「あけましておめでとうございます真尋さん」
「おめでとうニャル子、で、なんだその手は」
「やだなあ真尋さん、新年、元旦、とくれば決まってるじゃないですか」
「お年玉ならないぞ」
「お年玉じゃないですよ。初詣ですよ初詣。せっかく晴れ着まで着付けてもらったんですから行かなきゃ損じゃないですか」
「あーそうだなニャル子。三が日過ぎたら行くか」
「なんでそう真尋さんは盛り上がりに欠けるですか」
「人が多いだろ三が日は。人が少なくなってからでいいよ」
「人が多い中を参拝するからいいんじゃないですか。ほら、昔の人もいってるですよ。割れに艱難辛苦を与えたまえって」
「そういう意味なのか？」
「ニャル子、少年は行きたがってないみたいだから私といこ」
「なんであんたと初詣に行かなきゃならないですか。ていうかなんで私が晴れ着なのにあんたは軽装でいいと思ってるですか」
「少年もダウンジャケット」
「真尋さんは男だからいいんです。こういう時でもなければ晴れ着なんて着るときないでしょが」
「そもそも私は晴れ着なんて持ってない」
「ねえ、真尋くん、おかしくないかな」
「いや、おかしくはないけど、ハス太はなんで紋付きなんて持ってるんだ」
「とうさんが、地球でお正月を迎えるなら紋付きぐらい着ておきなさいって送ってきたんだけど」
「そっか、まあ、いいんじゃないかな」
「じゃあ、初詣に行こうよ」
「ああ、……まあ、みんながそういうなら行こうか」
「なんでハス太がいうことなら聞くですか」
「ハス太だけじゃないだろ……別に行きたくないなら、ニャル子は留守番でいいぞ」
「行きますよ、行きますってば」
そういうわけで、一行は近所の神社に初詣に行く。
『今年こそ平穏な一年になりますように』
誰の願いかは言うまでもない。
「で、ニャル子はどんなお願いをしたんだ？
「それは秘密です。お願いを言うとかなわなくなるって言いますから」
「そっか。で、クー子やハス太もそれじゃ秘密なんだろ」
「そうなる」
「うん……かなわなくなるんだったら、秘密にしないとね」
「よし、じゃあおみくじを引くか」
「大吉大吉……」
「うぇ……凶が出たよ」
「大丈夫ですよ真尋さん。私が大吉だから真尋さんの分もカバーします」
「本当に大吉が出てる……ニャル子、今年は絶好調の年になりそうだな」
「むふふ〜当然ですよ」
「私も大吉……ニャル子、今年こそ一緒に赤ちゃんつくろ」
「なんでクー子と赤ちゃんつくらなきゃいけないですか。私は真尋さんとの仲を発展させるんです」
「……大凶だった……」
「落ち込むなよハス太」
「ていうか、大凶なんて入ってるんだ、ここのおみくじって」
「まんべんなく入れてるみたいですね。私と真尋さんが成就するからってそんなに落ち込むことないですよハス太」
「そういう問題じゃないだろニャル子、ハス太、あー、大凶だからって、当たるも八卦ってこともあるし
運勢はお祓いでなんとかなるってこともあるし、何より運が悪いときは気をつけろってことの暗示っていうからさ。
今年一年は慎重にってことじゃないのかな」
「うん、ありがとう、真尋くん」
「じゃあ、おみくじはおみくじ結びに結びつけて……っと」
「よし、じゃあ帰るか」
そういうわけで、新年のお約束も終えた一同は、始業式を迎える。
「明日からは授業ですよ真尋さん」
「あーそうだなニャル子」
「感動がないですよ真尋さん。3学期は短いんですからね、すぐ期末が来てしまいますよ」
「そうだなニャル子、しっかり勉強しておかないと、落第なんてこともありうるな」
「真尋さんと同じクラスになれるようしっかり勉強するですよ」
「クラス分けで同じクラスにならないこともありうるけどな」
「運勢で大吉だったからきっと大丈夫ですよ」
「……凶だったから大丈夫だろうな、ニャル子は」
「どういう意味ですか真尋さん」
「気にするな」
「真尋くん、試験、一緒に頑張ろうね」
「ああ、そうだなハス太」
「少年、先に帰ってる。ニャル子、待ってるからね」
「まってなくていいですよクー子」
