ここは、弁慶達の通う高等学校の、そのまた一角にある、剣道部の部室。
なぜか今、剣道部の看板は裏返されていて、サバイバル同好会の秘密基地になっている。

 

「すべての部室の裏の看板に、秘密基地と書いてあるのだ」
「だからなんで無駄なことにはこんなに豆なんですか」
「ふっ。無駄なことと言うな、ちゃんと生徒会の後を追って京都にも行ってきたのだ」
「後追いじゃ意味がないでしょうが！」
「そんなものか？長野先生を探すのに、生徒会も活動してたではないか」
「とっくに先生は東京に帰ってきてるんです。知らなかったんですか」
「知らなかった」
「はあ・・・それで情報収集ですか、あきれますね」
「そういうな、その後で、行方不明の鈴木を見つけたのだぞ」
「！本当ですか」
「嘘を言ってなんになる。学校のそばのアパートを借りてるのを調べたのだ」
「すごい発見じゃないですか！すぐにそこへ行きましょう」
「うむ、そのことだが」
「また何か落ちがあるんじゃないでしょうね」
「こちらに見つけられたのを気取られたのか、姿を消した」
「ダメじゃないですか」
「うむ。その通りなのだ」
「…しかし、それでもちょっとした情報にはなりました」
「さゆりくんが、生徒会に協力しているとは知らなかったぞ」
「協力している、というより、成り行きです。
　大体、会長につきあってるのも、ただの成り行きじゃありませんか」
「人生なんてそんなものだ」
「変な達観をしないでください！
　はぁ…つくづく、なんでこんな所へ来たのかしら。
　それで、わざわざ作戦会議を開くからには、また何か悪巧みじゃないでしょうね」
「さすがさゆりくん、察しがいいな」
「一体何をするつもりなんですか」
「うむ。わが同好会の予算が、尽きてしまったのだ」
「京都旅行になんか行くからでしょうが！」
「生徒会の予算も尽きているぞ」
「はい？学校から生徒会の活動費はちゃんと出ているでしょう」
「夏休みの遠征用費用を使うと、二学期分は存在しないらしいぞ」
「…どーするんですかっ！これからまだまだお金のいることがあるんですよ。
　長野先生を見つけるための活動だって、歩いて回れる範囲だけ、ってわけにいかないんですから」
「そうだな。だが、すでにそのための作戦は考えてあるのだよ」
「また、ろくでもない考えなんですね」
「そういうな。ほれ、さゆりくん。これが我々の切り札だ」
「防水型のデジタルカメラですね」
「そう。防水型のデジタルカメラだ。
　安心しろ、さゆりくんを写すつもりは全くない」
「そりゃありがとうございます。言っておきますけど、更衣室に仕掛けておけなんていうのはなしですよ」
「そんな、売ってるとばれたら犯罪になるようなことをしろとはいわん」
「…つまり、これで、何かお金になる写真を撮って、売るんですね」
「その通りださゆりくん。さいわい、うちの学校の平均レベルは高い」
「それがどうかしたんですか」
「うちの生徒の普通の写真でも、買い手はすくなくないのだよ。さゆりくん。
　特に生徒会に日頃出入りしている佐藤姉妹や源、平、那須といったメンバーは値が高い。
　コスプレの写真が何枚かとれれば、活動資金を稼ぐぐらいわけはない」
「それなら、普通に話をして撮影すればいいでしょう。なんでいちいち…」
「盗撮写真でなければ、高くはうれんのだよ。
　なに、売りに出すときに、事後承認をとればいいではないか。では、よろしくたのむよ。
　私ももちろん援護する」
「・・・はー。どうせ、このデジカメの代金も、画像が得られなければ払えないんでしょう」
「よくわかっているではないか。購買部の取り立ては厳しいからな」
「最悪なパターンですねそれ…写真も購買部に売るんでしょう、つまり…」
「さすがはさゆりくん。一を聞いて十を知るとはまさにこのこと」
「はー。もういいです。わかりましたよ。写真を撮ってくればいいんでしょう。写真を」
「その通りだ。水泳の授業などはポイントが高いぞ」
「……これも、任務の内です。やらせていただきますとも」
「おお、ありがとうさゆりくん。これで2学期以降の活動も安泰だ」
「会長…それを取らぬ狸の皮算用と呼ぶんです…」

 

ともかく、ない袖は振れない。たちまち、デジカメ代だけは稼がなければ
あとで購買部の厳しい取り立てに遭ってしまう。

 

ある意味、妖魔と戦うより命がけの作戦が、今はじまる。