「んふふふふ～。真尋さん～起きてください朝ですよ～」
「ん……あと5時間……」
「もう、真尋さんったらぁ。べたなギャグとばさないでくださいよ、もう朝の2時なんですからぁ」
「本当にあと5時間だったのかよ。ていうか午前2時は朝っていわねえよ。なんでこんな時間に起こしてるんだよ」
「それはまあ……男女が一つ屋根のしたで暮らしてたら自然と起きるイベントっていうのがあるじゃないですか」
「おまえは一体何をしにここに来てるんだよ」
「それは真尋さんの護衛じゃないですか」
「だったらそれだけやってろ、っていうか本当に脅威なんてあるのか？」
「ちゃんとあったじゃないですか。ナイトゴーントレットから助けたのをもう忘れちゃったんですか？」
「……確かにそうだったよな。それは感謝してる。けど、ほかに地道な捜査で相手の本拠を見つけるとか
　そういう操作を宇宙警察機構とかやってくれてるの？」
「そういう捜査も全部私の担当になってますから真尋さんは安心してすべて身を任せてくれて大丈夫です」
「全然安心できないんだが。おまえ、ここに来て暇さえあればゲームやるかテレビ見てるかだろ」
「ですから、襲いかかってくる相手に指示を出してる奴をとっつかまえて本拠を吐かせる予定だって言ってるじゃありませんか真尋さん。
　果報は寝て待てですよ」
「さっきたたき起こしただろ。寝て待てっていうんなら7時まで寝かせてくれよ」
「あ、真尋さん、寝るなら私も一緒に……」
「自分の部屋で寝ろっ！」
「あ～真尋さんのいけず～」

こんな光景が八坂家の日常の一コマになって数日たったある日のこと。
八坂真尋が部活動に出ると、部長の那須与一から合宿について話があった。

「生徒副会長の佐藤紅葉はしってるな。うちの部にも案内の手紙がきてたが、今年の合宿は海外遠征ということになったぞ」
「海外遠征？　どういうことなんですか？」
「なんでも、海外の新しいテーマパークに無料招待されることになったらしい」
「真尋さん、あからさまに怪しいですよそれは」
「僕もそう思う。なんていうテーマパークなんです？」
「ルルイエランドとかいうらしい」
「ルルイエランド？　それって真尋さんをさらおうという悪の組織の根拠地じゃないですか」
「ちょっとまてニャル子、おまえ、本拠地がわからないとか言ってなかったか」
「真尋さんはか弱い乙女を一人で敵の本拠地に突っ込ませようっていうんですか、っていうか私が一人で本拠地につっこんでいったら
　真尋さんの警備は誰がやるって言うんですか」
「本拠がわかってるんなら宇宙警察機構が乗り込めばいいだろ」
「……証拠がないんですよ真尋さん。証拠がなければ令状がとれませんし、令状がなければ踏み込むわけにも行きません」
「おまえ、言うこと変わってないか。本当のことを言ってみろ」
「出来るだけ捜査を引き延ばして真尋さんと既成事実を作ろうと思ってたのに……」
「既成事実ってなんだよ」
「まあ、相手の考えていることはわかる。おまえを誘拐しようという作戦がうまくいかないのに業を煮やして、本拠に誘い込もうとしているのだろう」
「それがわかって、あえて受けたんですか？」
「ニャル子、本拠で相手が動けば、現行犯で本拠をたたけるのではないか？」
「それはそうですけど、その、そういうのってありがた迷惑というか、タダの迷惑というか……」
「なるほど、部長、考えましたね。ニャル子、そういうことなら生徒会のみんなの力を借りればいいじゃないか」
「それはそうかもしれませんけど、その、私の計画とは相容れないというか……」
「何か不具合があるのか？」
「誘い込むというんですから、向こうは何か勝算があってやってるんだと思うですよ、部長、油断しないほうがいいですよ」
「それは承知の上だ。しかし、おまえも、ずっとここにいるわけにもいかんだろう」
「私はずっとここにいてもかまわないというか、ずっとここにいるほうが好都合なんですが……」
「あんまり仕事を引き延ばすわけにもいくまい。この件については、ある程度のところでけりをつけねばならんだろう。
　プライベートについても、それはそれで区切りというのも必要だろう」
「区切りをつけるというか、……まあ、それはそれで……」
「納得したか？」
「納得は出来ないけど、成り行きに任せるしかないというか、課長には怒られたくないというか……」
「ニャル子、仕事はちゃんとしなきゃいけないだろ」
「護衛も仕事のうちなんですけどね」
「僕をさらおうという悪の組織をつぶしてくれれば護衛の必要もなくなるだろ」
「それはそうなんですけど……」
「じゃあその方向で頼むよ、その方が話が早いだろ、地球の文化から離れたくないのはわかるけど
　あんまり引き延ばさないでくれよな」
「うぅ……真尋さんまで……」
「決まりだな。合宿はルルイエでやるぞ。剣道部も合宿はルルイエでやることになってる。
　ああ、因縁のサバゲー同好会もくるらしい。おまえが宇宙に帰るのは手助けするそうだ」
「そんなこったろうと思ってましたよ。なんかみんなして私と真尋さんの仲を引き裂こうとするんですね」
「最初から護衛対象と護衛の関係だろ。ほかになんにもないんだってば」
「真尋さんってば、照れ屋さんなんだからあ」
「照れてないっ！」
「さて、合宿の説明はこれくらいでいいだろう、そろそろ部活を始めるぞ」
「はい、部長」

こうして、合宿の説明は終わった。合宿はルルイエで。そこには、八坂真尋をさらおうとしている悪の本拠地がある。
ということ以外ろくに情報はない。さて、彼らの運命はどんなことになるのであろうか。