それは、唐突に訪れた。

 

「……え、ええと……」

「みあ、封印解除レベル０からレベル2に移行」

「は、はい……封印解除レベル０からレベル2に移行……

　……来ます！」

「うちも感じた、これは、近い、な」

「……敵意は感じませんが……高エネルギー体、急速接近中」

 

ここは、弁慶達が通う高校の購買部、深夜の購買部、いつものように

明日の販売準備を整えている最中だったみねあとみあは、何かを感じ取ったようだった。

 

「うちが応対に出る。みあは隠れとき」

「は、はい……」

 

高エネルギー体相手に、みねあは何を始めるつもりなのだろう、みあの援護なしで。

 

「みねあちゃんを甘くみてもろうたらこまるわ、……と、見えた、ピンポイントで

　出現する能力は相手にないんやな、神機使いほど怖い相手でもないやろ」

 

なるほど、高速で接近する金色に輝く流星が、購買部のある弁慶達が通う高校の中庭に降りた。

 

「ずいぶんと乱暴な訪問やな、一応は不法侵入や」

「それについてはお詫びする」

 

現れたのは、全身を黒いレオタードと、黒いマントでおおった、9歳ぐらいの金髪の少女だった。

 

「で、なんの用事かいな。今、ここにいるのはうちだけやで」

「結論から言う。ここにある、高魔力体を貸してほしい」

「……どういう意味や？」

「言葉通りの意味だ」

「……お断りや。あれはみだりに貸し出せるような物と違うわ」

「高魔力体があることは否定しないんだ」

 

そういうと、少女は、武器を構えた。

 

「力ずくで奪い取る、ちゅうんか、物騒な話やな」

「手荒なまねは望まない、けど、必要なんだ」

「力ずくでなら奪えると思うんか？」

「！」

 

みねあと、みあしかいないはずの学校に、第3者が介入するとは、誰が思ったろう。

 

「これを見逃してたら、お頭に怒られてしまうわ。

　あなたが何者かはしらないけど、おとなしく帰って。私も、こども相手に

　武器をふるうことはしたくない」

「……今日は帰る。けど、高魔力体は、必ず借りに来る」

「使い方がわかるのかしらね」

「私が使う訳じゃない」

「？」

 

少女は、現れたのと同じぐらい唐突に姿を消した。

金色の流星が、現れたのと同じ方向へと伸びていく。

 

「みあ、逃走方向を追跡」

「……あ、は、はい……今西の方へ向けて飛行中……停止を確認。

　……反応消滅」

「消滅やて、姿を隠したんとは違うんか？」

「……え、ええと……その……あの……その可能性も……ありますけど……」

「この世界から消えたのよ。時空を超えてね」

「時空を超えてこの世界から消えた？　けど、うちの知ってる世界に移動したんなら

　みあも把握出来るはずや」

「なら、みねあさんの知らない世界っていうことね。お頭が言ってたわ」

「さゆりんのお頭って、何者なんや」

「それは、あなたが何者かが秘密なのと同じように、秘密よ」

「なんや、そうか。せやたら聞いても無駄やな。

　けど、また神機をねらう存在が現れたことに間違いはないんやな」

「そういうことになるわね。平和な時間も、また終わりを告げたようよ」

「はぁ。……つかわんほうがええ力ちゅうのも、世の中にはあるんやけどなあ。

　まあ、とりあえず、みあ、封印解除レベル２から封印解除レベル０に移行」

「……あ、はい……封印解除レベル２から封印解除レベル０へ移行……

　……えと、……さっきの存在について……把握したこと……」

「後で聞くわ。明日の準備をせなあかんやろ」

「……え、えと……はい……そうですね……」

「そんな悠長なことで大丈夫なの。私は不安で仕方ないわ」

「真夜中に来た、ちゅうことは、人目は気にしてる、ちゅうことやろ。

　せやから、人目の多いときは大丈夫やとおもうんよ」

「そうだといいけど……」

「……けど、な。心配なことが一つあるわ」

「一つ？」

「ここにある神機は1個やない。もう一つの神機、あれもねらわれるんやないやろか」

「けど、あれは厳重に封印されて、普通の刀の姿をしているはず。

　普通にはみつけられんやろ」

「けど、相手は普通じゃない」

「……生徒会にも、警戒を呼びかけた方がええか」

「今回は、相手が手加減してくれる保証、ないんじゃないの？」

「人殺しは避けてるみたいや。それが少しは救いになるな」

「当てにならない救いね」

「……あ、あの……人相書きを……回すとか……そういうのは……ダメ……なんでしょうか……」

「まだ早いやろ。それより、まずはみあと神機の安全確保、次は学園の生徒の安全確保や。

　学園のみんなを、危険にさらしてる自覚はある。けど、不必要なリスクを負わせるわけに、いかんやろ」

「弁慶さん達は、十分化け物じみてますね」

「会長も十分化け物じみてると思うわ」

「べつな意味でね」

「……ええと……それで……」

「さゆりん、弁慶の携帯を呼び出して、顛末を伝えてくれへんか。

　うちはみあの安全を守ることを考える。みんなの安全の方は、生徒会に任せる方が

　かえってええんやないかと思うんよ」

「私にも、その責任の一端を、負わせるつもりなんでしょ」

「当然や。お頭が誰かはしらへんけど、みあと、この学園を守る義務は、さゆりんにも、あるんやろ」

「……痛いところをついてくるわね」

「さて、これでうちは肩の荷が半分下りたわ。さあ、みあ、明日の準備に取りかかろうや」

「……は、はい……了解です……」

 

みねあとみあは、再び購買部の明日の準備へと取りかかった。

後に残されたのは、猿渡さゆり一人である。

 

「はぁ。……神機を手に入れるために手段を選ばない相手。正体不明、実力不明。

　戦力はほしいけど、学園生の安全は確保しなければならない。

　相談できる相手といえば……」

 

あの会長はあてになるまい。となれば。

 

「生徒会しかないわね。真夜中に呼び出して出てくれるかな」

 

そうつぶやくと、さゆりは携帯を弁慶に掛けた。

そして、もう一人、携帯電話持ちの、コオルにも。

 

「彼と、あの召喚少女達も、力になってくれるなら、戦力には計算できるはず……」

 

さゆりは肩をすくめる。会長とのどつき漫才で過ごしてきた平和な日常を

ちょっとだけ懐かしむかのように。

 

「さて、作戦を考えないと」

 

とはいえ、作戦といっても、情報が少ない現状では、手の施しようがない

目を増やす以外の作戦の立てようがないのだ。

 

「金色の流星、ね……」

 

ふと、一つの計画を思いつく。

目を増やすことに意味があるのなら、それは、一つの作戦になるはず。

 

「だめで元々だもの。明日、生徒会に話してみますか。要は夜にみんなを

　集める口実があればいいってことよ……たとえば、天体観測とか」

 

秋の天体観測、金色の流星探しが始まろうとしていた。