私の名前は高町ヴィヴィオ、ヴィヴィオ＝スクライア＝高町＝テスタロッサ＝ハラオウン。
だけど、みんなが私のことをよぶときには、ヴィヴィオだよ。
今、私たちはルーフェンに来ています。ここで、春光拳についていろいろお勉強するのがみんなの目的です。
私は、エミーちゃん達と夏休みの旅行のつもりで来ています。
ちょっとだけ、サンドバッグを殴ってみたけど、春光拳を覚えるつもりはないんだよ。
「あたしも春光拳の使い手になる予定はねーよ。ただ、川崎流にとって、何か学ぶことはないかって思っただけだ」
「私は、ヴィヴィオちゃんと同じ、旅行のつもりかな」
「ま、ゲッコウはな。けど、ヴィヴィオはちゃんと覚えて帰れよ」
「覚えるって、お菓子作り？ あ、タオちゃん、お菓子とか作れる？」
「え、ええ……まねごと程度なら」
「そうなんだ。じゃあ、一緒にやってみようよ」
「あ、はい。許可がもらえれば……」
「そうだね。タオちゃんはお仕事あるし、台所が使えるかどうかも分からないよね」
「そうですね。では、早速師範代を探して、聞いてみましょう」
「元気がいいですわね。でも、もうそろそろ日が暮れますわ。
みなさん、晩ご飯の準備をした方がいいかもしれませんわね」
「ええっ、もうそんな時間なんですか。では早速夕飯の支度をさせていただきます」
「タオちゃん、手伝うよ」
「えと、私も多少なら手伝えるから」
「いえ、客人達に働かせるわけには行きません。これは私の仕事ですから、私にさせてください」
「……でも、食後のデザートぐらい作らせてよ。こう見えても、海鳴市随一のパティシエさんから手ほどきを受けてるんだよ」
「しかし、客人を働かせるわけには……」
「働くんじゃなくて、一緒にお菓子を作ろう、っていう話の一環だよ。
いいでしょ、タオちゃん」
「良いかどうかは、私では決められません。師範代に聞いてきます」
「じゃ、一緒に行こうよ、タオちゃん」
タオちゃんと一緒に、師範代を探しに行きます。
が、師範代より先に、総師範を見つけてしまいました。
「あ、総師範だ、こんばんは」
「こんばんは。誰かをさがしているのかの？」
「ええ、そろそろ夕飯の支度をするべき時間ですので、夕飯の支度をしたいと思うのですが
ヴィヴィオさんが、夕飯に出すデザートを作りたいというので……」
「それなら、わしが厨房の人間に話をしてあげよう。
ついてきなさい」
「はい、総師範」
「ありがとうございます」
「ほっほっほ、礼には及ばんよ。わしも、ヴィヴィオの作るお菓子には興味があるしの」
「そう言われたら、気合い入れて作っちゃうからね」
「それは楽しみじゃの」
そういうわけで、ヴィヴィオ流のお菓子作りの開始です。
厨房の方々は、タオちゃんの友達は歓迎、って雰囲気で一安心です。
で、何を作ろうかな。ベーキングパウダーでクッキー？ ちょっと俗かも。
でもでもでも、和菓子はちょっと苦手なんだよ。
その前に、ある食材を確認しなきゃ。
食材を用意してからお菓子作りをするのと違って、あるもので作らないといけないよね。
日も落ちようとしてるし、買い出しは無理だもの。
「ヴィヴィオちゃん、なにやってるの」
「んと、何があるかなあ、って。
ある材料でも、使っていいものと悪いものがあるよね」
「とりあえず、どれがいるのか言ってみてください。
料理長には、使って良いかどうか聞いてみますから」
「うん、そうする」
ここにも小麦粉やバターはあるんだ。海鳴市じゃバターの入手に苦労するけど
ここは潤沢にあるみたい。
「ヴィヴィオさん、バターに興味があるんですか？」
「ん、マーガリンじゃないんだなって思って。パンにもバターなの？」
「マーガリン？」
「あ、ここにはマーガリンなんてないんだ。んじゃ、普通にバターを使ったお菓子を作るね」
「はい、お願いします」
ヴィヴィオも小学4年生です。……あれ、調理器具が翠屋と違う。
「どうしたんですか？ ヴィヴィオさん」
「オーブンがないなって思って」
「うちは石窯オーブンなんですよ」
「え−、ガスオーブンか電気オーブンでないと、温度がわかんないよぉ」
「ヴィヴィオさん、意外と文明に頼ってるんですね」
「っていうか、石窯オーブンなんて見るの初めてかも。