「つれないところも、いい」
「きもちわるいこと言わないでほしいです」
「まあそう言わずに……さてと、部活に行くか」
「そうですね、真尋さん」
弓道部の部活に出かける。弓道部での部活は相変わらずだ。
「一行でスマされましたよ真尋さん」
「長々説明するほどのことでもないだろニャル子。終わったし帰るぞ」
「あ、待ってくださいよぉ」
「なんで制服の裾をつかむんだ」
「真尋さんが大股で歩くからじゃないですか」
「なんでニャル子の歩幅に合わせて歩かなきゃならないんだ」
「別に合わせてくれてもいいじゃないですか」
「……まあ、いいか」
歩くペースを落とす。
「真尋さんって、優しいんですね」
「おいてけぼりにして、迷子になられても困ると思っただけだ」
「迷子になんてなりませんよぉ」
「じゃ、おいていくぞ」
「おいてかないでくださいってば」
「どっちなんだよ」
「一緒に帰りましょうよ」
「一緒に帰るのはいいけど、別に話すこともないだろ」
「話すことはなくても、一緒がいいですぅ」
「まあ、いいけど」
「えへへ……」
「だからって、手はつながないからな」
「えー」
「調子に乗るな」
「肩を組むのは？」
「なおさらだめ」
「がっくし」
「肩を落とすことじゃないだろ、そこは……」
「はっ」
「どうしたニャル子」
「危ない、真尋さん！」
「なんだ、また人さらいか？」
「あっ、手元が狂った〜」
「って、美沙さん何を……」
どっか〜ん☆
「いたたたた……」
「あちゃ……」
「あれ、なんでぼくが倒れてるのが見えるんだ？」
「それはあたしが突き飛ばしたから……って、え？ え？」
「それはわたしが詳しく説明いたします。ていうかすいません」
「美沙さん、あなた一体なにをしたですか」
「一言で言うと、地球は狙われてるんですが、いちから順を追って説明します」
「いちからって、とりあえずぼくの家に来てからにしてよ。道ばたで立ち話もなんだし」
「そうですね……話せば長くなりますから」
「って、なんか背が縮んだ気がするんだが……」
「そうですね、私は背が伸びたきがするですよ。ていうかこれ、真尋さんの体じゃないですか」
「そうだな、ぼくはニャル子の体になってる気がする」
「すいませんすいませんすいません、人格交換銃の暴走でこんなことになってしまいました」
「先にそれをいえ、ていうか、なんで美沙さんがそんなものを持ってるんだよ」
「それも話せば長くなるんですけど……」
「あ〜分かった。とりあえず、ぼくの家についてから話を聞くよ」
そういうわけで、ここは八坂家。
「つまり、美沙さんの体を借りてるけど、あなたは美沙さんじゃなくてメビウス星人で
本当の美沙さんはまた別なとこにいるってことなのね」
「簡単にいうとそうなります。で、宇宙警察機構の力を借りるべく人格交換銃を使おうとしたところ
人格交換銃が暴走してこんなことになってしまいました」
「宇宙警察機構の力を借りるのになんで人格交換銃がいるのかがまずわからない……」
「メビウス星人の習慣です」
「変わった習慣なんだね」
「はた迷惑すぎるわ。で、地球が狙われてるっていうのは」
「それなんです。メビウス星人には、未来を見る力があるんです。
で、未来には地球がなくなってるんです」
「未来を見る力がある？」
「正しくは、ある特定の未来を見る力というか、未来の揺らぎの一つを見るちからというか、確定した未来じゃないんですが
とにかく一種の未来予知が出来るんです。で、未来を変えてもらおうと、ニャル子さんたちの力を借りに来たんですよ」
「未来を変える、なんかSFちっくになってきたな」
「どんな存在に地球が狙われてるとか、そういうのは分かってるの？」
「分かってます。メビウス星人の反体制派が地球を狙っているんです」
「メビウス星人の反体制派？ なにそれ」
「地球の文化を保護するかわりに、丸ごと支配しようというグループです。彼らの暴走によって、地球が亡くなるという未来が予知されたんです」
