ここは、弁慶達が通う高校である。

 

「鈴、ですからこの円の接線は…」
「紅葉おねえちゃん。この補助線を使えば解けるんですね」
「なんのことかさっぱりわからんぞ」
「鎌田様は、 高校の学問が出来ればよろしいのです」
「鈴もよくがんばってるな」
「はい。一生懸命勉強して、すぐに鎌田様の通う学校に入学します」
「いや、年齢的に無理だろ…」
「鎌田様の負担になるだけにはなりたくありませんから」

 

生徒会室では、鈴が紅葉とマンツーマンで中学校の勉強をやっている。
教科書は、紅葉がこちらの世界の勉強をするために弁慶から借りた物だ。
本当は、小学校の勉強からやっていたのだが、紅葉はあっという間に
高校生レベルに到達し、鈴も中学生レベルまで学習を進めていたのだ。

 

「すこしは俺にもそういう頭脳を分けて欲しいぜ」
「鈴と鎌田様は二人で一人ですから」
「意味わかってるのかよ…」

 

鈴がこちらに来てから、いつもの光景である。
紅葉達の授業中は、鈴は自習、さもなければ、手の空いた先生が
時々来て教えてくれている。
鈴がどこから来た、どんな人物かは、先生達もあまり気にしてないらしい。
九羅香達の異常な学力も気にしなかった強者揃いだから、鈴ぐらいどうでもいいのかもしれない。

 

「異常に低かったのは九羅香だけだけどな」
「べーんーけーいー。人のことが言える成績だったか」
「わっ。九羅香いつからそこに」
「弁慶が道場にいなかったから呼びに来たんだよ」
「あ、悪い、もうそんな時間になってた？」
「うん。みんな待ってるよ」
「じゃ、紅葉、ごめんね。行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ」

 

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さて、場面は変わって購買部。

 

「みあさん、体調も戻ったみたいでなによりです」
「…あ、…ありが…とう……ござ…い……ます……美沙……さま……
　………え、ええと……あれ………か…ら……べつに………
　……その……妖気とか……感じなく……なり……ました……から………」
「そうなんだ。それはよかった。
　あれからずっと平穏が続いてるし、長野先生達も、あきらめてくれたのかな」
「どうやろな。それはあんま期待せえへんほうがええわ」
「……あの……で…したら……」
「まあ、考えてもしゃあないわ。逃げ隠れ出来る立場やあらへんからな」
「みねあさんの言うとおり。一応、警察には失踪してた長野先生を見たって
　届けを出したんだから、上手く行けば警察がなんとかしてくれるって」
「……それ……だと…………いいん……です……け……ど…………」
「まあ、気休めぐらいにはなるわ。
　何考えてるかわかれば、先の予測はつくんやけど
　今のところ、戦隊物の悪の秘密結社なみに意味不明な行動ばっかりやから
　次に何するかなんて全く理解できへん」
「意味不明っていえば、同好会も何考えてるかわからないですよ」
「あれはなんも考えてへんのちゃうか？長野先生とは違うやろ」
「たぶんそうでしょうね」
「なんというひどいい草だ」
「なんや、おったんか」
「おったとは失礼な、仮にも客だぞ」
「……あの……いらっしゃい………ませ………」
「すまんが、焼きそばパンをひとつ頼む」
「……は、はい……どうぞ…………」
「ありがとう、みあくん。ではさらば」
「……ほんと、何しに来たんでしょう」
「焼きそばパン買いに来たんやろ」
「たぶん、そうなんでしょうね…」

 

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さて、場面は再び変わる。

 

「おーい、鈴、そろそろ帰ろうか」
「はい、鎌田様、一緒に帰りましょう」
「くれぐれも、鎌田のこと頼むぜ、鈴」
「はい、お任せください」
「おいおい、普通逆だろ」
「鎌田より鈴の方がしっかりしてるからな」
「そればかりではありませんが…」
「ん？なにかあるのか、鈴」
「…はい、鎌田様はまだお気づきではないかもしれませんが」
「気付いてないけど？」
「いえ、やめておきます。鎌田様には、なにがあろうと、鈴がついております」
「不安を煽るだけの言い方はやめてくれよ…」
「ま、安心しろって。おまえには女難の相なんて出てないよ」
「弁慶、おまえがいうか、おまえが」
「はい、では失礼します」
「なんかあったら電話入れろよ」
「だから俺に言うなっての」

 

鈴と鎌田は、生徒会室を出て行った。
鈴と鎌田は、実は同棲中なのである。

 

「私たちのアパートに引き取れればよいのですが
　さすがに９人は住めませんから」
「幸い、鎌田の両親もわかってくれてるみたいだし
　鈴にとってはそのほうがいいのかもしれないな」
「そうですね、弁慶様」

 

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手をつないでの帰り道。

 

「…鎌田様？」
「どうしたの、鈴ちゃん…！」
「油断大敵ね。お二人さん」
「長野先生？いいかげんには変なコスプレ止めてもらえません？」
「あらー。コスプレなんて失礼ね〜。巴、泣いちゃう」
「鎌田様、ここは鈴が防ぎますからお逃げください」
「いや、立場逆だろ普通…」
「逃がさないぜ。鎌田ぁ」
「！ち、一本道で挟まれたかっ。鈴ちゃん、逃げて！」
「いえ、ですからあの二人のねらいは…」
「遅いっ！」
「ぐあっ」

 

一撃で鎌田はやられてしまった。妖力でパワーアップしている
巴御前相手に、普通の高校生では当然の結果である。

 

「鎌田様っ！」
「おまえに用事はない。さらばだ」
「行かせませんっ！」
「神機の妖力の前じゃ、あなた程度の力は無いも同然よ〜」
「鎌田様〜っ！」

 

鎌田を連れた二人〜長野先生と鈴木、つまり、巴御前に木曽義仲だ〜は
神機の力でテレポートして去っていった。
後に残されるのは、泣きじゃくる鈴…気丈に振る舞っても
まだ９歳の女の子なのだ。

 

こうして、事件は全く新しい様相を示してきたのである。