ここは、弁慶が通う高校である。

 

弁慶が通う高校だけあって、妙な事件がしょっちゅう起きたり
変人がごろごろしたりしているが、特に誰も疑問には思わない。

 

しかし、今回ばかりは生徒達に動揺が走った。
なにしろ、妖魔の大軍が押し寄せてきたのである。
実際に襲われた生徒はいないとはいえ、校内に化け物が
現れたとなると、よほど神経が図太くても、驚くのが普通だ。

 

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「それで、これからどうするのがいいと思う？」

 

そして、ここは、生徒会室である。
最初の襲撃から、２週間ぐらいが過ぎ去っていた。
その間、たったひとつの事、いや、二つの事をのぞいて
表面的には平穏な時間が流れていた。
まるで、あの妖魔の襲撃が、何かの間違いだったかのように。

 

しかし、それが間違いではない証拠は確かにある。
ひとつは、京都に向かったはずの、長野先生と鎌田が行方不明のままであること。

 

そして、もう一つ、彼女がこの部屋の中にいることである。

 

「鈴、こちらの生活には慣れましたか？」
「うん、紅葉おねえちゃん」
「それにしても驚いたぜ。まさか、鈴がこの学校に現れるとは思わなかったからな」
「俺が無事に帰れたことは無視か弁慶」
「鎌田、おまえは、殺したって死なないだろ」
「おまえもな」
「まあ、実際、この子に助けてもらわなかったら、本気でやばかった気はする。
　あれからわけわなんない化け物があちこちに現れて、必死で逃げてきたんだぜ」
「それで、観月様、鈴ちゃんがこちらに現れた理由については、やはり、わからないのですか」
「ええ…。私が呼んだ訳ではない事はわかります。ですが、神機の封印が解けたことと
　鈴様がこの時代に来たこととが結びつくようにも、思えないのです」
「長野先生は、夢で埋めたとか言ってたけど、何か関連があるのか」
「それはないだろ。神機は海の底に沈んだはずだぜ」
「ええ〜これについては〜私も〜玲奈さんに〜賛成です〜」
「確かに、敦盛殿や知盛殿や頼朝殿が復活するまで、壇ノ浦の海底に沈んでいたはずだな」
「ああ、そうだな。ひい爺さんも、そういうようなことを言ってた気がする」
「弁慶のひいじいさんって、どういうことかしら」
「ええと、話せばちょっと長くなるんだけど…」

 

詳しくは”平成義経伝”を参照して欲しい。
概略を言うと、弁慶のひいじいさんが、怨念の力で神機の封印を解いたのだ。
その後、ひいじいさんが敦盛と融合し、神機の力で教経や頼朝を復活させ
自らの怨み〜太平洋戦争の復讐〜を果たそうとしたのである。
弁慶が観月の妖術で平安の世に呼び出されたのも、そういう因縁があったからであるらしい。

 

