ここは、弁慶達が通う高校。

可愛い小学生の、フェレットを連れたアルバイトが、購買部で働いてるのを見るのも

物珍しさがなくなったある日、小学校高学年ぐらいの子供を連れた３０過ぎぐらいの

おばさん……いや、おねえさんと呼ばなくても怒らないだろう……が、購買部へとやってきた。

 

「こんにちは、リンディ提督、クロノくん」

「いらっしゃいませ。なんや、なのはちゃんの知り合いなんか？」

「私は次元管理局提督のリンディ、こちらは執務官のクロノです」

「よろしく」

「次元管理局の提督さんに、執務官さんなんか。それがどういう役職か

　うちにはわからへんけど、ともかく次元管理局の責任者みたいな

　仕事には間違いないんやろ」

「そういう理解で問題ないですね」

「そうなんか。で、次元管理局の人が、また今日はどういう用件なん？」

「起きた事件から先に言った方がいいと思うわ。……先ほど、次元跳躍攻撃により

　時空戦艦アースラが撃沈されました」

『撃沈！……まさか……時空戦艦が撃沈て、一体誰がそんなことを……』

「SS級以上の魔導師なら、このような攻撃が行えてもおかしくはない。

　そして、こんな大魔導師なら、管理局のライブラリを当たれば概ね見当はつく」

「あの、それで、誰なんです？　こんなことをしたのは」

「プレシア＝テスタロッサ、ね。テスタロッサ姓でこれだけの大魔導師となると

　プレシアしか考えられないわ」

『それで、そのプレシア＝テスタロッサはどこにいるんです？　次元跳躍攻撃を

　逆にたどれば、場所がわかるはずですよね』

「残念なことに、次元跳躍攻撃を逆探知するまえにアースラが沈んでしまった。

　乗員をこちらに待避させるので精一杯だったんだ」

「こちらにって、どこに待避させたんや？」

「最悪の事態を考えて、海鳴市に事務所は元々借りてあったのよ。

　そこにエイミィをおいて、いまは臨時の指揮所にしてるわ。

　次元管理局本局にも情報は送ってあります。

　第９７管理外世界と本局の間に、プレシアの居場所があるのはほぼ確実だから

　捜索艦隊によって発見されるのも、……時間の問題だといいんだけど……」

「だけど、なにか引っかかることがあるんやな」

「次元跳躍攻撃で撃沈されるのは、アースラだけではない可能性がある。

　探索任務は、極めて危険なものになるだろう。だが、幸いにして

　プレシアのねらいははっきりしている」

「ジュエルシード、やな」

「そうね。アースラで保管してたジュエルシードは１３個、これでプレシアをおびき出せれば

　本局艦隊を危険にさらさずに、プレシアの居所を見つけることが出来るわ」

「そうなったら、フェイトちゃんはどうなるのかな？」

「プレシアは、アースラの撃沈後、追い打ちはかけてこなかった。それが出来るほどの

　魔力のゆとりがなかったのか、それとも人死をさけるつもりがあったのかは不明だ。

　ただ、次元跳躍攻撃で艦艇を沈めるほどの大技を使ったことを考えると、魔力の

　ゆとりがないと考える方が自然になる。フェイトは、いつ現れるかわからないが

　我々が第９７管理外世界に現れたと知れば、すぐに追っ手として現れると考える方が自然だ」

「フェイトちゃん……」

「それで、これからどうするつもりなんか？」

「次元管理局としては、時空戦艦を攻撃された以上、これ以上プレシアを放置することは出来ません。

　ですが、場所がわからないことには、対処もできない。……けど、プレシアを捕まえるのに

　手がかりはある」

「フェイトを捕まえること、やな」

「そういうことです。プレシアは、何らかの理由で、こちらには現れることが出来ないと

　考えてよさそうですから、フェイトを捕まえることで、居場所を知ることができるかもしれない」

「話し合いとか、無理なの？」

「話し合いの段階は終わってしまったわね、残念なことに。

　フェイトがプレシアの言うとおりに動くとすれば、管理局は犯罪者として

　逮捕しなければならないわ」

「……」

「アースラ乗員の生命を危険にさらしたんだ、もう、殺意はない、なんて言っていられない」

「それは管理局の都合やろ。それと、うちらと、どういう関係があるん？」

「こちらにも、ジュエルシード同様、プレシアが……あるいは、フェイトがねらっている物があると聞いた」

「神機のことやな」

「そうです。そして、我々としては、それをプレシアが入手することがないようにしたい」

「またどういう理由でや？」

「プレシアが何のためにジュエルシードを求めているかは依然として不明だ。

　しかし、それが犯罪的な何かであることは、今回の攻撃から明白になったといえる」

「犯罪目的でなければ、通常の手続きで、管理局から借り受けることも出来るはずですものね」

「犯罪って、どんな犯罪になるん？」

「それはわからないわ。だけど、次元跳躍攻撃で時空戦艦を沈めてまで達成しようということ、そして

