【シナリオ１２】源九郎の恋
ここは、九羅香達が暮らす潰れそう。
「もう荘って字すら書いてくれないのね」
「楓様、お茶にいたしませんか」
「今はいらないわ。ちょっと外を見てたいから」
「外に何があるのでしょうか」
「べつに何もないわ。そうそう、源九郎を見ないんだけどどこへ行ったかしらない？」
「源九郎様ですか。そういえば気配を感じません。
楓様がご存じなのではありませんか」
「あいつ、最近ちょくちょく行方をくらますのよね。
どこへ行っているのかしらないけど、何をやってるやら」
「源九郎様に直接聞いてみてはいかがでしょうか」
「あたしは玲奈とちがって会話は出来ないわよ」
「不便ですね」
「今までは困ってなかったのよ。最近よね。何があったのかしら」
何があったか、翌日、とんでもない形で楓は知ることになる。
「はい、今日は皆さんに転校生を紹介します。ほら、入ってきて」
「失礼します。今日からこの学校に入りました、水原 旭良です。よろしくお願いします」
「！…あんた…」
旭良は目で楓に合図する。
とにかく何も言わないで欲しいらしい。
「では、水原君の席は・・ちょうど楓さんの隣が空いているわね。
そこに座ってちょうだい」
「はい、わかりました」
楓の隣に、何事も無かったように座る旭良くん。
その旭良くんに、小声で話しかける楓。傍目には転校生に気があるように見える。
「…あんた、もしかしなくても、源九郎でしょ、何を考えてるのよ」
「……楓様…すいません。実は…その…」
「なによ、何か言いづらいことがあるの？」
「言いづらい…というか…言っていいのかどうか…」
「この期に及んであんた何を言い出すのよ」
「ほらそこ、私語しない」
「はい。すいません」
というわけで、昼休憩。楓はここぞとばかりに追求する。
「で、あんた何を考えてるわけ」
「それなんです。一体僕は何を考えてるんでしょう」
「あたしが聞いてるのよ。そりゃ、あんたの妖力はあたしも知ってるわよ。
だけど、わざわざ人間に化けるなんて、何か特別な理由があるんでしょ。
言ってごらんなさい」
「……その……実は…僕にも、何を考えてるのかよくわからないんです。
ただ、その…気になる人がいまして…」
「…気になるひとって、誰よ」
「ええと…その…」
「言いにくいの？あたし、って言わなきゃあたしの胸に納めておいてあげるわ。
言ってご覧なさい」
「はい、実は」
そこで、旭良くん、こと源九郎は楓に耳打ちする。
「……はーん、それでこの学校に通いたくなった訳ね。
そりゃま…分不相応な恋、っていうこともないかもしれないわ。
だけど、それ、相手の気持ちを確かめるのが先じゃないの」
「わかってます。わかってますけど…僕は…その…」
「あーうっとうしい。で、あんた何をやったわけ」
何をやったか。それは放課後すぐに明らかになった。
「……あ、あの………わた、わた、わたわた…」
「みあ、あんた何やってるの？」
「…あ、その…楓さん……こんにちは…」
「何かあわててるように見えるのはいつも通りだけど、今回はまた何か
ひどい失敗でもしたような風に見えるわね。一体何があったのかしら」
「……そ、その……あ、・そ、そうですね、楓さんでしたら……きっと…
………何か…わかるかも……」
「あたしにわかることって、何よ」
「……そ、その…言葉で説明するより………あの…見てもらった方が……あの…
早い…と…おもうんですけど……」
そういって、みあが差し出したのは、４枚の破壊された式符だった。
「……あ、あの…赤野さんから…預かった…んですが……気がついたら…
………その…４枚とも…この……有様……でして……
…あ、あの…その…これは…どうしたら……」
「…源九郎の奴…また派手にやってくれたわね…」
「…あ、あの…一体…これは…」
「あー、これはあんたの責任じゃないわよ。壊した奴をとっちめとくから気にしないで」
「………と、とっちめる…より……これを…なんとか治して……もらえたら……」
「治すって言ってもね。まあ、治る時が来れば勝手に治るわよ。
今は打撃が大きいから自分で自分を封印して、回復を待ってるところかしらね」
「…そ、そうなんですか……それを……聞いて………ちょっと…安心しました…」
「…………あいつがあそこまでやるとはね」
「あの…楓さん…あいつとは……一体……」
「…そうね。またちゃんと挨拶に来させるわ。今日は顔を見に来ただけよ。じゃね」
「あ、その……楓さん……ありがとう……ございました………」
購買部を立ち去る楓。残されたみあはほっとして、それからまた店の整理に取りかかる。
楓の方はといえばちょっと頭が痛い。
「…選りに選ってねえ…いっそ普通の人間だった方が簡単だったかしらね…」
源九郎の恋路は、平坦ではないらしい。
楓自身、応援していいものやらどうやら、頭が痛いぐらいなのだから。