ここは、弁慶達が通う高校である。

冬休みも終わり、始業式も終わり、三学期がはじまろうとしていた。

 

今のところ、黒服の女の子は現れていない。

 

「けど、これ、嵐の前の静けさ、っちゅう雰囲気があるんよ。

　あの子が、そう簡単に、神機をあきらめるとも、思えへんなぁ」

「……え、えと……いつでも……人がいるから……その……あの……」

「そうやな。他人を傷つけへん、それに気を遣ってるようには見える。

　けど、それもいつまで続くか……」

 

それが、いつまでもは続かないだろう、その点には確信を持っているみねあであった。

 

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そんなある日、一人のフェレットをつれた女の子が、弁慶達の高校を訪れた。

 

「あの、こんにちは、購買部はこちらでよろしいでしょうか」

「いらっしゃい、購買部はこっちやけど、小学生やろ。ここは高等部やで」

「え、あ、あの……」

『なのは、最初から説明したほうがいいよ』

「う、うん、ユーノくん。あの、私、清祥小学校の3年生、高町なのはっていいます。

　こっちがユーノくん」

「そうなんか、うちは購買部の部長、万年15歳のみねあ　きゃんべるや。

　こっちは手伝いのみあ」

「あ、あの……初めまして……高町さん……」

「なのはって呼んでください、みんな、そう呼びますから」

「あ、……はい、……なのはさん……」

「9歳にさん付けもおかしい気がするけどな。で、なのはちゃんは

　またどうしてこっちに来たん？」

『なのは、あの人……』

（ユーノくん、あの人って、どっち？）

『あの、おとなしそうな人の方……あの人から、すごい魔力を感じるんだ。

　あれはジュエルシード以上の力がある』

（それって……フェイトちゃんがねらってるのが、あの人ってことなのかな）

『人間じゃないかも……』

「あんな、そこのフェレットもどき。こそこそ会話せえへんでも

　普通に人語をしゃべってええんよ。こっちには、人語を解する

　化け狐がいて、慣れてるからな」

 

みねあが言うのは、源九郎のことである。

 