　それでは不足するほどの魔力を必要とすることだから、よほどのことであることには間違いないわね」

「その、よほどのこと、ちゅうんがわからんことには、対処の方法もないなぁ」

「そのためにも、居場所を突き止める必要がある。……そして、そのためには、フェイトを

　捕まえなければならない」

「堂々巡りやな。けど、フェイトを捕まえるのに、何かアイディアはあるんか？」

「こんな大きな攻撃を仕掛けてきた以上、プレシアにはそれほどの時間の猶予はないはずよ。

　だから、ジュエルシードと……神機が集まってる場所があれば、それが危険とわかっていても

　プレシアは……おそらくフェイトを使って……何かを仕掛けてくるはず、それも、近いうちに」

「それで、うちの生徒を危険にさらすんか？」

「どのみち危険は生じている。アースラの次が、この学校になってもおかしくはない」

「協力してもらえないかしら」

「うちの一存で決められることやないからな。どっちにせよ、神機は誰かに気軽に

　貸し出せるような物とは違う。おとりとして神機を貸せ、ちゅうのは、無理な相談やで」

「そうなるでしょうね。だから、私たちがこちらで待機するしかないのよ」

「……難儀な話やなぁ……うちらとしては、無関係な喧嘩を持ち込まれたようなもんや」

「神機という力を管理している以上、その力を欲する者が現れるのは想定していたはずだ」

「独力、かつ、問答無用でぶっとばせばええんやったら話は早いわ。

　今回は問題が両端にあるからなぁ。うちらでは、手の施しようもないわ。

　第一、街一つ吹っ飛ばすような魔導師だの、戦艦沈めるような魔導師だの相手に

　いったいなにをせえいうんや。それこそ、神機の力でも解放せえへんかぎり

　太刀打ち出来るきがせんわ」

「それは、我々で何とかする」

「船沈んでるやない」

「それは……」

「言いたいことはわかるわ。けど、プレシアが行おうとしていることが

　あなたたちにとって無関係で済む、という保証もないのよ。

　あなたたちが話し合いを臨んだとしても、プレシアは話し合いを望んでない。

　話し合う手段もない。それが現実なのよ」

「……どっちにせよ、フェイトとあわなどないしようもないな」

「次に会うときには、戦場かもしれませんよ」

「……」

「やっぱり、フェイトちゃんと、戦うことに、なるのかな」

『次に会うときには、フェイトも後のない状況になってると思う。

　なのはがどう思うにせよ、フェイトは目的を達成するために

　手段を選んでいられないと思う』

「ユーノくん……」

「降りかかる火の粉ははらわなならん、ちゅうことか」

「そういうことになると思うわ。プレシアはミッドチルダの住人だし

　その娘ならフェイトも管理局法に服する義務がある。

　基本的には、管理局の問題にあなたたちを巻き込んでる自覚はあるのよ」

「発言権はなしか」

「それ以前に、選択の余地もないはずですよ」

「そういう言い方は好きやないわ。けど、うちらも詰んでるな」

「あの、みねあさん、それはどういう意味なんですか？」

「言葉通りの意味や。フェイトも、プレシアの目的はしらんみたいや。

　話し合うとすれば、相手はプレシアになるんやけど……その当人の覚悟のほどが

　時空戦艦撃沈ではっきりしてしもうた。……話し合いは、無理やろな」

「そんな……それじゃ、フェイトちゃんはどうなるの」

「今のところは、無断での管理外世界への侵入と管理外世界住人への暴行、および

　ロストロギアの不正入手ということになる。

　ただ、次に来る本人の態度しだいでは、それが傷害に、あるいは、……傷害致死、最悪

　殺人未遂や殺人、ということも考えられる」

「……その前に、なんとか、とめられないかな」

「方法は考えてみる。しかし、あまり期待しないでほしい」

「……生徒会に相談はしてみる、けど、色よい返事ができるかどうかは、わからんよ」

「すこしでも連携に齟齬が生まれると、それだけで、最悪の事態が起きかねないわ。

　なんとしても、フェイトを逮捕しないことには、事態の改善が見込めないのよ」

「わかった、うちも覚悟は決めた。……フェイトを捕まえるところまでは

　うちらも協力する。……けど、そこから先はうちらは関与せえへんよ」

「協力に感謝します」

「感謝されるようなことでもないわ。……正直、気の進まん選択やからな」

「フェイトちゃん、殺人未遂とか、そんなことするのかな」

『それはわからないよ、だけど、向こうが手段を選んでないのは、確かなんだ』

「フェイトちゃん……」

「なら、さっそく作戦を詰めないとね、うちの武装隊員とクロノがあなた方を援護します」

「それじゃかえってフェイトを挑発することにならんやろか」

「今度の敵は、フェイトだけじゃないのよ」

「そうやったな。そうや、それをかんがえとかなあかんのや……はぁ……」

 

気の重い話ではあった。しかし、プレシアが自ら退路を断った以上、みねあ達も

覚悟を決めるほかなかったのである。