「真尋さん真尋さん、図書館に本を返しにいくんですけど、つきあってもらえませんか？」
「図書館に本を返すぐらい、一人で行けばいいだろ。なんで僕と一緒じゃなきゃいけないんだ？」
「いやー、真尋さんにも是非一度は行ってもらいたい場所なんですよ。すごいところなんですから」
「思い切りいやな予感がするぞ」
「気のせいですって」
「今、さりげなく目をそらしただろ」
「そ、そんなことないですよ。ともかく、真尋さんも一緒に行きましょうよ。銀河最大の図書館なんですから
真尋さんの読みたい本だってきっとありますよ」
「銀河最大の図書館って、地球にあるわけじゃないだろ」
「そうですよ」
「さらっというな、そんなとこ行けるわけないじゃないか。どうやって行くんだよ」
「どうやってって、ちょっとスペースジャンプすれば行けますよ。セラビノ図書館は誰でもウェルカムです」
「僕は邪神じゃないっての。ていうか、人間に読める本あるのかよ……」
「ちゃんとヒエログリフで書いてある本だってあるぐらいですから、あると思いますよ」
「日本語で書いてなければ意味ないだろ」
「鳥獣戯画の複製もおいてあるぐらいだから、きっとありますよ」
「……現代の書物って、おいてないのか？」
「そこを調べるためにも、是非真尋さん、一度行ってみましょうよ」
「いや、日本語の本なら近所にある普通の図書館で十分だから」
「アレクサンドリア大図書館が焼き討ちされる前の写本だってあるって噂なんですよ」
「だから僕は考古学者じゃないんだってば」
「真尋くん、なんの話をしてるの」
「あ、ハス太か。ニャル子が本を返しに行くんだって。銀河の図書館だそうだから、ハス太がついていけばいいんじゃないかな」
「ふーん、銀河の図書館って、セラビノ大図書館のこと？」
「そういう名前だった気がするけど……」
「あそこ、最近物騒だって話だよ。禁書の封印が解けて、一般階層まで化け物が出るとかいう噂が流れてる。
今は閲覧だけで貸し出しは禁止じゃなかったかな」
「ニャル子、おまえどうやってかり出したんだ」
「どうやってって、私が借りた時には、そんな制限はなかったんですよ」
「つまり、延滞なんだな」
「まあ、そうなんですけどね」
「それがまた返す気になったのはどういうことなんだ」
「……ニャル子、少年はおいといて、私と一緒に本を返しにいこ」
「クー子はお留守番でいいですよ。地球を守る人が一人ぐらいいないとまずいでげすよ」
「一日ぐらい平気……課長に言って交代要員を送ってもらう……」
「別にクー子と行きたいわけじゃない、ていうかなんでクー子と行かなきゃならないですか」
「別にクー子と行こうが、一人で行こうが、問題ないだろ。なんで僕と行かなきゃならないんだ。
それとも、延滞のいいわけするのに、僕がいた方がいいの？」
「いや、それは別に関係ないんですけどね」
「関係ないのか。なら一人で行けばいいじゃないか」
「一人は寂しいじゃないですかぁ。今図書館といえば、密かなデートスポットなんですよぉ」
「本音はそれか。絶対パス」
「だからニャル子、私と一緒に……」
「なんでクー子とデートしなきゃならないですか」
「デートだけじゃない」
「そりゃそうですけど、地球を守るお仕事はどうするですか」
「こっちも仕事……」
「図書館に行くのも仕事ですけど、地球を守るのも仕事なんです」
「延滞の本を返すのが仕事？」
「いや、そういうわけじゃないですよ真尋さん。ハス太が禁書の封印が解けたって言ってましたよね。
あれの鎮圧に人手が足りなくなりましてですね。
不肖、ニャルラトホテプにも応援に行くように声がかかったですよ」
「私も行く」
「あんた炎の使い手でしょうが、本を燃やしてどうすんでげすか」
「そこまでドジじゃない」
「とにかくクー子はお留守番ってのが当初予定なんです」
「予定は未定で決定じゃない」
「うー、ああ言えばこう言う……」
「ボクが残ろうか？」
「ハス太が残ってもしょうがないし……」
「地球を守るお仕事を生徒会にお願いしようか」
「いくら万能の生徒会でもそれは無理……」
「うーん……」
「でも、図書館の封印の方なら頼めるかも」
「そんなものなの」
「基本、封印といっても、ハック＆スラッシュですからね。戦闘力のある、あのメンバーなら頼れるですよ」
「倒した後の封印の儀式は私たちがやる……」
「はーはっはっは、そういう名目でいちゃラブだな。読めているぞ君たちの行動パターンは」
「……最近出ないと思ってたのに……」
「なに、あれ？」
「サバイバルゲーム同好会の会長さんだよ。神出鬼没の変態」
「変態とは失礼な。カップルの光あるところ、嫉妬の影あり。これ永遠の摂理なり。
しっと団団長とは私のことだ」
「私と真尋さんの関係を壊そうったってそうはいかないですよ」
「そもそもそんなものないぞ」
「ニャル子と私の関係を壊しにきた……」
「これ以上ないぐらい壊れてるでげすよ」
「ということは、ボクと真尋くんの関係しか残ってないよね」
「いや、残り物に福っていうことはないから」
「ともかくだ、図書館でデートなどということは、天がゆるしても私がゆるさん。かならず天誅を食らわしてくれようぞ」
「どうやってセラビノ図書館に行くつもりでげすか。私は連れて行くつもりないですからね」
「……まあ、なんとかなる。ともかく図書館デートなど絶対ゆるさん、おぼえておけ、ではさらば」
「消えちゃったね」
「なんだったんだ今のは」
「まったく、私と真尋さんの関係を壊そうだなんて許せない奴ですよ」
「だからそれ関係ないから」
「どうせセラビノにはこれない。問題ない」
「どうですかね、すごくいやな予感がするですよ」
「考えすぎだろニャル子……って、あの会長、妙な行動力があるからなあ」
「やはり、ここはあの会長対策のエキスパートに相談してみないといけないですね」
「会長対策？ 考えすぎだろ。それより禁書の対策を考える方が先じゃないのか」
「禁書は理解できる分対処も簡単でげすよ。あの会長は理解不能ですからね」
「理解は出来るだろ」
「でも、あの会長、彼女いるんじゃないの？」
「……言われてみれば、よくわからん人だよなあ……」
「とにかく、打てる手はすべて打って、万全を期して真尋さんとのデートを……」
「お仕事だろ」
「ニャル子とのデート、ニャル子とデート」
「……ボクがしっかりしないとだめかも」
各人各様の思惑があるのは確かだった。が、セラビノ図書館にいくこと。
それは確定事項となった。八坂真尋にとって、それがまず不本意なことだったはずである。
しかし、列車は走り始めた、それぞれの思いを乗せて……。