「あの、みねあさん、ユーノくんのことがわかるの？」

「だてにみあとつきあってへん。で、何しにきたん？

　どうも、買いたいものがある、っちゅう風には、みえへんで」

「あの、こちらに、フェイトちゃんは見えませんでした？」

「フェイトちゃん？……誰のことやろ、聞いたことないなあ」

『みねあさん、こちらに、金色の魔力光を持った、黒服の9歳ぐらいの女の子を見ませんでした？』

「それなら、見たことがある。けど、その子が来たからいうて、わざわざ

　海鳴市からこっちに来るなんて、一体どういう理由なん？」

「あの、最初から説明します。ユーノくんは、ジュエルシードを集めてるんです。

　ジュエルシードっていうのは、魔力の固まりみたいなもので、正しく介抱すると

　人の願いを叶える力があるんです」

「正しく開くと、いうことは、開き方を間違えると、ろくなことにならん、ちゅうことやな」

『そうなんです。事故でこの世界に落下しちゃったのを集めてるんですけど、その回収は

　概ね終わりました』

「終わったんなら、よかったやない」

『けど、今8個が、フェイト達のところに残ってるんです』

「で、それを回収せなあかんのか？　そもそも、願いを叶えるアイテムを

　わざわざ何個も回収する必要あるん？　一個でええような気がするんやけどな」

『なんのために、フェイトがジュエルシードを集めてるのか、それはわかりません。

　けど、ジュエルシードは、危険なんです』

「危険って、どんな風に？」

『ジュエルシードは、衝撃を与えると、次元震を起こすんです』

「次元震って、一体なんなんや？」

「地面が揺れるのが地震、空間そのものが振動して大規模な災害を起こす。それが次元震です」

「ふーん、その、次元震が起きるかもしれへんから、それを回収したい、ちゅうことなんやな」

「……はい、ユーノくんは、そのためにジュエルシードを回収してるんです。

　私はそのお手伝い……なんですけど……」

「けど？」

「……けど、フェイトちゃんのこと、私、ほっとけないんです」

「……どういうことや？」

「あの、わたし、あの子と、お友達になりたいんです。だけど、……きっかけがなくて」

「言われてもなあ。うちには、どうにも手助けはできへんよ。

　捕まえればええ、っちゅうことなら、なんか手は考えられる。

　けど、心を捕まえるのは、力ずくで縛り付けることとは、全く違うからな」

「わかってます。……アルフさんにも言われました。何がわかるって。

　だけど、私に出来ることがあるなら、力になりたいの」

「わかった。……うちに出来ることがあったら、手助けはする。

　うちも、みあのこと、守る義務があるからな。

　けど、ジュエルシードを集めて回収してるなら、ジュエルシードを求めて

　ユーノくんを襲うのが筋やないん。なして、フェイトちゃんは

　ユーノくんをほっといて、こっちに来るんやろ』

『フェイトが、こっちに来る理由は僕にもわかりません。

　でも、僕達をねらってない理由はわかります。

　僕らは、もうジュエルシードを持ってませんから』

「持ってない、ちゅうて、回収してるんちゃうん？」

『回収したジュエルシードは、時空管理局に引き渡して、今アースラで

　厳重に保管されてます。いくらAAA級魔導師でも、次元戦艦を襲うなんてことは、無理ですから』

「ええと……時空管理局？　AAA級魔導師？　次元戦艦？　なんやそれ」

「時空管理局っていうのは、ロストロギアっていう、ジュエルシードみたいな

　危険物を管理してるところなんです。ほかにも、警察や消防みたいなこともやってるそうです」

『AAA級魔導師っていうのは、魔導師ランクの一つなんだ。AAA級だと、大体、街一つを

　壊滅させる力があるとされてる』

「次元戦艦っていうのは、次元空間を移動できるでっかいお船なんだよ」

「次元空間？」

『次元空間っていうのは、次元の海のことで、、、この第97管理外世界以外にも

　次元空間で隔てられた、別の世界がたくさんあるんです。

　その、隔ててる空間、それが、次元空間って呼ばれてます』

「ワープ空間とか、超次元空間とか、そんなもんや、いうて理解すればええか」

『ワープ空間がどんなものかはわからないですけど、超次元空間っていえば、その通りです』

「ふーん、まあ、そういうことは、どうでもええんやけどな、本当は。

　けど、AAA級魔導師が暴れたら、街一つが壊滅するんやて？

　で、その、フェイトちゃん、ちゅうんは、AAA級魔導師なんか？」

『魔力値レベルだけ言えば、なのはと同じで、AAA級魔導師と見て間違いない』

「なのはちゃんと同じ？」

「うん、わたしも、魔力値はAAA級あるんだって。だから、ユーノくんのお手伝いも出来るんだよ」

「そうなんか、……で、二人が対決したら、街２つが消えてなくなる、っちゅう落ちに

　なるんやなかろうな。そんなこと、とても見過ごすわけにはいかへんで」

「……だけど、フェイトちゃんをとめないと、きっと大変なことになる」

「その、フェイトちゃんが、ろくなことにジュエルシードをつかわへん、ちゅうて

　わかってるんならやけどなぁ……」

『それはそうですけど……』

「みねあさん、どうしても助けてくれないんですか？」

「うちは、ただ働きせえへん主義やからな。話がジュエルシードだけで終わるんやったら

　何かする理由があらへん。けど、今フェイトちゃんちゅう子は、みあをねらってる。

　降りかかる火の粉そのものや、なんとしてもとめなあかん。

　それに、うち、人殺しは嫌いや、ころさへん方向で、なんとか対策をくまへんとな。

　けど……街一つ壊滅かぁ……やっかいな話やな」

「うん……今のところ、フェイトちゃんも、関係ない人を傷つけようとはしてないんだよ」

「それは、うちもわかってる。だからなおさら傷つけたくはない。

　けど、話し合う糸口すらないんやったら、どないしようもないやろなぁ」

「話し合う、糸口ですか」

「なんのために集めてるか、それがわからへんことには、対話のしようもないからな」

「うん……」

「……今のところ、フェイトちゃんは、人を傷つけへんように気をつかってる。

　それを利用して、今はみあを守ってるんよ。けど、いつまでも、紳士的には

　振る舞ってられへんやろ。覚悟完了して襲いかかってくる時が、来るはずや。

　そのときには、こっちも手加減なんてしてられへんやろな。

　対話の糸口とか、いうてられへんかもしれんよ」

「それは、私がなんとかします。だから、しばらく、ここにいさせてくれませんか」

「くれませんか、いうて、家のほうはええんか？」

「お父さんお母さんの許可はもらいました。リンディ提督のところで合宿してることになってます。

　リンディ提督からも、許可はもらってます」

「……危険やで」

「危険は、覚悟してます」

「そうか、なら、うちから言うべきことはなんもあらへん。

　生徒会と校長に頼んで、学校に住み込みでバイトできるように手はうっておくわ」

『アルバイト？』

「当然や、働かざる者食うべからず」

「わかりました、明日からお願いします」

「商談成立、やな」

 

こうして、翌日から、購買部には、9歳の可愛いフェレットを連れた女の子が

みあと一緒に店番をすることになった。

次にフェイト＝金色の光をまとった黒服の少女＝が現れるまでの契約で。