激闘のインターミッドから一日経ちました。
コーチのノーヴェさんから、今日は道場がお休みで、完全休養という話をもらいましたけれど
学校はお休みではありません。

「コロナちゃん、TV見たよ、すごかったじゃない。いつのまにあんな実力身につけたの」
「いつのまにって……結局負けたからすごくないよ」
「結局負けたって、時の運ってところまで行ってたじゃない。紙一重だよあんなの。
　戦った相手って、あのアインハルト先輩だよね。今まで秒殺で勝ち上がってきてた。
　それを第３ラウンドまで戦ってあそこまで追い詰めたんでしょ」
「追い詰めたって言うか……」
「また〜謙遜するんだから〜」
「あはは、普段とのギャップがすごかったもんね、コロナは」
「そういうリオも砲撃番長のハリー選手相手に1ラウンドで負けたとはいえ結構いい勝負してたよね。
　そういえばハリー選手からサインもらったんだって、見せて見せて」
「いいよ、はい、これ」
「うわーいいな〜、こんど私にもサインもらってきてよ」
「もらってきてって……また会うことがあったらな」
「ほんと、じゃ、私にも〜」
「いいの、リオちゃん、安請け合いして」
「まあ、会うことがあればだし、そう簡単に会う機会もないと思う」
「ま、そうか、あうとしても次のインターミッドの試合で、当たればだよね」
「そのときには勝てるように練習しないとね」
「向こうも簡単には負けてくれないだろうなあ……」
「あー、もう来年に向けて特訓の思案なんかしてる。さっすがエリートクラスに入るような天才は違うよね」
「ふふ、そうですわね」
「あ、出た、判定の神様エミー」
「それはどういう意味なのかしら」
「あれ？　しらないのかエミー、ここまで全部判定勝ちって珍しい勝ち方してるから、解説まで判定の神様呼ばわりしてるんだぜ
　エミーのこと」
「そうなのですか。それは知りませんでしたわ。インターミッドの上位の常連の方は、インタビューなども受けることがあるようですけれど
　私のような新人では、それもありませんものね」
「次勝てばいやでもインタビューを受けるようになるよ、エミーちゃんも」
「そうかもしれませんわね」
「きっとそうだよ」
「ふふ、インタビューの心配より、次の試合の心配の方が大事ですけれどもね」
「それは当然だけど」
「でも、それより先に授業ですわ。そろそろ休憩時間も終わりますよ」
「おっと、いけない、急がないと」

インターミッドが終わっても、授業が特別変わるわけではありません。
インターミッドの途中でも、とりたてて授業が変わったわけではないのと同じです。
でも、もうインターミッドの次の対戦のことを考える必要は、なくなったんです。
次の対戦相手とどう戦おうとか、インターミッドの特訓で新しい技を編み出そうとか、そんなことを短期に考える必要は、もう、ないんです。
あるとしたら来年のこと。来年を見据えるなら、もっと長期の基礎体力とか、魔力向上とか、そんな基礎からやりなおす必要があるはずです。

……今年は、終わったんだって、そんなことを実感します。
エミーちゃんや、アインハルトさんのインターミッドは終わってないんですから、応援はしないといけないんですけど、けど
私のインターミッドは、もう、終わったんです。

放課後がやってきます。

「せっかくの休みだし、どっか出かけようか。また明日から道場通いなんだし」
「どっか出かけようって、どこか行くところあるの？」
「街にでも出かけようかなって」
「街にって、リオちゃんどういう風の吹き回し？」
「なんだよ、あたしが街に出かけちゃおかしい？」
「ううん、そんなことないけど、……そういえば、ここ2ヶ月ずっとインターミッドの特訓で、道場にこもりっぱなしだったよね」
「そうそう、街に出ることもなかったし、本も読まなかったし、だから気晴らしにいろいろぶらぶらしよう」
「うん、そうしようか」

