めりかるうぃっしゅ
〜こんなはずじゃない未来なの〜
私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオだよ。
あれから一週間ぐらい経ちました。今日は冬美ちゃん、月光ちゃんが
うちに遊びに来てるんです。
「でも、エミーの奴、結局転校しちゃったんだよな。
ヴィヴィオ、なんでおまえ引き留めなかったんだよ」
「えっとね、エミーちゃん、裁判があるから本局に帰ったんだよ」
「それは知ってるっての。けど、裁判の結果がどうあれ、こっちには戻ってこないんだろ」
「冬美ちゃん…その理由は、前にエミーちゃんから聞いたと思うよ」
「そうだったっけ？」
「うん… 聖王になるお勉強は、ここじゃできないから、って…」
「それで、裁判の後、エミーはどうなるんだ？」
「えと、フェイトママが言ってたけど、状況はフェイトママと同じだから
フェイトママみたいに、保護観察で、新しい保護者の所にいくだろうって。
ユーノパパが、エミーちゃんの保護担当になる方向で話を進めてるって聞いたよ」
「なんでユーノおじさんなんだ？聖王を目指すんだったら、カリムおばちゃんだろ」
「えとえとえと、カリムおばちゃんは聖王教会の長だから、普通に聖王教会の
後継者を目指すんだったら、カリムおばちゃんのところで修行するんだけど
エミーちゃんの目指す聖王は、それとは違うんだって」
「どんな風に？」
「エミーちゃんは、こんなはずじゃない未来を変える力を目指してるんだって。
だから、未来を知る力を身につけるために、まず、未来を見通す力が必要だから
無限書庫を自在に操る訓練をするんだって言ってたよ」
「無限書庫って、巨大図書館だろ。そんなもの自在に操ってどうするんだよ。
だいたい、そんな巨大図書館だったら、目録を作るだけで、一生かかっちまうだろ」
「うん。だから、ユーノパパは、検索魔法の精度を高めて、整理されてない
無限書庫の中から、必要な情報を取り出せるようにしてるんだよ。
無限書庫って、無限書庫自身がで情報を手に入れる毎に自分流に情報を再配置してるから
普通に整理しても、一週間もすれば元の木阿弥なんだって」
「そこは人手を増やして対応すればいいじゃねーか」
「人手を増やしても、検索魔法が使えるのはヴィヴィオとユーノパパだけなんだよ。
ヴィヴィオは、一度見た魔法が使えるから、 ユーノパパの魔法も使えるけど
普通の人は、パパの魔法使っても、うまく情報が出せないんだって」
「エミーちゃん…検索魔法が使えるようになるかな…」
「大丈夫だよエミーちゃんなら。エミーちゃんだって聖王だもん。
ユーノパパの魔法ぐらい軽く覚えちゃうよ、きっと」
「だといいけど…」
「…なあ、ヴィヴィオ」
「なに、冬美ちゃん」
「検索魔法って、そんなに難しいのか？」
「全然☆ヴィヴィオは簡単に覚えたよ」
「いや、ヴィヴィオは別格だろ」
「捜索魔法だけなら、シャマルおばちゃんだって得意だよ。
だけど、無限書庫の検索魔法はうまく使えないんだって」
「ユーノおじさんが、凝った魔法を開発したんじゃねーのか？」
「そんなことないよ。なのはママだって、最初はユーノパパの魔法を覚えたんだよ。
ユーノパパの魔法って、正統派のミッドチルダ式だから、すっごく覚えやすいって言ってた。
誰でも使える汎用性の広さが、ミッド式の特徴なんだって」
「じゃ、なんで検索魔法がユーノおじさんしか使えないんだ？」
「わかんない。ヴィヴィオにしか使えないっていうんなら、理由は簡単なのにって
ユーノパパが言ってたけど」
「どんな理由だよ」
「無限書庫もロストロギアなんだよ。だから、特定の鍵を持った人物でないと
無限書庫が使えないようになってるんじゃないか。一般の人も、機密度の低い情報には
アクセスできるけど、無限書庫自身が機密情報指定している情報は、一般の人には
アクセスできないようになってるんじゃないか、そういう仮説を立ててるみたい。
だけど、ユーノパパが普通に機密情報にもアクセス出来るんじゃ、この仮説は間違ってるって
ユーノパパが言ってたよ」
「…ねえ、ヴィヴィオちゃん」
「なに？」
