ここは、いつもの通りのつぶれそう

「もう突っ込むのも疲れた」
「九羅香様、いちいちナレーションに突っ込む必要もないと思いますが」
「そうなんだけど紅葉、つぶれそうなんて言われたら大家さんがかわいそうじゃない」
「それ、笑いどころ？」
「いや、別にそういうわけじゃないけど玲奈」
「前回の合コンも失敗だったし、やっぱりあたしにはお姉様が一番ということでいいわよね」
「前回はいきなり合コンというのがよろしくなかったのでしょう」
「観月、あんたあたしになんか恨みでもあるわけ？」
「別に恨みがあるわけではありませんが、一度の失敗でめげても仕方ないですから」
「あたしは別にやりたいわけじゃないって言ってるでしょ」
「楓さん、ですが、九羅香さんから、少しは自立した方がよいのではないでしょうか」
「自立したらって、それじゃまるであたしがお姉様依存症みたいじゃないの」
「ちがうんですか〜」
「……」
「否定しないんだな」
「まあ、少しは頼ってるかもしれないけど、病気みたいに言われるのは心外だわ」
「とにかく、男性恐怖症は治しておかないと、これからの生活に苦労するだろう」
「カタツムリ恐怖症の与一に言われたくない」
「カタツムリはつきあうまいとおもえばつきあわずに済む。世の人間の半分は男性だぞ」
「あーあ、最近のアニメじゃ男が全然出てこないって話もあるのにな〜」
「ここでも僕がいるぐらいじゃないですか。ここはそういうお話の世界じゃないんですよ」
「わかってるわよ。それで、こんどは何をしろっていうの」
「2月といえば、わかってるでしょう、楓」
「2月といえば建国記念の日、今年は土曜日だからあまりうれしくないのよね。せっかくなら日曜日になればよかったのに。
　そうすれば振り替え休日で月曜日が……」
「わざと〜話をそらしましたね〜」
「買い物に行けば嫌でも目に入るものがありますね」
「観月には言われたくない」
「楓」
「悪かったわよ」
「いえ、気になさらなくて結構ですよ。こちらもわざと言いましたから」
「あんた、人が悪いわよ」
「楓様には、目に入ると思いますが」
「あー、チョコレート会社の陰謀の日ね」
「そう、バレンタインデー」
「けど、最近は女友達に贈るのが普通になってきたって聞いたわよ。いまさらじゃない？」
「いまさらでもいいから、楓はとりあえず贈るようにしなさい。義理でいいから知ってる人全員に配るの。いいわね」
「いいけど……自分だけ配るんじゃなんか張り合いがない」
「それもそっか。私たちもいっしょに作るから、ね」
「作るって、もしかして手作りでやるっていうの？」
「誰もカカオ豆を買ってきて作るなんて言ってないってば。板チョコ買ってきてレシピ通りにやるだけだし」
「そうですね、おもしろそうです」
「さんせー、やってみようぜ……って、ねこにチョコレートはやってよかったっけ？」
「あとで〜しらべて〜みましょう〜」
「まずは、チョコレートの買い出しからですね」
「作るのはいいけど、どのくらい作ればいいのかしらね」
「そんなのは作ってから考えればいいって」
「お姉様、数を考えてないと、買い出しにもいけないわよ」
「……そっか。数か、うちの学校の全校生徒って何人だったっけ」
「40人学級が一学年6クラス、これが中高一貫で6学年、１４４０人、あと先生方ですね」
「結構な人数いるんだね」
「概算ですけどね。一クラス40人いないところもあるでしょうから」
「ま、一人1000個ぐらいつくればいいかな」
「そんなに作るのー知ってる人はそんなにいないわよ」
「じゃあ、知ってる人をかたっぱしから紙に書いていこうよ」
「お姉様、バレンタインデーって、何をする日なんですか」
「チョコレート会社の陰謀の日なんでしょ。とにかく理由をつけてチョコレートを配ればいいの」
「それも極端な理解ですね、九羅香様」
「じゃあ、紅葉はどうしようって言うの？」
「やはり、ある程度は絞り込みましょう、日頃お世話になってる人にチョコレートを贈る日ですから」
「そんなこと言ったら楓のことだから限定しすぎるぜ、やっぱり知ってる人全員に配るぐらいでちょうどだろ」
「まあ〜今の楓さんには〜本命を贈るなんて〜ありえないですから〜まずは〜義理チョコを〜贈るところから〜ですよ〜」
「それは最初から決まってたことだってば」
「まずは、こういう事の先達に聞いてみるべきだろうな」
「そうかもね」

とりあえず、九羅香達がバレンタインデーに義理チョコを作って贈ることだけは話が決まったようだった。
最初から義理チョコ、と決まってるチョコでいいのかどうか、それはまた別の次元のお話だろうけど。