ここは、弁慶たちが通う学校である。

「放課後ですよ真尋さん」
「そんなの言わなくても分かってるって。部活があるぞ」
「真尋くんは部活をやってるんだ。僕も部活動に入ろうかな」
「ハス太はどんな部活に入りたい？　体育系？　文化系？」
「そうだなあ……どんな部活があるの？」
「いろいろあるよ、剣道部、柔道部、弓道部、野球部、囲碁将棋部、図書部」
「図書部なんてあるんだ」
「図書館の維持管理をするのもうちは部活動だからね」
「真尋さん、あんまり話をしていると部活に遅れてしまうですよ。
　部活の案内は暇なクー子に任せて、私たちは部活に出かけるです」
「暇なって、クー子だって何か用事があるかもしれないだろ」
「別に用事はない」
「ほら、クー子だってそういってるんだし、ハス太のことはクー子に任せるです」
「そうだね、じゃあ、クー子に……って、なんで転校してきたばっかりのクー子に任せるんだよ。
　典泰、ハス太に部活の説明説明してやってくれるかな？」
「ん？　べつにいいけど」
「よろしくたのむ。こんど昼飯おごるから」
「そんなに気を遣うなよ。明日俺の分の弁当も頼むな」
「結局要求はするんじゃないか。まあ、4人分作るのも5人分作るのも一緒だから任せとけよ。
　じゃあ、ニャル子行くか」
「合点です」

そういうわけで、僕たちは部活に出かけた。
無駄話をしてない分、部長は先に部活に到着している。
ちなみに、部長の那須与一は、僕たちと同じクラスの高等部一年生だ。

「遅いぞ、すぐに着替えてこい」
「はい、部長」
「私も着替えてくるですよ」
「で、なんでついてくるんだニャル子」
「いやー、なんか手伝うことはないかと思いましてですね」
「手伝うことなんかないから自分のロッカールームへ行け」
「……つれないですね、真尋さんは」
「部長も見てるぞ。さっさといけ」
「はーい」

今日は素直だな。なんか企んでないといいけど……いや、あまり悪く取るのはやめておこう。

部活は、いつも通り普通に体作りから始まって、平常通りに進んでいった。
そして終わる。

「よし、今日はここまでだ」
「やー、お疲れ様です真尋さん」
「ニャル子、まだ話は終わってないぞ」
「部長、まだ何か話が残ってるんですか」
「今月は学校総出での合宿がある。毎年恒例だな。
　弓道部も参加するから、参加希望者は私のところまで申請書を提出するように。
　申請書は今から配る。以上だ」
「合宿はどこになるんですか、部長」
「どこかの温泉だときいている」
「温泉ですよ真尋さん。楽しみですね」
「クー子とハス太は留守番か」
「あ、八坂、合宿自体は帰宅部の連中も生徒会枠で参加可能だから、留守番とは限らないぞ」
「来るんでゲスか」
「ニャル子、露骨にいやそうな声を出すな」
「いやあ……別にいやがってるわけじゃないですけどね。あいつらがいない方がいろいろとはかどるんじゃないかと思いまして」
「何がはかどるんだよ。どうせ弓道部の合宿だからプライベートな旅行じゃないぞ」
「自由行動の時間も確保されてるから、その点は安心しろ」
「プライベート行動もあるんですってよ真尋さん。いろんなところを回りましょうね」
「そこまでの自由行動時間はないと思うがな。あくまでメインは合宿だ」
「なんだ、残念です……」
「本気で残念がるな。合宿なんだから」
「よし、ほかに質問はないな、なら解散」

てなわけで、合宿当日がやってくる。

「いやー、秋晴れのいい天気ですね真尋さん」
「ほんといい天気だね真尋くん。それにしても、温泉合宿だなんて、ずいぶんと剛毅な学校なんだね」
「毎回格安なツアーを見つけてきてるみたいなんだよ。そういうことに関しては
　この学校は天才的な能力を持ってるんじゃないかな」
「事故を起こさなければどこでもいい」
「不安をかき立てることをいうなよ、それに運転手さんに失礼だろ」
「おやおや、私の運転では不安ですか」
「いや、リンクス先生を疑ってるわけじゃないですから」

……微妙に不安だ、この先生、確か異世界から来たって言ってたような……
それに、ほかのバスの運転手も、学校の先生たちだし。

しかし、バスは事故を起こすこともなく、ひなびた温泉街にある、廃校へと到着した。

「ここが私たちが借りた学校だ。ここで2泊3日の合宿をすることになる。
　ああ、ちゃんと止まる場所は別に用意してあるから気にしなくていいぞ。
　練習場の準備を始めるから、おまえたちも用意しろ」
「はいっ！」
「廃校を利用するって、大丈夫なんですか、立て付けとか」
「その点は下見に来た紅葉たちが確認してある、問題ない」
「ならいいいんですけど……」

