そういうわけで、ホワイトデーである。
「廉也、顔色が悪いですよ」
「わかるんですか観月様」
ちなみに、実は見えるんじゃないかと言われているが、観月は目が見えない。
「その様子だと、本当に顔色が悪いようですね。
声に張りがないので、顔色も悪いのではないかと思ったのですが」
「……それなら声に張りがないと言ってくださればよろしいのに」
「それでは普通すぎるではありませんか」
「観月様なりの冗談なんですね」
「そうなるのでしょうか」
「今日はホワイトデーですね」
「そうですね、観月様」
「お返しはちゃんとするのですよ」
「わかっています」
そう、もらったからには返さねばならぬ。
送る方は相手が廉也と決まってるから気楽なものだが
返す廉也は大変だ。いちいち送ってきた誰それにいちいち
お返ししなければならないのである。
もっとも、この律儀さがあるからこその、大人気なのかもしれない。
「さあ、行きますよ」
「はい、観月様、お手を」
これで人気があるのが一人だけじゃない、というから、この学校はすごいものがある。
疲れ果ててるのは廉也だけではない。
「ひとまず先日 洋菓子屋で人数分のクッキーを買ったし渡しに行くか」
人数分、といっても、一ヶ月のバイト代ではとうてい足りないとしか思えない数である。
「疲れてるみたいだけど無月ちゃん大丈夫？」
「この時期の風物詩だ問題無い」
勇姫に心配される無月であった。
さて、我らが真尋くんはといえば……
「今日に至るまで手ぶらじゃないですか。はっ、これは本当にプレゼントが真尋さんの予感」
「殴るぞ」
「殴ってから言わないでほしいです……」
「つまらない冗談を言うからだ」
「ていうか、真尋さんもお約束のぼけはやらないでほしいです」
「にゃる子もお約束のぼけだけど……」
「だって、本当に真尋さんかもしれないじゃないですか、あの真尋さんがプレゼントを用意してないんですよ」
「僕らの分もないんだからそれはないと思うけどな」
「……冷静につっこみいれないでほしいですよ」
「その微妙な間はなんなんだにゃる子」
「たぶん、つまらない想像したんだと思う……」
「つまらない想像って？」
「少年は知らない方がいい想像……」
「……詮索はしないでおいたほうがいいみたいだね」
「確実にその方がいい……」
「なんか私を見る視線が冷たいんですけど。
勝手な想像で勝手に私の評価を下げないでほしいですよ」
「じゃ、何を想像したんだか言ってみろよにゃる子」
「そんなこといえるわけないじゃないですか」
「じゃ自業自得だろ」
「うぅ……」
そんなこんなで、昼休憩。
「真尋さん、どこ行くんですか」
「購買部」
「……購買部で済ませるですか」
「なんか文句あるのか？」
「いや、別にいいですけど……」
「にゃる子、あからさまに過ぎる」
「真尋くん、なんで購買部にしたの？」
「ま、それは行ってのお楽しみ」
「何か仕掛けがあるの？」
というわけで、購買部に着く。
「あ、あの……いらっしゃい……ませ……」
「みあさん、頼んでた商品届いてます？」
「あ、……はい……ちゃんと、……直送で……届いて……ます……」
「ありがとうございます。会計はプレゼントなんで声に出さないようにお願いします。
大きいので悪いんですけど、これで……はい、ありがとう」
「レジに金額が出るからばればれですけどね」
「気づかないふりしてあげるのが大人だよ」
「少年、肝心なところで抜けてる……」
「はい、翠屋特製のクッキー、全員同じので悪いけど、今朝の焼きたてのはずだよ」
「今朝焼いたのを直送するために購買部に寄ったですか」
「そうだよ」
「少年、変なところで気を回す……」
「真尋くん、気を遣ってもらってありがとう」
「どういたしまして」
「真尋さん、ありがとうございます」
「いや、気にしなくていいよ」
「でも、やっぱりプレゼントは真尋さんが……」
「もらっといていう台詞かっ！」
「痛いです真尋さん……」
「にゃる子、懲りてない……」
「にゃる子ちゃん、そういう趣味があるの？」
「別にないですよ」
「ないなら言うな」
「だって……」
「まあ、これでお返しは済んだってことで、さて……あれ？ あれは京介先輩？」
「こんにちはニャル子ちゃん、はいこれ。
バレンタインデーにチョコは貰っていないけれど、普段SAN値直葬の食材とか訳って貰っているから。
クー子ちゃんとハスタ君、真尋君達と食べてね。」
「にゃる子、そういうことしてたんだ……」
「ていうか、にゃる子の食材なんてよく料理できますね、京介先輩って……」
「弘法筆を選ばずだよ、きっと……」
さて、同じ頃、妨害に出ようとしている会長の元へは、B.S.Eが現れていた。
「会長殿、ちゃんとさゆり殿にはホワイトデーのお返しを渡したのでゴザろうな？
もし、まだだというのならば、まず先にそちらを優先すべきでゴザろう。」
「は？ さゆりくんへのお返し？ それではまるでカップルみたいではないか」
「男児たるもの、いいわけをするでないでゴザる。
さゆり殿からチョコレートを貰ったのは事実でゴザろう。
それとも、ケジメをとってセプクするでゴザるか？さあ、ハイクを詠むでゴザる。
拙者が介錯するでゴザる。」
「ちょっとまて、なんで話がそう飛躍する。ていうか、私は食ってない。
食ってはないが……そうか、そういう陰謀だったのか、くぅ……
これはしっと団一生の不覚」
確かに、会長はB.S.Eの蜂蜜入りチョコレートを食ってない。
会長もプレゼントとして先生に渡しているのだが
会長がさゆりからもらったは事実としてあるのだった。
こうして、学園の平和は今日も守られた。
明日はどうなるか、それはまた別の話だが。