ここは、九羅香達が暮らすつぶれ荘。
ここには、観月と廉也も暮らしている。

「観月様、どうしましょう」
「廉也、好むと好まざるとに関わらず、いただいた以上はお返しをしなければならないでしょう」
「やはり、お返ししなければならないのですね、はぁ……」
「廉也殿も大変だな」
「与一さんは人ごとだからいいですよ。これ、一つずつ相手を見つけて返さなきゃいけないんですよ。
　相手を探すだけでも手間が大変なんですから」
「名前とクラスが書いてあるのはいいけど、匿名なのはどうしようもないですね」
「匿名なのはさすがに返す必要ないんじゃないかな」
「返す必要がないというより〜返しようがないですよ〜」
「でも、名前だけ書いてあるっていうのは、どうしたらいいかわからないよね」
「同姓同名があったらアウトだもんね」
「いっそ校内全員に配るとか」
「それはそれで悪いような気もしますし……」
「まずはリスト作るところから始めなきゃしかたないだろ、廉也」
「あ、弁慶」
「紅葉、学校のパソコンは使えるんだろ」
「ええ、一応は」
「じゃ、それでリスト作ってやってあげてよ」
「ええ、それはかまいませんけど、生徒名のリストの方は、個人情報ですから
　後悔できませんよ」
「そっちの方は、得意な奴がいるだろ、な、玲奈？」
「あたしに振るのかよ、ま、廉也のもらったチョコも食ったし、多少は手伝ってやらないこともないぜ」
「決まりだな」
「ですけど〜それだけで〜大丈夫ですかね〜」
「リストを作って、そのリストに基づいて相手を特定できれば、お返しは勝ったも同然だろ」
「どうやってお返しを配るんですか」
「……俺は大してもらってない、てかおまえらからしかもらってないから、簡単なんだけどさ」
「僕はそういうわけにいかないんですよ」
「宅配便で自宅に送る？」
「そんなお金ないですってば」
「やはり、自分で手渡ししたほうがよろしいでしょうね、廉也」
「手渡しじゃなく渡された物もあるのに……」
「お返しはそういうわけにもいかないよ」
「うーん」
「そもそも、何を返すか？　っていのもあるよね」
「あまりお金のかからない物がいいです。量もたくさんあるし……」
「普通はマシュマロとかクッキーを返すんだけど……」
「……まあ、そこらは……」
「どうしよう、返す相手を捕まえるのも大変だし、お返しを準備するのも大変だし……」
「バレンタインで逃げ回ってたじゃないか。逃げ切れなかったのか？」
「観月様経由で回ってきた物とか、机に山積みにされてたものとか、靴箱に入ってた物とか、郵送されてきたものとか……」
「手渡し以外にも方法があったってわけか」
「そうなんですよ」
「渡す方も気合いが入ってたんだから、お返しも気合いを入れなきゃだめだろ、やっぱり」
「とほほ……」

そう、世の中バレンタインチョコをたくさんもらうのは財閥の御曹司ばかりではないのである。
そして、たくさんチョコをもらった廉也には、ホワイトデーという地獄の日が待ち構えていた。
女の子達は、別段お返しを期待して贈ったわけではないであろうが、お返ししないでは
観月の気が済まないのも事実なのである。

難儀な日もあったものであった。