、お主もう少し観察力を磨く事じゃな」
さてピアはというと、草むらの中にしゃがみ込んで
一心に何かを見つめている
「わあ、お花さんがいっぱい」
「花？花ってどこに？」
「アイラちゃん。ほら、ここ」
「・・・花？」
「オオバコの花ですね」
「 カタン、あんた一体どこからわいてでたのよ」
「さっきからずっとピアさんと一緒にいましたよ」
「あ、そ。で、なんでピアがここにいるのにフラッシュがいないのよ」
「フラッシュさんならイルミナさんとお弁当の準備をしてます」
「あんたは手伝わないの？」
「ぼくは準備が終わるまでピアさんと一緒にいるように頼まれたんです」
「あ、そ」
『みなさ〜ん、お弁当の準備ができましたぁ』
「出来たみたいね。ピア、カタン、お弁当にしましょ」
「はい」
「うんっ☆」
野にゴザを広げてみんなでお食事。
とはいえ食事が目的ではない分料理も簡素に
ハムのないサンドイッチにイルミナのお茶だけである。
「その”ハムのない”ってのをわざわざ強調しなくてもいいじゃない」
「小娘、事実だから仕方ないじゃろ」
「 メリル、でも味はしっかりしてるぜ」
「キノコをうまくつかっておられますね」
「これが生活の知恵よ」
「 今度教えて頂けませんか」
「いいわよ、イルミー」
「なあ、アイラ」
「なにアッシュ？」
「いつあの山は噴火するんだ。
俺楽しみにしてたんだ」
「噴火しないわよ！一体どこからそんなこと聞いてきたの」
「♪あか〜い火を噴くあっのやっまへ〜♪
って歌もあるぐらいなのに」
「アッシュさん、登山列車で登る山ですよ。それは」
「ちぇっ、じゃ今度は登山列車で登る山に行こうぜ」
「アッシュさん、一番近いところでもここから１００Ｋｍは離れてます。
旅行するとなると一週間ぐらいかかりますよ」
「馬車や汽車使えばそんなにかからないだろ」
「馬車や汽車なんて使うお金がどこにあるのよ」
「ちぇ〜え、フラッシュ、一週間ぐらい休んで出かけようぜ」
「だめです！一応は仕事でこちらに来ていることを忘れてはいけませんよ」
「フラッシュ、これも人間界の勉強だろ」
「人間社会の勉強がいるんですよ」
「なら俺はちゃんと毎日人間社会の勉強してるんだから
すこしぐらい休んだっていいんだろ？」
「お主の勉強は偏りすぎじゃがな 、ルシエル」
「そんなことないだろ。ちゃんと人間の半分の・・・」
「幼女とおばさんは守備範囲外なんでしょ。ルシエル。
半分どころかごく少数じゃない」
「おばさんは守備範囲にちゃんと入ってるぜ」
「あ、そ」
「ところで、カタン」
「あ、はい、何ですか？」
「万年雪、ってどこにあるんだ？
俺それが見てみたいんだけどさ」
『・・・・・・』
「な、なんだよみんなその目は」
「ルシエルちゃんとアッシュちゃんって本当はよく似てたんだ・・」
「ピア！あんなナンパ野郎と一緒にするな！」
「そうだ、あんなお子様となんで似てるんだ」
「ふえ、で、でも、二人ともないものを捜してる・・」
「火山よりは万年雪の方がありそうじゃないか」
「万年雪より火山の方が楽しそうじゃないか」
「ふええ・・・」
「二人ともピア様をおびえさせるんじゃ有りません！」
どんがらがっしゃ〜ん
「・・・フラッシュ、今回は許すわ」
「あらあらピアさん、どうしました」
「ふぇ〜ん、フラちゃんが怒ったぁ」
「フラッシュ、どうやらお主が泣かせたようじゃな」
「そういえば二人の手当はしなくていいんですか？」
「じょぶじょぶ、ここは自然の力が強いから
しばらく寝かせておけば自然に回復するわよ」
「そうなの、精霊って強靱なものなのね」
「その代わりに自然の力が弱いところでは生きてゆけぬわ
何事も善し悪しじゃな」
「医者がいらないならそれだけでももうけものよ」
「がめついのぉ」
「生活がかかってるのよ」
「あ、そういえば薬草集めはどうするんです？」
「ん〜っと、パス。
それよりしばらくはここでこうしてのんびりしてましょ。
この景色は値千金じゃない。ばたばた動き回るのってもったいないわよ」
「・・・・ほんとうにそうですね」
「お茶はどうですか？」
「あ、ありがと、イルミー」
「俺にも一つ頼むわ」
「あ〜抜け駆けはずるいぞ」
「あれ？もう回復したの」
「そりゃ君のためならたとえ火の中・・・」
「ルシエル、なら一つ火をつけてやろうか？」
「アッシュ、今のはもののたとえだって」
「あの、みなさん、クッキーいります？」
「カタン、どうしたのよ、そのクッキー？」
「図鑑のほかにも持ってきたんです」
「なんか不揃いねえ、黒こげのもあるし」
「すいません、本をみて作ってみたんですけど・・
初めてで上手くいかなくて」
「作ってみるだけでもたいしたものよ。
じゃ、しばらくお茶にしましょ」
『さんせーい』
不格好で不揃いのクッキーを茶菓子にしてのお茶会。
そこにあるのは他愛のない話題と気持ちのよい風。
あるピクニックの風景。