「鈴には、そういう事情は当てはまらないですね」
「そうだよな。鈴がたとえ俺のご先祖様だったとしても
　それじゃ順番が逆になる」
「ところで鎌田殿や鈴殿の話から、義仲復活の場所は特定出来なかったのか」
「すいません与一様。景川様とも手分けして探してみたのですが、さっぱり」
「だって途中から証言があやふやになるんだもん。
　そりゃ実際に現地に行かないと無理だって」
「現地に向かうのはいいですけど、また鬼門が開いたら恐ろしいです」
「それ、なんだよね。
　都で封印が解けたんなら、鬼門だって都に現れて然るべきだと思うんだ。
　なんでこの学校に最初に現れたのかがよくわからない」
「私にも〜それが〜謎ですね〜」
「静にもわからないのか、お手上げだな」
「玲奈さ〜ん。私は〜超能力者では〜ありませんよ〜」
「それでも、まずは調査だよな。何かひとつでも手がかりがあればいいけど」
「…壊した鬼門については、何かわからなかったのですか？」
「あたしが調べてみたけど、ごく普通の鬼門ね。
　規模は巨大で、実体化してれば、すごいことになってたでしょうけど」
「…一体、誰がその鬼門を生み出したのでしょう…」
「それがわからないから、問題なんでしょ。観月、堂々巡りよ」
「事が起きるのを待つしかないのでしょうか」
「それしか〜ないのかも〜しれないです〜けど〜」
「静、何か考えがあるの？」
「はい〜何か鈴ちゃんが〜鍵を〜握ってるように〜思います〜」
「ですけれど、私は何もわかりません」
「はい〜ですが〜弁慶さんも〜鍵を握ってましたが〜何も〜知りませんでしたよ〜」
「………弁慶は、神機の封印を解く、鍵だったよね」
「はい、その通りです」
「…だとすれば、鈴も、誰かが目的を持って呼び寄せた事になります」
「だけど、義仲は復活してるってことは、神機の封印も解けてるってことじゃないのか」
「解けていても、まだ完全ではないのかもしれません」
「だーっ！結局雲をつかむ話じゃねーか。なんかこう動けることはないのかよ」
「玲奈さーん。好奇心は〜ネコをも殺しますよ〜」
「あたしはねこじゃねえ」
「待ってれば、いずれ、義仲殿がこちらに来るんじゃないの」
「それも〜おかしいことの〜ひとつです〜」
「長野先生が東京に来るのに、２週間もかかるわけないもんな」
「京都で何か探しているのでしょうか」
「そういえば、見つかった神機って、鏡だけだった？」
「俺が見たのはそれだけだったぜ」
「なら、剣と勾玉があるってことだな」
「…この学校のどこかに、神機があるって可能性は？」
「それは、…わかりません。私は何も感じないのですが…」
「探してみるだけ、探してみようぜ。
　何もしないよりはましじゃねえか」
「うん、そうだね、何もしないよりましだよ、探してみようよ」
「あの〜どうやったら見つかるか〜考えたことが〜あるのですか〜」
「観月様ならば、神機を見ればわかるのではありませんか」
「私にも、神機を見分けることが出来る訳ではありません。
　封印が解けた神機なら、妖気でわかるのですが、封印された神機ですと
　私の力では見抜けないのです」
「なら、封印がゆるめばわかるんじゃないか？」
「だけど、封印が解けるとしたら、どんな方法なんだ？」
「神機の封印が解けてる時代の人間って、この時代の人みんなだもんね」
「ということは、誰でも掘り当ててさわりさえすれば解けるんじゃ…」
「………！とにかくこの学校をもう一度探してみよう。
　万が一、それらしい物が偶然見つかったりなんかしたら大変だ！」
「そうですね。九羅香様のおっしゃる通りです」
「なあ、何が大変なんだ？あたしにはよくわからないぜ」
「玲奈殿。この時代の人間がさわれば封印が解けるなら、誰が見つけても
　たちまち封印が解けてしまう、ということになるのだぞ」
「それじゃあたしらにも出来ることがないじゃないか」
「あの…玲奈さん。私や玲奈さんみたいに、刻を超えて呼び出された人なら
　さわっても封印が解けないんじゃないかと思うんですが…」
「鈴さんの〜言うとおりです〜」
「玲奈って、鈴より馬鹿なのか」
「もういっぺん言ってみろよ鎌田」
「玲奈様、鎌田様をいじめないでください」
「いじめてるわけじゃねえ！ていうか喧嘩売ってきたのは鎌田だろ」
「いい加減にしろ！
　みんな、何もせずに待機してたら、気が滅入っちゃうよ。
　とにかく学校内を探してみよう。何もなければ、それで安心出来るじゃない」
「はい、九羅香様、その通りですね」

 

こうして、九羅香達は神機探しをしてみることにした。
何が神機かわからないが、とりあえず、何かイベントがあれば
危険にさらされて雰囲気が暗くなった学校に、活気が出るかもしれない。
それだけでも、生徒会としては、やってみる値打ちはあるようだった。