「ユーノおじちゃんって、スクライア一族っていう、特別な一族だよね」
「うん、そうだよ。けど、ユーノパパは、本当にスクライア一族かどうかは不明なんだって。
キャロお姉ちゃんと一緒で、スクライア一族に拾い上げられた孤児だっていってたよ」
「ヴィヴィオちゃんも、…なのはおばさんと、血のつながり、無かったよね」
「うん、そうだよ。ヴィヴィオは聖王のクローンなんだって。
元の記憶の一部がプレシアおばあちゃんで、残りは…よくわかんない」
「…それって、もしかして、ユーノおじちゃんが聖王なんじゃないのかな？」
「もしそうだったら、ユーノパパが、無限書庫でそういう証拠を見つけてるよ〜」
「そうかもな。…けど、スバルさんから話し聞いたぜ。
ヴィヴィオ、すげー活躍したんだろ？お菓子屋さんなんか止めて、格闘家を目指したらどうだ。
あのさ、ヴィヴィオ、言いにくいんだけど、このクッキー、おまえが焼いたんだろ？」
「そうだよ冬美ちゃん。始めてヴィヴィオが1人で作ったクッキーだよ。
なのはママがヴィヴィオ用にオーブントースター買ってくれた記念だよ」
「けど、なんかこれぱさぱさしてるぜ。なんで戦闘は見ただけで出来るようになるのに
お菓子作りは見たとおりに出来ないんだよ」
「えー、だってお菓子は、生き物だもん。決まり切った魔法とか相手の動きにあわせて
技出してるだけの格闘なんかより難しいんだよ」
「…ヴィヴィオちゃん、さすがにそういう言い方したら冬美ちゃんにわるいよ」
「…あ、ごめん、冬美ちゃん」
「いいよ、ヴィヴィオが戦闘の天才なのはわかったからさ。けど、スバルさん、ヴィヴィオの
せいで大変だっただろ」
「スバルおねえちゃんだけじゃなくて、管理局の人たちはみんな大変だったみたい」
「あ、あは、あれは…ちょっと、ヴィヴィオも、やりすぎたかなぁ…って思ってる…。
けど、あれぐらい早く動かないと、エミーちゃんには対抗出来なかったんだよ」
「ヴィヴィオの飛行魔法の衝撃波で、海鳴市のあちこちで窓ガラスがわれちまったんだぜ。
けが人だって一杯出たじゃないか。今でもあっちこっちで、ガラスの修理してるだろ」
「う、うん…リンディおばあちゃんも、次元航行艦が二隻も沈んじゃって大変だって言ってた…」
「けど、冬美ちゃん、ヴィヴィオちゃんだって、悪気があったわけじゃないんだし、それに
あのときにはあれぐらいがんばらないと行けなかったんだから…」
「わかってるって。涙目になんなよヴィヴィオ、べつに責めてるわけじゃないし」
「うー、クッキーが上手に焼けなかったよぉ」
「悩みはそっちかよ」
「うん。ヴィヴィオはパティシエさんになるんだから、戦闘のエキスパートになれなくてもいいもん」
「それじゃスバルさんだって、レスキュー隊員だから、戦闘はなおざりでいいってことになるだろ」
「スバルおねえちゃんは、悪漢から助け出すレスキューも必要なんだよ」
「そりゃ、スバルさんは特別だからな。けど、普通のレスキュー隊員は、悪漢と戦ったりしないぞ」
「スバルさんは、しばらくこっちにいるんだよね」
「うん、月光ちゃん。スバルお姉ちゃんも、ティアナお姉ちゃんも、エリオおにいちゃんも
キャロおねえちゃんも、事後処理が終わるまではこっちだよ。
でねでねでね、フェイトママとはやておねえちゃんは、当分こっちで暮らすんだって。
はやてお姉ちゃんは、また海鳴市に家を買うんだって言ってたよ」
「はやてさんは、管理局で仕事があるんだろ。一体なんでこっちで暮らすことになったんだ？」
「うーんと、ヴィヴィオも難しいことは知らないんだけど、聖王降臨の地の巡礼希望が
殺到してるんだって。だから、巡礼を受け入れる準備のために、第97管理外世界出身者が
対応するんだって話だよ。フェイトママはミッドチルダ人だけど、こっちでの生活経験がある
執務官だから、こっちに住むんだって」
「はやておねえちゃんも、こっちで暮らしてたんだよね」
「うん、そうだよ。なのはママとも幼なじみ〜」
「そうなったら、この店も忙しくなるよな」
「うん、フェイトママとなのはママの二人がいても大忙し〜」
「ヴィヴィオちゃんも、早くお店のお手伝いが出来るようにならないとね」