とりあえず街に出てアイスクリームを買いました。

「知ってる？　アイスクリームって食べてもあんまり太らないんだって、ソースはスバルさん」
「スバルさんじゃ参考にならないよ、食べただけ運動してるもん」
「あはは、そうかも」
「どこか行きたいところある？」
「本屋さん、新刊チェックが出来てなかったから」
「そっか、じゃつきあうよ」
「うん、お小遣いの範囲で選ばないと……」
「立ち読みは今回禁止だからね。買って帰ってから読むこと」
「はーい。時間の節約だね」
「そういうこと」
「じゃ、タイトルで厳選しないと」

一時間後。

「えーと、えーと」
「タイトルで厳選しても時間かかるなあ」
「お小遣い少なめだからどうしてもほしい本だけ買わないと」
「でも、結構な量になってるよ」
「そうかな、2ヶ月かけて読むには適当な量だと思うよ。私、ゲームとかやらないから」
「そっか、ゲームをやらないんだったら適当な量かも」
「すいません、お願いします」
「はい、ありがとう」
「ごめん、長い時間つきあわせたね。じゃあ、次はリオちゃんの好きな場所に行こうか」
「好きな場所って……別に行きたい場所があるわけじゃないからいいよ。
　公園に行ってベンチにでも座ってようか」
「うん、そうしよう」

夏といっても、もう夕暮れです。本当は子供は帰る時間なのかもしれませんが、歩き疲れたので
少し休んでから帰ることにします。

「あー、なんかこうしてると普通の小学生みたい」
「リオちゃん、それじゃ私たちが異常な小学生みたいだよ」
「ちょっとは異常な小学生じゃないか。ハリー選手が言ってたけど
　10歳でインターミッドに出るのは、ちょっと普通じゃないかとは思う。
　本当はもう少し練習して、中等部になるぐらいで出場するものなんじゃないかな。
　……勝ち進むには、もう少し、早すぎたのかな、あたしたち」
「……経験が、足りなかったのかな」
「経験は足りなかったよな」
「今度のことが経験になったら、もっと勝てるかな」
「勝てるだろ、たぶん。ヴィヴィオが負けたのだって、経験不足なんだし」
「ヴィヴィオちゃんだって負けるぐらいなんだし、勝負は水物だよね。
　エミーちゃんは勝ち進んだけど」
「……そうだな。……」
「……勝ちたかったよね」
「……勝ちたかったな。けど、これが今の実力だってのを認めないと。
　受け入れないと。受け入れなきゃ。認めなきゃ。……悔しいけど。
　……悔しいけど……悔しいんだけど……」
「……うん……悔しいけど……受け入れないと……受け入れた上で……
　……次の一歩を踏み出さないと……強く……なれないよね……」
「なくのは今日で終わりにしようぜ。明日からはまた練習だ。
　来年は、世界に行こうぜ。……なあ、あたしは何が足りなかったと思う？」
「直接の敗因は遠隔砲撃魔法の直撃に対する防御が出来なかったことと
　接近戦に持ち込んだ時に一撃で決めきれなかったことだと思う」
「接近戦の攻撃力と砲撃戦の防御力だな、リオの敗因は自分でなんだと思う？」
「なんで私は自己分析なの？」
「頭脳労働はあたしの仕事じゃないんだよな……冬美の奴がいれば
　的確な分析をしてくれると思うんだけど……むしろ敗因は器用貧乏かなあ
　ゴーレムしか使えないどころか、技は多彩すぎてどれが決め手っていうのが
　なかった気がする」
「もっとゴーレムマイスターとしての腕に磨きをかける必要があるってことですね」
「その方がいいような気がするぜ。少なくとも、アインハルトさんは覇王拳一本で来てるし」
「エミーちゃんやヴィヴィオちゃんは多彩すぎてどんな技を使ってるのかよくわからないですよ」
「天才のマネはしないほうが吉だろ」
「そうかもしれないね」
「日も暮れたし、そろそろ帰るか」
「そうだね。帰ろうか」

明日からは、来年のための練習。そして、アインハルトさんとエミーちゃんのための応援が待ってます。

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