「だが、我々はそういう訳にはいかんぞ、ヒルデガード君」
「もちろんです将軍。我々は、いつまでもここにいるわけにはいかないのですから」
「それで、奴らの動きは察知したろうな」
「はい。３魔将のうちの２人、エイミィとリンクスが通っている学校を見つけました。
　あの学校からは、強力な魔力の存在も見つけています」
「ふむ、…強力な魔力か。そちらにも興味があるが、まずは三魔将だ。
　三魔将をすべて葬れば、この戦争は、我々の勝利で終わることは、間違いない」
「その通りでしょうが、我々はまだ敵の実力を完全には把握しておりません」
「…だが、こちらの世界に同時にとばされてきた、あの少年がいるだろう」
「学園の生徒ですね。確か、コオルとかいう名前の」
「…アデルバートの息子だ。彼ならやってくれるだろう」
「彼とは定期的に連絡を取っています。あの学校にいる魔族は、あの２人だけなのは間違いありません」
「ふむ…………ヒルデガードくん。我々の目的は、なんだ」
「…戦争に勝利すること」
「そのために、我々が犠牲になることも、やむを得ないとは、思わないかね」
「どういう事でしょう」
「せっかく、孤立した状態で、魔族軍の中枢が異世界にとばされてきているのだ。
　これを殲滅すること。それが出来なくとも、最低限、彼らをリドラスヘイドに帰還させないこと。
　これこそが、我々の為すべき第一の任務ではないか」
「…それは、将軍の判断にゆだねます。私の任務は、将軍の決定を実現する最良の手段を見つけ出すことです」
「そうか……では、今決断しよう。我々は三魔将、及び、魔族の長バローを倒すことを最優先任務とする。
　それを達成するのに最良の方法を考えてくれまえ、ヒルデガードくん」
「かしこまりました。しばらくお待ちを」
「うむ」

「…困ったなぁ…どうしよう…」
「どうしたの？なんだか深刻そうな顔をして」
「あ、まどか。…困ったことになったんだよ。
　…オズワルド将軍からの指示なんだ。…王国軍親衛隊を校内に手引きしろって」
「それで、キミはどうしたいの？」
「どうしたいって？…それが決まらないから困ってるんだよ。
　マグストラタム学園の一員としては、ぼくは将軍の依頼を断るわけに行かない。
　だけど……将軍の言う通りにしたら、まどか達が通う学校がめちゃくちゃになってしまう。
　ぼくは、僕たちの世界の戦争に、まどか達の世界の人を巻き込みたくないんだ」
「じゃあ、そういって将軍を説得したら？私たちもなんとか話してみるから」
「無理でしょうね」
「ルテジア、それどういうこと？」
「オズワルド将軍は、対魔族戦争の最強硬派で知られてるわ。
　それこそ、魔族を１万人殺すためなら、人間が１０万人死んでもかまわないっていうほどのね」
「それじゃ計算あわないんじゃ？」
「人間の方が数が多いから、その割合で殺し合っても魔族の方が絶滅するのよ。
　人間は十分な人数生き残れても。
　そんな人相手に、あなたたちを巻き込むから争いを止めてくれって説得できると思う？」
「けど、あの人達だって話せばわかるんじゃない。ほら、ヒルデガードさんとか」
「…ヒルデガード参謀とも話してみたんだ。巻き込んでどうするんだって。
　だけど…だめだったよ。三魔将がリドラスヘイドに帰還したら、何百人という兵士の命がない。
　それに比べれば、まどか達の学校でエイミィを襲ううことで第三者を巻き込むにせよ
　犠牲は少なくて済む…って」
「そんな無茶苦茶な…」
「…それが、戦争なのよ」
「…なんとか、辞めさせること、出来ないの」
「ぼくには、無理だよ」
「…だけど、キミは、ひとりっきりじゃないでしょ」
「…だけど、…この世界の人たちをまきこんじゃったりして、いいのかな」
「いいのか、悪いのかじゃないの。あたしたちはもう巻き込まれてるんだし
　…それに、キミがしっかりしないと、本当に巻き込んじゃうわよ」
「う、うん。…そうだね、まどかの言うとおり」
「じゃ、とりあえず、みんなで集まって相談しましょ。晶ちゃんの喫茶店で話をすればいいと思うわ」
「うん、そうしようか」

「…あ、あの……みなさん……何に……いたしま……しょうか……」
「結、こいつらにはお冷やで上等。どうせ客として来たわけではない」
「あら～おねーさんの頼んだパフェは～」
「それは別。お金を出すならお客」
「それで、聞く耳持たない将軍相手にどうやって話を聞いてもらうかってことが問題か。
　こりゃやっかいだねぇ」
「下手なことを言うと、魔族の味方になったと見なされる」
「あ、あの……話せば……わかって……」
「今どうやって話を聞いてもらうかという話をしている。
　言うとおりにしなければ、即魔族に通じていると言い出しそうな相手に
　どうやって話を聞いてもらうか。これは難しい」
「……やっぱり、コオルや私が言ったんじゃだめじゃないかな」
「ルテジア、むしろあんたたちの方が聞いてもらいやすいんじゃない？」
「逆よ。あたしは半分魔族だから敵視するでしょうし、この子は学園の生徒だから
　命令には従って当然ぐらいに思ってるんじゃないかしらね。
　説得を聞いてもらうには、将軍と対等な誰かが必要よ」
「将軍と対等ったって…そんな人がどこにいるかなあ？」
「校長先生に～頼んでみては～どうでしょう～」
「マキさん、信じてもらえると思う？」
「やっぱり～難しいわね～」
「…我々だけで考えていてもらちがあかない。
　手助けしてくれそうな人に、相談するのがいい」
「手助けしてくれそうな人って？」
「そっか、うちは、生徒会の権限強いもんね」
「それに、この契約を斡旋してるの、みねあだし」
「それで、どっちに相談？」
「先に生徒会がいい。生徒会の紅葉に頼めば、必要に応じてみねあやみあとも相談してくれる」
「じゃ、善は急げ、だね」
「そうだね。…エイミィやリンクス先生には、伝えておくべきだろうか」
「直接言わなくても、生徒会に相談したら自然と耳に入ると思うよ」

【シナリオ３5】春の目覚め作戦