ここは、弁慶達が通う中高一貫校。
その中高一貫校が、破天荒の快挙を成し遂げた。

 

いや、九羅香と弁慶が剣道で上げた成績でもなければ
与一が弓道で上げた成績でもない。
いうまでもなく玲奈が忍法で上げた成績でもないし
帰宅部の廉也や観月がなにかすごいことをやってのけた訳でもない。

 

なんと、高校サッカー部員にはあこがれの花園への切符を手に出来るかどうかの
せとぎわ〜決勝戦にまで駒を進めたのである。
もちろんサッカー部は大いに盛り上がってここまで来たら優勝しかないと張り切っている。
生徒達はどう思ってるか定かではないが、生徒会としても応援することで話がまとまった。

 

だが、弁慶達の学校には応援団がない。
吹奏楽部はあるので今までは吹奏楽部だけで応援していたのだが
決勝戦となるとテレビ中継がある。
ここまできて、まともな応援がなければ体裁が悪い。

 

そういうわけで、生徒会では急遽臨時の応援団を編成することになったのである。

 

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「そういうわけですので、九羅香様、どうか生徒会にお力添えください」
「なあ紅葉」
「なんでしょう？」
「素朴な疑問なんだが、なんで九羅香でないといけないんだ。
　ほかに応援団やってくれそうな人はいろいろとあるだろ」

「そうかもしれませんが。やはり団長として人をまとめるだけの力量があるかたとなりますと
　どうしても限られて参りますから」
「それで、九羅香なのか」
「うーん。私がそんな人をまとめる力とかそういうのがあるとも思わないけど
　紅葉がそういうんだったら引き受けるよ。
　それで、応援団って何をすればいいの？」
「私もこの時代の応援には詳しくないのですが、応援団には何か型があって
　その型を守りながら行うのだそうです。
　参考例として、新聞部の方よりＤＶＤをお借りしてまいりました。
　これを見ればわかるだろうと思います」
「でも紅葉、うちＤＶＤなんてないよ」
「そういうのは弁慶がなんとかするんでしょ」
「な、そこでなんで俺にふるんだよ」
「なによ。あんたＤＶＤ持ってないわけ？」
「いや、そりゃＤＶＤプレイヤーぐらいうちにあるけど・」
「はい、決まりね」
「そんなことしなくても〜視聴覚教室を借りたら〜よろしいのでは〜」
「静さま。視聴覚教室はＥＳＳと受験を控えた３年生のかたの勉強のために使うので
　生徒会が勝手に使うわけにいかないのです」
「ＥＳＳはわかるけど、なんで３年生が使うの？」
「九羅香殿。こんど英語のヒアリングテストなるものがあるようでな。
　それで、その演習のために視聴覚教室が必要なのだ」
「ふーん。で、なんでそんなこと与一が知ってるのよ」
「それ以前に、何で与一や静さんまで俺達の教室に入ってくるんだ」
「へへっ。そりゃ、紅葉がなにかおもしろそうな話を持ってきたみたいだからな」
「・・・僕たちは、与一さんから来るように言われたんですけどね」
「はい、私たちも学校の一員なのですから、お手伝い出来ることがあればお手伝いいたします」
「ありがとうございます、みなさん。では後で弁慶様の家に集合いたしましょう」
「後で？」
「弁慶。剣道部の練習はちゃんとやるからね」
「私も、弓道部の練習を休むわけにはいかないからな」

 

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そういうわけで、弁慶の家に一同が集まるのはもう辺りが暗くなった後になる。

 

「・・・一人、見慣れないやつがいるな」
「女の子にやつって言い方もないわよ弁慶先輩」
「いらっしゃいませ。景川様」
「景川さんも生徒会の一員として協力を申し出てくださいましたから」
「ていうか、美沙の家にだってＤＶＤがあるんじゃ・・・」
「いくら弁慶先輩でも女の子の家に上げたら家族が驚いちゃうよ」
「俺の家ならいいのかよ・・・」
「弁慶の家族とはあたしらも知らない仲じゃないだろ。
　ほら弁慶ＤＶＤをたのむぜ」
「わかったよ玲奈。そんなせっかちになるなって」

 

こうして、ＤＶＤを見る。
確かによく編集されたＤＶＤであった。
なんでも来人が甲子園を録画した映像から
適当に応援団が写っているところを抜き出したのだそうだ。

 

映像自体は１０分ほどで終わり。

 

「まあ、基本的にはあんな感じだよ」
「ふむ。…つまり、あの黒い服に白い手袋とハチマキを締めて
　ああいう拳法の型をやるのが応援なのだな」
「まあ、その理解で間違いじゃないよ」
「あとは動きやすい服を着て体操をする女性の集まりが必要なのだな」
「いや、べつにあれは体操をしてるわけじゃないけど・・・」
「景川さんはそういうことに詳しいんですか？」
「べつに詳しくはないわよ。廉也君達が特別うといんじゃないかしら」
「ま、まあそういう話はいいじゃないか。
　とにかく、あれで間違ってはないよ。
　後は人数を集めて練習しないとね」
「ふむ。だが基本は体育祭の時の応援団と同じでいいのだろう？」
「基本はね。ただ今回、相手の学校の方は気合いの入った応援をしてくるだろうから
　こっちも気合いを入れていかないと応援で負けるよ」
「応援で負けても試合に勝てばいいのでしょう？」
「廉也。応援はそれだけで選手に力を与えるものなのです」
「うん。観月の言うとおりだよ。応援で負けてちゃ試合も勝てないよね」
「じゃ、応援で勝てるように何かすごい応援を考えようぜ」
「考えるって何を考えるのよ。あたし達はまず応援の基礎もわかってないのよ」
「皆様。なにも私たちだけで応援するわけではありません。
　ほかに応援に参加してくださる方の知恵をお借りすればよいのではないでしょうか」
「紅葉殿に賛成だな。何事も学ぶにしかずだ」
「よし、じゃ明日からメンバーを集めようか」
「そうだな」
「じゃ、みんな送っていくよ」
「弁慶先輩、べつに送ってもらわなくても大丈夫だって」
「一番心配なのは景川殿なのだがな。我々は一団で動くが景川殿は途中一人であろう。
　最近は通り魔などという闇討ちもあるらしいではないか」
「心配ありがとう、与一。…でも、ほんと大丈夫だって。
　いざとなったら携帯をボタン一つで警察に掛けられるようにしておくから」
「だが、途中までは一緒に行こう」
「ありがと、じゃ、言葉にあまえちゃうね」

 

こうして、にわか作りとはいえ、応援団の募集が始まった。
さて、この即席応援団は、決勝戦で本当に相手に負けない応援を送ることが出来るのだろうか。

 

それは、まだ誰にもわからない。