ここは、弁慶達が通う高校。

この学校、設備はいろいろと整っている。

もちろん、学校にだってプールぐらいはある。

あるのだが、夏休みだからといって、一般生徒に開放されてはいない。

水泳部が部活で使っていて空きはないのだ。

 

さて、場面は変わる。

久しぶりの崩れそう、もとい、九羅香たちが暮らしているアパートだ。

 

「あちーあついあついあつい〜」

「玲奈、うるさい」

「そういう九羅香だって十分だれてるじゃないか」

「九羅香様も玲奈様も落ち着いてください。少しは与一様をみならってはどうですか」

「心頭滅却すれば火もまた涼し」

「涼しいのは〜首筋を〜濡れ手ぬぐい〜冷やしてるからですけどね〜」

「何の仕掛けもなしに暑い中にいたら熱射病になってしまう。

　第一、快川和尚は焼け死んでしまったではないか」

「ちわー」

「弁慶さん、こんにちは」

「こんな暑い中廉也は何をやってるんだ？」

「見ての通り、洗濯です」

「こんにちは、弁慶様。毎日暑いので洗濯物はよく乾きますよ」

「そうだな、ぱりぱりになるぐらい乾くもんな。

　それより、人数分アイス買ってきたけど食うか？」

「はい、いただきます、みなさんを呼んできましょうか？」

「いや、いいよ、こっちから行くから。んじゃ、好きなのをとって」

「好きなのって、全部同じじゃないですか」

「……まあ、そうとも言うな。これが一番安かったんだよ。

　おれの小遣いじゃ安いのしか買えないからさ」

「いつも気を遣ってもらってありがとうございます」

「いやなに、気にしなくていいよ」

「ありがとうございます、弁慶様」

「だから気にしなくていいって観月ちゃん」

「なに立ち話してるんだよ、アイスが溶けるだろ」

「あ、こら、まだお前にやるって言ってないぞ玲奈」

「どうせくれるんだろ、けちけちすんなって。

　みんな待ってるんだからさ」

「弁慶、暑い、どこか涼むところはないのか」

「図書館なら無料で冷房が効いてて本が読めるぞ。宿題もはかどるはずだし出かけてみたら」

「そういう弁慶は宿題出来てる？」

「いや、全然」

「それじゃわたしと同じではないか」

「いや、それ自慢になってないし」

「自慢してるつもりもないよ。それよりほかに涼しいところ〜」

「そうですね、例年だと出かけられる合宿も、今年は中止になってしまいました」

「紅葉、それはまたどうして」

「七夕で夏のための予算を使い切ってしまいました。

　今年の夏は遠出することは出来ないと思ってください」

「遠出は出来なくても、近場ならなんとかならないかな」

「なあ、セルディアーシュには、避暑地とかないのか。

　あっちで涼もうぜ」

「今年はあっちも猛暑らしい。湖はあるらしいけど、プールにはなってないみたい」

「湖かぁ。こっちの川は、水遊びするには汚れてるけど、向こうの湖はきれいだったよね」

「そうだね。じゃあ、あっちの湖に遊びに行こうか」

「さんせ〜」

「……なんか、思いきり遠出になってる気がするんだが……」

「弁慶、細かいことは気にしない。ところで、湖でなにやるの」

「避暑なんだから、やっぱ泳がないとだめだろ」

「うん、そうだね。泳ぎに行こうか」

「さんせー」

「では、生徒会の方で、ほかに出かけられる方を集めてみますね。

　向こうでの受け入れ準備の折衝も、生徒会で手配いたします」

「頼むよ紅葉」

「はい、弁慶様」

 

こうして、生徒会主催で、ホートウィッシュ郊外の湖での、水泳大会開催が決定したのだった。

だが、その水泳大会の会場、前回、主がいるというはなしだったのを、忘れてしまってないか？

 

「湖の主は退治されたろう、問題ないはず」

「一応、マグストラタムの教官さん達に、安全確認をお願いしておきます」

 

そういうことか。

ともかく、水泳大会の準備は、問題ないようだった。