「それで、ヒルダくん。状況はどうなっている？」
「はっ。将軍、偵察の報告を総合すると、我々はどうやら
　異世界に転移してしまった物と考えられます」
「そうか…やはりな。原因はわかったか？」
「全く見当もつきません。ですが、月の影響であると考えるのが自然であるようです」
「月か…」
「大裂孔は空間の裂け目で、その向こう側には異世界が広がっているという
　説は、前から存在しておりました。この世界は、あるいは大裂孔の向こう側とも考えられます」
「だが、そうだとすると、この世界は魔力に充ちているはずだが、逆にこの世界は
　魔力が極度に不足している。…大裂孔とは違った、別の空間の裂け目に落ち込んだ可能性もある」
「そうですね、将軍」
「だが、まず必要なことは、我々がこの世界で作戦出来るようにする基盤の整備だ」
「幸いなことに、言語は我々とこの世界の固有種とで、共通であるようです」
「ふむ、…言葉が通じるのか。それはある意味幸運だな」
「ええ、…奇妙な話ですけれど」
「召喚獣相手に、我々が命令できるのだ。この世界の存在と会話できても、驚くにはあたらない」
「ええ、そうですね」
「それで、参謀。…地図は手に入れたかね？」
「はっ。地図を手に入れる方法は見つけたのですが……」
「何か問題でもあるのか」
「我々は、この世界で生活するのに必要な、資金を持っておりません」
「………この世界の軍事力は、どの程度ある」
「推定で１０万。…世界全体だと、１０００万は下らないとか…」
「…………この世界の住人は、ほら吹き揃いだと考えて良さそうだな」
「ええ、私も同感です。ですが、１００分の１に減らしたところで
　巨大な戦力には間違いありません」
「我が軍の戦力はどの程度残っている」
「一般部隊の大半は、リドラスヘイドに残存していると考えられます。
　同時に転送されたのは、直属部隊４０名ほど」
「…直属兵団４０人なら、一騎当千。十分な戦力と考えて良いな」
「はい、私も同じ考えです」
「よろしい、状況を整理仕しよう。我々は今現在異世界にとばされている。
　そして、この世界の持つ戦力は、現在の我々よりも強大である。
　しかしながら、この世界の住人は、我々に対して、今のところ無関心である。
　そして、我々は、いまこの世界で生存するための資金も拠点も保有していない。
　こんな所だな」
「はい」
「…では、必要なことは、拠点と資金の確保ということになる」
「そうですね」
「まずは拠点を確保しよう。…無人の建物は確保出来ないかね？」
「町中で確保するのは難しいでしょうが、郊外に一つ、適切と思われる場所を見つけてあります」
「どこだ？」
「大まかに地図を書きますと……」

「さて、秋の合宿の計画もほぼ出来ましたね、九羅香様」
「そうだね。今回の合宿先は、この町のそばなんだね」
「ええ、予算の都合もありますし、あまり遠出しましても、移動に時間を食われるばかりですから」
「それだけたっぷりと練習出来るってことだよね。喜べ弁慶」
「喜べって…俺は遠くに行く方がいいんだけど」
「申し訳ありません弁慶様。各部活動の意見を集約すると、今年は近場にしようと
　いう、結論になりまして」
「いや、紅葉を責めてるわけじゃないよ」
「お姉さま～。私と一緒に合宿に行きましょうね～」
「楓。九羅香様はまじめな練習に向かわれるのですよ」
「わかってるわよ。けど、玲奈の奴、また変な情報を仕入れてきたわよ」
「変な情報？」
「変っていうな！」
「あんた、なんで窓から入ってくるのよ。ここは４階だって知ってる？」
「忍者が４階ぐらい上れなくてどうするんだよ。てか、変な情報って言うなよ」
「それはもう聞いたわよ」
「…玲奈殿も、けんか腰にいうこともあるまい」
「与一様は、もうお聞きになられたのですか」
「まあな。…合宿先に、妙な武装集団が現れている、ということなのだろう？」
「そうだぜ。なんか、中世の騎士団みたいな格好をした連中が、合宿先の
　キャンプ場を占拠してしまってるって話だ。
　まあ、ちょっと流行らないキャンプ場で、こないだ潰れたって聞いた場所だから
　変な奴が住み着いてもおかしくないんだけどな」
「大丈夫なの、紅葉」
「その点は大丈夫です九羅香様。私たちが使うキャンプ場は、潰れた施設から
　少し離れておりますから」
「そっか。じゃ、安心してレッツゴー！」

「…九羅香さん、弁慶。あなたたち、うちの会長を見なかったかしら」
「さゆり、サバゲの会長がどうかしたの？」
「姿が見えないのよ。…例によって、あなたたちにちょっかい出して返り討ちかと
　思って、探してるんだけど」
「別なカップルを狙って行ったんじゃないのか？」
「それはないわ。他に心当たりのありそうな人は、すでに当たりをつけて、違うって
　わかったから。…あと、合宿に来ている人の中で、カップルっぽく見えるのは
　九羅香さんと弁慶だけなのよ」
「俺たちが一番最後かよ…」
「あはは、そりゃ本物のカップルのほうが優先だって。
　それより、会長が行方不明って、さゆりにもわからないの？」
「…ええ、全くの行方不明。…遭難してないといいんだけど」
「捜索願でも出そうか？」
「………いいわ。…あの馬会長が行きそうなところは、あと一つ、残ってるから」
「どこ？」
「………ちょっと離れたところにある廃屋よ。
　あそこで、５０代のおじさんと、３０代のおばさんを見たって話しを聞いたの」
「それがどうかしたの？」
「あの馬鹿の事だから、不倫旅行とでも勘違いして、襲いに行きかねないってね」
「…さゆり、それって、調べた結果？」
「…あたしが、全くの憶測で物をいうと思うの。
　一通り当たりはつけてあるわ。…確かに、そういう人物はいるのよ。
　けど、実戦をくぐり抜けてそうな、４０人近い武装集団と一緒にいるの」
「実戦をくぐり抜けてそうな？」
「そうよ」
「まさか。この日本に、実戦をくぐり抜けた４０人規模の武装集団なんて
　いるわけないだろ」
「…でも、もしいたら？」
「……………調べる必要は、あるよな」
「ええ、お願い。…そんな連中が相手だと、わたしでも、１人で相手したくないわ」
「そうだね。…少し、人を集めて、なんとか、情報を集めてみないと」

【シナリオ３３】将軍と参謀と