ここは、久しぶりにお話の舞台になる、九羅香たちが暮らすアパート、通称つぶれ荘。

「こんちはー、紅葉先輩、差し入れで〜す」

元気よく入ってきたのは、これまた久しぶりに登場の景川美沙である。

「美沙様、今日はどうしたのですか？」
「どうしたって、どうもしないよ」
「その割には、たくさんの荷物を抱えてますね」
「えと、それは……あはは、廉也君とかに着せようと思って持ってきたんだ。
　けど、甘酒や菱餅も持ってきたから、怒らないで〜」
「怒りませんけど、いったいどうしたんですか？　まだ、ひな祭りには早いでしょう」
「ひな祭りには早いけど、こういうのは早い者勝ちだからね。
　今のうちに記念撮影しようかなって思って」
「それで、衣装などを持ってこられたのですね」
「うん、そうだよ、紅葉先輩」
「ですが、廉也様に悪いのではありませんか？」
「悪いとか、そういうことを考えてたら楽しめないよ。
　それに、廉也君だって、和服を着てたじゃない、お内裏様の服だって
　似合うのは確定済みだよ、じょぶじょぶ」
「ですが、やはり、するのはちゃんとひな祭りの日にいたしましょう」
「ちぇー、せっかく持ってきたのに、紅葉先輩のけち」
「けちとか、けちではないとかいう話ではありませんよ」
「そだ、ひな祭りは生徒会で何かやらないの？」
「生徒会で、ですか。確かに、生徒会でも何か出来れば楽しそうですね。
　せっかくですから、何か考えてみましょうか」
「賛成、じゃさっそくまどか先輩達にも話をしてくるね」
「どうしてまどか様たちのところへ行くのですか？」
「ん？　まどか先輩達も、何か計画があるみたいだったから」
「そうですか、では行ってらっしゃい。後で報告してくれるようにお願いしますね」
「りょうっかい、副会長殿、では行ってきます」

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そういうわけで、翌日の学校、まどかたちの教室である。
まどかと卯月は、紅葉と同じクラスなので、紅葉が直接話を
すればいいような気もするが、紅葉は生徒会の雑用で忙しいらしい。

「こんにちは、まどか先輩、卯月先輩」
「こんにちは、景川さん」
「ちわー、美沙。今日はどしたの」
「今日は、生徒会で、ひな祭りイベントをやろうと思うから
　その相談にきたんだよ」
「音楽会がやりたいな」
「やっぱ運動会がいいよ、生徒会の定番のイベントでしょ」
「んー、先輩。確かにクリスマスに障害物競争やったりしてたけど　
　ひな祭りは、もうちょっと女の子らしいイベントにした方がいいんじゃないかな？」
「五人囃子の音楽会なんてどうかな」
「五人囃子をやるのはいいけど、三人官女やお内裏様におひな様はどうするの？」
「そりゃ、もちろん、あの子にやってもらうのが一番よね」
「あー、あの子ね、確かにあの子なら似合いそう。可愛いお内裏様になるね」
「あの子って、誰のことなんですか」
「ほら、最近こっちの世界にきたコオルだって」
「あ、コオルさんか。廉也君みたいで可愛いこだよね」
「そうだよね。……って、そういえば、廉也でも何か考えてたんじゃない？」
「えへへ、先輩正解。お内裏様に廉也君を仕立てようかなって思ってたの」
「けど、今年はあの子をお内裏様にしたらどうかな」
「えー、廉也君がいいよぉ」
「じゃ、二人ともお内裏様にしちゃえば」
「あ、それ名案」
「なら、その方向で紅葉先輩と打ち合わせしてみるね」
「お願いね」

美沙は駆け足で教室を出て生徒会室へと向かう。
残された二人の会話。

「……思うんだけど、紅葉って、副会長だよね」
「だね。だけど、それがどうかしたの卯月」
「うちの生徒会の会長って、誰なのかな」
「そういえば、聞いたこと無いね、生徒会のイベントがあるたびに
　かならず紅葉が責任者になってやってるから」
「会長、いるのかな？」
「いるんじゃない？」

存在感のない会長が誰なのか、それはこのシナリオとは
全く何の関係もないことである。
ともかく、生徒会主催による、二人のお内裏様と
二つの人間雛飾りイベントは、実行が決まったのであった。