「うん、ヴィヴィオ、早くパティシエさんになってお手伝い出来るようになる〜」
『我が主、なのはさんからです。冬美さん、月光さんともども、翠屋の店内で
お昼をどうぞ、ということだそうです』
「………」
「ヴィヴィオ、どうしたんだ？浮かない顔して」
『我が主、覚悟を決めてください』
「う、うん…ライチェントゥークス…」
「どうしたのヴィヴィオちゃん？なにかわるいことがあったの？」
「え、う、ううん、べつにそうじゃないけど…」
「冬美ちゃん、そろそろお昼から、帰ろうか」
「そだな、ヴィヴィオ、じゃ、一旦お昼だから帰るわ」
「あ、ちょっとまって、冬美ちゃん、月光ちゃん、そ、その…なのはママが
お昼を用意してあるから、翠屋のお店の方に来てって」
「じゃ、ヴィヴィオも来いよ」
「え、えと、ヴィヴィオは後で…」
「なにおびえてるんだよ。いーからこいって」
「あうう…」
「ヴィヴィオちゃん、翠屋の店内に何があるの？」
「お店にはべつになにもないんだけど…」
引きずられるようにして、ヴィヴィオは翠屋の店内へと連れて行かれます。
予約席、という看板が立てられた場所には、もうオムライスが３つ並べられてます。
店内は満員。フェイトママやなのはママのウェイトレス姿を見たいという
いつもの巡礼客ばかりではなく、海鳴公園から、ヴィヴィオとエミーちゃんが戦闘をやった
海を拝みに来た、敬虔な聖王教徒の人が多いのが特徴です。
「…へー、オムライスか、けど、なのはおばさん、本当にもらっていいんですか？」
「いいよ、ヴィヴィオも、1人で食べるんじゃ、寂しいだろうからね」
「ヴィヴィオちゃん、どうしたの、手が震えてるよ」
「ヴィヴィオ、自分で言ったことには、責任持とうね」
「えらいよね、ヴィヴィオは。もう、ママのオムライスにピーマンが入ってても食べられるもんね」
「へー、ヴィヴィオ、ピーマンが食べられるようになったのか？それはすごいな」
「…ちょっと、ヴィヴィオちゃんのこと、見直しちゃった」
「え、ええと…べ、べつにヴィヴィオ、ピーマンが食べられるようになった訳じゃなくて…」
「けど、ピーマンが入っていてもママのオムライスだって言ったんだろ？」
「おじいちゃん…なんかそういう事を言ったような気もするんだけど…えと…
あれはその場の勢いっていうか…」
「けど、ピーマンが入ってないとママのオムライスじゃないんでしょ」
「…う、うう…そうは言った気がするけど…どうしてあんな状況で
オムライスの話なんて覚えてるのぉ…」
「それだけ、なのはが、ヴィヴィオの事を大切に思ってるってことよ」
「ううぅ…桃子おばあちゃんまで…」
「全部食べられたら、あとでママがキャラメルミルク作ってあげるからね」
「ママ〜キャラメルミルク人質に取るのずるい〜」
「…なあ、ヴィヴィオ、おまえなんでキャラメルミルクにそんなこだわりがあるんだ？」
「そんなこだわってるかな」
「こだわってると思うよ、ヴィヴィオちゃん」
「そっかな。普通じゃない？」
「いや、絶対普通じゃないから」
「それより、ヴィヴィオちゃん、熱いうちにオムライス食べた方がいいよ。
さめてからじゃ、なお食べにくいよ」
「そうだな。ヴィヴィオもそろそろ覚悟決めろよ」
「う、うううう…」
なんだか、期待に充ちたまなざしが突き刺さります。
どうしてオムライスを食べるだけのことで、こんなに注目されなければならないんでしょうか。
『それだけ、みんなが我が主の事を気に掛けているのですよ』
「気に掛けなくてもいいのに…」
『愚痴をこぼしていても、オムライスが冷めるだけです、我が主』
「う、うん…」
オムライスを出来るだけちっちゃくスプーンですくって、ぱくっと飲み込みます。
どんどんどん。
「ほらヴィヴィオ、噛まずに飲み込むとのどに詰まらせるよ」
「うう…やっぱり、噛まないとダメ？」
「ダメ」
「はうう…」
「ったく、よくこれで将来の夢がパティシエさんなんて言えるよな」
「冬美ちゃん、それは言い過ぎ…」
「…わるかったよ、ったく、ゲッコウはヴィヴィオに甘いな」
「それじゃわるかったって言ったことにならないよ冬美ちゃん」
