「と、そういうわけで、神機を貸して欲しい。

　俺達がリドラスヘイドに帰還出来る可能性があるとすれば

　それは神機を使って、あの歪んだ空間をなんとかするほかないんだ」

「おことわりや。もう十分危ない橋は渡った。

　ほんまのこというて、元の世界に無理に帰らずに

　こっちに順応したらどうや。それが一番平和な結論や。

　たちまち、アデルバートはん、家族３人でクラスっちゅう目的は

　逆方向やけど、うまいこといったやない」

「けどな、みねあ。…故郷は、大切な物なんだよ」

「命はもっと大切や。リスクが高すぎる、絶対だめや」

「…俺の払いを心配してるのか?」

「普通なら銭金の問題なんやけどな。今回は別や。

　命がかかってるんや。１００万の宝より、一つの命や。

　次元の歪みを、このまま修復する、っちゅうことなら

　あるいは神機を使うことに意味があるかもしれん。

　あの異世界の中を浄化するのに、神機を使うちゅうんは

　危険が高すぎる。だめや」

「絶対に、だめなのか？」

「絶対や。…もちろん、アデルバートさんが、リスクを軽減する

　方法、何か考えてきて、うちを説得したなら、話はべつや。

　けど、１００年に一度の天才アデルバートかて、そんなもんないんやろ。

　たちまち、神機がどんなものか、わかってるわけやないもんな。

　正直に言うと、うちも、神機の限界はしらへん。

　限界まで能力を引き出してしもうたら、何が起きるかわからんからな。

　使い方わからん機械を、ただ便利やいう理由でつこうてるようなものや。

　せやから…あきらめて、他の方法を見つけるか、…うちの心からの

　推奨やけど、リドラスヘイドは遠くの故郷やと別れを告げて

　この世界で暮らしていくように、考え、変えてみてや。

　第一、綾子はんにとっては、こっちの世界が元の世界なんやで。

　それも考えて、結論出してや」

「…みねあの言いたい事もわかる。けど、じゃあ魔族達や

　王国軍の連中はどうするつもりだ。あいつらは、リドラスヘイドに帰還する

　という条件で、暫定的に、戦いを辞めているだけだ。

　もし、こちらに定住することにでもなれば、今すぐにでも

　戦いをまた始めるかもしれないぜ」

「それを押さえるのは、うちの仕事でもなければ、アデルバートはんの

　仕事でもない。こっちの世界の警察のお仕事や。

　そこをわきまえて、双方とも、この世界に適応してもらわな

　しかたないなぁ」

「…だが、あの向こうの世界の邪気は、遅かれ速かれ払う必要があるとおもうぜ。

　こっちの世界に関係ないから、ということで放置していたら、いずれ

　取り返しの付かない事が起きるかもしれない。

　俺は、それも心配している」

「それならなおさら、神機を使って危険にさらすわけにはいかへん」

「そこをなんとかならないか」

「ならへん。うちの答えはどれほどアデルバートはんが言ってもかわらへん」

「そうか…とりあえず、今日は帰るわ」

「そうやな、まあ、うちも冷たいことばかりいうつもりもないんよ。

　こっちの世界でみんな適応して生きていくつもりになったら

　いつでもいうてや。魔族の４人や王国軍の仕事の世話とか

　なんでも力になってあげるからな」

「わかったよ」

 

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…とまあ、以上が、昨日、俺とみねあとの会話の一部始終ってわけだ。

みねあは、この世界に適応して暮らしたらどうかと言った。

確かに、俺もこの世界には５年暮らしている。こっちの世界も

決して悪い世界じゃない。コオルも来たことだし、ずっと

こっちの世界で暮らすのも悪くない、とはおもう。

 

だが、あの世界…リドラスヘイドと、この世界をつないでいる

グレートボイドの中の世界…は、妖気に満ちあふれていた。

たとえ、この世界への出口を塞いでも、また別な世界に

歪みをもたらして、吹き出すかもしれない。

…いや、もっとありそうなのは、リドラスヘイドへの

グレートボイドがさらに拡大して、大陸全体を

死の世界に変えてしまうってことだ。

俺は、それを止める手段があるのなら、絶対に止めたい。

それで、俺は、コオルの勧めもあって、この学校の

生徒会副会長の、佐藤紅葉って子に、相談にやってきたんだ。

 

「つまり、なんとかして、神機の力を、発揮できるようにしたい、ということなのですね」

「そうだ。みねあにはとりつく島もなかったが、それでも

　神機を安全に使う方法を見つければ、なんとか使わせてくれるかもしれない。

　あるいは、それがこの世界にとっても危険だと言うことを立証できれば

　この世界の安全のため、神機を使った対処に同意してくれるかもしれない」

「…難しいですね。神機がどんなものか、一番詳しいのは、みねあ様です。

　そのみねあ様が同意しないのでしたら、実際に危険だと考える方が自然なんです」

「…紅葉の考えはそうか。

　けど、何か答えがあると、俺は信じている。

　リドラスヘイドへの帰還は、このくらいであきらめられるものじゃない。

　グレートボイドを放置しておけないというのは、もっとはっきりとした

　事実だ。

　けど、みねあを説得する方法がみつからない。

　それで、なんとか、生徒会に力になってもらえないかと思ってな」

「そうですね。私単独では、何も出来ないかもしれませんが

　協力してくれる誰かなら、もっと良い知恵を出してくれるかも、しれません」

「そうか、頼む。」

「ええ、お任せください」

 

神機の力を使って、グレートボイドの邪気に対抗する。

そのためにはまず、神機そのものを使えるように、説得する必要があるのだ。