２月最大のイベントといえば、バレンタインデーである。
ここ、弁慶達が通う高校では、バレンタインは戦場と化す。
言うまでもなく、廉也達、もて男にあの手この手でチョコレートを渡そうとする
女子生徒達が集中攻撃を加えてくるからだ。

 

とはいえ、もてない男には、どうでもいい日である。
ホワイトデーも同様。お返しなのだから、もらわなければ返す義務もない。

 

だが、今年はひと味違った。
その違いのきっかけを作ったのは、オズワルド将軍の何気ない一言であったのだが。

 

「ヒルダ副官、現状はどうなっている？」
「はっ。我が軍の戦闘能力は十分維持されております。
　マグストラタムの生徒を偵察に出してありますので、向こうの情報もある程度は
　入手できている状況かと」
「だが、魔道機、これが魔族の手に入るとやっかいだ。
　なんとか、これを阻止する方法を見つけ出さなければ」
「手がかりがないのでは、難しいですね」
「だが、調査は必要だ」
「三魔将の奇襲の可能性を考えると、兵力の投入は危険です」
「それはわしも同感だ。わが兵が精兵といえども、単独で三魔将と張り合えるわけではあるまい。
　現状で、ほぼ、互角といったところだろうな」
「…では、どうされます？」
「偵察のために、１人、学園に送り込む必要があるな」
「誰を行かせましょう」
「ヒルダくん、君しかあるまい」
「ご指名は光栄ですが、 いくらなんでも私が生徒で行くのは難しいでしょうし
　私が教師として入るのも難しいでしょう」
「だが、幸い我が軍にも魔導師が残っている」
「それはその通りですが、何か？」
「…こほん。これは命令だ、男装してあの学校に入ってもらいたい。
　その間、我々はこの拠点を死守する」
「わかりました。ですが、入学はどうしましょう」
「…また、余計な出費がかさむな」
「結局、彼女に頼むんですね」

 

こうして、ヒルデガードは、弁慶と同じ高校に、男装して通うことになった。
だがそれが、次なる喜劇へとつながると、誰が予想しただろうか。

 

---

 

「ヒルデガード副官、どうしてこちらに」
「コオル君ですね。実は…」

 

いや、ここから先は軍事機密で、口止めされているのだ。

 

「…というわけです」
「わかりました。あのB.S.Eへの魔法が余計だったのかなぁ」
「いえ、それは過ぎたことですし、むしろ我が軍にとっての助けにもなりました。
　我々は、これから、魔道機の獲得を大に目標に、リドラスヘイド帰還を第一に
　考えて作戦行動をとることになります。コオル君。君の責任も重大ですよ」

「…はーい。わかりました。僕だって、元の世界に帰りたい気持ちはありますから」
「そうね。では、さっそく、こっちのせかいのことについて・・・」
「お久しぶりです、ヒルダ様」

「あなたは？」
「平観月と申します。こちらが、廉也」
「はじめましてヒルダさん」
「改まって挨拶されなくてもよろしいですよ。
　それで、今日はどういうご用件ですか」
「男装の魔法があるなら、当然、女装の魔法も、存在するのではないかと思いまして」
「それなありますが、それが一体？」
「手助けだと思って、廉也に１ヶ月ほど、女性化の魔法を掛けていただきたいのです」
「…それがどのような手助けになるのかはわかりませんが、それ自体はかまいません。
　ですが、その場合には、我々にもある程度の協力は願います」
「…私たちも、異世界〜過去〜から、この世界にとばされて来た身。
　故郷を思う気持ちは、私にもわかります」
「そうですか、では、その件についても了解です」

 

こうして、廉也は逆に女性化することで、バレンタインをやり過ごそうとしたのだ。
そして、肝心のバレンタインの日は、義経軍団の集団登校拒否でやり過ごすことに成功した。
だが、問題はこの先にあった。
女性化の魔法が暴走して、１ヶ月程度の持続時間を持ってしまったのだ。
これでは、ホワイトデーには女性のまま…そして、甚だ困ったことに
女性化した廉也には、なぜかホワイトデーに、先行投資を狙う男子生徒の大群が存在したのである。

 

しっと団団長こと、射撃同好会会長の暗躍があったとかなかったとか。

 

こうして、一ヶ月遅れのホワイトデー戦争が始まったのである。