「もう立ち直ったのかよヴィヴィオ。立ち直ったんならきちんと食えよ」
「う、…やなこと思い出した…」
「あのね、ヴィヴィオちゃん。好き嫌いをなくすには、楽しいことと
嫌いな食べ物を結びつけたらいいんだって。
ヴィヴィオちゃんも、ピーマンと、何か楽しいことを結びつけたら？」
「うー、ピーマンと関連する楽しいことなんて全然ないよぉ」
「なあ、ヴィヴィオ、なんでパティシエさんになりたいなんて言い出したんだ？
サンクト・ヒルデで魔法を勉強してたんだろ」
「…えと…」
「ヴィヴィオ、ママがいないほうがいいはなし？」
「え、んと、べつにそういうわけじゃないけど」
「いたほうがいいわけじゃないんだ。じゃ、ママはお仕事にいくけど
御飯はちゃんと残さずに食べないと、キャラメルミルクはなしだからね」
「えー」
「私も、お仕事に戻るからね、あとよろしく、ライチェントゥークス」
『かしこまりました、フェイトさん』
「…いっちゃた、…ねえ、冬美ちゃん、なのはママには黙ってピーマン食べてくれない？」
「そんなずるしちゃだめだろ。フェアプレイでないとな」
「ううう…」
「それで、ヴィヴィオちゃん。どうしてパティシエさんをめざしたの？
私もそれは聞いたことがないような気がするんだけど」
「…ライチェントゥークス、なのはママはこっち見てない？レイジングハートの
ワイドエリアサーチは来てない？」
『来てるようではありませんが、ずるをしたら私がなのはさんに報告しますよ、我が主』
「そんなんじゃないよぉ…あのね、これは、ママには内緒だよ」
「うん、…まあ、ヴィヴィオがそこまで言うなら内緒にしてやるよ」
「…そんなに聞かれたくないことなの？」
「……あのね」
ここで、ヴィヴィオはさらに声を潜めます。
冬美ちゃんも月光ちゃんも、ヴィヴィオの声を聞き取るために近づいてきます。
ヴィヴィオは、ささやくように二人に話します。
「…キャラメルミルクだよ。
なのはママのキャラメルミルク。…ヴィヴィオが、なんだかよくわからない
カプセルみたいなとこで目覚めて、こんな所いちゃ行けない気がして、逃げ出して
キャロお姉ちゃん達に助けられて、教会の施設に送られて……不安で、何が起きるか
わかんなくって、泣きたくって、でも泣いたらいけないような、そんな気がしてたとき
なのはママが作ってくれた、キャラメルミルクだよ。
甘くって、暖かくって、心まで温めてくれた、キャラメルミルクだよ。
しばらくは、なのはママみたいな魔法使いになろうって思ってたけど
サンクト・ヒルデで魔法を勉強してるうちに、ヴィヴィオのなりたいものって
こういうものじゃないんだって、そんな気がしたんだ。
ヴィヴィオがなりたいなのはママみたいな人って、こういう事が出来る人じゃないんだって。
ヴィヴィオが、なのはママを、ママって呼んだのは、こんな魔法が使えるからじゃないんだって。
…ヴィヴィオがなりたいのは、なのはママみたいに、キャラメルミルクの魔法が使える
そんな魔法使いだって。
だから、ヴィヴィオは…本当のパティシエさんになりたいって」
「…そっか。ヴィヴィオもいろいろあるんだな。
けど、ピーマン食べられないようじゃ、一流のパティシエさんはむりだぜ、ヴィヴィオ」
「思い出させないでってばぁ、冬美ちゃん…」
「けど、ママのオムライスも、キャラメルミルクも、本当は同じなんじゃないのかな、ヴィヴィオちゃん」
「………そっかな」
ぱく…もぐもぐもぐ…うううやっぱりピーマン嫌い…ごっくん。
水水みず〜っ
『良く噛んで飲み込みましたね、我が主』
「やればできるじゃん、ヴィヴィオ」
「…ほんとだね」
「べつに出来てもうれしくない…」
海の上でエミーちゃんを説得してたときには、まさかあのときの言葉で
こんな目に遭うようになるとは、思いもしませんでした。
ヴィヴィオにとっては、心底、こんなはずじゃない未来です。
…けど、たぶん、スカリエッティおじちゃんが言うように、こんなはずじゃない未来だって
いつでもわるいことではないっていうのも、本当のことだって思います。
涙目になったりしてますけど、ヴィヴィオは、今日も、元気です。