「なあ、みねあ。そろそろ神機を使わせてくれてもいい頃じゃないか」
「リスクと利益が一致せえへんわ。ほかに方法探してみるんやなかったんか？」
「ほかの方法は確かに見つけた、けど、リスクの点で神機を使うよりまだやばい」
「さすがは天才アデルバートはんや。で、その方法ってなんや？」
「魔道兵器のキーの魔力を使って、あの空間のひずみを強引に抜け
　リドラスヘイドのグレートボイドまで強引に突破する。
　一度突破できれば、迂回ルートを造る方法はある」
「そうか、なら、それを試してみるんやな。
　けど、強行突破できるだけの戦力、あるんか？」
「いくら俺が百年に一度の天才でも、勝算はないな。
　あの中には何が潜んでるかわからん。
　それに、空間に飲まれた奴らは、あいつらだけじゃないはずだ.。
　そいつらがどうなったか考えると、生還すらおぼつかん」
「……空間のひずみを九羅香はんらがつぶしてくれてるけど
　その頻度も上がってるのは事実や。なんか手はうたんとな」
「だろ。神機を使うのが手っ取り早いのには、同意してくれるな」
「そうやな。失敗したとき、骨をひらうのになら、つかうのもしかたないかもな」
「骨を拾うためかよ。それじゃ手遅れだぜ」
「けど、めったやたらに神機はつかえへん。
　暴走する危険といつでも神機は隣り合わせや。
　それに、うちかて、神機にのまれへん自信、ないんよ」
「そっか……力に、飲まれるか」
「そうや。せやから、骨はひろうたる。そのかわり、前に進む時には
　神機なしや。なんとか、それでうまくやる方法、みつけてくれへんか？」
「それはわかった、なんとかする」
「そっか。なんとか、勝算たててや」
「たててや、いわれても、自信はないな」
「百年に一度の天才が、また弱気な発言やな」
「問題を過小評価しないのも、天才の条件だぜ」
「まあ、な……悪いな、うちも、できることとできへんことがあるんよ」
「いや、骨を拾ってくれるだけでも、救いにはなる」

こうして、空間のひずみを超えてリドラスヘイドへ強行突破する計画は
始まった。
それを、どうやって成功させるのか？いや、それ以前に
成功させるための条件をどうやって整えるのか？
それは、アデルバートにも腹案があるわけではない。

「いや、一応計画はある。けど、難問が一つ残ってるんだよな」

難問って、なんだ？

「王国軍と、三魔将と、俺たち、三者が協力するのが、作戦の大前提だ。
　ただ、王国軍と三魔将が、互いに利害を一致させて、命がけの作戦に
　どうやったら協力してくれる気になるか、それが問題でな。
　こっちの方の問題が片付けば、強行突破それ自体は
　そこまで難しいとは思ってない」

そっか……確かに、それは難問だな。
今でも、異世界だから休戦してるだけで、帰ればまた
戦争を始めるだろう両者だものな。

「そうだ。そして、戦争をやめさせるっていうのは、強行突破を
　実行するより、まだ難しい問題なんだよ」

そう、強行突破それ自体は、全員が力を合わせれば不可能ではない。
だが、全員が力を合わせる。そのこと自体が不可能とさえ思える。
しかし、それでもなお、アデルバートは希望を捨てずにいた。