「典泰、なんか最近ニャル子の様子がおかしいんだが」
「どうしたんだ八坂、ニャル子ちゃんの様子がおかしいって、風邪でも引いたのか？」
「いや、そういうかわいらしい方向性なら問題ないんだが、景川さんとつるんで、何か良からぬことを
企んでるみたいでな」
「よからぬ事って、またどういうことなんだ」
「それが分からないから相談してるんだよ」
「相談されてもなあ……何か情報が入ったら教えるよ」
「頼む」
そんな会話を交わした放課後、いつものように弓道部の部活へと出かける真尋であった。
「そういえば、ニャル子がいないな」
そうつぶやいて、部室の前まで来る。
「ニャル子、そっちは男子更衣室だぞ」
「てへへ、間違えました」
「普通間違えないだろう」
「部長、ニャル子がなにやってました？」
「いや、単に男子更衣室の方へ入ろうとしてただけだ」
「ニャル子、おまえ何考えてる」
「いや〜別にちょっとしたミステイクですよ、真尋さんは気にしないでください」
「おまえ、なんか隠し事してるだろ」
「いや、別になんにも」
「今視線そらしただろ」
「別にそんなことはないですよ。ほら」
「そうか？」
「ほんとほんと、ニャルラトホテプ嘘つかない」
「視線はそらしてないが、嘘はついてる気がするが……」
「本当にちょっとしたミステイクですってば」
「逆だったらミステイクではすまんぞニャル子、気をつけることだな」
「はぁい」
「って、俺が間違えるっていうのがエロゲのパターンだよな」
「まあ、そうですよねって、真尋さんエロゲやるんですか」
「おまえがやってるだろ」
「それもそうですね。って、真尋さん見てるんですか」
「見るともなしにな」
「見ないわけじゃないんだ、少しは安心しました」
「なんの安心だ。安心したならいいだろ」
「それほどでもないです。まだ完全には安心できないですよ」
「なんの話だ、部活が始まるぞ、はやく着替えて集合しろ」
「はい、部長」
そういうわけで、部活も終わる。
「美沙さん、失敗したですよ、男子更衣室に隠してるんじゃないかと思ったですけど」
「男子更衣室は白っぽいよ、八坂君の場合は。ほかの子はけっこうあそこに隠す人多いみたいだけど」
「そうなの？ ソースは？」
「ブルドッグ……じゃなくて、弁慶先輩にお願いして調べてもらったの、ニャル子ちゃんの一生がかかってるからって」
「ありがとう美沙さん……で、持ってなかったんだ、真尋さん……」
「肩を落とさないでニャル子ちゃん。普通に隠す場所に隠してなかったってことは、よほどの場所に隠してるってことじゃない」
「それもそうですよね」
一方、真尋くんの方は、ニャル子をおいてさっさと帰り支度を済ませていた。
「ニャル子、何やってるんだ、帰るぞ」
「あ、真尋さん、一緒に帰るですよぉ」
「じゃ、ニャル子ちゃん、がんば」
「おー」
そういうわけで、八坂家。
「真尋さん、真尋さん、今日は私が料理……」
「却下だ、僕が作るっ！」
「はぁい」
「……なんか残念そうな響きが少ないな、どういうことだ」
「やだなあ、気のせいですよ真尋さん」
「？ そうだといいんだが……」
「じゃ、部屋でゲームでもしてきますですよ」
「エロゲやるならヘッドホンしてろよ」
「わかったですよ」
「？？？ 妙に聞き分けがいいな」
その時、クー子とハス太は鞠カーの対戦に熱くなっていて、ニャル子と真尋の会話を聞いていなかった。
「んー、エロ本、エロ雑誌と来て持ってないと言うことは、あとはパソコンのキャッシュを調べるしかないですよねぇ……」
もはやストーカーと化しているニャル子であった。
同時刻、料理中の真尋の前に、突如として現れる人影があった。
「真尋殿、真尋殿が黄表紙本の隠し場所に難儀していると聞いたでゴザる。
本を隠すには本の中に混ぜるのが一番でゴザる。
さあ、この本の中に混ぜるでゴザる。落下型ヒロインのみならず、
義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪金髪
ロングへアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテール
お下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着保母さん
看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さんロリショタツンデレ
チアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ電波系妄想癖二重人格女王様
お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯スクール水着ワンピース水着ビキニ水着
スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘まで揃っているでゴザる。」
どうやって忍び込んだのか？ と聞いてはいけない。異次元の男B.S.Eに理屈はないのだ。
「……隠すって、これ自体がエロ本じゃないか」
そもそも、どうやってこんな大量のエロ本を持ち込んだのか、などと聞いてはいけない。
異次元の男以下略。
「略すな、っていうかどうやって忍び込んだ。ていうかどこからこのエロ本を持ってきた」
問い返した時には、すでにB.S.Eの姿はなかった。
残されたのは、大量のエロ本のみ。
「……どうすんだよこれ」
とりあえず、ゴミ箱に入れてふたをしたいところだが、そんなことで片付く分量ではない。
どうやって持ち込んだのか本当に謎である。
「あの人はテレポート能力でも持ってるのか？」
それは秘密である。
「むー。パソコンのキャッシュにすらエロ情報がないなんて真尋さん絶対に……」
ぱったり。
「あ、ニャル子」
「あ、真尋さん」
それは、奇しくも、B.S.Eが持ち込んだエロ本を廃品回収に出すべく真尋がビニールひもで
縛ってる最中の出来事であった。
「なんだ、真尋さんもエロ本持ってるんじゃないですか。それもこんなに各種たくさん。
一体どこに隠してたんですか」
「ニャル子、一体どういう誤解をしてる。これはB.S.E先輩が……」
「別に隠さなくてもいいじゃないですか。私、真尋さんが悪い病気かと思って心配してたんですよぉ」
「いや、別にそういう問題でもなくて……」
「いやー、良かった良かった、これで一件落着です」
「……まあ、別にいいか、ニャル子が納得してるんなら」
こうして、この話は、うやむやの内に幕を閉じることになった。
今回、結局誰も調べなかったところがあるのではあるが、それはまた別のお話。
秘すが華なり。