「そうなんだ、で、彼らを止めるのに、ニャル子たちの力が必要だって言うんだな」
「簡単に言うとそうなります」
「だけど、この状態じゃニャル子の力なんて引き出せないだろ……今ニャル子は俺で、俺がニャル子だぞ」
「そうですね」
「元に戻せよ」
「無理です」
「あっさり言うな」
「人格交換銃のエネルギーが切れてしまいました。明日の夕方には充填出来ると思うんですけど……」
「24時間かかるってことか……」
「ええ、おおむねそのくらいかかります」
「それまでこの状態でいろってか？」
「すいません、すいません、すいません」
「いや、謝ってもらっても困るだけだし……」
「まあ、それまで何事もないのを祈るだけだな」
「それまでに、私の方でもメビウス星人の反体制派のことについて情報は集めます。
皆さんの方でも、できる限りの協力はお願いします」
「まあ、乗りかかった船だし、できる限りのことはするか」
「協力してくださるんですか？」
「地球がなくなるっていわれちゃ仕方ないよな」
「これも仕事のうち……」
「ありがとうございます。では、何か分かったら連絡しますから」
「ていうか、明日学校に来いよ」
「……それもそうですね。では」
そう言うと、美沙は家に帰っていった。
「さて、と……俺たちはどうするかな。出来れば一日おとなしくしてたいが、地球の危機とか言われると
おとなしくしてばかりもいられそうにないし……」
「少年とニャル子はじっとしてて大丈夫。地球の危機は私が守るから」
「真尋くん、僕も力になるよ」
「ありがとう、クー子、ハス太」
「さてと、ニャル子、僕らはどうするかな、学校を一日ぐらい休んでも問題ないだろうし……」
「だめです、学校にも行くべきです」
「なんで力説するんだよ。話がややこしくなるだけだろ」
「地球の危機なんですよ、じっとしてられないじゃないですか」
「本音は？」
「それだけですよぉ」
「まあ、一日ぐらい徹夜しても死にはしないし、風呂に入らなくても済むだろうし、いいか」
「だめです〜着替えてくださいお風呂にも入ってください〜」
「涙目になるな、ていうか意味分かってるのかニャル子」
「真尋さんだったら全然無問題ですからぁ」
「あ〜分かった分かった、風呂にも入るしちゃんと着替えて寝るから」
「よかった……私も着替えますしお風呂にも入りますから安心してくださいね真尋さん」
「……なんか、今悪寒がしたんだが」
「やだなあ、気のせいですよ真尋さん」
「気のせいなのか？ ほんとうに気のせいなのか？」
「気のせい気のせい」
「わかった、気のせいだということにしておくよ」
「そうですよ、気のせいですから」
気のせいだということにしておいてあげよう。
そういうわけで翌日。
「真尋さん、着付けてあげるですよ」
「すまないニャル子、どうも女の子の服の着方はよくわからなくって」
「少年、手伝うなら私も……」
「あんたは出る幕ないですよ。私の体なんだから私がやるですよ」
「しくしく」
「これで完璧、あほ毛もしたてたし、どこからどう見ても私です」
「それって褒めてるのかどうか分からないけどな。僕の方は問題ないか」
「それはまいにち真尋さんを見てますからね。完璧ですって」
「さて、学校に行ってどうしよう」
「どうするっていっても、メビウス星人の情報を集めるぐらいしかすることないですよ」
「メビウス星人の情報を集めるって言っても、あなたメビウス星人ですか？ って聞くわけにもいかないだろ」
「まあ……そこらは臨機応変にやるですよ。この学校の人は、超常現象には慣れっこになってるみたいですから」
「確かに、そうなんだけど」
「決まりです。学校の人たちにも手伝ってもらうですよ」
「そう簡単に手伝ってもらえるかなあ」
「手伝ってもらわないと人手が足りないですよ
今、私が戦力外なんですから」
「手伝ってもらえるといいけど……」
そういうわけで、メビウス星人の魔の手から地球を守る戦いの参加者を募ることにしたニャル子たちであった。
正義の味方もメビウス星人、ちょっと話がややこしい。