そういうわけで、旅行当日である。
「いらっしゃい、本日は当社の……」
「ルーヒーさん！……僕、急用を思い出したんでキャンセルします。旅行代金は払うんでよろしくっ！」
「いや、私がいるからってべつに……」
「いや、ルーヒーさんだけならいいんですよ。ルーヒーさんだけなら。
そこのバスの運転手はなんなんですか。以前僕をオークションで売り飛ばそうとしてたでしょうが。
ニャル子、地球の旅行者に地球のイベンターとか言ってたけど、関係者邪神じゃないか」
「いや〜私の調査でも、そこまではつかみ切れなかったですね〜失敗失敗」
「失敗じゃないだろ」
「いや少年、心配しなくてもよいぞ。わしの組織はあれ以来銀河警察によって壊滅してな。
これは再就職のアルバイトじゃ」
「信用できないですよ、とにかく、僕は帰らせて……」
「帰ってもらったらなんのために私が海に行くかわからないじゃないですか
とにかく真尋さんは旅行に参加してもらわないとですよ。クー子、手伝うです」
「少年、ニャル子の水着のため……旅行に参加する」
「なんでそうなる」
「真尋くん、一緒に行こうよ」
「僕の味方はいないのか〜」
こうして、簀巻きにされ、無理矢理バスに乗せられる真尋であった。
「真尋さん、楽しい旅行になるといいですね」
「楽しいわけないだろ」
「それなら参加しなければよいではないか」
「僕も参加したくない……って、会長じゃないですか、なんで会長まで参加してるんですか」
「決まってるではないか、カップルあるところ嫉妬あり。しっと団はカップルのあるところには現れるのだよ」
「カップルとか僕らには関係ないですから」
「私たちに焼き餅やいてるですか、でも、私たちの関係はじゃまさせないでげすよ」
「ふん、そうやって燃え上がってるといいわ、その態度こそが嫉妬の炎を燃え上がらせるのだ」
「自分で燃え尽きてしまえばいいのに……」
「ていうか、彼女連れで言ってても説得力ないと思うよ」
「彼女連れ？ なんのことだ？」
「たぶん、私のことなんですよ」
「なんだ、さゆりくんのことか、さゆりくんは関係ないだろう」
「でも、つきあってるんだよね？」
「さゆりくんとは仕事上のつきあいだ。プライベートではなんのつきあいもないぞ」
「仕事って、なんの？」
「それは業務上の秘密だ」
「そうですね」
「あやしいなあ……」
「怪しがるな、手もつないだことがない仲だ」
嘘は言ってない、イベントでキスしたことはあるが。
「こらナレーション、あれは陰謀ではないか」
「あー、そんなことがあったんだ」
「業務上やむを得ない事情だっただけじゃないですか」
「それはどういう事情なんですか、真尋さんとだってキスしたことないのに。
そういう業務上の事情なら私もほしいですぅ」
「ニャル子、仕事でキスしよ」
「そんな仕事あるわけないでげすよ」
「残念」
馬鹿騒ぎをしてるうちに、やがて、バスは海に到着する。
「海ですよ真尋さん」
「あーそうか、とうとうついたな」
「真尋くん、海だよ。……ていうか、もう会場は設営してあるね」
「更衣室はこっち、男女は当然別々じゃ」
「当たり前じゃないですか」
「じゃあ、真尋さん、後で落ち合いましょう」
「ああ、じゃあ……」
「あ、少年はそのまま逃げる可能性があるから、特別に解説に回ってもらうぞ。
見世物はいやだというのなら、こっちで参加してもらおう」
「……そういう権限あるんですか？」
「と、上司から指示があったんじゃ。まあ、メインは女の子だからな」
「そうなんだ、じゃあ、行ってくるね、真尋くん」
「言ってらっしゃい、ハス太」
一方の、会長はといえば、B.S.Eにとっつかまっていた。
「ついに来た来たやっと来た、新世代超ヒロイン伝説再びでござる。
いくでゴザルよ、会長子お姉様。」
「そうね、神時代超ヒロイン伝説の始まりよ」
「さゆりくん、こっちは男子更衣室だが、何を始めるつもりなのだ？」
「どうせやるなら、徹底的にやりましょう、猿渡流変装術の粋を集めて
神次元のヒロインをつくります」
「いや、こういうのは貝殻ビキニのムキムキマッチョな怪人二名で参加して
見学者たちをどんびきさせるのがお約束……」
「そういうお約束を見せられる観客の身にもなってください。
見苦しい物を見せたら、金返せって客が騒ぐでしょうが」
「ただなんだから文句を言われても困るのだが」
「ただじゃないんですよ、今回は銀河中に中継されてるんですから」
「銀河中に中継？」
「そう、銀河中に恥さらされても困るんです。というわけで、徹底的にやりますから