予定変更！ 火を使わないお菓子っ！」
「何を作られるんですか？」
「それは今から考えるんだよ」
「抹茶小豆でも大丈夫だと思いますが……」
「えとえとえと……うん、これならオーブンがなくても大丈夫」
「何をつくられるんですか？」
「まあ、それはできあがってからのお楽しみ。
タオちゃんも、お料理がんばってね」
「あ、はい、がんばります」
そういうわけでここからヴィヴィオのターン。
えとえとえと……これをこうして、あれをああやって……
「あ、ヴィヴィオさん、全く火を使わないわけじゃないんですね」
「まあね。今回は冷たいお菓子を作るつもりだけど、火はいるんだよ」
「冷たいお菓子ですか」
「量がたくさんいるから、量がたくさん作れるものを作るんだよ。
でも、ちょっと手抜きっぽいかなあ」
「手抜きって……」
「あー、タオちゃん、今蔑むような目で見た〜」
「そ、そんなことないですよ。でも、総師範が期待しておられるんですから
それなりにはがんばって……」
「じょぶじょぶ、総師範以前に、冬美ちゃんや月光ちゃんに馬鹿にされないものは
ちゃんと作るから。それに、エミーちゃん達にも、いい加減なものを出しちゃ
悪いからね」
「でも、手抜きなんですよね？」
「一個一個丁寧には作っていられないから、たくさん量が作れるものにするんだよ。
それを器にとりわけてから、トッピングして完成ってわけ。
タオちゃんは、何を作ってるの？」
「普通にスープとご飯です。それから野菜を豆と煮るんです」
「そっか、肉気はないの？」
「肉は特別なお祭りの日しか出さないんです。
この道場は、一応お寺でもあるので」
「そうなんだ」
タオちゃんは、てきぱきと料理を進めて行きます。
ヴィヴィオも負けていられません。ちゃんとタオちゃんが料理を完成させるまでには
ヴィヴィオのお菓子を完成させる予定です。
「楽しそうですね、ヴィヴィオさん」
「タオちゃんは、料理嫌い？」
「いえ、けっしてそんなことはないですよ」
「やっぱり、お料理は楽しいよね」
「そうでしょうか、考えたこともありませんでした。自分の仕事だと思ってやってるだけなので」
「考えた方がいいよ、絶対。タオちゃんも好きな道に進んだ方がいいよ」
「好きな道、ですか？」
「そうだよ。……っと、タオちゃん、料理出来た？」
「ええ、あとは仕上げるだけです」
「こっちも仕上げに取りかかるよ」
ちょっとベタかも、とは思いますけど、夏らしいお菓子です。
お菓子っていうには、語弊があるかもしれませんが……。
「では、早速ヴィヴィオさんは食卓へどうぞ」
「あ、タオちゃん、もう料理が出来たの」
「ええ、あとは盛り付けて持って行くだけですから」
「あー、タオちゃんの方が早かった〜。
ヴィヴィオはもうちょっとかかるから、みんなに食べてもらってて」
「しかし、ヴィヴィオさんは客人ですから」
「今はお菓子作りをやってるんだよ。あとちょっとで仕上がるから」
「では、仕上がりを待ちましょうか？」
「デザートは料理の後で出てくるものだよ」
「ですが、客人が抜けて料理を出すのも気が引けます」
「じゃあ、もうちょっとまってて。盛り付けが終わったら行くから。
持って行けばいいように整えておくからね」
「はい、では、お願いします」
盛り付けと言っても、そんなこったことが出来るわけではありません。
お菓子がお菓子です。
「出来た〜っ！」
「ありがとうございます、ヴィヴィオさん。
では、食堂へどうぞ」
「うん、ありがとう、タオちゃん」
というわけで、ヴィヴィオは食堂に到着です。
「遅かったじゃないかヴィヴィオ」
「うー、ヴィヴィオ、ちゃんとがんばってたんだよ。
でも、ごめん、みんなを待たせちゃった？」
「ううん、タオちゃんがよびに来たのがついさっきだから……」
「そっか、ならよかった月光ちゃん」
「みなさん、総師範がおみえです」
「みなそろっておるかな」
「総師範も今日は食堂でお食事ですか」
「客人達がせっかく来ておるのじゃからな」
「あの、いろいろと食事中に伺ってもよろしいでしょうか」
「アインハルトじゃったかの？ わしに答えられることなら
なんなりと聞いてもらってかまわんぞ」