2時間ほどの肉体労働で、弓道部の練習場の準備が出来た。
それから一休み、そして軽い運動と練習で本日のメニューは終わりである。

「今日は疲れたろう。今日の宿へ移動するぞ」
「待ってました」
「ニャル子、やっと二人の時間がやってきた」
「クー子、あんたどこへ隠れてたですか」
「隠れてたわけじゃない。部活の時間は近づけなかっただけ」
「真尋くん。部活動お疲れ様」
「ハス太、今まで何をやってたんだ」
「生徒会のお手伝いだよ。真尋くん。今から宿に行くんでしょ。
　真尋くんのクラスは僕が生徒会のボランティア担当だから何でも聞いてね」
「あ、ああ……」
「部活単位の合宿だから、真尋さんは生徒会関係ないんです」
「え、そうなの。残念だなぁ」
「そういうわけで行きましょう真尋さん」
「いいからおまえたちは全員バスに乗れ、宿に行くぞ」

そんなこんなで宿に着く。

「まあ、格安ツアーだからこんなものですよね真尋さん」
「だから宿の人に失礼だろニャル子」
「防音壁があまり期待できない……」
「部屋割りは男女別、学年別が基本で、部活別じゃないからね」
「よう八坂」
「ああ典泰か、おまえも合宿に来てたんだな」
「まあな、絞られたか」
「ま、俺は部活組だからな。明日も一日練習だって言われたよ。
　そっちは帰宅部だろ。何をやるつもりなんだ」
「なにやるっていっても、たいした娯楽もないしなぁ……もってきた
　携帯ゲームでもやろうかなっておもってる」
「そっか、じゃ、せいぜい楽しんでくれよ」
「ああ、そうするよ」
「……そういえば、ハス太、この宿って、部屋割りどうなってるんだ？」
「大体5人ぐらいの相部屋だよ」
「よかった。5人ぐらいの相部屋なんだな。で、俺の部屋は誰と相部屋なんだ」
「ええと、大森くんに僕に山本くん白石くん八坂くんの5人だよ」
「そっか、じゃ別に問題ないな」
「ちょっとまつですよ」
「何が？」
「なんでハス太が真尋さんと相部屋になってるですか」
「何か問題があるのか？」
「大ありです。なんでハス太が相部屋で私がはぶられてるですか」
「男女相部屋になるわけないだろこういう合宿で、常識で考えろよ」
「絶対に間違ってるですよ〜」
「っていうかおまえ典泰や山本と相部屋になりたいのかよ。冷静になれ」
「真尋さん以外は石ころだと思うから問題ないです。とにかく真尋さんと相部屋がいいんですっ！」
「無茶言わないでくださいってニャル子さん。これはもう決まったことなんですから」
「ニャル子、私と一緒に寝よ」
「クー子さんはニャル子さんとは別の部屋ですよ」
「……間違ってる」
「しかたないですよ。部屋割りそうなっちゃったんですから」
「ニャル子と相部屋のだれかとかわってもらう。部屋割り表のコピーちょうだい」
「それはいいですけど……先生にみつからないようにかわってくださいよ」
「そこはうまくやるから大丈夫」
「私も先生と見つからないように変わるから大丈夫。はす太かわれ〜」
「無茶言わないでくださいってばニャル子さん」
「はあ……ハス太、とりあえず温泉に行こう」
「ちょっとまつです。なんで真尋さんはそんなにハス太をひいきにするですか」
「男同士で温泉に行くのは普通だろ」
「真尋さんは私と温泉に入ってくれないのになんでハス太とは一緒にはいるですか」
「なんでおまえと一緒に入れるんだよ。男湯に入るのか」
「真尋さんが女湯に入ってくれてもいいですよ」
「犯罪だろそれは」
「うう〜なんでハス太ばっかり優遇されるですか〜」
「優遇って問題じゃないだろそれは」
「……まあ、いいです」
「納得してくれたか。行こう、ハス太」
「まつです」
「え？」
「ハス太は真尋さんがあがるまでここにいるです」
「ちょっとちょっとちょっと」
「真尋さんと一緒に入ることだけは許さないですよ」
「ニャル子、それにどういう意味があるんだよ」
「いーから真尋さんはゆーっくり温泉に入ってくるといいですよ」
「ニャル子はどうするんだよ」
「ここで真尋さんを待ってます」
「おまえな」
「気にしないでいいですから」
「ニャル子、一緒に温泉にいこ」
「クー子は先にいってていいです」
「……私もニャル子と一緒にいる」
「……はぁ……言っても聞きそうにないか。すまんなハス太。先に行くわ」
「うん、じゃあね、真尋くん」

やがて、夜が来る。

草木も眠る……

？

「はーい、真尋さん」
「にゃ、にゃ、ニャル子？」
「這い寄る混沌らしく、真夜中に這い寄って見ました」
「おまえ何を考えてるんだよ。ここにはあと4人いるんだぞ」
「4人とも目を覚まさないように手を打っておきましたよ。
　さあ、真尋さん、これで2人だけの世界です」

絶体絶命？　八坂真尋は無事に朝を迎える事が出来るか？