覚悟してください」
「つーか、可愛かったらむしろそっちの方が恥な気がしなくもないが……」
「存在自体が恥なんだからいまさらです。行きますよ……」
こうして、さゆりは二人を徹底的に肉体改造（魔法抜き）して行ったのだった。
かくして、イベントは開始された。
さて、夏の海といえば、海の家である。
京介と、無月は、会場設置の売店「海の家いちご」でバイトしている。
「………」
「大丈夫？無月ちゃん？」
「無月ちゃんはやめろ……ただ仕事が忙しくてな」
「アルバイトお疲れ様」
「ん？ああ」
一方の京介は、まだ元気に働いてる。
「ビールと冷やし中華風パスタお待たせしました。
高菜サンドイッチはもう少々お待ちください。」
こんな調子だ。ちなみに……
「何で海の家なのにイチゴなんて春の果物なのか？
店長が『このお店は従姉妹店なのよ、ふふふ・・・』だそうです。」
なんの姉妹店なのかは、謎である。
さて、会場の方に話をうつそう。
「真夏の太陽を探せが始まります 司会は氷室勇姫と解説は簀巻きにされた真尋くんです」
そう言うと黒いビキニを着た勇姫の胸がプルンと揺れ会場が盛り上がった。
「さて、一番手は、……」
バス旅行の参加者全員が強制参加なので、弁慶の高校の関係者だけとは限らない。
もっとも、彼は……そう、男女混合なので、参加者も女性だけとは限らない……では、ニャル子達の敵ではないだろう。
「さて、つぎはB.S.Eさん、一部の紳士に需要がある体型です」
「解説の真尋さんコメントをどうぞ」
「本当に、これがあのB.S.Eさん……どこを見ても女の子じゃないか……」
そう、貝殻ビキニをつけてても、女の子に見える。さすがに胸は平らだが、脱毛も完璧だし、カツラもつけてる。
ていうか、本来あるはずの筋肉を落としてみえるあたり、変装術は完璧だ。
「さて、次は会長子さん。モデルの様な体型です」
「解説の真尋さんコメントをどうぞ」
「ええええ……あれが、会長……あれが……」
会場が沸き立つ。が、あれが会長とは信じられない。普通のビキニ水着、で、胸が、ある。
ボインちゃんというほどではないが、見て取れるぐらいには、ある。
背があるから、水着姿も引き立つ。
「続いては、八坂ニャル子さん」
「解説の真尋さんコメントをどうぞ」
「ニャル子か、まあ、普通だと思うんだけど」
ニャル子が普通の基準ってのも無茶だと思うんだが、真尋の感覚も麻痺してるらしい。
それが証拠に会場は多いに盛り上がっている。
「真尋さ〜ん。応援してくださいね〜」
ちなみに、真尋はまだ簀巻きのままである。応援もへったくれもない。
「続いてはクー子さん」
「解説の真尋さんコメントをどうぞ」
「そういえば、クー子って泳げるのかな？」
いや、水着コンテストだから、泳げるかどうか関係ないから。
赤のワンピースでまとめたクー子、ちょっと平たいのがまた別な方面で人気だ。
「ニャル子の水着、ニャル子の水着……」
視線が観客を向いてないのが減点対象になりそうである。
「続いてはハス太くん」
「解説の真尋さんコメントをどうぞ」
「ハス太か、気後れしないといいけど」
普通の黒い海水パンツで、恥ずかしそうに登場するハス太。
今まで、あまり興味なさそうに見てた、女性の観客が一気に盛り上がる。
ていうか、女性観客なんていたのか？ このイベント。
「いたんだから仕方ない」
「さて、ではこの中から真夏の太陽を決めていただきましょう。
投票は挙手でお願いしますね〜」
「なんかいい加減……」
だが、この勝負、決選投票がない時点でやる前から結果は見えていた。
そう、男性票は割れるのに対して、女性票はハス太が総なめしたのだから……。
「優勝は、八坂ハス太くんです。夏の太陽はきみだ、おめでとうございます」
「え、本当にボクなんかでいいの、あ、ありがとうございます……」
「では、夏の太陽として、みなさんに喜びの声を」
「真尋くん、終わったよ、一緒にあそぼ」
「では、優勝したハス太さんには、これから記念撮影会が待ってます。
参加者のみなさんは、順番にハス太さんと撮影を楽しんでください」
「え〜遊べないの〜」
「真尋さん、一緒に遊びましょう」
「ふはははは、カップルで海とはゆるさんぞ」
「ニャル子との仲はじゃまさせない」
「あんたはおよびじゃないでげすよ」
「ニャル子、つれない」
「ボクも一緒に〜」
こうして、夏の海の一日は過ぎていった。
ハス太は一日中撮影会につきあわされてしまった。
明らかに一番の貧乏くじだっただろう。