「ありがとうございます。総師範」
「なに、礼にはおよばんよ。わしも、遠方からの客人の話を聞いてみたいしの」
というわけで、タオちゃんの作った料理を囲んでの食事が始まります。
うん、おいしい。タオちゃんすごいね。これだけの料理を毎日作って
これだけの味を出せるんだから。
「ヴィヴィオ、どうした？」
「おいしいって思ってるんだよ」
「それならそれで、話の輪に加われよ」
「こんなおいしい料理の後じゃ、ヴィヴィオのお菓子がかすまないか不安……」
「べつにいいだろ。おまえは本職のお菓子職人じゃないんだから」
「お菓子職人になるんだよ」
「少なくとも、まだなってない。タオは本職だろ」
「そういう問題かな」
「そういう問題だって。っていうか、ヴィヴィオは絶対格闘家になるべきだろ」
「ヴィヴィオはパティシエさんになるんだよ」
「また始まったね」
「そうですわね、月光さん」
そんな会話を交わしていても、ご飯はやがてなくなります。
「はい、では、デザートのお時間です」
「タオちゃん。私も手伝うよ」
「いえ、ただ持ってくるだけですから」
「何作ったんだよヴィヴィオ」
「みたまんまだよ」
「まだ来てねえ」
タオちゃんが、ヴィヴィオの作ったお菓子を持ってきました。
料理台車に載せて運んでくるので、タオちゃん一人で1食卓分運べます。
「へえ、ヴィヴィオにしては美的センスあるな」
「ちょっと手抜きだけどね」
「みつ豆かの」
「うん、生クリームとか使ってるから、ちょっと甘いかも」
「ヴィヴィオちゃん、いただきます」
「どうぞ、一応ちゃんと作れたつもりなんだけど……」
「生クリームのトッピングか」
「うん。せっかくだからって思って」
「これ全部ヴィヴィオがやったのかよ。大変だったろう」
「楽しかったよ」
「そっか」
「で、味は？ 味は？」
「見た目は気にしないのかよ」
「見た目は見れば分かると思うよ。
ちょっと北極海をイメージしてみたんだよ」
「寒天の流氷に、生クリームの氷山か」
「ちょっとアイディアが寒いかもしれないけど、まあ、冷たいデザートだからいいよね」
「そういう問題かよ」
「気にしない気にしない」
「ふむ、なかなかの味じゃな」
「ありがとうございます、総師範」
「まあ、ヴィヴィオにしては上出来かもな」
「わーい、冬美ちゃんにほめてもらった」
「そんなに喜ぶことなんですか」
「冬美ちゃん、大抵何を食べてもらっても、上出来とか言ってくれないんだよ」
「そんなほめまくったら、ヴィヴィオがほんとうにお菓子職人を目指すとか
言い出しかねないからな」
「お菓子職人になるんだってば」
「さてと、お菓子の話は尽きないとおもうが、私の話も聞いてくれ」
「なんですか、ミカヤさん」
「実は、書庫を調べている時に、こんな地図を見つけたのだ」
「地図……なんか年代ものっぽいですね」
「洞窟探検の地図のようなのだが、総師範に聞いてみたら、おまえ達で一つ探査してみろという話なのでな。
せっかくだから、おまえたちも来ないかと思うのだ」
「洞窟探査ですか。私は留守番しておきます」
「そう言わずにゲッコウも来い。マッパーは必要だからな」
「洞窟が分岐してたらどうするんですか」
「一つずつちゃんと調べるんだよ。分散するのも問題があるしな」
「……」
「どうしたんですか？ ミカヤさん」
「いや、なに、たいしたことではない」
「たいしたことじゃないならいいや、ゲッコウ行くぞ。あたしも行くからな。
ヴィヴィオも当然行くだろ」
「月光ちゃんと冬美ちゃんが行くなら行くよ」
「決まりだな。エミー達もいくのか？」
「ええ、もちろんですわ。友達を置いて自分だけここにいるつもりもありませんもの」
「私も行きます、なにかありそうな気がします」
「宝の地図？ 楽しみ〜」
「私は修練をつみたいのですが……」
「なら、ついてこいアインハルト。おまえの力が必要な場面もあるだろう」
「そうでしょうか」
「危なくないとは限らないもんね」
「ええ、そうですね。足手まといにならないようにがんばります」
こんな調子で、みんなで洞窟に出かけることになった。
洞窟探検かあ。ヴィヴィオは、月光ちゃんの手伝いでマッパーでかまわないよね。